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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『創造の神様と女神様たち』

 我の名はディーシャ。

 フォルンヘイムの大地……また、その地に生きるものを創りし神である。


 見た目は幼い女子(おなご)の姿をしておるが、その力は絶大なり。

 無から有を生み出す、創造の力を持っておるのじゃ。


 神にしかできぬ芸当と言えよう。


 そう思っていたのじゃが……。

 地球とか言う星に暮らす人族が『仮想現実』なる世界を創り出したと、ゼウスの爺様から聞かされたのじゃ。


 人族と言えばフォルンヘイムの地で最下層に位置する弱小種族。


 なんの冗談かと思って覗かせて貰ったのじゃが……見てビックリ!

 その世界は、とてつもなく精巧に創りあげられていたのじゃ!!


 やるではないか、人族め。

 じゃがな……。


「我ならもっとリアルな世界を創れるぞ!」


 創造神の血が騒ぐわ。


 そこで我はゼウスの爺様に頼んで、地球に仮想現実の世界を創らせて貰ったのじゃ。

 それが『エンシェントワールド』であーる。


 しかしリアルを追求しすぎてしまってのう。

 創りあげた世界は、フォルンヘイムと瓜二つになってしまったのじゃ。


 こうなってしまった原因は、わかっておる。

 懇意にしておる高位の精霊や神獣なんかにも手伝わせたからからじゃ。

 あとは我の身内にも頼んだかのう。


 じゃが問題なっしんぐ。

 地球の人族がフォルンヘイムなど、知るはずがないのじゃから。


 それはともかく、登録者数とやらが数日で500万人を超え、大いに盛り上がっておる。

 我はとても満足じゃ。


 じゃがな……そんな気持ちも長くは続かないのじゃよ。


 人族と言うものは、別の世界でも争いごとが好きなようでな。

 毎日のようにモンスターを狩るのじゃ。


 中には同族を襲う者もいるのじゃから、呆れてものが言えぬ。


 他の仮想現実の世界と同じように人族にも強靭な肉体や魔力を与えてみたのじゃが……。

 これは失敗じゃったな。


 つまらぬ……。

 運営(あと)は女神共に任せて、我はエンシェントワールドから退くとしよう。


 さて、最後に人族の醜い行いでも見てやろうではないか。


「わっはっはっはっはっは……はぁ?」


 嘲笑うつもりでいたのじゃが、我はある女子おなごの行動に目を奪われたのじゃ。

 その女子おなご回復術士(ヒーラー)を生業とし、優しき心を持っておった。


 驚いたのは、同族のみならず、モンスターにも癒しの魔法を使っていたことじゃ。


 ハイエルフの神官ですら、そんなことをする者はおらぬ。

 我は女子おなごの行動を見るのが、楽しみになっていたのじゃ。


 ふむ、名はディーネと申すのか、我に似ておるな。

 ならばこれはからは『ディーネたん』と呼ぶとするかのう♪


 なぬ? あの、ワガママなナイアスから加護を授かったじゃと??


 ほほう……人族では成れぬと言われる神官に成りおったか、流石はディーネたんじゃ。


 リ、蘇生(リザレクション)を習得したじゃと?! 大神官の中でも使える者がいたじゃろうか……。


 ディーネたんが成し遂げた偉業は数知れず。

 見ていて本当に飽きぬな。


 ところがじゃ……。


 地球の時間で言う、三週間余り。

 ディーネたんがログインした形跡がないのじゃ!


 プレイ時間は短いものの、毎日ログインしておったのに……。

 一体ディーネたんの身に何が起きたと言うのじゃろうか?


 そこで我は運営に携わっている女神を呼びつけのじゃ。


「レファリナよ。最近、ディーネたんの姿が見えないのじゃが。お主、何か知っておらぬか?」


「ディーネたん? あっ、ディーシャ様お気に入りの女性神官のことですね。私は何も存じてませんが」


「知らぬか……かれこれ三週間もログインしてないのじゃよ。我はとても心配じゃ」


「つまり最後にログインしたのは三週間前なのですね。その頃ですと、私の代わりにセルフィラが復活作業をしてましたね。何か知ってるかもしれませんので、すぐに呼んで参ります」


 待っている間も、ディーネたんの姿を探してみる。

 じゃが、どこにもおらぬようじゃ。


「我の癒し、ディーネたん。どうしてしまったのかのう……」


 それからほどなくして、レファリナがセルフィラを連れて、我の前へと現れる。


「セルフィラよ。ディーネたんに関して、何か知っておらぬか?」


 問うと同時に、セルフィラが焦り出したのじゃ。

 これは何か知っておるな。


「い、いえ……何も……」


「我の前で嘘を吐くでないっ!」


「ひいっ、すいませんっ!!」


 すぐさま土下座するセルフィラ。

 こやつはいつも、こんな感じで謝るよな。


「謝罪は良い。何があったか申せ」


「実は……」


 そう切り出して、セルフィラは全てを打ち明ける。

 我を前に、やや怯えているようじゃ。


 ずっと体をプルプルと震わせておる。

 話し終えた今でも、その態度は変わらぬようじゃ。


 もう怒っていないのじゃが……。

 むしろ今は気分がよい。


「そうじゃったか。現実のディーネたんは病弱じゃったとはな……それで今はフォルンヘイムにいるのじゃな?」


「はい。勝手な事をして申し訳ありません」


「そうじゃな。しかも名前を間違えられるとは、ディーネたんも難儀よのう」


「め、面目次第もございません」


「お主は少々抜けてるところがあるからのう。じゃが、今回は許すとしよう。いや、感謝するべきかもしれぬな」


「感謝……ですか?」


「うむ、どんなかたちにせよディーネたんの命を救ったのは、お主の功績じゃ。加護の件も含め、褒めてつかわす」


「あ、ありがとうございます!」


 ホッとしたのか、セルフィラは満面の笑みを浮かべておる。

 じゃが我は、それ以上の喜びを嚙みしめていたのじゃ。


 わっはっはっはー。

 我の創りし世界にリアルディーネたんがやってきたのじゃー。


 こんなに愉快なことはないのう。

 それも不老不死のオマケつきじゃ。


 今日は記念すべき素晴らしき日になりそうじゃな。


「おお、そうじゃ! セルフィラよ。お主、今からディーネたんの所に行ってもらえぬか? これを渡してきて欲しいのじゃ」


「こ、これは……本当にお渡ししても宜しいのですか?」


 驚くのも無理もない話じゃ。

 セルフィラに預けたのは、我が創った神具じゃからのう。


 そのセルフィラも、同じものを持っておる。


「構わぬ。今は我の世界の住人じゃ。それに、お主の加護を持つのなら退屈せずに済むじゃろう? なにせディーネたんはエンシェントワールド屈指の冒険者じゃからのう。この世界も楽しんで欲しいのじゃよ」


「かしこまりました。ではすぐに彼女の元に向かいます」


 セルフィラを見送りながら、我は思う。


 フォルンヘイム(こちらの世界)で、ディーネたんはどんな活躍をしてくれるのじゃろうか。

 今から本当に楽しみじゃ。

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