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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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さよならの意味

 ツーツーと携帯から鳴り続ける音に、リエラはしばらく、ぼうっとしていた。


(さよなら? え、何で?

 ……もう、会わないってこと?

 昨日が最後……だった?)


 脳裏に、この一年間の出来事が走馬灯のように浮かんでは消えていく。


(こっちの世界に来るようになって……。

 ダンスの練習して……。

 雪祭りがあって……。

 ユーリの夢を聞いて……。

 結婚することになって……。

 今日は……十八の誕生日……!!)


 そこで、リエラは大声を上げた。


「あっ、そうだ!! 呪いっ!! 忘れるところだったよ」


 携帯を持ったまま、右往左往する。


「『十八の誕生日までに』だったよね?」


 おかしなことに気づき、ピタリと止まって、首を傾げた。


「あれって、一体何だったんだろう? 何も起きてないよね? あれ? このことだったのかな? んー……? それとも、まだ何か起きるのかな?」


 リエラのブルーの瞳は落ち着きなく、マリンブルーの光を見たり、悠々と泳いでゆく魚たちを追ったりしていたが。何かいまいちしっくりこなくて、目を閉じ、遠いジュレイテにいるユーリに想いを馳せた。


「……たぶん、何か意味があるんだと思う。だから、ユーリは『さよなら』って言ったんだ。それが、どういう意味だかわからないけど……」


 目をぱっと開けて、超前向き姫、しっかりとうなずいた。


「ユーリががんばってるのは、よくわかる。だから、自分も……」


 また、バカみたいにやる気を出して、無駄なことを思い切りしようとしている、呪いかけられし姫。右腕を勢いよく掲げ、


「がんばって、呪いの解き方見つけるぞ!! おぉっ!! 自分のことは自分でしないとね」


 部屋をキョロキョロして、


「とりあえず……調べないと。どうしようかな?」


 そこで、ユーリが買って来てくれた、東の森の本が視界に入った。


「カーバンクルに行ってみよう!」

(本屋さんで、もう一度本探してみよう。

 そうしよう)


 ささっと急いで荷物をまとめ、部屋を出た。何故か人気のない、廊下をキョロキョロしながら、玄関へと泳いでいく。


(従者さ〜ん。召使いさ〜ん。

 誰かに出かけるって言わないと……。

 誰もいないね)


 不思議なことに、東の森に行った時と同様に、時間がまるで止まっているかのようだった。リエラは玄関ホールまで来て、


「何だか変だね。前も、こんなことあったけど……」


 城の奥へ振り返り、首を傾げた。


「前と何だか……違う気がする。行かない方がいいのかな? どうしようかな?」


 勘というものは外れる時がある。この間と違うということは、もうひとつーーEnemyの仕業だ。


 リエラが廊下を行ったり来たりしているうちに、バックにきちんと入れておいた携帯が、まるですり抜けたかのように床へ向かった。さらに、不思議なことに、携帯が床にぶつかっても、カタンともカツリとも音はしなかった。


 そのため、リエラは携帯を落としたことに気づくことなく、玄関の扉に手をかけ、


(やっぱり、行こう。誕生日は今日だもんね。

 今日、解決しなくちゃいけないことだから、急がないと……)


 そしてまた、セレニティス姫は従者を一人もつけずに、城を勝手に抜け出した。


 玄関ホールに落ちた、いや、誰かに意図的に落とされた携帯が、これからのことを暗示しているようだった。



 セリルたちにもらった入国許可証で難なくカーバンクル国内へ入国できたリエラは、急ぎ足で目的地へと向かっていた。


(本屋さん、本屋さん……。急がないと……)


 以前、従者と離れてしまったスクランブル交差点を横断しようとした時、聞き慣れた声が背後からやってきた。


「おう」

(見つけたぞ)


 リエラが振り向くと、帽子を深々と被り、手にはバングル、シルバーリングをつけた、おしゃれに気を使っている青年が立っていた。


 地球での記憶と重なって、その人の名をセレニティス姫は大声で呼ぼうとして、


「あっ、セーー」

(セリル!?)


 運動神経抜群のセリルは、慌ててリエラの口をふさぎ、顔を近づけて小声で、


「しーっ! オレの名前呼ぶなって」

(街中で呼んだら、エライことになんだよ。

 最初知らなくて、大騒ぎになったんだって)


 カーバンクル プリンツは何か騒動を起こしたらしい。詳細はシリーズ2にて。リエラは口をふさがれたまま、大きく首を縦に振った。


「ふんふん……!」

(よ、よくわからないけど……名前は言っちゃいけないんだね)


 珍しく大暴投しないリエラから、セリルは手を離して、


(今日はずいぶんまともじゃねぇか)


 顔を上げて、何故か空を見上げた。


(……満月。

 ルーの言ってた通りだな)


 文化祭の劇の練習中に、八神の部屋に亮たちが招待された時も、満月だった。この詳細は、シリーズ6にて。


 人混みの中で、リエラは屈託のない笑顔で、ボケボケを披露。


「すごい偶然だね」

(こんなにたくさん人がいるのに、よく会えたよね。

 セリルの勘は、すごいね)


 プリンツは従姉妹に視線を落とし、口の端を少しゆがめた。


「そういうところは変わらねぇな」

(オレの直感じゃねぇぞ。

 少し考えれば、わかんだろ。

 お前に渡した入国許可証に、ICチップが入ってんだよ。

 それで居場所、特定したんだって)


 リエラはきょとんとするが、


「え……?」

(何が変わらないの?)


