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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
27/55

雪祭り

 慌ただしく日付は過ぎていき、あっという間に一月一日ーー雪祭り当日。

 ジュレイテ城の謁見の間。


 国王に新年の挨拶をと、ひっきりなしに訪れる正装した人たちに、のんびり声をかけているカータと、その隣りで笑顔を向けているアイシスを、ジュレイテで新年を迎えた、リエラはそっとうかがっっていた。


(王様とおきさき様の仕事って、なかなか大変なんだね。

 同じ場所にじっとしてなくちゃいけないんだ)


 また、先走り全開のセレニティス姫を置いて、国王のカータとは違い、堂々と椅子に座っているユーリは返事を返しながら、心の片隅で、別のことを考えていた。


(これは大丈夫。あっちはそうすれば、解決。で、それは……)



 全ての人たちとの挨拶を終えた頃には、すでに昼食の時刻をオーバー。軽くお昼を食べた四人は休む暇もなく城の外へ。街の人たちや観光客に姿を見せるため、今度は大きなソリに乗り込む。


 ユーリは見物している人たちに気づかれないよう、必死で寒さに耐えていた。


(金のため、金のため……。我慢だ、我慢。寒っ、寒っ!)


 彼とは対照的に、リエラは小さな子供たちに笑顔で手を振っている。


(みんな、すごく元気だね)


 嬉しそうに手を振り返す子供たちの服に、彼女の目は留まった。


(あっ、あれって……)


 子供たちが着ている服には、雪の結晶の刺繍が綺麗に施されていた。


(あぁ、そうか。

 だから、この前、ユーリ、急に好きなもののこと聞いてきたんだね。

 みんなのお土産に使うためだったんだ)


 リエラがユーリへ顔を向けると。そこには、寒さに耐えながら、珍しく嬉しそうな顔をしている彼がいた。リエラも自然と、笑顔になる。


(ユーリ、すごく嬉しそうだね。初めて見たな、こんな顔)


 街の人たちを見渡しながら、ユーリは何かを再認識する。


(やっぱり、これでいいんだ。

 誰が何と言おうと、俺はこれがいいんだ。

 間違ってないんだ、自分のしてることは)


 アイシスとカータはユーリの横顔を見つめて、同じことを思っていた。


(祐君が音楽をやってる本当の理由は、このためなのね)

(白石君が音楽をやっている理由が、わかった気がします)


 小さな子供たちを眺めながら、リエラはアイシスに、


「可愛いね」

(手袋とかあんなに小さいんだね)


 姉はにっこりと相づちを打った。


「そうね」

(みんな、本当に楽しそうね。これもユーリのお陰だわね)


「みなさん、あちらを見てください」


 カータの言葉につられて、リエラとアイシスがそちらを見ると、そこには、雪を固めて形を整えたモニュメントが。リエラは目を輝かせて、


「うわっ、すごいね!!」

(綺麗だね。色んな形があるんだ)


 アイシスはあごに人差し指を当てて、小首を傾げた。


「作るの大変だったんじゃないかしら?」

(ずいぶん数が多いわね)


 カータが嬉しそうに、


「えぇ、一ヶ月以上も前から準備をしていたそうですよ」

(みなさんで協力して、がんばって作っていたようです。

 この日を楽しみにしていたのが、よくわかりますね)


 リエラは街の人々に、優しい眼差しを送る。


「みんな、がんばってたんだね」

(私たちがいない間も。

 本当に楽しみにしてたんだ。

 自分もがんばらなくちゃね、今日のダンス。

 がんばるぞ、おぉっ!!)


 楽しそうに話している三人の会話を聞きながら、ユーリの心は幸せで満たされていた。


(これでいいんだ、本当に。これで……)



 そして、日も暮れて。メインイベントのダンスの時間がやってきた。

 四人は街の中央広場へ案内された。そこには、豪華なステージがあり。その上で、すでに何組かの人たちがダンスを踊っていた。


 それを見て、リエラは目をぱちぱち。


「あれ、この前来た時あったっけ?」

(前、街を観光した時はなかった気がするけど……)


 ユーリは温かいお茶を飲みながら、


「作らせたんだ」


 リエラは大暴投もせず、きちんと次の質問。


「いつから?」

「一ヶ月以上も前」


 リエラはなぜか、ユーリの顔をまじまじと見つめた。


「えっ?」

「戻ってた」


 ふたりの会話を側で聞いていた、アイシスとカータは微笑み合った。


(ふたりにしかわからない会話をするようになってきたわね)

(そうですね)


 リエラはこう思っていた。『ユーリだけ、こっちの世界にいたの?』。


「えっと……」

(それじゃ、誰が作ったのかな?)


 首を傾げたリエラ。その隣にいるユーリに、カータは問いかけた。


「以前、こちらへ来た時、城の方たちに頼んだのですね?」

「はい」


 嬉しそうにうなずいたユーリに、アイシスは優しく微笑みかけ、


「さすがだわね」

(普段はぼうっとしてるけど、やるべき時はきちんとやるのよ。

 それも、まわりがびっくりするようなスピードと正確さでね)


 姉夫婦の言葉を聞いて、リエラは珍しくあることに気づいた。


「あれ、もしかしてーー」

(みんなを喜ばせようと思って、内緒にしてたの?)


