第13話 学習会
「あぁぁ。レドウぅおかえりぃ」
リズの気だるい声がギルド待合に響く。
「依頼の報酬を受け取りにきた。あと、魔石の買い取り頼む」
「おっけぇ……って何この魔石。すごいじゃぁん」
レドウにとっては報酬というより、帰り際にアイリスから少し受け取った分の魔石を換金するためというのがギルドに寄った一番の目的だ。大きめの魔石が数個あるから早く換金しないと荷物になる。
ちなみにレドウが受け取ってきた魔石は魔犬からドロップした魔石1つと、巨大蜘蛛からドロップしたと聞いた魔石3個だ。
アイリスの話によると巨大蜘蛛からは20数個のこぶし大魔石を入手出来たとのこと。それを考えると普通の探索だったとするならこのくらいが妥当だろう。
「ちょっとぉ待っててねぇ。リーサぁ。魔石チェッカーもってきてくれるぅ?」
「はい、リズさん。既にここに用意しておりますよ」
「やぁん。流石リーサ。仕事できるわぁ」
レドウが持ち込んだ4個の魔石(大)をリズがそそくさとチェッカーで鑑定していく。
「ちょっとぉ。これ、すごいわよぉ。1つにつき3,000マノ以上含まれてるわぁ……。どんな魔物を倒してきたのよぉ」
「まぁ……久しぶりに命の危険を感じたな。そのくらいの価値はあってもいいはずだ」
「それでなのねぇ……実は、レドウの今回の評定は5をもらってるわぁ。魔石の買い取りと一緒に報酬渡すわねぇ。これが今回の査定結果よぉ」
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契約期間:7日間
顧客評定:5
実績値:5+5/2*6=20p (最大7日間のうち1日分以外は、評定値の半分を実績値として加算(端数切捨))
依頼報酬:270×7 = 1,890リル ※評定5の場合、契約単価の90%が本人報酬
魔石(1) :3,124 マノ
魔石(2) :3.021 マノ
魔石(3) :2,981 マノ
魔石(4) :3,329 マノ
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合計 :12,455 マノ
買い取り単価:3リル/マノ
合計支払額:1,890 + 12,455 × 3= 39,255リル
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金貨39枚、銀貨2枚、銅貨5枚、鋼貨5枚がカウンターに置かれた。
「魔石の換金が凄いな。ちょっとした小金持ちじゃねぇか」
「で、ここから、ジラール様への借金を利子含めて12,205リルを回収しますねぇ」
「ちょ!今なのかよ!」
「あらぁ、ちゃんと資金のある今のうちに払っておいた方がぁ、あとあといいわよぉ」
「……しょうがねぇな」
手元に残った金貨27枚、銅貨5枚を懐に収めるとレドウはさっさとギルドを出た。
これ以上あの場にとどまって、いろいろ忘れてくれているほかの冒険者のツケを請求されると面倒だ。
ギルドから南の街道を抜け、自宅へと戻る。
タルテシュの南東の区画に冒険者向けの住宅街が所せましと連なっている。
その中でもとりわけ狭く、本当に駆けだしの初級冒険者たちが住んでいる棟の一室がレドウの自宅であった。家賃相場が大体一ヶ月で銀貨2枚という格安アパートである。
レドウは部屋に入ると、隅に立てかけてある一本の両手剣を手に取った。これまで使用していたバスタードソードと比べるとかなり見劣りする剣である。
「当面の間に合わせはこいつでいいか……。だが心もとないな。なんとかならんかな」
剣を再びもとあったところに置くと、部屋の真ん中に設置した一人用ソファに身体を預けた。
そして腰にさした【王者のタクト】を握り目をつぶった。
(さて……。いろいろ教えてもらおうか)
《お答え致します。マスター》
【王者のタクト】との学習会が始まった。
(【王者のタクト】ってなんだ?ってとこからだ。闇の魔晶石を有したタクトって理解であってるか?)
《お答え致します。その認識は誤りです。神器の石は元素石の最上位、聖魔晶です。一つランク下の聖魔石とともに、輝石と呼ばれてます》
(聖魔晶?ってのは何だ?)
《知識解放レベル1の範囲でお答え致します。旧帝国の技術によって精錬された世界で5つのみ存在する石です》
(旧帝国って?)