 不思議なほど大暴投しない。セリルは再び空へと顔を上げた。


(マジですげぇな。

 けどよ……突っ込みポイントが減って、オレ的にはちょっと物足りねぇな)


 プリンツはそのまま、視線を城へ移して、


(リエラとユーリ……大変なことになってんだろ。

 気になんだよな。

 ひとつのこと以外……他が全部いつも通りっていうのが。

 妙なんだよ。何か起こってる気がすんだよ……。

 今日が最後の日なのに、何も仕掛けてこねぇっていうのは……マジでおかしいだろ)


 今日が呪いを解く最後の日。目的の期日。それなのに、何も起きないわけがない。ユーリには何か起きているが、リエラは無事、関係しているセリルたちも無事。国内、国外で異変も起きたという情報は、セリルも聞いていない。


 嵐の前の静けさが、不気味に漂っていた。


 再び信号が青に変わる前に、セリルはリエラの手を引っ張った。


「こっち来いよ」

(こっちにいねぇ間に何かあったんだろ。

 記憶がねぇっていうのが、厄介だな)


 リエラははす向かいの本屋へ顔を向けたまま、


「えっ?」

(あ、あの……行きたい場所があるんだけど……)


 セリルは従姉妹の視線の先をたどって、


「聞きてぇことがあんだよ」

(本屋に行っても呪いは解けねぇって)


「あぁ……でも……」

(今日中に解かないと、いけないみたいなんだよね)


 リエラの心を感じ取ったセリルは、一瞬ドキッとする。


(今日中……。何とかしねぇと……)


 ルーには聞いていたが、感情に流されやすい誠矢は、事実を前にして、心が焦り出した。そして、珍しく、リエラを無理やり引っ張り始めた。


「いいから、来いって」

(全部解決しちまわねぇと、大変なことになんだって)


 カーバンクル プリンツは自分の使命を果たすべきために、探っているが、何にも見つけられない状態。他の人たちも、自分の使命を果たす最後の日。やり残すことは許されない。


「……あぁ、うん」


 リエラは後ろ髪を引かれながら、素直に従った。



 近くにあったカフェに入ったふたりは、テーブルをはさんで向かい合うように座っている。


 陽気な音楽が流れる中、セリルがクリームソーダのアイスをつつき、


「式、中止になったんだってな」

(朝、聞いてびっくりしたぞ)


 リエラは自分の頼んだものを見つめながら、戸惑い気味に、


「……うん」

(何で、チョコレートケーキ頼んじゃったのかな?

 んー……?)


 従姉妹の視線を感じ取って、セリルは少しため息。


(そりゃ、ユーリのこと気になってるからだろ。

 けどよ……妙だな?

 そんなら、真っ先にジュレイテに行くはずだろ。お前だったら。

 何で、お前一人でこんなとこ、うろついてんだよ?)


 ジュレイテで何が起きているかは、カーバンクル プリンツも知らない。セリルはテーブルに片肘をだるそうにつけて、


「なぁ、何があったんだよ?」

(ユーリから何か言われたんじゃねぇのか?

 そんな気ぃすんぞ)


 リエラは不思議そうに首を傾げた。


「うーん、それがよくわからないんだよね」

(電話してみたけど……理由教えてくれなかったし……)


「そう……か」


 セリルは窓の外に目を向け、行き交う人たちを眺め始めた。


(お前だと、つながんだな。

 愛の力ってやつか。

 オレは朝から何度もかけてっけど、全然つながんねぇんだよ。

 ユーリの奴、何やってんだよ?)


 セリルに対しては、ある理由があり、ユーリは電話をわざと取っていない。だから、セリルからの電話はユーリにつながらない。


 赤髪青年は再びリエラへ視線を戻し、


「何て言ってたんだよ?」

(お前が一人で行動してる理由は、何だよ?)


 リエラは従兄弟の瞳を見つめ返して、


「『さよなら』って言ってたよ」

(何で、そんなこと言ったんだろう?)


