『ウンディーネさんと血盟の儀式』
壊れたマイホームでは眠れそうにないので、わたしたちはイールフォリオに戻ることにしました。
そこで偶然、お仕事を終えたシリフィさんにお会いしたのです。
そしてことの経緯をお話しすることに。
「……え? では、そこにいる風精霊が、お屋敷を壊してしまったと言うのですか??」
そう言って、シリフィさんはシュヴァルツさんの頭の上に座るフウカさんを指さしました。
「責めないでくださいね。悪いのは、わたしなのですから」
「ディーネ様ハ悪ク無イデス。フウカガ悪イデス」
フウカさんは今にも泣きだしそうな顔をします。
それを見ていたシリフィさんが首を傾げました。
「フウカ? エリミア様から低位の精霊だとお聞きしましたが、名持ちの精霊様だったのですね。これは失礼しました」
頭を下げるシリフィさん。
何か誤解しているようなので、わたしは首を横に振りました。
「いえいえ、フウカさんのお名前は、わたしがつけたんですよ」
「あ、そう言うことだったのですね。それで、契約はされたのですか?」
「契約ではなく、家族になってもらいまいした」
「ディーネ様らしいですね。中には自らの血を与えて強制的に血族にする者もいるんですよ」
「強制的に? そんなことができるんですか??」
「はい。血盟の儀式と言うものがありまして、自分の血を与えた後に名付けをすると、与えられた者は様々な能力が向上し、更には異なる種族同士であっても固い絆が生まれます……」
血を与えた後に、お名前をつける?
わたしも似たようなことをした記憶があるような、ないような……。
でもまあ、素敵なお話ではありませんか。
儀式と言うから物騒なものかと思いましたが、固い絆が生まれると聞いて胸が熱くなりました。
ですが、シリフィさんの顔色が優れません。
「……ただ、主が亡くなると、血を与えられた者も同時に亡くなるのです。しかも儀式を行った本人に解除する術もなく道連れにしてしまうことから、呪いの儀式などと呼ばれています」
「の、呪いの儀式ですか。ちなみになんですけど……その儀式に必要な血の量って、どのくらいなんすか??」
「そうですね。儀式に必要な血は魔力の量で決まりますから。一般的なエルフの血なら小さな盃に1杯くらいですかね。でもディーネ様ほど魔力が高ければ、一滴で足りると思いますよ? なんて、そんなことしませんよね」
シリフィさんはクスッと笑います。
でもわたしは、そのお話を聞いて血の気が一気に引きました。
色々と思い当たる節があったからです。
なので返す言葉がみつかりません。
「…………」
「どうかされましたか? 顔色が悪いですよ??」
「な、なんでもないですよ。それよりも、エリミア様のお家を建てたドワーフさんと連絡って取れますか?」
平静を保つために、わたしは別の話題をシリフィさんに振ります。
「それなら明日、ペドラさんが来ますから聞いておきますね。あのお屋敷を建てたドワーフの棟梁さんはペドラさんからの紹介なので、連絡先を知っていると思います」
「そうだったんですか。でしたら、わたしが直接聞いてきますよ。今日からしばらく神殿に泊まる予定なので、朝起きたら散歩ついでにペドラさんを迎えに行ってきます」
「わかりました。では私はこれで失礼しますね」
「お話を聞いてくださって、ありがとうございます」
シリフィさんに別れを告げ、わたしは急いで神殿に向かいました。
そして神殿の中に入ると同時に、シュヴァルツさんとフウカさんに向かって、深く頭を下げたのです。
「ごめんなさい。もしかしたら、お二人に血盟の儀式をしてしまったかもしれません」
シュヴァルツさんは腕の傷を舐めた時。
フウカさんは手のひらの血を吸いだした時。
間違いなく、お二人はわたしの血を一滴以上口にしているはずです。
しかもこのあと、お名前をつけてしまいました。
手順は血盟の儀式そのもの。
体が金色に光ったのは儀式完了の合図だったんでしょうね。
シュヴァルツさんの足が速くなったのも、血盟の儀式で能力が向上したのだと思われます。
知らなかったとはいえ、許されるものではありません。
お二人の命は、わたしの死に大きく関わっているのですから……。
ところが、顔を上げてみると、シュヴァルツさんもフウカさんもポカンと口を開けていたのです。
何事もなかったかのように。
「何故、謝ルノデス? フウカハ、ソレヲ承知デ、ディーネ様ト家族ニナッタノデス」
それに同意するように、シュヴァルツさんがコクリと頷きました。
「え? シュヴァルツさんもフウカさんも血盟の儀式を知ってたのですか??」
「わおん」
「勿論デス」
よく考えてみたら、精霊族はエルフさんよりも上位に君臨する種族です。
そして神獣クラスのモンスターさんは神様の使い魔さんに位置する存在。
血盟の儀式を知っていても、不思議ではありません。
「では全てわかっていて、お名前をつけることを受け入れてくれたのですか?」
「わおん」
「ハイデス」
「どうしてですか? わたしに何かあったら、命を失うんですよ??」
「ソレハ……儀式ヲ行エバ、絶対ニ一人ボッチニナラナイカラデス」
そう言うとフウカさんは、わたしの胸に飛び込んできました。
シュヴァルツさんはそっと頬を寄せます。
わたしだって、ひとりは嫌です。
だから、シュヴァルツさんとフウカさんを抱きしめながら……。
「ひとりぼっちになんて絶対にさせません。わたしたちはずっと一緒です」
想いを言葉にして、シュヴァルツさんとフウカさんに誓うのでした。




