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16話 できるかもだけど挑戦するのは嫌よ!

「あなたが願いを叶えてくれるのですか? でも一体どうやるのです?」

「もちろん女神様にお願いするのよ。私のお願いなら聞いてくれるから」


 私が自信をもって答えると、ポカンと口を開けたベクタードレインが不思議そうな顔をした後、気を取り直したようでまたさっきの飄々とした表情に戻る。


「……分かりました。あなた方と一緒ならば私一人より女神様と会うのは容易でしょうし、そこまで自信を持っておっしゃるのなら女神様へのお願いもきっと可能なのでしょう」

「じゃあ、ベグタードレインも私たちの冒険者パーティ『自由の剣』の仲間ね!」


「ただし! 条件があります」

「条件?」


「そう条件です。私はあなた……レイナさんでしたね? レイナさんの実力が分かりませんので、本当に女神様が願いを聞き入れてくれるのか心配です。魔族との戦争が終わる前に約束を果たして貰えませんか?」


 別に先に彼の願いを叶えてあげてもいいのだけど、問題は女神の居場所である。

 プレシオとルートリアの方を見ると心当たりがあるようで2人とも小さく頷いてくれた。


「分かったわ。でも流石に女神様と会えなければお願い出来ないから、女神様と会うまでの間は我慢してね」

「それくらいは全く問題ありません。今まで待ち望んだ月日に比べれば……」


 何か物思いにふける様に遠い目をしている。


 彼は死者蘇生の魔術を手に入れて何をしたいのだろう。

 もしや恋人でも生き返らせるのだろうか。


「皆様と行動するのであれば、こんなに沢山のボーンアンデッドは不要ですね。処分しましょう」


 そう言ったベクタードレインは黒いシルクハットを被ると、動きを止めているスケルトンたちに向き合う。


「待って欲しい。まだスケルドラゴン1体分の骨はあるのだろう? 是非スケルドラゴンと戦わせて欲しい!」

 ちょっと待ったとばかりに戦闘狂のルートリアが声を上げる。


「そうだね! 俺もさ、大物との戦闘を是非経験しておきたいんだ!」

 すかさずプレシオも同意する。


 もう、仕方ないなー。


 でも彼らもこれが楽しみで私のために鬼ツムリの依頼に付き合ったんだろうし、今度は私が付き合ってあげる番かな。


「それならば、さっきまで私がボーンアンデッドを集めていた広場へ参りましょう。ここは木々が多くてスケルドラゴンを活動させるのにあまり向いていません」


 さっきと同じようにボーンアンデッド全体に対して何かの魔法を使うと、骨の魔物たちはカタカタと再び揺れ始め、ベクタードレインの号令に従って引き返していく。


 どうやら魔物呼びの笛の効果はもう及んでいないようね。


 プレシオとルートリアがスケルトンたちとベクタードレインを追って、嬉しそうに歩き出した。


「ねえ、レイナ。彼らはいつもああなの?」

「そうなのよ。呆れちゃうでしょう?」

 困った男どもね、と2人で笑いながら後を付いて行った。





 2人でお喋りをしながら遅れて広場に到着すると、ちょうどベクタードレインがスケルドラゴンを誕生させるところだった。


 魔法陣が描かれた地面の上にスケルトンたちがひしめき合っている。


 何かの魔法が行使されると魔法陣から黒い帯が立ち上り、みるみるスケルトンたちの骨がバラされて吸い付くように大きな一塊を形成していく。


「おおー、これはかなり倒しがいがありそうだ」

「こ、こいつがスケルドラゴンか!」


 プレシオとルートリアが感嘆の声を上げた。

 

 四足歩行のトカゲのような体型でどっしりと地面に足を付けている。


 首は長く前方に伸びて、頭部は顎が大きく上あごと下あごから人骨で形成された無数の牙が不揃いに生えている。


 前方の首と頭部の重量バランスを調整するように、後方に長く伸びる尻尾が空中で静止している。


 ルートリアが目を輝かせてベクタードレインに質問を始めた。


「耐性とかあるのか?」

「はい、耐性というか生物ではないので、状態異常系はほとんど効果がありません。同様に火や水、風などの魔法は効果が薄いです。それらの魔法は骨への影響が少ないですから。スケルトンのときと比べて骨強度が上がっていますので、刺突武器は苦戦すると思います。土魔法による打撃か、打撃武器による物理攻撃がよいでしょう」


