第四十三話『秋と噴水と音たち』
「……うるさい」
工事現場のすぐ近くの家の中で、枕と布団を被った少女がそう呟いた。
名前は、フレイヤ・リービヒ。この家に住む一八才の娘だった。
前々から工事が始まるという話は聞いていた。明るいうちだけの工事で、数週間くらいで終わるからご協力くださいという紙と共に、菓子折を持って男の人が挨拶に来ているのを見た。
そのお菓子がとてもおいしくて、こんなことなら年中工事になってもいいやなんて思っていたが、いざ工事が始まると考えは逆転した。こんな騒音に苦しめられるくらいなら、工事拒否料を払ってもいい!
……分かってる。自分でも馬鹿なことを言ってることくらい十分わかってる。それでも、こんなことを考えないとやってやれないくらい騒音にまいっていた。
「おいッ! 釘が足りねーぞ! さっさと持ってこい!」
「えっと……は、はいどうぞ!」
「うわッ! な、投げてよこす奴があるか馬鹿野郎ッ!」
家の中に居るのに、作業している男たちの声まではっきりと聞こえてくる。
何が馬鹿野郎だ。フレイヤにしてみれば、こんな騒音をたてて工事しているお前達の方がよほど馬鹿だ。
確かに工事することは了承したさ、騒音が出ることも聞いた。だからと言って、こんなに堂々と騒音をまき散らすのはどうなんだ? 少しは遠慮ってものを考えて欲しい。
「もう我慢できないッ!」
フレイヤはカッとなって窓を開け放つ。騒音が大きくなったが構うものか。工事をしている人間に文句を言ってやるのだ。
「いいかげ……」
「オラァッ! サボってんじゃねーぞッ!」
「ひぃぃー……」
窓から叫んでやろうと思って下を見たら、筋肉隆々の男たちが叫びながら作業をしていた。
なんだあの腕の太さは! 人が殺せる! あの腕の太さは絶対に人が殺せるッ! 文句を言おうものなら次の瞬間絞め殺されてしまうに違いないッ! ああ、恐ろしい。
実際はそんなことはあり得ない。工事をしている者たちだって、自分達の出している騒音が迷惑なことくらい百も承知だ。住民が文句を言ってきても騒音を抑えることはできないが、申し訳ありませんと言って頭を下げることくらいはするだろう。
しかし、フレイヤは臆病だった。ついでに引っ込み思案で、恥ずかしがり屋だ。今は頭がカッとなって文句を言ってやろうなんて思ったが、悪そうな雰囲気を出している人間を見るだけで怯えてしまう。そして、顔を隠して絡まれないように小さくなりながら逃げるのだ。まあ、むしろそちらの方が余計目立ってしまうのだが……。そんなフレイヤが屈強な男達を見れば、すくみあがるのは当然のことだった。
「……うぅ」
フレイヤはおずおずと窓から顔を出す。男たちは周りには目もくれずに作業している。
ふと思った。男たちは自分など眼中にないのではないかと……。
いや、文句を言ってやろうなんて気はもうない。例え聞こえなかったとしても、あれに向かって毒づくなんて不可能だ。フレイヤが考えたのは全く別のこと。
「……ラララ」
フレイヤは小さい声で歌い出す。その声は騒音にかき消されて自分の耳にすら届かない。
「私はできそこないの青い鳥。誰も幸せになんかできやしない……」
少し声を大きくして、今度は歌詞を付けて歌ってみる。大丈夫だ、全く聞こえない。下に居る人達だって、こっちに目を向けようとはしない。
フレイヤは歌が好きなのだ。そして、自分の歌に小さな自信を持っている。
自分は歌がうまい。歌うだけでも楽しいが、褒めてもらえれば楽しさに加えて嬉しくなれる。
だが、フレイヤは臆病者だ。誰かに聞かせようと思ったら、緊張してしまって声が出なくなる。いつも聞いてくれるのは、両親か森に住む草花達だ。
いつかは他人に向かって歌ってみたい。盛大な拍手と共に自分の歌を褒めてもらいたい。
今、この場に居る人間の瞳は自分に向いていない。しかしここには大勢人がいる。歌いだしたとしても、誰もその視線をこちらに向けることはなく、自分は何も気にすることなく他人に向かって歌うことができる。
「……ちょいとそこ行くお嬢さん? あなたが求める幸せなぁに?」
声を大きくして歌ってみる。誰も振り向かない。
立ち上がって歌ってみる。誰も振り向かない。
窓から身を乗り出し、気持ちを込めて歌ってみる。誰も振り向かない。
「それ見たことかできそこない。小さな少女の願いすらも叶えられない」
フレイヤは声を大きくして歌いだした。演奏が工事作業の騒音というのはいただけないが、演奏が下手なら自分の歌声はきっと美しく咲き誇るはず。ゴミの山に咲く花が、他の場所に咲いている花に、美しさではけして劣らないように……。
だから気にせず歌を歌おう。
気持が良い! 歌を歌っている時はいつだって素敵な気分だが、今日は他人に向かって歌っているのだ。そんな自分がちょっぴり誇らしくて、なんだかいつもより気分が良い!
