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親衛隊は、七人です!  作者: 鳥無し
王子の親友の案内先
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第二十話『親衛隊撤退戦』

「だますつもりが、こちらがだまされていたとはな」

 ベルは観念した声でそう言った。それでも剣先は野盗達に向けてしっかりと敵を牽制したままだ。

「モニカ、お前の見破ったその野生の勘に敬意を表して撤退してやろう。ただし、お前たちも撤退することだ。野盗を倒すなんて無謀なことは考えなくていい。撤退するということを最終目的に掲げるのならお前たちの指示に従ってやる」

 ベルはそう言って意識を野盗に向ける。こうやって牽制して食い止められる時間はわずかだ。その間に作戦を練らなければならない。

 

「ふぅ……あ、いた!」

「いた……じゃないでしょう? いつから気づいていたのよ?」

 怒り心頭のクララが、モニカをこっそりと小突く。モニカはペロッと舌を出してごまかすように笑う。

「実は最初から……だって声が同じだったし、髪型は代えてたけど顔がおんなじだもん。気づくよ」

 モニカは声が同じだといったが、その調子はかなりノルベルトのものとは変わっているものだった。言われてみれば気付くのだろうが、そうでなければ気づきがたい。そもそも、ノルベルトの顔など恐れ多くて、まっすぐに見つめたこともなかった。

 

「とにかく、こうなってしまってはベルに戦わせるわけには確かにいかなくなったわ。私たちで撤退を援護するわよ。……カルラ」

「ん……」

 クララの声で、若干虚を突かれたような声をカルラは上げる。

「カルラはベルと一緒に撤退。ベルのことを街まで護衛するのよ」

「……え?」

「重要な仕事だからしっかりね?」

 これはクララの気遣いだった。一つの違いとはいえ、カルラは最年少。建前をつけなければ、おそらく一番安全だろうという役割を与えた。

 

「あとの三人。私とモニカとエーフィさんで敵を攻撃、牽制しつつ撤退。いいですか? エーフィさん」

「……はい」

 ベルがノルベルトだと知り、エーフィも若干慌てたようだった。しかしすぐにおちつきを取り戻し、この会議に参加している。

「ではいいですね? ノルベ……ベル。合図をしたらカルラを連れて撤退して」

「いつでもいいぞ」

「では……ゴー!」

 その合図と同時に、ベルと三人の位置が入れ替わる。ベルはカルラを引っ掴むように入口に向かって走り出し、しんがりを任された三人が武器を構えて野盗と対峙する。

 

「へ……へへ。へはははは! 口だけの野郎だな、さんざんあおったあげく女一人つれて逃げ出しやがった。情けねえぜ、ははははは!」

 野盗のリーダーがそういって笑うと。野盗たちのなかに乾いた笑いが広がる。その笑い声には、恐怖から解放されたことによる安堵の感情が含まれていた。

 その様子を見て、モニカはいらっとしたが、まさかベルが王族であることを説明するわけにもいかず、ただ睨み付けた。

 

「ふん、何を言っているの? 情けないのはあなたたちの方じゃない」

 モニカが言い返せずにいると、クララが鼻で笑って前に出る。それは完全にばかにした態度だった。

 

「あぁ? 俺達の何が情けないんだ?」

 野盗の一人が不快そうにそう聞いてくる。ベルがいなくなったことによって余裕がうまれたらしい。

 

「自分でわからないというなら教えてあげるわ。強盗なんて犯罪に手を染めてるところが情けないって言っているの」

「ッケ、ガキが……。俺達の半分も生きてないくせに抜かしやがる。いいか? 人間ってのは生まれた時から差別されてるんだ。生まれ落ちたのはボロボロの貧乏村の貧乏な家。そんなことに生まれ落ちりゃ、地獄も同じよ。それもこれも国が悪いのさ。自分のお膝元ばかり暖めて、地方のことなんざ気にもかけねぇ。だったら都会に行って楽しく暮らしてやろうと思って来てみれば、紹介されるのはくそみてぇな仕事ばかり。どこまで田舎者をばかにしやがるんだ! クソ王族どもがッ!」

 野盗はそう言って石を蹴る。どうやらかなり田舎にコンプレックスがあるようだ。

 

「そこで思ったのさ。国がそんなに都会人ばかり優遇するなら、俺達はそいつらから金を巻き上げてやれば釣り合いが取れてちょうどいいってな。そうだろお前たち」

「おー!」

 一人の呼びかかけに、野盗達が雄叫びをあげる。完全にベルの恐怖を忘れ、調子を取り戻したらしい。

 

