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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
29/55

北の大国

 明けて翌日。

 リエラは紅珊瑚の飾りのついた、図書室の重い扉開け、大声を上げた!


「うわっ! すごい、いっぱいある」


 両側にずらりと並んだ本棚の間を泳ぎながら、


「古そうなのが多いね。これなら見つかるね。よし、がんばって探すぞ! おぉっ!!」


 必要以上に張り切って、片っ端から本を手に取っては読むを繰り返してゆく。がしかし、そこにあるのは海に関するものとジュレイテ王国についての書物ばかり。呪いについて書いてあるようなものは一切なかった。


 リエラは頬杖をついて、ため息。


「……見つからないなぁ。困ったなぁ。どうしても、見つけたいんだよね。あっちの世界の本屋さんにもなかったし……。どうしようかな?」


 彼女の視界に、真っ白な雪景色にたたずむ、パステルカラーの城を表紙にした本が映った。


「そうだっ!!」


 ぱっと立ち上がり、図書室からぴゅーっと出て行った。



 一方、ジュレイテの会議室では、ユーリが国王代理で、部下の報告を聞いていた。堂々たる面持ちで、ぼんやり眼のまま、


(そうだな、これがあれで、それがああだからーー)


 そこで、不意に控えめな声がかけられた。


「ーーユーリ様」


 銀髪少年は視線だけをやり、従者をスミレ色の瞳に映した。


「何だ?」

「リエラ様がこれから、こちらにお見えになりたいそうですが……」


 ユーリは雪景色を見上げ、


(あいつ、また……。

 これ以上、関わったら婚約解消できないだろう)


 再び従者へ視線を戻し、ぼそっと、


「遭難したって言っとけ」

(俺は会う気ないんだ)


 従者は苦渋の表情を浮かべ、


「そちらでは……」

(リエラ様は、ご心配されるかと存じますが……)


 ユーリはぼんやりしたまま、肘掛に持たれ、


(そうだな、これがあれで、ああだからーー)


 結論にたどり着く前に、ユーリはさっと席を立ち上がり、


「一時間の休憩だ」


 堂々たる態度で部屋を出て言った。さっき始まったばかりの会議。それを、休憩などと言われたら、他の人たちは当然驚く。ユーリのそばにやって来た従者に視線を集中させ、


「何かあったんですか?」


 従者はにこやかな笑みを浮かべ、


「リエラ様がこちらにお見えになるそうです」


 全員が、笑顔で顔を見合わせ、


(ユーリ様はリエラ様をそれほどお気に召されているのでございますね)


 当人たちの意思とは関係なく、結婚に向けて着実に動き出していた。



 それから、三十分後。

 リエラはジュレイテ城の地下水路で、たくさんの従者に囲まれながら、ユーリから冷たい出迎えを受けていた。


「先走り」

(急に予定変えるなよ。

 お前、今日ジュレイテに来る予定じゃなかっただろう)


 髪飾りを挿して、リエラはきょとんとした。


「え……?」

(何て言ったの?)


「お前ーー!!」


 次の文句を言おうとしたユーリは、セレニティス姫のわかりやすい行動に気づいた。


(お前が言う前に、阻止してやる。ありがたく思え)


 そして、短くきっぱりと、


「やだ」

(お前、ジュレイテの図書室に、呪いの本があると思って来ただろう。

 国費の節約のために、使ってない部屋の暖炉はつけてないんだ。

 お前が来たせいで、ジュレイテの国費が減る。

 それに、このまま、お前を城に入れたら、絶対泊めることになる。

 そうなると、婚約解消するの難しーー)


 そこで、彼はなぜか、正反対の言葉を告げ、


「いい、案内してやる」


 自分自身の言動に首を傾げた。


(ん? どうして、俺、許可したんだ? ……まぁ、いいか。

 よくわからないけど、この方がいい感じがする)


 リエラは彼の心の内に気づかず、素直に、


「ありがとう」

(ユーリは優しいね)


 ふたりのやり取りを、さっきから黙って側で見守っていた従者たち。他の人から見れば、完全に意味不明な会話。彼らは全員、不思議そうな顔を王子へ向け、


「あ、あのぅ……」

(話がよく見えないのでございますが。

 ユーリ様は、リエラ様をどちらへご案内されるおつもりなのでしょうか?)


「図書室だ」

(暖炉の火、つけとけ)


 ユーリは言って、さっときびすを返した。残された従者たちは、セレニティス姫に顔を向け、


「リエラ様、そちらでよろしいのでございましょうか?」

「はい、お願いします」


 嬉しそうに、ユーリのあとに続いたリエラを見て、従者たちは妙に感心。


(さすが、ご婚約されているだけあって、以心伝心でございますね)



「ーーそれでは」


 十分に暖まった図書室に、リエラとユーリは案内された。ドア越しに召使いは意味あり気に微笑み、


(おふたりで、ごゆっくりお過ごし下さい)


 ふたりに気を利かせ、去っていこうとする召使いから、ユーリは焦点の合わない瞳をはずし、


「…………」

(呪いの本って、どこにあるんだ?

