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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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最期の書

 ユーリが倒れたのとほぼ同時刻、リエラはカーバンクルの本屋でうろうろしていた。あちらこちらを探したが、呪いについて書いてあるものは、まったく見つからない。他の客とぶつからないように、棚の間を歩きながら、


(んー、やっぱりないなぁ。

 困ったなぁ)


 何かに導かれるように、足をふと止めると、一冊の本が目に留まった。


(あれ?)


 それはずいぶん古い本だった。背表紙は角のあたりが擦れていて、中身の網目が飛び出している状態。高技術のカーバンクルにこの手の本があるのはあまりにも不自然。


 リエラはあたりをキョロキョロ。


(ここ……さっき見たけど、こんなのなかったよね。

 変だなぁ?)


 呪い解けられし姫はそう思いながらも、本を棚から引っ張り出した。表紙を見て、不思議がり、


(題名も……)


 ひっくり返して、裏表紙を見て、


(……何も書いてないね。

 変わった本だね。

 それに……)


 自分を引きつけるような何かが、その本から出ているのをリエラは感じ、表紙に手をかけた。


「何だろう?」

(気になるなぁ)


 そっと開いたそれは、3D方式のものではなく、紙で出来たものだった。リエラは最初のページに目を通し、


(『最期の書』……。

 ん、最期?

 最期って……死ぬ時のことだよね?

 『最後』とは違うよね?)


 人魚姫はさらにページをめくり、軽い衝撃が全身に走った。

 

『雪の王子と恋に落ちた人魚の娘は 十八の誕生日に 白き丘にて 息絶える』


 くりっとしたブルーの瞳に、その短い文章が映ると同時に、優しく凛とした声がリエラの心に絶妙なタイミングで響いた。


『なんてことでしょう。……とは、私は許せません。あなたにかけられた呪いは、永遠に成就せぬ愛と、十八まの命。 自ら、この呪いを解く意思があるのなら、その機会と方法を与えましょう。今から五千年後に……うでしょう。……十八の誕生日までに……』


 リエラは本を手に持ったまま、今まで聞き取れなかった部分をつぶやく。


「……永遠に成就せぬ愛……十八までの命」


 そこで、ユーリのことが急に脳裏に浮かび、


(『永遠に成就せぬ愛』……)


 珍しく真面目な顔をして、本から視線を上げた。 


(ユーリのことだね、きっと。

 これが原因だったのかも知れないね。

 それなら、まだ呪いは解けてないってことだ。

 えっと……もうひとつは何だったっけ?)


 リエラは本屋の天井を見上げて、さらに考える。


(……『十八までの命』。

 あぁ〜、なるほどね。

 呪いは、そのふたつだったんだ。

 ふんふん……!!)


 のんきにうなずいている場合ではない、ボケ姫。そこで、ことの重大さに気づいて、店内に響き渡るような大声を上げた。


「えぇっっっ!?」

(十八までの命!?)


 まわりにいた他の客たちが、一斉に咳払いした。リエラは慌てて頭を下げて、


「す、すみませんっ!」

(本屋さんだってこと、忘れてたよ。

 し、静かにしないとね。

 ん!?!?!?)


 呪いかけられし姫は声を出さずに、思いっきり飛び上がった。


(えぇっ!?

 し、静かにしてる場合じゃないよ!

 十八までの命だよ!?

 十八って……)


 十八の誕生日を迎えてしまった、リエラは目をパチパチ。


(今日、誕生日だよ。

 もう、十八になってるよ!?)


 また大声を出しそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。


「……!!」

(えぇっっ!?

 もう、死んじゃった!?)


 自分の命を勝手に抹殺した、先走り姫。落ち着きなく、あたりを見渡し、本を読んだり、探している客たちをうかがって、


(ここって、天国?

 あんまり、変わらないんだね、生きてた時と。ん?)


 リエラはそこで、さっき会った赤髪青年のことを思い出し、


(あれ……セリルいたよね?

 えっと……セリルも死んじゃった?)


 呪いに関係ない人を、勝手に死亡させようとしていた。


『いやいや、オレを勝手に殺すなって』


 誰かの軽快なツッコミが聞こえたような気がし、違和感を抱いたボケ姫は、首を傾げた。


(それは……違うね、きっと。

 じゃあ、死んでないってことだ。あっ!

 もしかして、今日終わるまでが、呪いを解く期限なのかな?

 そうかも知れないね)


 リエラは笑顔で、何度もうなずいた。


(ふんふん、そうだよね。

 そうじゃなかったら、伝えてこないもんね、呪いの解き方。

 えっと、それで……呪いの解き方は……!!)


 別の事の重大さに気づいて、リエラは再び飛び上がった!


(えぇっっっ!?

 き、聞こえなかったよ!?

 ど、どうしよう?)


 呪いかけられし姫は急に焦り出し、右往左往し始めた。


(死んじゃうよ、このままじゃ。

 わわわわ………。

 わわわっ……)


 さっきから、リエラを本越しにうかがっていたまわりの客が、心配そうな顔で、


(あの人、大丈夫かな?

 さっきから飛び上がったり、ずいぶん落ち着かないみたいだけど……)


 本屋の客に、セレニティス姫、多大な迷惑をかけていた。自分がもう少しで死ぬかもしれないという運命に立たされているリエラは、まわりの人に構っていられず、口をパカかパカさせていた。


(ちゃ、ちゃんと解かないとダメだよ。

 優しい声の人が、せっかく教えてくれてるんだから。

 でも、どうやって見つければいいんだろう?)


 超前向き少女は手にしている本に、視線を落として、


(『白き丘』……!!

 そうだ! そこに行けば、見つかるかも。

 でも……それってどこだろう?)


 首を傾げると、寝転がって空を見上げるユーリのことを思い出した。


(わかった! あそこだ。

 急いで行かなきゃっ!!)


 先走り姫は本を置いて、店を転がるように飛び出した。カーバンクルの街を全速力で走りながら、大きなビルの時計を見上げ、


(十二時三分……)


『最後まで、あきらめんなよ』


 これ以上直接手を差し伸べられないセリルの、最後に残した言葉に、リエラはしっかりとうなずきつつ、人混みをすり抜けてゆく。


(まだ、半日近くある。

 だから、大丈夫。

 あきらめない、最後まで絶対に)


 呪いを解くために必要な人物ーーユーリがすぐ近くにいるとも知らず、先走り姫はカーバンクルをあとにーー本当にはぐれてしまった。

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