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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんと大切な家族 ①』

 レベルアップの特訓を始めてから、2週間が過ぎようとしてました。

 ちなみにこちらの世界の1週間は10日もあるそうです。


 光の1日から始まり、地の2日、水の3日、風の4日、炎の5日。

 闇の6日からが折り返しで、炎の7日、風の8日、水の9日、地の10日で1週間になるのだとか。


 1か月は3週間と短く感じますが、30日あります。

 1年は360日あるそうなので、36週間になりますね。


 いずれもゲームには無かった設定です。

 でもまあ、異世界なのですから元いた世界と違う部分があるのは当然のことだと思います。


 そもそも、わたしは入院生活が長かったせいか、曜日の感覚がないんですよねぇ。

 学校にも行ったことがありませんし……。


 なので1週間が10日と言われても、なにも気にすることなく、毎日を楽しく過ごしてました。

 特に宿屋さんで食べる日替わりの野菜スープが、1番の楽しみでしたね。


 さすがは農業が盛んな街。

 美味しいお野菜をたっぷり堪能できました。


 あ……でも、ひとつだけ気になることがありましたっけ。

 それは……。


「エリサ様に魔法の特訓する? そんなことをしたら、依頼が来なくなるじゃない!!」


 ……と、ドーラさんがとても怒っていたことですかね。


 神官さんからもお願いされたので、最終的には納得してくれました。

 でも、ギルドマスターさんの立場としては複雑だったと思います。


 イールフォリオに戻ったら、別の形でギルドに貢献しないといけませんね。


 そんなことを考えていたら、目の前で神官さんの体が銀色に輝いたのです。


 おお、ついにこの時がやって来ましたか!


「わたし……石化除去(すとーんりむーぶ)を覚えましたぁ!!」


 これがゲームならレベル70達成ですね。

 そうでなくても、喜ばしいことです。


「おめでとうございます。これでたくさんの命を救えますね」


「はいですぅ。これもお師匠さまのお陰ですぅ……ううっ……」


 そうでした。

 この特訓が始まると同時に、わたしは神官さんから『お師匠さま』と呼ばれるようになっていたのです。


 特別なことなんて、何もしてないんですけどね。

 わたしはレベル上げにお付き合いしていただけですから。


 うれし涙を流す神官さんに、それを言っても野暮なお話です。

 でもこれで……。


「わたしの役目は終わりですね。えーっと、これから頑張ってください……エリサさん」


「ありがとうございますぅ。このご恩は一生忘れませぇん! うわぁーん!!」


 エリサさんは、わたしに抱き着き、さらに大粒の涙を流すのでした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 エリサさんにお別れを告げたあと、わたしはギルド会館へと向かいます。


 そこでウルガンさんに挨拶をして、ラドブルクの町をあとにしました。

 すると門を出た所で、グリエムさんとヴィルアムさんにお会いしたのです。


「こんにちは。今から、クエストですか?」


「ああ、ウルガン殿に頼まれてな。デリシャスボアを狩ってくるのだ。ところでディーネ殿はイールフォリオに戻られるのか?」


「ええ、そろそろ帰らないと、ドーラさんに怒られそうなので」


「そうか。ドーラ殿によろしく伝えてくれ」


「ディーネさま。また遊びにきてねー」


「はい。グリエムさんもヴィルアムさんも、お元気で」


 お二人に手を振り、イールフォリオに向けて出発します。


 グリエムさんは冒険者さんとして、やっていけそうですね。

 これなら奴隷さんになることは無いと思います。


 そうそう、奴隷さんと言えば、あの女性のハンターさんはどうなったのでしょうか?