気のせいか、騒音が遠のいた気がした。なんだか人の視線も感じる気がする。そんなはずが無いのにだ。
(ああ、神様ありがとう! やっぱり工事が始まって私は幸せなのかもしれません)
「綺麗な鳥さんありがとう! あなたはりっぱな幸せを運ぶ青い鳥ね」
最後まで歌い通した。気分が高揚していて顔が熱い。
そうだ、歌手は歌い終わったら礼をしなくては。拍手はもらえなくても、それは最低限の礼儀。
「最後まで聞いてくださってありがとうございました!」
フレイヤはそう言って頭を下げる。すると盛大な拍手が下から聞こえてきた。
「え……?」
何の拍手? そんな間抜けなことを考えながら下を見ると、作業していた男たちや、道を歩いていた人達が全員こっちを向いて拍手をしていた。工事はいつの間に休憩に入っていたらしく、男たちは全員手を止めて水を飲んだり弁当を食べたりしていた。
「あ……ああ……ッ!」
全てを理解し、顔を真っ赤にしてベッドにもぐりこんだ。
「工事なんてサイッてい!」
もう工事の音なんて聞きたくない。明日からは工事の時間中は散歩でもしよう。確か明日は親衛隊試験があるはず。公開されるはずだからそれの見学に行けばいいや。
* * *
季節は廻って秋となっていた。
今でも時々立っているだけで汗が出るほど暑い日もあるが、徐々に頻度は減っていき、やがては完全に涼しくなるだろう。やっと涼しくなったかと思えばすぐに、冬になってしまうから少し憂鬱だが……。
ともかく、親衛隊候補達は、気絶するほど暑い空気からやっと解放されていた。夏の厳しい環境下で磨いた技術は、気温が落ち着いて過ごしやすくなると、さらにその鋭さを増した。
全員自分の得意な戦い方を見つけ、それを磨くことに集中している。できなかったことができるようになる。自分の得意なことがさらに上達する。それは嬉しい事であり、やる気を起こさせるので、少女たちは秋の空の下で、力強く訓練をしている。
だが一人……。フレイヤだけがこの頃不調で、どこか気分も沈みがちに見えた。
「立て、フレイヤ」
「む、無理です。戦えません」
いつもの通りの実戦訓練。レナーテはフレイヤ以外の六人との実践訓練を終え、フレイヤと実践訓練をしていた。
ほかの候補者たちが見守っている中、フレイヤは地面に倒れこみ、弱り切った表情でレナーテを見上げていた。
「戦えない? なぜ戦えないんだ? 私はまだお前を一度突き飛ばしただけだぞ。お前の体には腕も足もちゃんとついている。体に痛みはさほどないはずなのになぜ立てない?」
「立てないことはないです。で、でも戦えません。だって、レナーテ教官の後ろに私の武器があるのに……」
倒れこんでいるフレイヤを見下ろすレナーテ。そのすぐ後ろに、フレイヤの使っている武器が転がっていた。
闘いが始まると同時に、レナーテはフレイヤに詰め寄って武器を振るった。フレイヤはそれを防ぐために武器を突き出したが、レナーテの攻撃を受けると武器を手放してしまった。
そのままレナーテに体を突き飛ばされ、武器はレナーテの後ろに転がった。
「武器を手放してしまったのは、お前の握りが甘すぎるからだ。武器がないというなら素手で戦え。武器がなければ戦えないというなら、武器を拾う為に私の後ろに回り込めばいいだろう? なぜそれをしない?」
できないからだ。武器を持ったレナーテに素手で戦いを挑む度胸などないし、後ろに回り込もうとしたところでレナーテが妨害するのがわかっている。
フレイヤはもう詰んでいるのだ。これ以上闘いを続けろというのは、どういう負け方を選ぶかしかない。むしろもうフレイヤは負けたつもりですらいた。だからこうして地面に転がり、降伏している。
