表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
27/165

『ウンディーネさんと悪いハンターさんたち ②』

「グリエムさん、こちらの女性は?」


「……ハンターだ」


 ですよね。

 訊ねるまでもなかったのですが、念のため確認しておきたかっただけです。


 声を掛けてきたハンターさんは、褐色の肌をした人族で、露出度の高い服を着ていました。


 青みがかった肩まで伸びた黒髪と、三白眼な瞳。

 おへそなんか出して、風邪をひいてもしりませんよ?


 別に心配などしませんが。

 

 ハンターさんはグリエムさんからシュヴァルツさんへと視線を移し、ニヤリと笑いました。


「へえ~、フェンリスヴォルフを生け捕りにするなんて、軍人さんもやるわね~。しかも黒とか超珍しいじゃな~い。これは高く売れそうだわ~。約束通り報酬を支払ってあげるから、こっちに来てちょうだ~い」


 そう言って、ハンターさんは路地裏に誘い込むように手招きします。


 ですがグリエムさんの答えは……。


「断るっ!」


「はあ~? 断るってナニよ~?? まさか、妹を見捨てる気じゃないわよね~」


「見捨てるだと? 偽りの情報ばかり寄越す奴が良く言う。この町の神官殿が石化を治せないことは既に知っているぞ!」


「なあ~んだ。バレてたの。残念だけど、アンタの妹はとっくに石像になってるわ~。全部ムダな努力ってワケ。だから大人しく、そのフェンリスヴォルフを寄越しなさい! さもないと……そこにいるお嬢ちゃんと一緒に妹の所に行くことになるわよ~?」


 今の言葉を合図に、路地から複数の人族が姿を現しました。

 その数は男女合わせて10人ほど。


 皆さん手に武器を持っているようです。

 剣だったり、弓だったり。


 あっという間に、その人たちに囲まれてしまいました。


「くっ、卑怯者め」


「なんとでも言いなさ~い。アタイらハンターからしたら誉め言葉よ~♪」


 ハンターさんは薄ら笑いを浮かべます。

 これまた絵に描いたような悪人さんですね。


 そう言えばPVP(対人戦)でもいましたっけ。

 こんな感じのプレイヤーさんたちが……。


 それはさておき、わたしはハンターさんに訊ねます。


「お取込み中のところ、すいません。この町のハンターさんは、これで全員ですか?」


「そうよ~。み~んな、アタイのカワイイ部下たちよ~。お嬢ちゃんにとってはコワいでしょうけど~?」


「いえ、別に」


「強がっちゃって、カワイイじゃな~い」


 ハンターさんに言われても、嬉しくないですね。

 むしろ気分が悪くなりそうです。


 そんなことよりも、良い情報を聞かせてもらえました。


 わたしはニッコリ笑ってから、ハンターさんを見据えます。


「えーっと、お怪我をされたくなければ、手を出さないことをお勧めします」


「はあ~? この人数を相手におかしなことを言うお嬢ちゃんね~」


 おかしなことなど言ってません。

 本当に危険だから忠告したんです。


 まあ、素直に言うことを聞いてくれるとは微塵にも思ってませんが……。


 とりあえず、ハンターさんたちが仕掛けてくる前に準備をしちゃいましょうか。

 そう思い、わたしはスッと両手を前に差し出します。


「バブルドーム!」


 魔法名を告げると、泡状のお水がわたしとシュヴァルツさん、あとグリエムさんを包み込みました。

 その大きさは直径が5メートル、厚さは50センチほどあります。


 ドームと命名してますが、形は半円です。

 泡状なので中には空気が入ってます。


 とても綺麗なお水ですから視界も良好。

 ハンターさんたちの動きも、ハッキリ確認できますね。


 ただ、唯一の欠点は……。


「…………(何なのよ~?) …………(この水魔法は~??)」


 お外の会話が全く聞こえなくなることです。


 優れすぎる遮音性。

 ハンターさんは騒いでいるみたいですが、何を言ってるのかわかりません。


 もちろん、中の音は問題なく聞こえます。


「ディーネ殿、これはウォーターフォールとやらと同じ水魔法なのか?」


「似たようなものですね。ただ、こっちの魔法は……フルスピン!」


 わたしの言葉に反応して、泡状のお水が目にもとまらぬ速さで回り始めました。


「超高速で横回転させてます」


「むむっ? 本当に回っているのか?! 私には見分けがつかないが……」


 そう言ってグリエムさんは、お水に右手を近づけます。


「触ったらダメですよ! 内側も高速で回転してますから、触れたら体ごと持っていかれます」


「何っ? そうなのか??」


 グリエムさんが右手を引っ込めると同時に1人目の犠牲者が出ました。


 剣で切りかかった男のハンターさんが、お水に触れた途端、真横に吹き飛ばされたのです。

 そして、そのままお家の壁に激突。


「ああなるのか……恐ろしい魔法だな」


 グリエムさんは冷や汗を垂らし、一歩後ろに下がりました。


 今のはかなり痛そうですね。

 だから手を出さないようにと言ったのに……。


 この魔法もまた、PVP(対人戦)の時に編み出したものです。

 ただしその対象はひとりではなく、複数のプレイヤーさん。


 たまにいるんですよね。

 パーティで襲ってくる、悪い人たちが。


 現在対峙しているハンターさんは、まさにそんな感じです。

 この魔法の強みは、泡の層を幾らでも増やせるところにあります。


 何層にも重ねることで、物理攻撃だけでなく、魔法の攻撃にも耐えることが可能なんですよね~。


 わたしにとっての絶対防御魔法。

 でも相手に怪我をさせてしまうこともあるので、長いこと封印してました。


 わたしひとりなら絶対に使いませんよ?

 シュヴァルツさんとグリエムさんに危険が及ぶと判断したから、封印を解いたのです。


 そうこうしているうちに、1人また1人……合計で5人目の犠牲者が出ます。

 それを見ていた女性のハンターさんが弓を放り投げ、背を向けました。


「逃がしませんよ? 2つ目のバブルドーム! からの、フルスピン!!」


 ハンターさんたちを囲むように、さらに大きな泡状のお水を作ります。

 これでどこにも行けません。


 まあ、それはわたしたちも同じですけどね……。

 道幅ギリギリに、2つ目のバブルドームを作ってしまったので、ヘンに動いたらお家の壁を壊しかねません。


 共に身動きの出来ない状況に、グリエムさんが不安げな表情を浮かべます。


「ディーネ殿、このままでは魔力が尽きてしまうのではないのか?」


「全然平気ですよ。少なくとも丸1日は余裕です。それより先に眠気に襲われそうな気がしますが」


「そ、そんなに長く魔法を維持できるのか? ディーネ殿の魔力量は底が知れないな……」


 グリエムさんが2度目の冷や汗を垂らしたところで、周りに動きがありました。

 町の人たちが、ぞろぞろと集まってきたのです。


 『なんだ、なんだ?』と言った感じで。

 大通りで、これだけの騒ぎが起きれば人も寄ってきますよね。


 しかも誰かが通報したらしく、そこにはドーラさんとウルガンさんの姿もありました。

 その証拠にウルガンさんは衛兵さんたちを連れていたのです。


 ハンターさんたちも、さすがに観念したみたいですね。

 今度は自分たちが衛兵さんたちに囲まれてしまったのですから。


 そして全員まとめて、お縄となったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