『ウンディーネさんとお宿探し』
軍人さんから一転、無職となってしまったグリエムさん。
今夜は軍の宿舎に泊まれるそうですが、明日の早朝には荷物をまとめて出て行かなくてはいけないとのことです。
10日もお休みしたのは、ヴィルアムさんを助ける為だったんですけどねぇ。
無断と言うのが、良くなかったみたいです。
勝手な行動は軍の規律を乱すとかなんとか……。
言わんとしていることは、わからなくもありません。
でも、ちょっと厳しすぎですよね。
当のグリエムさんは軍の決定に納得している様子。
それに今は冒険者さんになると意気込んでいます。
ただ、宿舎に入って行く姿は少し淋しそうに見えました。
その帰り道、わたしはドーラさんに訊ねます。
「グリエムさんは、ああ言ってましたけど、冒険者さんとしてやっていけると思いますか?」
「ん? 大丈夫でしょ」
「そんなあっさりと……」
「だってほら、聖なる森で10日近く野営してたわけでしょ? なら、グリエムの実力はシルバーランクに相当するはずよ」
そう言えば、聖なる森で出会ったグリエムさんは、怪我とかしてませんでしたね。
そのあとキラービーさんに襲われていましたが。
しかしその実力はドーラさんが言うように、シルバーランクの冒険者さんに匹敵すると思います。
「言われてみれば、確かにそうですね」
「でしょ? シルバーランクの冒険者なら報酬もそこそこ高いから、それなりに稼げるわ。もしこのままグリエムたちがラドブルクに残るなら、仕事を回してくれるよう父さんに頼んでみるつもりよ」
「ドーラさんは、お優しいんですね」
「は? べっ、別に優しくなんてないわよっ?! ただ……せっかく妹が助かったのに、生活できなくなるんじゃ意味がないでしょ?? そう思っただけよ」
やっぱり、優しいじゃないですか。
でも、ドーラさんが恥ずかしそうにしているので、これ以上言うのは止めておくことにします。
それからほどなくして、わたしたちはギルド会館に戻ってきました。
そこで今度はドーラさんから訊ねられます。
「ところで……ディーネは、どこに泊まるつもりなの?」
「泊まる? あー、そう言えば全然考えていませんでした。ラドブルクには馬小屋のある宿屋さんって、ありますか??」
わたしはともかく、シュヴァルツさんが安心してお休み出来なくては意味がありません。
宿屋さんを探すにあたって、最も優先しなくてはいけない条件です。
この質問にドーラさんは迷うことなく頷くも、右手の人差し指は何故かギルド会館を指していました。
「あるにはあるけど。どうせだったら、ギルド会館に泊まって行かない? 馬小屋もあるし、無料で泊まれるわよ??」
「え? ギルド会館って、泊まれるんですか?!」
「二階の一室が仮眠所になってるのよ。それで……どう? 泊まってく?? 泊まって行くわよねっ!!」
いつになくドーラさんが強引に迫ってきます。
何か裏があるような気がしてなりません。
「なんでそんなに勧めるんですか?」
「ひとりで寝るのが、つまらないからよ。話し相手が欲しいのよね」
「話し相手? それなら、ウルガンさんがいるじゃないですか」
「父さんはムリよ。ハンター確保の件で書類とか作らないといけないから。今夜は寝ないで仕事をするって言ってたわ」
「寝ないでお仕事するのは、感心しませんね。お体に良くないですよ?」
「あたしも、そう思うわ。でも、ディーネの回復魔法があれば問題ないわよね?」
裏があると思っていましたが、それが狙いでしたか。
でも、そう言うことならドーラさんの提案を受け入れます。
「わかりました。では今夜は、こちらに泊めさせて頂きますね」
「ありがとー」
ドーラさんは安堵の笑みを浮かべていました。
シュヴァルツさんを馬小屋に預け、わたしたちはギルド会館の中に入ります。
そこでウルガンさんに声を掛けられたのです。
「おお、ディーネさん! 丁度いいところに来てくれた」
「どうかしましたか?」
「ハンター確保の報酬を渡しそびれていたからね。会えて良かったよ」
そう言うと、ウルガンさんはわたしに革袋を手渡します。
フレイムドラゴンさんの時ほどではありませんが、かなり重いです。
中身を確認すると金貨が100枚ほど入っていました。
「こんなに貰って良いんですか?」
「勿論だよ。ディーネさんのお陰で、この町のハンターを一掃できたからね。これでも少ないくらいだ」
「いえいえ、十分ですよ」
「そうかい。じゃあ僕は仕事があるから、これで失礼するよ」
ウルガンさんは軽く手を挙げてから、ギルド職員さんたちが集まる輪の中に入っていきます。
「忙しそうですね」
「そりゃそうよ。ハンターギルドのグループがひとつ壊滅したんだから。今夜は職員総出で徹夜かもね」
「ならいつでも回復できるよう、先にお休みしようと思います」
「それが良いかもね」
そんなわけで、わたしたちは早めに寝ることにしました。
夕食にドーラさんが作ってくれた、トマトスープがとても美味しかったです♪
今夜は良い夢が見れそうな予感。
ベッドに入ると、すぐに眠気に誘われました。
今日は色々ありましたからね。
ちょっと疲れたかもで……スヤァ。
それから、どのくらい眠っていたのでしょうか。
時間はわかりませんが、夜中にドーラさんに起こされたのです。
「ふわぁ……回復のお時間ですか~?」
寝ぼけるわたしに、ドーラさんは真剣な表情を浮かべます。
「それどころじゃないわよっ!」
「ふぇ?」
「町のすぐそこまで……バシリスクが迫って来てるのよっ!!」
「え? ええーっ?!」
わたしの眠気は一瞬で吹き飛びました。