13話 王族専用の入り口
いよいよ、第四王子の婚約パーティへ向かう。
私たちの仲間で出席するのは、第三王子アルトランとそのエスコートで私レイナ、エンツォ公爵家三男プレシオスとそのエスコートでファブリアーノ男爵令嬢サラーメ、あと私の執事という体裁で悪魔ルビカンテである。
ルビカンテには、会場へ移動するときに常に最後尾を歩き、パーティ会場では私たちの2人のすぐ後に付いて来てほしいと頼んである。
ちなみにファルとスモーク、ベクタードレインには食事をするときの客室や寝室用の部屋で自由に過ごしてもらう。
「あの、サラーメ様」
会場の前のエントランスに立ち止まったタイミングでサラミに話し掛けてみる。
「何かしらレイナ様」
何だか不思議な感じがする。
ふわふわして自分が自分じゃないみたいだ。
素敵なドレスを着て王子様について歩き、一緒にいる貴族令嬢とお嬢様言葉で会話するなんて違和感がある。
戸惑いつつも疑問に思った事があるので、パーティ向けの丁寧な口調で聞いてみる。
「どうしてスモークを執事として連れてこなかったのですか?」
パーティでの作法が良く分からない私に、サラミは丁寧に教えてくれる。
「パーティ会場までの道中ならいろいろと執事に頼る部分もありますけど、今回はその過程がありません。一般の貴族は会場内に執事を連れて入らないのですから、彼に来てもらっても仕事がないのですわ」
辺りを見渡すと数人の執事たちが立って待機していて、執事同士で談笑したりしている。
「ほら、会場前のこのエントランスで待機している執事たちがいるでしょう。スモークを連れて来てもここで待って貰うだけになるのです」
「私が執事を会場内で連れまわしても大丈夫なのかしら」
「まあ、王族であるアルトラン様のエスコート相手、レイナ様の執事なので平気と思いますわ。むしろ他の貴族からは、それだけ王族にとってレイナ様が大切な人物なのだと見えるでしょう」
え、そうなの?
そんな風に見えて大丈夫なのかしら……。
貴族たちにそんな風に見られて王族は平気なのか心配になり、ルートリアの方を見ると彼は横にいる私を見て微笑んだ。
「事実、父上も私もレイナを大切な人物だと思っている。兄上もだ」
本当? 仲の良いヘラルド王とルートリアがそう思ってくれるのは分からないでもないけど、あのカストラルが私を大切に思っているなんてとても思えない。
「さあ、会場へ行こう。我々は回り込んで向こうから入るから後で落ち合おう」
プレシオに一声掛けたルートリアは、会場の大きな扉を無視してすたすたと会場沿いの廊下を歩き出した。
慌てて彼の後をついて行く。
私が歩き出すとルビカンテもてくてくと後をついて来た。
どうやら、王族と貴族たちは入り口が違うようだ。
ちらりと後ろを振り返ると、サラミの手を取ったプレシオが今まさに扉を開けて婚約パーティの会場に入ろうとしていた。
ああ、サラミが入場するところを見たかった。
あの真紅の令嬢が長身イケメンのプレシオにエスコートされている姿は、絶対に貴族たちの注目を浴びるハズなのよ!
後ろ髪を引かれる思いでルートリアについて行く。でも、2人は今入場したばかりだから、早く私たちも入場すればまだ様子が見れるかも。
「ね、ねえ。急いで私たちも入りましょう!」
ルートリアにせっつくと彼は不機嫌そうな顔をする。
「さっきから振り返って後ろばかり見ているが、そんなにプレシオが気になるか?」
「違うって。変身したサラミに貴族たちがどんな反応をするか見たいの!」
プレシオは社交界にあまり出ていないと言っていたけど、公爵家の三男だから少しはパーティにも出ていただろうし、あの容姿だからそれなりに有名人だと思う。
でも、サラミは違う。
13歳で婚約破棄されて実家の男爵家を出てから、もう7、8年経つ。
少女姿の彼女を覚えている人がいても、その頃とは大きく印象が変化していると思う。
きっと今頃、女性に注目の的である長身のプレシオが、見かけない真紅の令嬢を連れているとざわついているに違いない。
「ね? 早く行きましょう」
「そういう事なら急ぐとしよう。私も見てみたい」
「うん!」
ルートリアが珍しく私の興味に同意してくれたので、嬉しくなって自分から彼の腕に組みついて笑いかけた。
「……っ」
彼は驚いたようだったけど、すぐに笑顔を返してくれた。
すぐに彼の方から私の手を握り直して組んでいた腕を解くと、私を引っ張って別の入口へ向かう。
途中、警備兵がいる部屋を通り抜けて別の廊下に出る。
正面入り口の廊下とは違う装飾の無い実用向けの廊下だ。
「この通路は王族が居室から移動するのに使っている。あそこに見える扉が会場の王族専用の入口だ」
王族専用の入口!