「よし、それなら5メートルの魔槍を振り回してさ、叩き壊してやるしかないかな」

 プレシオは槍を突くのではなく打撃武器として使うつもりのようだ。


「スケルドラゴンの攻撃は何だ? 特殊攻撃もあったりしそうだが」

「攻撃は魔法を使わずに物理のみです。体当たり、踏みつけ、かみつきなどですね。特殊攻撃は瘴気ブレスがあります。指向性のある黒い光のような瘴気を吐きます」


 流石ドラゴンの呼び名を持つだけあるな。

 ブレスを吐けるんだ。


「その瘴気ブレスを食らったらどうなる?」

「卒倒します。狂気に耐性の無い並の人間はとても耐える事は出来ないでしょう」


「じゃあ、私は食らっても平気ね」

 得意そうにファルが胸を張るけど、狂気そのものである悪魔なら耐えられて当然だと思う。


 総合すると人間には最悪の敵ってことだ。


 魔族には狂気に耐性がある場合も多いので、鹵獲して戦争に使うのは向いてないかもしれない。

 一緒に戦う兵士たちが巻き添えを食らいそうだ。


「よし、じゃあ今回は私とプレシオで挑戦しよう! それとレイナにも試してほしい事がある」

「!? い、いやよ! 何で私も挑戦するの!?」


 即答で挑戦NGと返事するとルートリアが残念そうな顔をした。


 そんな「ノリ悪いなあ」みたいな表情をされても付き合いきれないよ。


「実はちょっと思うところがある。少し魔道具を貸してくれるか?」

 そういうと私の背中のカバンから神器を引っ張り出した。


「こんなに重いのか! よくこんな重量の物をあんなに振り回せるな」


 とても驚いた表情のルートリアがしげしげと魔道具を見て感心しているが、別に力自慢に興味がないし、むしろ筋力があると言われているだけなので嬉しくない。


「つまり何が言いたいの?」

「この特殊な素材の魔道具は盾にもなるんじゃないかと思う」


 確かに恐ろしく頑丈なのだからどんな攻撃も防ぎそうな気がする。


 再びルートリアがベクタードレインの方に向き直る。

「どうだろう。これで瘴気ブレスを防げないか?」

「魔道具ならば瘴気ブレスでも防げそうですね。ただ体を隠すには大きさが足らないでしょう」


 ベクタードレインが言うには、体の一部が出ていても瘴気ブレスの影響を受けて精神にダメージを受けるそうだ。


「そこでだレイナ。確か魔道具を使用するとき、魔力で沢山の歯車が具現していたと思う」

「ええ、そうね。あの状態なら確かに他の歯車も実体があるわ」


「あの状態のままなら、あらゆる射出魔法やドラゴンブレスを防げるんじゃないか?」


 えーと、神器を起動して透明の歯車と外側の黄金色の枠を具現させるけど、『宛先』や『件名』を指定せずに待機させるということよね。


 私の魔力により具現してはいるけど、神器を媒介に具現させているから確かに大概のものは防げそうな気がする。 


 そんな発想はした事なかった。


「……もしかしたら、できるかも……」


「よし、じゃあ挑戦してみよう!」


「いやいや、できるかもだけど挑戦するのは嫌よ!」


 あからさまに嫌そうな顔をして見せると、ルートリアが真面目な顔で私の目をみつめた。


「私は君に何があっても無事でいて欲しい。たとえ戦争中であっても命がけで君を守るが、もし我々が対応できないときのために身を守るすべを手に入れて欲しい」


 横にいるプレシオも同意見の様で頷いている。


「ほら、レイナは空を飛んで素早く避けられないでしょ? じゃあ攻撃を受け切るしかないわ」

 ファルも私が攻撃を防げるようになるべきだと言うのね……。


「皆様も賛成のようです。ではレイナさん張り切って頑張りましょうか!」

 ベクタードレインまで!


 皆が私の身を案じてくれるのは嬉しいけど、そんなに一斉に見つめられるともう逃げ場が無いじゃないのよ。


 ……これじゃ瘴気ブレスを受け止める以外に、私が今選べる選択肢は無さそうだわ。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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