「なるほどね。やっぱり情けないじゃない」

 ずっと聞いていたクララが静かに口を開く。

「普通の人はね、ちょっと生活が厳しいくらいで犯罪に走ったりはしないのよ。それは安易に犯罪に走ると言う行為が、どれだけ恥ずかしく、情けない行為であるかということを知っているから」

「はぁ?」

 野盗達がクララを睨む。まだ成人もしていない奴らがなにを言うのかという表情だ。

 クララは構わず続ける。

 

「私は誰かが口汚く国の批判をしていても何とも思わない。国民には国に対して不満を言う権利があるし、国にはそれに耳を傾ける義務があると思っているから。ただそれは、まじめに働いている人達ならという話。筋が通ってなくても、言いがかりでも、聞くに堪えない言葉を使って国を批判していても別に怒りはしないわ。だってその人達はまじめに働いて、国にわずかでも貢献しているのだから。それで生活に不満があると言うなら国に悪口をぶつければいい」

 クララはそこでいったん言葉を切って、野盗達を睨み返す。

「でも犯罪に手を染めてまでそれから逃げてるくせに、国が悪いなんて言わせない。国に対して泥をかけているくせに、その上不満を言う権利なんてあなた達にはないわ。ろくな仕事が無かった? それってつまり仕事自体はあったということじゃない。そうよね? こんな足場の悪い森を走りまわって、鉄の塊を振りまわせるだけの立派な体があるのに、何の仕事もできませんなんて言わせないッ!」

 野盗達がその言葉にわずかにひるむ。クララが怖かったわけじゃない。クララの発した言葉が、ナイフのような鋭さで野盗達を刺したのだ。

 

「う、うるせぇ! それのどこが情けないってことになるんだ? お前の話は適当に言葉を繋げてるだけだ! 俺達のやってることだってある意味仕事だろーが!」

 この反論自体がもう情けないのだが、野盗達はそれに気付かない。

 クララはため息をついて野盗達を呆れ顔で見る。

 

「あなた達には難しかったようね。だったら、もっと端的にあなた達の情けなさを指摘してあげる」

 そこでクララは嘲るような表情を作って野盗達を指さす。

「自分達をコテンパンにした男がいなくなって安心してるそのヘタレ根性が、何より恥ずかしくて情けないわよ」

「なッ! て、てめ……」

「聞きなさい野盗達! 私達は王族直属の女親衛隊よ! 弱い人間だけが残ったと勘違いしてるようなら、もう一度地面に這いつくばって土を舐めることになるわよッ!」

 クララが怒鳴り声をあげて野盗達に剣を向ける。野盗達は完全にひるんでその場ですくんだ。

 

「お、王族直属の親衛隊? そ、それってあれか? 超精鋭の武術集団とか言う……」

「国の中の超エリートが集められて構成されてるって噂の奴かっ!」

「な、何でそんなのがこの森に!?」

「国の力を見せつけるために国中の盗賊団を潰してるって聞いたことがあるぞ……」

「お、俺たち殺されちまうのかよッ!」

 

 どうやら噂に尾ひれがついているようだが、それのおかげで野盗達は完全に混乱した。

「……ふふ」

 モニカは一連の流れを見た後、顔を伏せて小さく笑った。

 懐かしい。村で生活しているころ、よく村の男の子相手に喧嘩をする時、まずクララが口喧嘩で出鼻をくじいてくれた後、自分が力で男の子を倒したりしていたっけ?

 これだけ聞くと、モニカはクララが吹っ掛けた喧嘩の後始末をさせられているように思える。だが、クララが批判するのは、批判するに値すると思った時だけだ。

 そう言う時はモニカ自身も許せないと憤るのだが、どう許せないのか分からない。クララはその許せないという気持ちの説明をしてくれるのだ。だからモニカは迷わず相手にぶつかっていける。それゆえ、モニカはその流れに不満を持ったことはなかった。

 

「モニカ、エーフィさん。作戦を説明するわ」

 クララは野盗達が混乱している隙に、小声で話しはじめる。

「エーフィさん。この中で確実に敵にダメージを与えられるのはあなただけです」

 モニカの身体能力は高い。素手だけでも十分戦える力はある。だが剣の技術がまだまだだ。今日も小太刀は一応持ってきているが、モニカは今それを手に持っていない。使い慣れない武器に振り回されるよりは、戦いなれたスタイルで行こうと考えているのだろう。だが、素手では相手を確実に行動不能に追い込むのは難しい。

 クララは刀を持っている。持ってはいるが、まだ十分に使いこなせる自信が無い。数カ月の訓練で、身体能力は上がっては来ているが、自慢できるようなものではない。だから、剣は持っていても相手を切り崩せるか怪しい。

 