へ、平民娘がこんな所から登場してもいいのかしら……。
今の私は素敵な黄色のドレスに身を包み、華やかなアップヘアで、綺麗なダイヤモンドの貴金属まで身に付けている。
自分じゃ絶対再現できないプロのテクニックでお化粧をして貰い、見た目だけは超変身を遂げていると思う。
それでも中身は平民なままなんだ。
本来、会場に入るだけでも許されないのに、王族専用の入り口って……。
私は尻ごみしてしまい、握っていた手を緩めて彼の手を離しそうになった。
するとその手を強く握り直したルートリアは私の方を向いた。
「あの扉からレイナと入る事に意味がある。安心して欲しい、貴族たちからは私が守るから」
扉へ向き直った彼は、ゆっくりと私の手を引いて歩く。
さっきの不安な気持ちはまだ残っているけど、彼がエスコートしてくれるので手を引かれるままに扉の前まで歩く。
扉の方に向きあうとルートリアが小さくつぶやいた。
「レイナは誰にも――――」
「え?」
何を言ったのか聞こうとしたところで、ルートリアが扉をゆっくりと明けた。
そこに広がっていたのは煌びやかで、少し懐かしさのある華やかな空間だった。
異種族国家へ行った際に招待された、友好国の歓迎パーティに出た事はある。
でも、人族の貴族パーティに出席したのは初めてなのだ。
それでも何処か懐かしさを感じたのは、きっと前世での中世ヨーロッパの資料が記憶にあるからなのか、または、夜のネオン街の華やかさに似ていたからかもしれない。
まあ、別に私は繁華街で夜のバイトをするような、時間的、体力的余裕は全くなかったので縁遠い世界ではあったけど。
そんな華やかな空間に足を踏み出す。
どうやらここは玉座の間の様に少しだけ高い位置にあるようで、会場の一番奥に設けられた広さのある壇上みたいだった。
この壇上には王族向けの椅子が置かれていて、会場が一望できるようになっている。
まだ、他の王族は出席していないようで、メイドが2人いるだけだ。
メイドに案内されて用意された席へ移動する。
ルートリアの隣の席に座り深呼吸をしてから会場を見渡すと、会場の壁際には料理をのせたテーブルが沢山並べられていて、どうやら立食パーティ形式のようだ。
中央には何も置かれていないのでダンスか何かをするのだろう。
会場にはもう結構な数の貴族が集まっているようだけど、一際人の多い場所があった。
よく見ると真ん中に背の高い男性と、赤いドレスの女性がいる。
あれプレシオとサラミだわ!
てことはやっぱり貴族から大注目を受けて人だかりになったのね。
「あれじゃ、しばらくどうにもならない。父上や兄上もまだだし助けに行こう」
「は、はい」
お嬢様仕様の私はどう返事していいか困ってとりあえず「はい」と答えたけど、内心はめちゃめちゃテンションが上がっていた。
サラミ、今助けに行くからね!
そしてあなたに驚く貴族たちを見せて頂戴!
ウキウキでルートリアの後をついて行くと、サラミたちを囲む集団が私たちを避けるように道を開けた。
「いやー! アルトラン様が知らない方をエスコートされているわ!」
「そんなー、久しぶりにパーティに出席されると聞いて来たのに……」
「プレシオス様だけでも耐えられない程ショックなのに……。アルトラン様まで……」
「こ、これは今年一番の衝撃です。今度のお茶会のために詳しく知りたいわ」
「ありえない、ありえないわっ。推し2人に気付いたら相手がいるなんて! こんなの納得いかない! 彼らのファンを増やすのに私が一体いくら使ったと思ってるの!」
ちょっと!
ルートリアとプレシオって女子にこんなに人気だったの!?
ここに集まって悲鳴をあげているのは妙齢の令嬢ばかりじゃない!
あと、最後の令嬢が何かちょっと違う雰囲気だわ。
次回、「私の事を皆に大切な人と言うなんて!」お楽しみに!