 ユーリは彼女の言葉の途中で、


「そうだ」

(当日まで教えない方が、喜びも増すだろう)


 ステージを見つめつつ、カータは大いに感心。


「考えましたね」

(バンドをやっているユーリならではの案ですね)


「これなら、みんなにも楽しんでもらえると思って」


 ユーリはそう言って、観客席を眺めた。


(観光客や一般市民を、城の中に入れるわけにはいかないからな)


 アイシスは嬉しそうに相づちを打ち、


「そうね」

(みんなが楽しんでくれることが、何より大切なことだものね)


 そして、彼女はあることをふと思い出し、ため息をついた。


「…………」

(でも……ユーリの踊ってる姿を撮れないのは残念だわ。

 来年は、早めに準備しておかなくちゃいけないわね。来年……?)


 アイシスがその言葉に引っ掛かりを覚えた時、曲が鳴り止んだ。彼女とカータが踊る番となった。カータは愛する人に手を優しく差し伸べ、


「それでは行きましょうか、アイシスさん」

(私たちもみなさんと一緒に楽しみましょう)


「えぇ」

(私たちも楽しみましょう)


 アイシスが笑顔で答えると、ふたりは舞台へと上がった。心地よいワルツに合わせ、国王夫妻は楽しそうに踊り始める。リエラは舞台袖で、ふたりを眺めながら、ユーリに、


「素敵だね」

(お姉ちゃんたちを見てる人も、みんな笑顔だね)


「そうだな」


 ユーリは素直にうなずき、みんなを嬉しそうに見渡し、


(この国には、資源や特産物はひとつもない)


 銀色に輝く、三日月を見上げ、


(他の国とのつながりも、ほとんどない。

 遊んだり、楽しんだりする機会も少ない。

 だから、この雪祭りでみんなに楽しんでもらいたかったんだ。

 そして……)


 彼は再び、視線をステージへ落として、


(金稼いで、ジュレイテの国費にする。

 それが、みんなの笑顔を増やすことになる。

 みんなが幸せになることが、俺の幸せだから。

 だから、そのためには、自分が出来る限りのことをする)


 そこで、曲がふと鳴り止んだ。舞台袖に戻ってきたアイシスが、リエラとユーリに笑顔で、


「さぁ、あなたたちの番よ」

(あなたたちも楽しんでいらっしゃい)


 ユーリはリエラに手を差し伸べ、


「ん」

(転ぶのと、ボケるの禁止)


 セレニティス姫はジュレイテ王子の手を取って、元気よくうなずいた。


「うんっ!」

(がんばるぞ!)


 ふたりが舞台に上がると同時に、軽快なワルツが奏でられ始めた。二度目ということもあり、リエラは素のままでもきちんとステップを踏んだ。ユーリは彼女と踊りながら、少しだけ微笑み、


(やっぱり、こっちの方が落ち着くな。

 文化祭の時、何だかお前らしくなくて、変な感じだった。

 これなら、楽しいな)


 リエラは本当に楽しそうに、ステップを踏み続ける。


(文化祭の時は、役になってたから、楽しかったかどうかわからなかったけど。

 今日はすごく楽しいね)


 そうして、ふたりは自然と見つめ合い、


(ずっと、こうしてたいな)

(ずっと、こうしてたいね)


 同じ空気に包まれ、クルクルと踊り続けるが、音楽は鳴り止み、会場からたくさんの拍手が聞こえてきた。ふたりは一気に現実に引き戻され。手を離した瞬間、ユーリとリエラは違和感を抱いた。


(ん?)


 それを見ていたアイシスとカータは、目配せをし合い、


(ふたりとも、相手の大切さに気づいたかしら?)

(そうかも知れません)


 舞台袖にユーリとリエラが戻ってくると、急にあたりが暗くなった。リエラはそれに反応し、びっくりして、


「な、何!?」

(く、暗くなった気がするよ)


「上」


 ユーリは空を見上げ、


「上?」


 リエラの瞳も同じように上空へ向けられた時、ドーンという音と共に一筋の光りが空へすうっと上り、大きく可憐な円を描いた。


 色とりどりの光に照らし出された、リエラの顔に笑みが浮かぶ。


「わぁ、花火だ!」


 ユーリにも同じ光が降り注ぎ、素直につぶやいた。


「綺麗だな」

(準備、間に合ってよかったな)


 街の人たちの歓声に耳を傾け、彼は幸せそうに微笑む。


(これでいいんだ、本当に)


 リエラは彼の横顔を見つめ、


(ユーリ、また嬉しそうな顔してるね。

 よかったね、みんなが喜んでくれて) 


 ユーリの脳裏にあることが浮かび、瞳の意志の強さが少しだけ揺らいだ。


(誰が……何と言おうと、自分はみんなの笑顔を見たいんだ。

 それが、本当に自分が心の底から望んでることなんだ。

 だからーー)


【切なる想い】


 そこで急に、彼の思考回路に、別の何かが割って入った。

 

『わかってくれる人なんて……他に誰もいないのに……』

 

 隣にいるリエラに、ユーリは顔をすうっと向けた。


「…………」

(わかってくれる人……)


 彼の視線に気づいたリエラのブルーの瞳が、いつもとは違う、陰りのあるスミレ色の瞳を見つけた。


「…………」

(どこかで見た気がする……こんな淋しそうな目を。どこでだろう?)


 その瞬間、リエラの心の中に優しく凛とした声が響いた。


『なんてことでしょう。……とは、私は許せません。……。自ら、この呪いを解く意志があるのなら、その機会と方法を与えましょう。今から五千年後に……うでしょう。……十八の誕生日までに……』


 ユーリとリエラは不意に魂の奥底で、何ともいえない切なさを覚え、


『離したくない……もう二度と離したくない』


 自然と相手に手を伸ばした。次々と上がる花火の光に、手をつないだふたりの姿が照らし出された。


 

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