 何度も図書室には来たけど、その手の本は読む必要なかったからな。

 聞いた方が早いーー)


 図書室から出ていこうとしている召使いを呼び止めようと、振り向こうとしたとき、覚えていないはずの記憶ーー図書室の一角が、ユーリの意識を引きつけた。


(あそこにあった。右奥だ)


 図書室から出ていく召使いをそのまま見送り、ユーリはリエラに、


「こっち」

「あぁ、うん」


 古びた本の匂いと、湿った空気が、歩き出したふたりの足音を、静かに吸い込んでゆく。ユーリのあとをついて行きながら、風でカタカタと鳴る窓へ、リエラは顔を向けた。


「雪すごいね」

(初めて見たよ、遠くが見えないくらい降ってるの)


「ん」


 短く応えたユーリは、冷たい隙間風に身を震わせながら、


(寒っ!)


 彼の白いブーツは足早に、目的の場所へ向かっていた。


(昨日からずっと、この調子で降ってるらしいんだ。

 おかげで、雪かき大変だ。そのせいで、城は人手不足。

 もう少し、効率のいい方法考えないとな……。

 雪かき出来る機械でも購入するか。でもな……)


 ユーリはちらっと、本棚へ視線をくれて、


(国交のある他の国でも、掘削機が作れるような技術は持ってないんだ。

 本当に、どうなってるんだ? あの機械、どこから持ってきたんだ?)


 ユーリがそこまで考えた時、目的の場所にたどりついた。


「ここ」

(前、ここで呪いの本見かけた)


 本の要塞と読んでも過言ではないーー四方八方を天井まで本で埋め尽くされた空間を、リエラはキラキラと瞳を輝かせ、見渡した。


「すごい、いっぱいあるね」

(やっぱり、ジュレイテの方がセレニティスよりも図書室広いね。

 これなら、見つかるね)


 ユーリは百八十度くるっと方向転換し、


「じゃあ」

(俺、仕事途中だから、お前一人で探せ。

 案内してやっただけでも、ありがたく思え)


 自分から離れてゆく、ユーリの背中に、リエラは、


「ありがとう」

(よーし、がんばって探すぞ。おぉっ!!)


 さっそく探し始めた、先走りリエラを背中で感じ、ユーリはあきれたため息をついた。


「…………」

(張り切らなくても、探せるんだ。

 また、バカみたいにやる気出して……)


 そこで、彼に名案が浮かび、嬉しそうな顔に変わった。


(おぉ。ウィンタースポーツ。いいな、それ。

 それ開業したら、金稼げる機会がもっと増える。

 それに、雪の事故防止対策に使える費用が増える。

 それどころか、他の可能性も広がるな。

 さっそく提案してみるか、休憩時間もちょうど終わるしな)


 ユーリは上機嫌で、図書室をあとにした。


(今日も仕事はかどるな。

 さっきまで、思いつかなかったのにな。

 どうしてだろうな? まぁ、いいか)


 一人取り残されたリエラは、本棚に目を向け、


「呪い、呪い……。んー……どこかな?」


 膨大な本の群れを前にして、彼女はしばらく探し回った。そして、見つけた本を机の上に置いて、珍しくため息をついた。


「……一冊しかなかったね」

(でも、これに載ってるかも知れないから、がんばって調べよう! おぉっ!!)


 必要以上に気合いを入れて、リエラは本を読み始めた。

 召使いがお茶を持ってやってきたが、それに気づかないほど、彼女は本に集中。


「んー……違うね。こっちは……これも違う。んー……?」


 しばらくの間。図書室の湿った空気に、ページをめくる音と、暖炉の炎の燃える音だけが響いていた。


(……。

 …………。

 ………………)


 全部読み終える頃には、すっかり外は真っ暗。リエラは本から顔を上げて、ため息をついた。


「はぁ〜……。やっぱり、わからないなぁ。夢に関係するようなのは、載ってないね。困ったなぁ。どうしようかな?」


 途方に暮れていると、


「ーーあぁ、いたいた」


 聞き慣れた、きゃぴきゃぴ声が、不意に背後から響いた。振り返ったリエラの瞳に、自分とよく似た人の姿が映った。


「あっ、お姉ちゃん」


 アイシスは机の上をのぞき込み、


「調べもの?」

(それが何か関係するの?)


 そうして、彼女の視界にある文字が飛び込んできて、ドキッとした。


(呪い……。そう……それが関係するのね)


 姉の視線に気づき、リエラはさっと本を閉じて、


「うん、ちょっとね」

(まだ、解き方は見つけられないけど、お姉ちゃんに心配かけちゃいけないからね。

 しっかりしないとね)


 アイシスは出来るだけ、平常心を保ちつつ、


「そう……」

(あのことと、あなたが調べてること……。

 そのふたつのことから考えると、あなたにかけられてる呪いってーー)


 姉は記憶の中で、何かと何かを並べて、結論にたどり着こうとしたが、


「ーーどうしたの?」

(何だか、いつものお姉ちゃんらしくないけど……)


