『ウンディーネさんと魔術刻印』
ハンターさんたちは両手に頑丈そうな木製の手錠を掛けられ、次々と檻のついた馬車に運ばれていきました。
皆さん、ぐったりしてますが、ひとりだけ笑っている人がいます。
そう……最初に出会った、女性のハンターさんです。
ハンターさんは笑みを浮かべたまま、グリエムさんに視線を向けました。
「ご愁傷さまでした~。所詮アタイら人族は石化した時点で死ぬ運命なのよ~。助かるのは金持ちのエルフだけ~。良い勉強になったでしょ~? アハハハ~♪」
そう言うと、ハンターさんはさらに大きな声で笑います。
そんな最中、ひとりの女の子がこちらに向かって走ってきたのです。
おさげの髪を揺らしながら。
「お姉ちゃーん!」
「ヴィルアムか。もう動いても大丈夫なのか?」
「うん! 平気だよー。それより、お姉ちゃんこそ大丈夫なのー? ギルドの人に連れて行かれたって、リベルのお姉ちゃんが言ってたから。ヴィル、心配になっちゃって……」
「リベルの奴がそんなことを言ったのか。ギルドには情報を提供しに行っただけだ。心配させて済まなか……」
そこまで話したところで、ハンターさんが大きな声を上げました。
「だ、誰よっ? その子はっ?!」
「姉妹の会話に口を挟むとは、野暮な奴だな」
「し、姉妹だって?! アンタの妹は石化したんでしょーがっ!!」
「怒ると口調が変わるのだな。見ての通り、妹は無事だ」
「なっ、なんで無事でいられるのさっ!!」
「貴様ら悪党に答える筋合いなどない。ただ……金の無い人族にも、手を差し伸べてくれる神官殿がいる。それだけのことだ。貴様も勉強になっただろ?」
それだけ告げると、グリエムさんはプイっとハンターさんから視線を逸らします。
そして、ヴィルアムさんと一緒に、この場を立ち去りました。
その様子に呆然と立ち尽くすハンターさん。
なにやらショックを受けているようですね。
そしてここで、思わぬハプニングが発生します。
突然ハンターさんが、暴れ出したのです。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ。まだ話は終わって……なっ、何すんのさっ? 離せっ! 離せって、言ってんのっ!!」
しかしハンターさんは囚われの身。
すぐに衛兵さんたちに押さえつけられてしまいました。
この出来事に周囲が騒然とします。
「貧しい人族を治療する神官なんているワケないでしょーがっ! そんな神官がいるなら、アタイらだって、こんな汚い仕事なんか絶対にしないさね……ううっ……」
何か話しているみたいですね。
周りが騒がしくて、よく聞き取れませんが。
ただ、ハンターさんが泣きそうな顔をしているのはわかります。
よほど悔しかったんでしょうね。
まあ、同情などできませんけど……。
そのハンターさんも、ほどなく馬車に乗せられました。
ちなみにこの馬車に繋がれている二頭のお馬さんは、ドーラさんとグリエムさんが乗ってたお馬さんです。
ラドブルクはフレイムドラゴンさんから受けた被害が大きかったですからね。
元気に動けるお馬さんも少ないようです。
なのでイールフォリオに帰る時は、ペドラさんの馬車に乗せてもらうと、ドーラさんは言ってました。
やがてハンターさんたちを乗せた馬車が動きだします。
その様子を眺めながら、わたしはドーラさんに声を掛けたのです。
「あの~、ハンターさんたちは、どこに連れて行かれるんですか?」
「アルファルムンよ。そこで裁判に掛けられて、牢獄送りになるわ。最終的には魔術刻印を刻まれて、奴隷落ちね」
へえ、こちらの世界には奴隷制度があるんですね。
ちょっと驚きました。
でも、それ以上に気になることがあったのです。
「魔術刻印? なんですかそれは??」
「ディーネは魔術刻印を知らないの?」
「ええ、まあ。初めて聞く言葉ですね」