 その点エーフィは優秀だ。弓を扱うには、想像以上の力と体力を必要とする。当然、それを自由に扱っているのだから、エーフィの身体能力は非常に高い。その上、小さい頃から弓の練習を続けてきている。力と技を兼ね備えているのはエーフィだけなのだ。一説によると、戦争で最も死傷者を出す武器は弓なのだと言う。

 ただし、弓は相手との距離を一定以上取らなければその力を発揮できない。

 

「私とモニカで、なんとか野盗を押し返して見せます。私が合図したら、左右に飛んでエーフィさんに野盗への道を開く。障害物が多くて大変だとは思いますが、そうしたら野盗に矢を放ってください。命中すれば確実に敵を行動不能にできますし、怯えさせることができれば、逃げ出すかもしれません。これを何度か繰り返せば相手は必ず怯みます。そのすきに逃げ出しましょう」

作戦はシンプルだ。だが、それをできる技術があればの話だ。野盗達は浮足立っている。武術に長けた人間と戦わなければならないと怯えている。だが、モニカ達がまだ親衛隊候補(・・)でしかないことがばれれば、その怯えは多分消える。

 

「分かりました。任せてください」

 エーフィの表情が凛として真面目なものに変わる。その表情で弓を持ったエーフィは、とても頼もしく見えた。

「よし……それじゃあ行くわよモニカ!」

「うん! 分かった!」

 クララがそう叫んで野盗に向かって飛び出した。野盗達の怯えた表情が目に入った。それと同時に、野盗達の持った武器も目に飛び込んでくる。

 

「……くぅ」

 その時クララの視界が歪んだ。理由は分かっている。怖いのだ。

 理解はしていた。親衛隊となるなら、こういう事態には絶対でくわす。その時、危険にぶつかっていかなけれなならないと言うことも十分理解はしていた。

 だが、その時どんな気持ちになるかということまでは理解が及ばなかった。だって普通はそれに立ち向かうなんてことあり得ないのだから。もしかしたら、その場になったら自然と冷静になって、死ねないという緊迫感から実力以上の力が出たりするのではないかとも思っていた。しかし、実際にその場面に出くわした今、それは自分の願望でしかなかったことを知る。

 怖い。

 純粋にただただ怖かった。相手は素人ばかりなのだ。技術で言えばまだ自分の方が上かもしれない。それが分かっていても恐怖からは逃れられない。相手がどれだけ怯えた表情をしていようと、体が震えていようと、足がすくんでいようと、その手に持った刃物の鋭さは変わらない。

 切られれば腕が無くなり、突かれれば心臓をえぐられる。痛いのはもちろんのこと。下手をすれば死んでしまう。怖くないはずがなかった。

 

(お、落ち付け。野盗相手にタンカを切ったのは私じゃないか。その私が怯えてどうする。怖がってどうする。怖いのなんてみんな一緒だ。だから、私が怯えて見せれば、みんなも怯えてしまう。みんなが怖がっていても、私だけは怯えてはいけな……)

「やぁああああああああ!」

 クララが心の中で必死に恐怖と戦っていると、モニカが抜け出して野盗達に向かって行った。

「な、なんだこいつ! 素手じゃ……がぁ!」

 モニカは止まることはなかった。素手だと見て一瞬気を緩めた野盗を、問答無用で殴り飛ばす。

「は! とう! でやぁッ!」

 ひるんだ野盗相手に、モニカの蹴りが飛ぶ、拳が飛ぶ、頭突きが入る。

「こ、こいつ……ッ。う、うげぇ」

 モニカの後ろから野盗が切りかかってきた。モニカは振り向きざまに回し蹴りを入れる。

 

「ぬるいよ! そんな攻撃が私達、女親衛隊に通用するとでも思ってるのかな? さすがはヘタ……ヘタ……えーと? ねえ、クララちゃん。さっきのって何だっけ?」

 戦いの最中だと言うのに、モニカはクララを振りかえってそう言った。

「……ヘタレ根性のこと?」

「ああ、それだ。そんなヘタレ根性攻撃が、私達に通用すると思わないことだね。私達は超精鋭何だから!」

 モニカがそう言って胸を張る。野盗達がそのちょっと抜けている煽り言葉に、怯えるべきなのかどうかわからず困惑している。

 

「……はは」

 クララの口から笑いがこぼれる。こんな状況下でも、わが親友はまるで怯えていない。自分の真剣な怯えが馬鹿みたいだった。

「はぁあ!」

 クララが突然自分の手の甲を柄で叩いた。その意味不明な行動に野盗はもちろん、モニカすらも度胆を抜かれる。

「……覚悟はできたわ。もう震えないわよ」

 実はまだ若干手が震えていたが、それは叩いたせいだと自分を誤魔化した。

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