 会話が途切れていることに気づき、我に返ったアイシスは、心配そうな妹の顔を見つけ、いつも通り明るく、


「……あぁ。せっかく来たんだから、泊まっていきなさいよ。もう日も暮れちゃったし、ね?」

(今日も泊まるようにって、セレニティスから連絡があったわよ。

 それに、あなたとユーリにしてもらいたいことがあるの)


 何か、別のことが動き始めるようだ。


「え……?」


 リエラは窓の外に顔を向けた。


(うわっ、真っ暗だ。確かに、今から帰るのは危ないね)


 姉に再び視線を向け、


「うん。じゃあ、そうする」


 そして、リエラは本を抱え、椅子から立ち上がった。


(そういえば、お腹空いたね。今日のメニュー何かな? ふふ〜ん♪)


 本棚に本を片づけている妹の背中を、アイシスはじっと見つめ、


(嫌な予感が……確信になっていくみたいだわね。

 このままいったら、あなた……)


 胸を締めつける、ひどい切なさに耐えられなくなって、アイシスは強く目を閉じた。



 そして、夕食。

 リエラは次々と運ばれてくる料理を、モグモグ食べていた。


(おいしいね。

 今日は本のことばっかり考えてて、あんまり食べてなかったね。

 忘れてたよ)


 彼女とは正反対に、ユーリは不機嫌な顔をしていた。


(お前、急に来て。夕飯まで食べて、やっぱり泊まってくんだな。

 お前のせいで、ジュレイテの国費減ってるんだ。あぁ、もう〜!

 セレニティス国王、どういうつもりだよ?

 ジュレイテが財政難だって知ってるだろう)


 ぼんやり眼が、かすかに色づいた。


(ーージュレイテ滅ぼすつもりか!?)


 ジュレイテ王子は少し首を傾げ、


(ちょっと当たり前すぎだな。難しいな、笑いって。

 まぁ、それは置いといて……。

 何か対策練らないとダメだな。どうするかだな……?)


 考え出したユーリの耳に、カータの声が、


「ところで、リエラちゃん。お探しの本は見つかりましたか?」

(呪いについて調べていたようだと、先ほどアイシスさんから聞きましたが)


 食べる手を止め、リエラは残念そうに首を横に振る。


「なかったです」

「そうですか」

(見つかる確率が高いとはいえませんが、行って欲しいところがあるんです)


 カータは少し考えるような仕草をして、言葉を続けた。


「カーバンクルへ行ってみては、いかがでしょうか?」

(今日やっと、掘削機などを輸入した国の名前が判明したんです)

 ユーリは我に返り、

(策略の匂いがする……)


 初めて聞く地名を、リエラはただ繰り返した。


「かーばんくる……?」


 優しい瞳で、カータはうなずき、


「えぇ、カーバンクル帝国です。ここから、西の山を越えたところにある、学問の発達した国です。そちらで何冊か発掘に関する資料などを購入していたみたいですから、そこにならあるかも知れません」


 通常よりさらにぼんやりした瞳で、ユーリは食べ物を口へ運び始めた。


「…………」

(カーバンクル帝国。

 西の山を越えたところ、南側。

 学問の発達した国。

 ふーん、そこから輸入したのかもな、あの機械)


 カータはユーリをちらっと見て、


「明日、ユーリと一緒に行ってみては?」

(ふたりで行った方がいいと思うんです)


 それを聞いて、ユーリはため息をついた。


「…………」

(やっぱり……。

 俺とリエラをふたりきりにさせようとして……。

 兄さんたちまで、セレニティス国王の策略にはまらないでください)


 リエラは目をぱちぱちさせ、


「え……?」

(ユーリと?)


「行かない」

(お前一人で行け。俺は仕事で忙しいんだ)


 真剣な眼差しで、カータは言葉を添える。


「ふたりが適任だと思うんです」

(そうなるとは限りませんが。

 そこに少しでも可能性があるのなら、それを逃すわけにはいきません。

 ですが、私たちでは確認ができないかもしれないんです。

 ですから……)


 どう見ても、兄が自分たちをくっつけようと企んでいないことは明らか。ユーリはそれを見て取り、


(そうだな……あれがこうで、それがああだから……?

 その方がいい感じがする)


 彼なりの判断を下し、さっきとは反対のことを告げる。


「わかりました」

(ジュレイテのために行ってきます)


 アイシスが嬉しそうに、


「日帰りは無理だから、ふたりでゆっくりしてきなさい」

(泊まりがけよ)


 ジュレイテ国王代理ーーユーリはびっくりした。


「っ!」

(泊まりがけ!? 国費、大幅減だ)


 リエラをちらっと見て、


(こいつと同じ部屋なら、宿泊代安くーー!!)


 国費に気を取られて、自ら同じ部屋に寝泊まりしようとした自分に気づき、純粋な十七歳の少年は顔を赤くした。


(ーーって、そこまで経費削減しなくていいんだ。

 別々の部屋に決まってる)


「楽しみだね」

(ユーリと一緒に旅行に行けるなんて)


 恋愛鈍感少女のリエラに、声をかけられたユーリは、恥ずかしさを隠すため、視線をそらし、


「そう……だな」


 こうして、新たな展開を見せるのだった。いくつもの不安要素を伴いながら。

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