「負けを認めます。私は……もう戦えない」
フレイヤは消え入るようにそう言って涙をこぼした。レナーテはそれを見てため息をこぼす。
「そうだな。お前はもう負けている。それを私も認めてやろう」
「は、はい!」
フレイヤの声に少し喜びの色が混じる。すでにフレイヤが負けたことを認めてくれた。負けたのだからこれ以上の戦いはない。痛い思いをしなくて済むんだ。そう思ったら嬉しくて、思わずフレイヤは体を起こす。
「敗者は普通どうなる?」
「……え?」
フレイヤがレナーテを見上げると、レナーテの表情は憤怒に染まっていた。蛇に睨まれたように体に怯えが走った。
「お互いに武器を持ち合い、命を懸けて戦ったなら、負けた方はふつう殺されるはずだろう?」
「い、いや、あの!」
レナーテの武器を持った方の腕がゆっくりと振り上げられていく。
「降伏したというのは、殺されても構わないと宣言することに等しい。そうだろうフレイヤ?」
武器を振り上げたレナーテの表情は変わらず厳しい。冗談やなにかではない。フレイヤは、レナーテが怒りのあまり我を忘れ、本気で自分を殺そうと思ったのだと真剣に考えた。
「う、うわぁああああ!」
フレイヤは即座に両足を地面につけて、動物のように体をかがめながらレナーテの斜め後ろにとんだ。
そして四つん這いになったまま武器を手に取るために剣に飛びこもうとする。
「ふん」
しかしレナーテはそれをさせない。武器に向かって飛び込んだフレイヤの体を、横なぎの回し蹴りで吹き飛ばす。
「きゃあ! い、痛い……」
フレイヤは吹き飛ばされるままに地面に転がり、痛みに悶えて体を丸めた。
「素振り五百回だ! クララ、見張れ」
レナーテはそれだけ言って立ち去っていく。少し遅れてクララの返事をする声がした。
「や、やった……終わった。は、はは……」
フレイヤは地面に転がったまま弱々しく笑った。そんなフレイヤのもとにディアナ以外の者達が集まってきていた。
* * *
「フレイヤさん大丈夫かな?」
モニカが後片づけをしながらそうぽつりとこぼした。
レナーテがいなくなったため、訓練はそのまま終了となった。訓練場にフレイヤとクララの姿はない。
『こんなにボロボロのフレイヤを目の前にして素振りなんてさせられるわけないでしょ。医務室に連れて行くわよ。モニカ、ニーナ、私とフレイヤの道具を片付けておいてね』
フレイヤが立ち上がって武器を取ろうとすると、クララがそう言ってフレイヤに肩を貸した。フレイヤは言いつけを守らなくて大丈夫だろうかと不安がっていたが、本気でさせるつもりなら自分で見張ったはずだ。厳しい態度を崩すわけにはいかなかったからああいっただけだろう。
だから、察しがよく、レナーテの命令を覆す度胸を持っているであろうクララを見張りに選んだのだ。
「フレイヤさん、最近調子悪いよね。今日に涼しくなって体を壊しちゃったのかな?」
フレイヤだって長期間の訓練を受け、それに耐えきってここまで残っている。その成果は間違いなく技量に現れていた。
フレイヤはとても軽い作りの剣を武器に使っている。強度と威力は高くないが、フレイヤの流れるような剣さばきはそれを補っている。
フレイヤの剣舞は見事なものだ。剣を持って美しく舞う姿は優雅で、とてもゆっくりに見える。だが、舞うような体の動きはとらえづらく、フレイヤの全身動きに合わせて舞う剣は、残像を持って敵を翻弄する。
フレイヤは剣で敵の武器と打ち合うことをあまりしない。打ち合わず、体さばきで敵の攻撃をかわし、隙を見て武器で攻撃する。実はレナーテは一番フレイヤと戦いづらそうにしていた。