 アルファルムンに連れて行かれてから、何の情報も入ってきません。

 また悪いことをされても困るので、良い主さんに巡り合えることを望むばかりです。


 あ、そう言えば……。


 ハンターさんのことが頭に過ったからか、わたしはとても大切なことを思い出しました。


「あの~、シュヴァルツさん。ハンターさんから身を守るために、シュヴァルツさんは、わたしと暮らし始めたんですよね? ハンターさんが捕まった今、わたしと一緒にいる必要ってあるんですか??」


 そう訊ねてみたところ、シュヴァルツさんは突然足を止めてしまったのです。

 そして、背中に乗るわたしの方を向いて悲しげな目をしました。


「くぅーん……」


 とても淋しそうな鳴き声に、胸が締め付けられる思いがします。

 さらに、目頭が熱くなりました。


 この時、わたしは自分の気持ちに気づいたのです。


「ごめんなさい。これからも……ずっと一緒にいてくれますか?」


 これがわたしの本当の気持ち。

 シュヴァルツさんと離れることなんて、できそうもありません。


 そしてこの問いに……。


「くぅーん♪」


 ……と、今度はとても幸せそうな顔で答えてくれたのです。


 シュヴァルツさんはこちらの世界で初めてできた、大切な家族。

 それもわたしが理想に想う……いえ、それ以上の狼さんです。

 どんなことがあっても、ずっと一緒にいます。


 幸いなことに、神獣クラスのモンスターさんは、共通して『不死』のスキルを持っているんですよね~。


 フェンリルさんの希少種(レア)である、ヴァナルガンドさんもそうでした。

 つまり、わたしはシュヴァルツさんと永遠とも言える時間を共に過ごせるのです。


 モフモフエンドレス。

 あー、何と言う幸せ♪


 その幸せに包まれる中、シュヴァルツさんは信じられない脚力を発揮します。

 ラドブルクに来た時の2倍近いスピードで、山間の道を駆け抜けて行ったのです。


 明らかに出会った時よりも身体能力が向上してますよね。

 それがなんなのか、わかりませんが……。


 ただ、そのお陰でモンスターさんに出会うことなく、イールフォリオに到着しました。


 そして、町に入るとエルフさんたちから……。


「「「ウンディーネ様、お帰りなさいっ!!」」」


 ……と、たくさん声を掛けられたのです。

 何故か大きな拍手と一緒に。


 凱旋パレードみたいで、ちょっと恥ずかしいですね。


 顔を赤くしながらも、その足でギルド会館に向かいました。


「ディーネ様! 帰ってきてくれたんですねっ!!」


 大きな声で、出迎えてくれたのはシリフィさんです。

 相変わらず笑顔が可愛いですね~。


 そのシリフィさんに向かって、小さく頭を下げました。


「長い間留守にして、すいませんでした」


「とんでもないです。それで、エリサ様は……」


石化除去(ストーンリムーブ)を覚えましたよ。これで今よりも迅速な対応ができると思います」


「それは良かったです。イールフォリオのギルドとしては複雑なところですが……」


「ですよね。でも、患者さんの立場からしたら、10日待つのも2日待つのも不安だと思うんですよ。石化は命を奪う危険性がありますからね。治せるなら、すぐに治した方が良いんです」


「だからって、こんな短期間で習得できるもんじゃないでしょ?」


 突然、階段の方から声がしました。


「あ、ドーラさん。お久しぶりです」


「お久しぶりじゃないわよ。いつまで経ってもディーネが帰って来ないから、町の皆が不安がって問い合わせが殺到したのよ?」


「え? なんでそんなことになったんですか??」


「エリミア様がいなくなった時のことを思い出しちゃったみたいなのよね」


 あー、だから町の皆さんが、何時も以上に声を掛けてくれたんですか。


「それは、すいませんでした。でしたら、しばらくクエストは控えて、町にいようと思います」


「そうしてくれると助かるわ」


 ……と言うわけで、わたしはのんびり町の中を散策することに。

 パンを買ったり、広場に咲いているお花を見たり。


 町のエルフさんたちとも、たくさんお話しました。

 そして、お空が赤く染まるのを見て、聖なる森(ホーリーフォレスト)に向かったのです。


 2週間ぶりののマイホーム。

 今夜はシュヴァルツさんのお隣で寝ようかと思います。


 モフモフに包まれて、素敵な夢を見るんです~♪


 そんなことを考えていたわけですが……。


 ドーーーーーンッ!!


 お家に着いた瞬間、大きな破壊音が聞こえてきたのです。

 それと同時に、お家のドアが吹き飛びました。 


 さらにお屋根に穴が開き、壁もボロボロに……。


 壊れていくマイホームを前に悪夢を見ているようでした。

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