《お答え出来ません。現在の知識解放レベルは1に限定されております》
(わかった。まあ歴史とかはひとまずどうでもいい。使い方を教えてくれ)
《お答え致します。ご質問をどうぞ》
(【王者のタクト】の魔法の力は、創造と聞いたが何でもつくれるのか?)
《お答え致します。聖魔晶の保有魔元素量を考慮しない場合、マスターが具体的に認識出来る範囲において可能です。なお、魔元素を主成分としない物質は創造できません》
(なるほど。何でもいいからこの敵倒せる魔法を!とか、金貨を創造!とか考えてもそれは出来ないってことか)
《ご明察です》
(【王者のタクト】の力には吸収もあると聞いたが、それはいつどうやって発動させるんだ?)
《お答え致します。マスターが身につけている限り常時発動しており、吸収速度はマスターの意思で自在にコントロール出来ます。また、吸収した魔元素はそのまま聖魔晶に蓄積されます。変換ロスはありません》
(と、いうことは腰にさしたままでも自由に操作出来るってことか?)
《お答え致します。魔元素の吸収に関してはその通りです。創造はタクトで創造場所を指定する必要があります》
「ちょっと試してみるか」
レドウは懐からモノタクトの利用のためにため込んでいた魔晶石をテーブルに広げた。
そしてタクトをかざした。
(吸収!)
と、次の瞬間全ての魔晶石は含有魔元素を失い、見覚えのあるただの石となった。
これまでモノタクトで魔法を使った後に残っていたあの石だ。
(おぉ。こいつはすごい。これ全部魔元素を【王者のタクト】にチャージしたってことだよな。しかも一瞬だったぞ)
《お答え致します。ご認識の通りです。マスターの意思が全吸収でしたので、即実行しました》
(吸収できる魔元素量はあるのか?)
《お答え致します。あります。ただし、過去、限界値を迎えたことはございません。吸収した魔元素はすぐお使いになることが多いですので、吸収限界についてあまり気にされなくても良いと思います》
(……もしかして腰にさしているときに、例えば魔法攻撃を食らったりした場合で、俺の意思が吸収を指示したら、その魔法は魔元素を吸収できるから効果を消せるのか?)
《ご明察です。【王者のタクト】は魔元素の扱いにおいて、最上位の制御力を持ちます》
(やべぇな……これ。盗まれたらコトだな)
《お答え致します。問題ありません。マスター以外に【王者のタクト】は利用できません》
(おぉ、マスターロックみたいなもんか。でも盗難だけは気をつけ……あ。そうか。そういう魔法を作ればいいのか)
《ご明察です》
(あとは……そうだな。普通の火やその他の魔法を創って放つことも出来るんだよな?)
《お答え致します。可能です。ただし発動速度が遅くなります》
(なるほど。創造してから放つからだな。発動速度を上げる手段はあるのか?)
《知識解放レベル1の範囲でお答え致します。知識解放レベル2となった際にご案内致します》
(あるけど、今は使えないってことね。了解。まあ大体聞きたいことは聞けた。また分からないことが出てきたら聞く)
《承知しました》
「とりあえず盗難防止魔法でも創るか。目に見えず切れない魔法のチェーン。一定以上伸びると警告があって、収縮して俺の腰に戻る。ってとこか。距離は……3ルードほどでいいか」
レドウはぶつぶつ呟きながら【王者のタクト】を振って魔法のチェーンを創り出し、自分の腰についているタクトの鞘と【王者のタクト】とを繋いだ。
「テスト……しといた方がいいよな?」
【王者のタクト】をテーブルの上に置き、部屋から出るとレドウの頭の中で、ピーッ!と警告音がなった。と、次の瞬間【王者のタクト】はレドウの腰に納まっていた。
その後、ドアを閉めた状態にしたり、鍵付きの箱に入れたりしてテストしたが、いずれも問題なく発動した。
「いいな。これ。金貨につけて支払って、遠くに離れてから発動させたら金貨戻ってくるぞ」
《マスター。それはトラブルの元なのでお勧めしません》
レドウの悪だくみはタクトの精(レドウが勝手に命名)に完全に看破されていた。
使おうと思ったところで阻止されてしまうに違いないだろう。
第一章が次話で終了します。第15話からは第二章ということで話の舞台が広がっていきます。
今後ともよろしくお願いします。