基本的に打ち合おうとしないので、レナーテの得意分野である力技が通用しない。加えて、フレイヤはいつも実践訓練で手を上げないので、いつでも戦うのは終盤だ。
疲れがたまった状態で相性の悪い相手と戦わなければならない。だから、フレイヤとの訓練はいつも時間がかかり気味だった。
しかし最近その動きに乱れが生じている。いつもならうまく避けて立ち回っていた攻撃をもろに武器で受けてしまう。剣を吹き飛ばされて戦うことができなくなったことは一回や二回ではないのだ。
「うーん、これは重症かな~」
モニカの言葉に、ニーナが空を見上げながらそう呟いた。
「え! フレイヤさん何か重病にかかってるの!?」
「ああ、違う違う~。そういうのじゃなくてね? んー、どういったものかな……?」
ニーナは考え込んでいる。モニカにはその様子が、いうべきかいわざるべきか迷っているように感じられた。
「何か理由があるんだね? 私たちには言えないこと……?」
「おお~、鋭いね」
ニーナはくすっと笑ってそう言った。
「まあ、気づかれちゃったなら隠されてるのも気持ち悪いよね。あんまり心配させるのも悪いし……。 モニカちゃん、城の中に噴水があるのは知ってる?」
「え、う、うん。知ってるけど……」
フレイヤの話から急に噴水の話になったので、モニカは少し困惑する。噴水とフレイヤに何か関係があるのだろうか?
「モニカちゃん達は明日も朝練するんだよね? もしよかったら、明日はその訓練を早めに切り上げて噴水を見に行ってくれないかな? 話すなら、それからのほうがいいと思うんだ」
「何があるの?」
「えー、うーん、それはね~……」
ニーナはニコニコと微笑み、少しためてから言った。
「行ってみてからのお楽しみだよ」
* * *
そして翌日の早朝。モニカはニーナに言われた通り訓練を早めに切り上げ、噴水に向かった。当然、モニカ以外にも、クララ、カルラエーフィがいた。ニーナは朝の仕事があるから、それが終わってから来るだろう。
その噴水は、城の中のはずれにぽつんと作られている。モニカがその存在を知ったのは、城に来た初めの頃、城の中をざっと見て回った時にその噴水を見つけたのが最初だった。
綺麗な噴水だと思ったが、そういえばあまり行ったことがない。噴水は綺麗だが、その他に何があるわけでもないからだ。
そして、その場の唯一の存在である噴水にも、あまり何度も通うような必要性はない。水をくむにも水を浴びるにも、城の中にあちこち流されている小川で十分だし、飲み水は井戸を使う。
いくら綺麗な噴水だからと言って、足しげく通ってまで見たいものでもない。正直に言ってしまえば、何のために作られたものなのか目的もはっきりしない噴水だった。
だいぶ噴水に近づいてきた。かなり大きな噴水だから、もう少し歩けば水の音が聞こえてくるだろう。モニカ達がそんなことを考えていると、音が聞こえてきた。
「夢を見た。体が水に溶けていた。優雅な水になりたかったから見たのだろう。なら、元から優雅なあなたは、どんな夢を見るの?」
それは歌声だった。声が明らかにフレイヤのものだったのに、それが一瞬誰かわからなかったのは、普段のおどおどとした声しか聞いたことがなかったから。
姿を見て本当にあれはフレイヤだろうかと思ってしまったのは、普段の自信のなさげな表情しか見たことがなかったから。
本当にフレイヤなの? モニカはそう尋ねたいくらいだった。それができなかったのは、余計な音を立てるのを嫌ったからだ。
「あなたが見るのは人になる夢。世界を巡って人を見たあなたは、うらやむほど素敵な人をきっと見たはず。そんな人に私はなりたい」
場にはフレイヤの歌声しかメロディはない。それなのに、モニカ達は確かに伴奏を聞いた。