 セリルは目を大きく見開いて、思いっきり聞き返した。


「はぁ!?」

(いやいや、支離滅裂だろ。

 昨日、プロポーズしてたじゃねぇか)


 リエラはチョコレートケーキに視線を落として、


「あとね、『もう会えないから、忘れてくれ』って言ってたよ」

(一緒にいたいって言ってたのに、変だよね)


 セリルは再び、思いっきり聞き返した。


「はぁ!?」

(いやいや、それじゃ、B級映画並の急展開じゃねぇか。

 脈略なさ過ぎだろ)


「どうしたんだろう?」

(ユーリ、何か考えがあるのかな?)


 リエラはケーキからフォークに視線を移した。


(これ食べたら、ユーリの考えてることわかるかな?)


 セリルは心の中でしっかりとツッコミ。


(いやいや、チョコケーキ食っても、あいつの考えはわからねぇだろ。

 どっからその発想に、辿り着いたんだよ)


 リエラはチョコケーキを一切れ食べて、朝からのことをもう一度よく思い出した。


(式がいきなり中止になって……。

 水路も封鎖されて……。

 会いにいけなくて……)


 従姉妹の心を感じ取ったセリルは、神経を研ぎ澄まして、


(水路が封鎖……?

 会いにいけねぇ……?

 まるで……リエラーーセレニティスの奴らをジュレイテに近づけねぇようにしてるみてぇだな)


 ここで、インスピレーション!


(!!)


 ジュレイテで起きていることを、セリルは直感した。目を大きく見開くが、ルーから聞かされた、敵の正体を知っているので、


(……おっと、思い浮かべちまうと、バレちまうからな)


 セリルは両腕を頭の後ろへ回して、親友の思考回路を真似した。


(あれがこうで、それがああ……ってことか。

 なるほどな)


 窓から綺麗に晴れ渡った空を見上げ、どこかで必死に動いているだろう銀髪少年に、誠矢は妙に感心。


(お前が指示語ばっかで考えてる意味、よくわかんぞ。

 これなら、自分の作戦、誰にも読み取られねぇな。

 無意識でやってるところが、すげぇよな)


 シリーズ1は、ユーリの指示語だらけの思考回路で、無事に進んできた。大した事件も起こらず、ここまできた。別のことも一緒に直感した、お笑い青年、セリルは口の端でにやり。


(……ま、そんなら、オレもちょっと付き合っーー)


 突然、彼のジーパンの携帯が鳴り出した。


「お?」

(ユーリか?)


 メールだったらしく、呼び出し音はすぐに止んだ。セリルはポケットから携帯を取り出し、内容を確認。


(城からの呼び出し。ビンゴ……か)


 素早く携帯をしまって、未だに考えているリエラに、軽い感じで、


「悪ぃ、急用だ」

(急がねぇと、取り返しつかなくなるかも知れねぇ)


 ことはシリアスだ。ジュレイテ城に従者と召使いの姿がどこにもなく、国王代理だけだったかったのだから。


 セレニティス姫は我に返って、素直に、


「あぁ、うん」

(王子様は忙しいんだね)


 セリルは荷物をまとめながら、心の中でツッコミ。


(だから、王子じゃねぇって。

 呼び方違うって、前に注意されただろ。

 覚えとけよ)


 心優しき青年はふと手を止めて、リエラを横目で見た。


(お前の呪いの解き方な。

 オレが直感したので合ってたぞ。

 ルーの奴にちゃんと確認したかんな。

 けどよ……それでも、お前やユーリには教えてやれねぇんだよ)


 この先どのシリーズでも一緒で、呪いの解き方は、誰も本人たちに教えてげられない。残念ながら、亮が夢の中で聞いた、優しく凛とした声も届けてくれない。


 急ぎの用なのに、ぴたりと動きを止めたセリルを不自然に思い、リエラは顔をのぞき込んだ。


「どうしたの?」

(何だか、言いたいことがあるみたいだけど……)


 セリルは席からさっと立ち上がり、珍しく真剣な眼差しで、


「最後まで、あきらめんなよ」

(呪い解くことの出来ねぇオレが、お前に言ってやれんのは、これぐらいだな。

 信じてんぞ、お前とユーリのこと)


 残念ながら、リエラの呪いを解けるのは、ユーリしかいない、シリーズ1では。


 全く呪いの解き方に見当がつかないリエラは、きょとんとした。


「え……?」


 セリルは自分の使命を果たすため、軽く右手を上げて、


「金払っとくからな、じゃあな」

(ユーリにちゃんと解いてもらえよ、呪い。

 オレはオレのやること、きっちりやっからな)


 店から出ていったセリルの態度に、リエラは首を傾げた。


(最後まで、あきらめるなって、どういうことだろう?

 呪いの解き方のことかな? あぁ、そうだね)


 そこで違和感を持って、フォークから手を離した。


(あれ? セリルに呪いの話したかな?

 んー……? したのかも知れないね)


 ボケ姫はまた、なかったことをあったことにしていた。


(とりあえず、ケーキ食べたら、急いで本屋さんに行こう。

 よし、がんばるぞ!!)


 超前向き姫は張り切って、チョコレートケーキを口に運び始めた。

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