14話 この人は魔族だわ!
「こりゃあ、腕が鳴るね」
「本気を出すことにしよう!」
なんで男ってこの状況で燃えるのかしら……。
彼らは腕に自信があるからそんなセリフを言えるのかもしれないけど、巻き込まれる私の身にもなって欲しい。
「ファルは悪魔なんだからスケルトンとか骨の魔物なんて楽勝なんでしょう?」
「まあスケルトンはそもそも弱いし。でも、ボーン系と私は相性が悪いの。あいつら肉が無くてスカスカだから風魔法がほとんど効かないのよ」
「『ウインドカッター』があるじゃない?」
「あの魔法こそ肉が無い魔物には効果が薄いわ。骨自体も硬いからダメージを与えにくいし……」
ボーン系の魔物をまとめて呼んだと言われても、悪魔少女のファルがいるから平気だとタカをくくっていたのだけど、そう簡単ではないらしい。
この場所は山の麓だけあって、木々が鬱蒼としていて武器を振り回して戦い難い。
特にプレシオは木々が邪魔なので、5メートルの魔槍を使うことができない。
武器の形態を変化させず、通常背負っている2メートル程度の槍を構えている。
皆で四方を警戒していると、カタカタという音を立てながら白っぽい姿が木々の合間から見え隠れし始めた。
もっと周囲を敵に取り囲まれて乱戦になるかと思っていたけど、山の方からだけかなりの数の魔物が集まって来ているようね。
ルートリアが皆を集めると作戦と陣形の説明を始めた。
「よし、陣形は山手の敵大群方向を正面に、我々2人が間隔を取って前に出る。レイナとファルは討ち漏らした敵及び後方から来る敵への対応を頼む」
「わ、私も数に入っているの!? む、無理よ。とても倒せないわ」
「レイナなら大丈夫だ。もしかすると今回の敵相手にはレイナが一番活躍できるかもしれない」
「こんなときに何を冗談言ってるのよ! ……それはさて置き、一応魔道具の魔力は溜まっているけど、1人の相手にしか効果を及ぼせないから今回はあまり期待しないでね」
大体、スケルドラゴンとか大物相手に神器を使うにしても、そんな骨だけの魔物に【尾根ギア】の効果があるのか不明だわ。
陣形を組んで待ち構えていると、とうとう私たちのすぐ近くまで骨の魔物が進行して来た。
やはりスケルトンばかりのようだ。
人型タイプが多いが、結構な数で動物タイプのスケルアニマルもいる。
相当の数が集まっているみたいで後方までびっしり白い姿が見える。
救いなのはどれも動きが緩慢な事。
しかもスケルトンは人型なのに、なぜか武器など持っていないので大きなダメージを受ける心配はなさそうね。
とうとうプレシオのもとへたどり着いた犬型のスケルアニマルが大口を開けて飛び掛かった。
生きている犬のような俊敏さがないので、私でも余裕で目で追える。
易々と横に避けたプレシオは、着地したスケルアニマルを槍で上から引っ叩く。
いとも簡単にスケルアニマルの形が崩れたが、骨同士がカタカタと震えて再連結していく。
これ倒せない不死の軍団なんじゃないの!?
プレシオがこちらへ振り向くと大声で叫んだ。
「やっぱり俺には倒しにくい相手だ! 骨ごと砕いて活動できないようにしないと倒せそうにない。ルートリアとレイナ! 頼んだぞ!」
ルートリアがスケルトンたちを倒すのに活躍できるのはよく分かる。
彼なら魔法剣で骨ごと破壊することができるからだ。
正直言って彼の独壇場だろうな。
でも、なんで私がプレシオに期待されるのかしら?
不思議に思ったが考える間もなく、プレシオとルートリアの間から抜けてきたスケルトンが1体近づいてくる。
ひー、骸骨標本が動いているよー。
物凄く気味が悪い。
特にドクロの眼の部分が真っ黒い空洞になっているところなんか嫌すぎる。
漫画なんかだと割とコミカルに描かれるのに、目の前にリアルな人骨が現れて、それが動いて近づいてくるなんて想像以上のホラーだ。
怖くなってすがる様に皆を見るが、大量に押し寄せるスケルトンの退治で3人とも忙しいのが一目でわかる。
当然、私に構っている暇なんか無さそうだわ。
自分で何とかするしかない!
大丈夫、鬼ツムリで練習したんだ。
神器で引っ叩いてやる!
