カナリア
ルドンの部屋に1人の男が訪れた。
男の髪は長くつり目が特徴的だ、ルドンは男の姿を見ると手に持った紙を男に渡した。
「ルドン様、この紙は…上からの指令書ですね。」
「そうだよ、北にいる鉄の部族の反乱を鎮圧しろってさ。」
「…分かりました。」
この国の鎮圧の意味は、女子供関係なく皆殺しにせよという事だ。
男はまた罪のない人間を殺さなければいけないのかと溜息をついた。
大国グローリアは暴力を持って平和を維持する国だ。
首都にいる人間は平和な顔をして暮らしているが、首都から遠く離れた場所に住む人間は日々の生活に苦しみ国に対して反乱を起こしていた。
「眉間に皺寄せて…ふーまんかい?」
「いえ…」
「なら良いけど、僕は別の部族の鎮圧に向かうから今回行けないんだ。代わりにヴェルを連れて行って〜」
「ヴェル…再生の子ですね。ですが戦闘経験も無いのに…」
「大丈夫だよ、使えるから。いざとなったら肉盾にでもすればいいよ。」
屑め、男は心の中でそう罵倒した。
男の心を読んだかの様にルドンは男を嘲笑った。
「うふふ、冗談だよ。まあ精々死なないように頑張ってね。バーイバイ」
ルドンが指を鳴らし消える、男は大きく溜息をつき部屋の扉を蹴り飛ばした。
「ヴェル…大丈夫か?」
「マカロ…俺は大丈夫だから、そんな所触るな…くすぐったい。」
目覚めるとレムと会ったあの狭い部屋にいた。
横にはマカロが目を潤ませながら側にいた、気を失った俺がこの部屋に運ばれた事を聞いて飛んで来てくれたらしい。
「やっぱり変だぞお前!お前は自分の事を言う時、わたしだったろ?何で俺になっているんだ?」
(面倒くせえ女だなこいつ。クソ餓鬼、禁術の事は黙ってろ、この女もっと面倒くさくなるぞ)
「おい…お前の中に誰かいるのか?何か失礼な事を言われた気が…」
マカロの感は鋭い、見世物小屋にいたせいか人の顔を見るだけで何を考えてるか分かる様になってしまった、マカロには素直に話すのが一番なのだ。
俺は代償という新たな能力が使える様になった事だけを伝えた、マカロは不満そうな顔をしたが納得した様だった。
「分かった…でも大丈夫なのか?」
「ああ、俺は…」
「死なないから…だろ?…うっ」
マカロが突然泣き始めた。
「おいどうしたんだ!」
「すまん、自分が情けないんだ…私は何も出来ない。お前は強くなって帰って来た、でも私はここにいただけで何もしてない、ヴェルを守るとか言ってこの様だ。」
手に涙が落ちる、俺はマカロをそっと抱き締めた。
「いい、マカロがいるだけでいいんだ。お前に一緒に来てくれと頼んだのは俺だから。ありがとうマカロ…」
(あーあ気持ち悪い、吐きそうだ。)
ゲルマの罵倒が響いた時、扉をノックする音が聞こえた。
「すまん時間が無いんで入るぞ…」
髪の長い男が入ってきた。男の顔はつり目でその鋭い眼光は獣の様だった。
「私の名はカナリア、君に頼みがある…」
「カナリア…何だこれは?」
カナリアと名乗った男はこちらに紙を渡してきた、紙には文字が沢山書かれている。
「その紙には鉄の部族を鎮圧せよと書いてある、ルドンに言われ君を同行する事になった」
ルドンと聞きゲルマが騒ぎ始めた。
(腐ってるな、やる事は昔と変わってない。鎮圧じゃない、部族ごと皆殺しにするんだ。)
皆殺し、ゲルマの言葉が重く響く。
俺の顔を見てカナリアは悲しげに溜息をついた、この男も行きたくないのだろう。
男は大きく深呼吸をしてこちらを真剣な眼差しで見た。
「鎮圧…それは女子供関係なく皆殺しにしろという事だ。だが君の力があれば救えるかもしれない。」
カナリアは頭を下げた。
「私に力を貸してくれ、鉄の部族を救って欲しい。」