メインの伴奏は噴水の音。フレイヤは噴水に腰かけ、目をつむって歌っていた。
フレイヤの優しい歌声を、そのすぐ後ろで力強く支える水の音。それが伴奏となってフレイヤの歌を引き立てる。
伴奏は水の音だけではない。鳥の鳴き声、風の音、ざわめく木々の葉っぱ、果ては空から降り注ぐ太陽の光にさえ音が聞こえる気がした。
それぞれの音はバラバラで、普段なら聞こえても気にしないし、聞こえたところでそれにメロディなどあるはずがない。
それを音楽に仕上げているのは、すべての音の中心となっているフレイヤの歌声だった。
この場は音楽堂ではない。閉鎖されてなどいないし、音がよく響くように工夫して作られた壁もない。
それなのに、フレイヤの歌声は良く響いて場に溶け込んでいた。
フレイヤの歌声が届くところまでのすべての音が、歌声を引き立てようとリズムを作っているような錯覚。
いや、違う。フレイヤの歌声が、すべての音を拾い上げ、音楽に昇華させているのだ。
フレイヤの歌声が、その場にある音をやさしくなでる。すると、その音はフレイヤの心地よい歌声に誘われて演奏を始める。
操られるのではなく、支配されるのでもない。協力して音をフレイヤの歌声に合わせる。フレイヤは歌いながら指揮棒を振っている。周りの音たちと完全に調和し、この調和空間の指揮者となって音楽を作っている。そんな雰囲気だった。
そんな雰囲気だったから、飛び入りで余計な音を立てることがためらわれた。余計な音を立てたら、この空間が壊れてしまいそうで……。
そしてそれは正しかった。モニカはあまりにこの場の音楽が心地よくて、手に剣を持っていたことを忘れ、力を抜いてしまった。
力が抜けた手は、剣を手放してしまい、手放された剣は、空気も読まずに大きな金属音を立てて場を崩した。
「わぁ! な、なに?」
朝の光に目を閉じ、心地よさそうに神々しく歌っていたフレイヤが、急に人間味を取り戻して周りを見回した。
そして、モニカ達を見つけ、顔を真っ赤にして口を抑えた。
「み、みんな……なんで?」
「え、あ、フレイヤさん。おは」
「と、というか聞こえてました!? 聞こえてございましたよね! 違う、あ、あの、この時間にここに誰かがいるわけがなくて! モニカちゃん達がいるのは絶対違うの! 間違ってるの!」
口調までおかしくなるほどフレイヤが混乱する。狼狽し、右を向き左を向き、手を突き出し、手を口に当て、とにかく大騒ぎをして慌てていた。
その様子を見かねて、クララが一歩前に踏み出して声をかけた。
「フレイヤ落ち着いて? 間違いも何も私たちはここにいるんだから、それを前提にしてお話しましょ? ね?」
「違うの! 違うの! ここに誰かがいることを否定したいだけで、ここにクララちゃん達がいるのを否定したいわけじゃなくて! あ、でも、歌を聞かれちゃうから、クララちゃん達がここにいるのは否定したくて……ああ、もう! 自分でも何言ってるか全然分からないよー! うわぁッ!」
その時、フレイヤは足を滑らせた。転んだ先には噴水が……。
「はい、セーフ~」
モニカ達が目をつむって水の音を待っていると、間延びした声が聞こえてきた。
「いや~、危ないところだったね。もう夏じゃないんだから、風邪ひいちゃうよ」
「ニ、ニーナ……」
フレイヤは自分を助けてくれたルームメイトの名前を呼ぶ。朝の仕事を終えてから駆けつけてくれたのだろう。それか、ずっと身を潜めていて、飛び出すタイミングをうかがっていたのか?
ニーナはフレイヤを助けると、にこっと微笑んでからモニカ達の方に歩み寄ってきた。
そして途中で立ち止まり、両手を広げてモニカ達に向かって言う。
「フレイヤのオンステージにようこそ~!」