私は神器の端を両手で挟み込むようにぶら下げて持つとスケルトンの方に神器を向けて、近づく奴のスピードを見ながら距離を測る。
こういうのは焦っちゃダメよ。
引き付けてからだわ。
クラブ活動で練習したソフトテニスを思い出しながらタイミングを確認する。
あと少し……今だ。
左足を軸にして、奴に向けて構えた神器を回転させて遠心力で加速させる。
「えい☆」
正体不明で呆れるほど頑丈な神界産の金属は、スケルトンの真横から左腕に直撃した。
体感で40キロ程ある赤茶色の歯車は、左腕の骨など最初から無いかの如く通り過ぎて、そのまま胴体部分のあばらを横方向に粉砕し、更に右腕の骨もへし折ったが勢いは全く収まらずに回転力が行き場を失った。
「きゃあ」
頑張って左足を軸に2回転目に入ったが、足元が悪くバランスが崩れて転倒してしまった。
「ぐぁ!」
右前方で魔法剣を振るってスケルトンを破壊していたルートリアが悲鳴を上げた。
転んだまま神器を振り抜いた先を見ると、粉砕した骨片が放射状に吹き飛んだようで木の幹に白い破片が突き刺さっている。
も、もしかして破片が彼に当たったのかも。
慌ててルートリアに近づくと、彼の左肩を保護する金属プレートに骨片がめり込んでいる。
「今のはレイナなのか?」
「ご、ごめんなさい。こんなことになるなんて……」
「いや、むしろとても頼りになる! 悪いが私と横並びで戦って欲しい」
そりゃあ、金属プレートにめり込むほどの威力で後ろから骨片を飛ばされたんじゃたまらないものね。
素直にルートリアの右側に離れて並んだけど、目の前の光景に呆然とした。
こんな状況で私なんかがどこまでやれるかしら……。
最前線に広がる光景は、右から左まで動く白骨で埋め尽くされていて、木々の茶色すら覆い隠される始末だった。
逆にこれだけ阿呆みたいに沢山いると、骸骨を気味悪く感じていた思いは何処かへ行ってしまった。
骸骨は1、2体あるから気味が悪いんだ。
多すぎると気味が悪いというよりは単純に生死の危険を感じる。
もう敵に神器を綺麗に当てる事なんて気にしていられない。
目の前に迫りくる骸たちに向けて神器をぐるんぐるんと風車みたいに連続で振り回す。
さっきと同じで敵に当たってもほとんど衝撃がないので、強い力で回転を続けることが可能だ。
指に掛かる負荷が大きくなって神器を離してしまわないように回転スピードを抑えて、木々にぶつからないように少しずつ敵の群れに向かって移動する。
20回転ほどして目が回ったので回転を止めると、自分の周囲にいたはずのスケルトンとスケルアニマルたちは広範囲に亘って一掃され、足元に部分的な骨が散乱するだけになっていた。
回転酔いに堪えながら周りを見回すと、私の左側に居たプレシオとルートリアの2人が寄り添ってファルの後ろで屈んでいる。
「ねぇ、私が頑張ってるのにどうして皆でしゃがんでいるの?」
文句を言うとファルが眉を上げて怒り出した。
「レイナったら、やるならやるって言いなさいよ! 私が『エアシールド』で2人を守らなかったら危なかったわよ」
もしやと思って彼らの近くの木を見ると、幹の表皮が目線の高さ辺りで綺麗に剥げて、剥き出しの生木に無数の骨片が突き刺さっていた。
「……ごめんなさい。次は気を付けるからー」
皆に向かって謝っておいたが、これはよく気を付けなければ……。
「おーい、止めてー! 止めてくださーい!」
今度はスケルトンたちがやって来る方から蚊の鳴くような声が聞こえる。
骸骨どもと一緒にこっちにやって来るなんてきっと敵なんだろう。
その間もファルの笛で呼ばれたスケルトンたちがこちらに向かって来るので、叫んでいる人には構っていられない。
「えい☆」
今度は皆に迷惑を掛けないように、スケルトンを正面に捉えてから綺麗に神器を振り抜く。
慣れてくると、ゆっくり飛んでくるボールをラケットで打ち返すような感覚でリズムよく倒せるようになってきた。
ちょっと楽しいかも♪
来る骸骨、来る骸骨を次々に打ち払っていく。
「やあ☆、とう☆、それ☆」
「痛っ、痛いぃぃ!!」
前方に向かって粉砕した骨片を飛ばしまくったら、さっき叫んでいた声の主に当たっているようだ。
「あなた方っ、何てことしてくれたんですか!」
声の主がようやくこちらまで到着した。
こんな森の中だというのに黒いスーツ姿で、上から黒いマントを羽織っている。
頭には黒いシルクハットを被っていて、全身黒のコーディネートの彼はテレビに出てくるマジシャンのようだ。
可哀そうに飛んでくる骨片を正面から受けたのか、肌の出ている手や顔から少量の出血をしている。
浅黒い肌で少しやせ気味の高身長、尖った耳に猫の様な瞳、小さな丸眼鏡を掛けている。
やつれ気味の顔は目の下に濃いクマがあるわね。
この人は魔族だわ!
ただ、ちょっと体調が悪そう。
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