『ウンディーネさんと大切な家族 ②』
目の前で壊れていくマイホーム……。
一体何が起きていると言うのでしょうか?
それを確認すべく、わたしはゆっくりお家に近づきます。
すると入口の奥で、緑色に輝く小さな球体が浮いていたのです。
緑色に光っていると言うことは、風の魔法なのかもしれませんね。
しかし、風の魔法使いさんの姿は見当たらず。
では、どうやって魔法を発動しているのでしょうか?
不思議です。
しばらく様子を見ていると、その球体はさらに大きな光を放ちました。
そして、こちらに向かって勢いよく飛んで来たのです。
危険を感じたわたしは、咄嗟に両手を前に伸ばします。
「ウォーターフォール!」
瞬時に展開される、お水の壁。
もとい、滝です。
緑色の球体は、お水に触れると同時に地面に叩きつけられました。
あれ? 落ちましたね。
今のが魔法による攻撃なら消滅するはずなのですが……。
「まだ緑色に光ってますね」
ただ、襲って来た時ほどの明るさはありません。
辛うじて光っている感じです。
不思議に思い、魔法を解いて、しゃがんで観察することに。
そこで驚くべき事実を知るのでした。
「……え? 女の子っ?!」
緑色の球体は魔法ではなく、二頭身サイズの小さな女の子だったのです。
光が弱まったことで、はっきりと確認できました。
ただ、ウォーターフォールの衝撃で気を失っているようなので……。
「完全回復!」
取り合えず、治療しておきました。
ほどなくして、女の子は目を覚まします。
そしてわたしを見るなり、突然泣き出したのです。
「グスン……ドウシテ、一人ボッチニシタデスカ……」
感情の乏しい、片言みたいな話し方。
それでも心に突き刺さるものがありました。
『一人ぼっち』と言うキーワード。
わたしはこの言葉で気づいたのです。
この女の子がエリミア様の従属精霊さんだと言うことに。
ご主人様がいなくなってから、ずっと淋しい思いをしてたんですよね。
それなのに、ようやく誰かが来たと思えば数日もの間、お家を空けて……。
暴走する気持ちもわかります。
「そんなつもりはなかったのですが……ごめんなさい。もう、ひとりになんてさせませんから、許して貰えませんか?」
「本当デスカ? デモ貴女ハ人族デス。マタ一人ボッチニナルデス」
寿命のことを言ってるのでしょうね。
精霊族はエルフさんと同様に長寿だと聞きますから。
以前クエストでお会いした、大地の精霊さんも『儂はかれこれ千年生きとる』と豪語してました。
もちろんゲーム内でのお話ですよ?
ですが今までの感じだと、こちらの世界も同じであると考えられます。
なのでここは精霊さんを安心させる一言が必要です。
「心配することなんてないですよ? わたしは人族でも長生きできると思いますから」
それこそ永遠に。
しかもこの貧相な体形まま……。
思い出したら憂鬱な気分になりました。
頭を押さえていると、精霊さんは疑いの眼差しを向けてきます。
「本当ニ長生キスルデスカ?」
「本当ですよ。ちょっと見ててくださいね」
信じてもらえなさそうなので、シュヴァルツさんに協力してもらうことにしました。
「シュヴァルツさん。右手を上げてもらえますか?」
「わおん」
そして、その手を握ります。
少し強めに握ったからか、手のひらから少し血が流れてしまいました。
それを見た精霊さんが、わたしの手元に慌てて飛んで来たのです。
「何ヲシテルデスカ! 黒イフェンリル様ノ爪ハ危険デス!! スグニ毒ヲ吸イ出スデス」
そう言って、手のひらに口元を近づけました。
でもそれが……。
「きゃっ、くすぐったいですよ。わたしなら大丈夫ですから」
「ドウシテ平気ナノデスカ?」
この精霊さんになら、本当のことを打ち明けても良いですよね。
わたしのことを心配してくれているのですから。
「実はわたし、女神様から不老不死と言う加護を授かってるんですよ。なので、そう簡単にいなくなったりしません。これで、ひとりにしないと信じて貰えますか?」
「傷ガ消エテルデス。コレガ女神様ノ加護デスカ……信ジルデス! 貴女ト契約スルデス!!」
「うーん、契約ですか……」
「嫌デスカ?」
精霊さんが不安そうな顔をします。
それを見て、わたしは慌てて首を横に振りました。
「いえいえ。契約するくらいなら、わたしと家族になりませんか?」
「家族ニ……ナルデスカ?」
「嫌ですか?」
今度はわたしが同じ言葉を精霊さんに返します。
すると精霊さんも首を横に振りました。
ぶるんぶるんと凄い勢いで。
そして、もじもじしながら、頬を赤く染めたのです。
「貴女ノ家族ニ……ナリタイデス。オ願イシマスデス」
「こちらこそ、よろしくお願いします。わたしのことはディーネと呼んでくださいね。それと、黒いフェンリルさんではなく、シュヴァルツさんです」
「わおん♪」
「ディーネ様、シュヴァルツ様、ヨロシクオ願イシマスデス」
え? それだけですか??
「失礼ですが、お名前は?」
「低位ノ精霊ニ名前ナド無イデス」
「そうなんですか。迷惑じゃなければ、わたしがお名前をつけても良いですか?」
「良イノデスカ?」
「もちろんです」
「オ願イシマスデス」
ペコリと頭を下げる精霊さん。
その精霊さんの頭には、お花の髪飾りがありました。
それを見て、わたしは閃きます。
「フウカと言うのは、どうですか?」
風の花と書いて、風花。
こちらの世界には漢字が無いので、カナ読みみたいな感じになっちゃいますけどね。
風の精霊さんですから、お名前のイメージにあっていると思います。
「フウカ、デスカ……」
「ダメですか?」
「駄目ジャ無イデス! トテモ良イデス。アリガトウナノデス♪」
そう言って精霊さんは手のひらで踊り出しました。
その瞬間、精霊さんの体が金色に輝いたのです。
あ……シュヴァルツさんの時にも同じことが起きましたよね?
それがなんなのか、未だにわかりませんが。
そんなことよりも、くるくると回る姿が、とっても可愛らしいです。
そこまで喜んで貰えるとは、わたしも嬉しくなります。
こうして風の精霊さんこと、フウカさんが、わたしにとって二人目の大切な家族になったのでした。