第12話 そして物語は動き始めた
(ここは、どこだ。俺は何をしている)
《お答え致します。ここは闇の祭殿と呼ばれる場所です。礼拝の間にてお連れ様が気を失ったマスターを介抱しております》
(何が起こった?)
《お答え致します。マスターは闇の祭殿において神器の一つ【王者のタクト】を復活させました》
(なぜ俺をマスターと呼ぶ?)
《お答え出来ません。現在の知識解放レベルは1に限定されております》
(俺をマスターと呼ぶお前は誰だ?)
《お答え出来ません。現在の知識解放レベルは1に限定されております》
(よくわからねぇが、俺のタクトはどうなった?)
《お答え致します。マスターのタクトは真の姿である【王者のタクト】に戻りました》
(それはさっき聞いた。そうじゃなくて……)
《質問の意図が分かりかねます》
(えっとだな。このタクトはどう使えばいい?今までのように使えないんだろう?)
《お答え致します。基本的な使い方はわたくしがマスターにお教え致します。その他は必要に応じてお伝え致します。これまでのような使い方は出来ません》
(じゃあ基本的な使い方を教えてくれ)
《お答え致します。【王者のタクト】は闇属性のタクトです。闇とは、闇、統、吸収、創造になります。簡単に申し上げますと、魔元素を吸収し、蓄え、魔法を創造することが出来ます》
(創造??なんでも作ることが出来るのか?)
《お答え致します。必要な魔元素量を保有している限り可能です。魔元素が不足している場合は何も発生致しません》
《マスター。そろそろお目覚めになる時間かと思われます》
(まった、最後に一つ!【王者のタクト】のような神器は、他にも存在するのか?それぞれに祭殿がある?それはどこだ?)
《知識解放レベル1の範囲にてお答え致します。他にも存在致します。場所はお答えできませんが【王者のタクト】が復活を遂げたことで、それぞれの復活の準備が整いました》
《マスター。お目覚めの時間です。おはようございます》
「レドウ、生きてる?あ、レドウが目を開けたよ。アイリス」
「あぁ、レドウさん。無事で何よりです。例のタクトを掴んだとたん急に意識を失われたので、罠があったのかと心配しました」
(罠か。まあそう見えたかもしれんな)
「ここは?」
「蜘蛛の魔物と戦ったところです。流石に屋外で待つわけにいかず、ここまで戻ってきました。反対側からは普通に扉で戻れましたので」
「……ここだって誰かさんのお陰で天井に穴あいてるけどね。壁があるだけマシよ」
「そうか。倒れたのはすまなかった」
レドウは身体を起こした。
「とりあえずだな、二人に伝えておくことがある。まず俺が意識を失った理由だが、このタクトから膨大な知識が一瞬で詰め込まれたからだ。その衝撃に耐えられなかった」
「……」
説明の意図を図りかねているような二人だったが、構わずレドウは続けた。
「まずこの遺跡についての名称だが『闇の祭殿』だそうだ。そして手に入れたこのタクト……これは神器の一つで【王者のタクト】と呼ばれる闇属性のタクトだそうだ。で、こういった場所と神器は他にもあるらしい。二人に話せるほど理解できたのはそのくらいだ」
「じゃあ、他のも見つけなきゃ?今度こそ私のものに……」
と、シルフィが目を輝かす。
「ここがたまたま未踏だっただけで遺跡は昔から探索されているのよ。見つかってないわけないじゃない?」
「そっかぁ」
アイリスに諭され残念そうなシルフィ。だがレドウが静止する。
「いや、それについてだが……理由はよくわからねぇんだが、このタクトが最初なんだそうだ。こいつが復活?したことで他の神器が復活する準備が出来たとかなんとか……」
「その言葉のまま解釈するのでしたら、むしろこれから各地でたまたま復活させてしまう人が現れ始めるかもということですね」
「そういうこったな。かえって探索されすぎて枯れているところほど穴場かもな。今この瞬間から復活する可能性があるだなんて誰も知らないわけだからな」
「善は急げ。先を越されないよう探すのよ」
「善かどうかはわからねぇがな……」
レドウは苦笑する。
「残念ながら、レドウさんにしか収穫がなかったですが、この遺跡はこれ以上の探索ポイントはなさそうですね」
「あぁ。そうだな、じゃあ代わりに魔物から出た魔石は全部くれてやる」
「本当!蜘蛛の魔物が落とした魔石、すごい量だったのに、質も良さそうだったのよ。全部もらっていいって」
「レドウさん、ありがとうございます。ですが、何もなしは無駄に勘ぐられます。少しは持っていってください」
アイリスが全ての魔石の引取りを断った。
「じゃあ少しだけよ。少しだけ。一番悪そうなのでいいでしょ」
「そんなに品質良さそうなんか?」
「もう私たちのものだから内緒」
「まあいいけどよ」
「ところでレドウさん」
アイリスが急に真剣な顔つきで話し始めた。
「ここからどうやって出ましょうか」
「そっか。私たちこの祭殿に閉じ込められていたんだった」
レドウは手元の【王者のタクト】を見つめた。
「多分こいつがあればなんとかなる」
《はい。問題ありません。外部への転移ゲート1回分の魔元素はチャージ済です》
(うぉ。急に話しかけんな。びっくりするだろう。ん?転移ゲート?)
《使い捨ての転移ゲートを創造し、外に出ることが可能です。永続転移ゲートを創造するには……魔元素が不足しております》
(よし、創って外にでよう)
「問題なさそうだ」
「え、どうやって出るの?」
《マスター、転移元と転移先の場所を強くイメージして下さい。イメージが弱いと創造出来ません》
(イメージ力なら問題ねぇ。自信がある)
レドウは静かに【王者のタクト】を振るった。
と、そこにはうっすらと光る扉のようなものが出来あがった。
「ま、まさか転移ゲートですか?」
アイリスがすっとんきょうな声を上げる。
「なに?てんいげーと?」
「あぁ、使い切り版だけどな。さ、出よう」
三人が転移ゲートをくぐると、光の扉は消失した。
……
「ここは!入口じゃない。どういうこと?」
シルフィはまだよく分かっていない様子だ。
「シルフィ、あとで説明します。それよりレドウさん」
「なんだ?」
「これは提案なのですが、その力、あまり知られることのないよう、隠しておいた方が良いと思います。皆の持たざる力は混乱と妬み、争いを生みます。私たちも口外するつもりはありません」
「そうか?まあそうかもしれんな。だが一つ問題がある」
神妙な面持ちでレドウは腕を組んだ。
「このままでは魔法使いを名乗ることが出来んじゃないか!」
「……そ、そうね」
「代わりのタクト用意したら?」
急に問題のレベルが下がり、すぐに対応できないシルフィとアイリスの二人。
だがお構いなしに続けるレドウ。
「そんな簡単に代わりのタクトが見つかるわけねぇだろう」
「代わり……じゃなくて偽装用なんだから何でもいいんじゃない?」
「そういうわけにはいかねぇだろう。いままでと急に変わったらみんな不思議がるだろ?」
シルフィとアイリスがため息をついた。と、上から声が掛かる。
「あ、みなさんご無事でしたか!いま梯子おろしますよ」
ノオム村の村長の声だ。ちょうど良い時間だったらしい。
まだ東の空が少し明るくなっただけの早朝だったが、心配で見に来てくれたようだ。
「よろしくお願い致します」
……
こうして、北の遺跡(闇の祭殿)の調査同行依頼は完遂した。
移動期間を含めて約7日間の契約が終了した。レドウにとっては久しぶりの長期依頼であった。