「言葉は知らなくても、ディーネは魔術刻印がされたものを持ってハズよ? 例えば、そのバッグとか……どこかに文字が書いてあるでしょ??」
そう聞かれて、わたしはバッグの隅々をチェックします。
するとバッグの底に記号のような文字があったのです。
焼印みたいに凹んだ文字が。
「魔術刻印って、これのことですか?」
「それそれ! ちゃんと『ᚢᚾᛞᛁᚾᛖ』って刻まれているじゃない。それにしても今時ルーン文字の術式なんて珍しいわね。そのバッグ、かなりのレアものよ?」
でしょうね。
手に入れるのに、とても苦労しましたから。
しかしこれ、ルーン文字だったんですね。
本物を間近で見たのは、初めてかも知れません。
ところで……。
「この刻印には、どんな意味があるんですか?」
「そこに施されているのは、『所有者の刻印』よ。そのバッグって、ディーネ以外には使えないでしょ?」
所有者の刻印ですか。
これもまた初めて聞く言葉です。
ですが、ゲームの中では入手したアイテムを略奪されないようロックできるシステムありました。
マジックバッグや炎の杖は初めからロックされていましたが、購入したアイテムは自分でロックを掛けなくてはいけません。
ちなみに、お金やポーションなどの消耗品はロックの対象外となってます。
そのせいで、PVPが横行したりするのですが……。
それはさておき。
ロックしたものは自分の名前が刻まれていたことを思い出しました。
わたしの場合『dine』と記載されてましたっけ。
あれが所有者の刻印なのだと思います。
その刻印も、いつの間にか『ウンディーネ』に変わっているみたいですけど……。
恐らく、お名前を登録した時に切り替わったんでしょうね。
ため息を吐きたくなりましたが、なってしまったものは仕方ありません。
ここは気持ちも切り替えて、ドーラさんに言葉を返します。
「なるほど。確かに、わたしにしか使えませんね。では、ハンターさんに押される刻印って……」
「所有者の刻印と似たようなモノよ。首のあたりに主人の名前を刻まれるの。そして刻まれた者は主人に絶対服従しなければならない……だから、『隷属の刻印』なんて呼ばれてるわ」
「隷属の刻印ですか。なんか……奴隷さんの生活って大変そうな感じがしますよね」
あくまでイメージですが。
「自由が奪われるからね。でも、そっちの方が幸せな場合もあるのよ?」
「えっ?! どうしてですか??」
「食べるものに困らないからよ。人族って魔力も体力も低いから、冒険者になっても大して稼げないのよね。ほとんどがアイアンランク止まりだし。だから冒険者カードを差し出して、自ら奴隷になる人族もいたりするわ」
「冒険者カードって、身分証ですよね?」
「そうよ。それを差し出すってことは、隷属の刻印と同じで主の所有物になることを意味するの。現にラドブルクに暮らす人族のほとんどが、農奴として働いているわ」
「そうなんですか……」
「驚いたでしょ? ディーネや父さんみたいな人族は、例外中の例外ってことよ。まっ、グリエムなんかもそうね。冒険者以外で、まともな職についている人族なんて少ないから。あ、噂をすればグリエムじゃない。一体どこに行ってたのよ?」
ドーラさんに声を掛けられ、グリエムさんは頭を掻きながら、こちらに歩いて来ました。
隣にはヴィルアムさんの姿もあります。
「軍のお偉方に呼ばれてな」
「何かあったんですか?」
「ああ……クビだと言われた」
「「クビ?!」」
わたしとドーラさんは驚きながら、同じ言葉を同時に口にしました。
「無断で10日も職務から離れていたからな。仕方あるまい」
「お姉ちゃん。これからどうしよー」
「案ずるな。私はこれから冒険者として生きていく!」
グリエムさんは力強く答えますが……。
本当にそれで良いんですか?
ドーラさんのお話を聞いたあとだけに、不安しかありません。
どうか奴隷さんだけにはならないようにしてくださいね。
わたしは心の中で、そう祈るのでした。




