表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
10/55

おかしな夢?

 盛大なファンファーレが鳴った。今日の主役ーーリエラの登場に、タキシードやドレスを着た大人たちが、笑顔で彼女を出迎える。ユーリは第二王子のため、カータとその妻ーーアイシスの後ろに控えていた。そこは、天井部分がドーム型で、ぐるーっと丸い空間。中央は海とつながっているらしいのだが、どうにも見えない。


 ユーリはしばらく傍観することにした。


 カータとアイシスが前へ進みでる。王子が優しい笑顔を向けつつ、


「お誕生日、おめでとうございます。ようこそーー」


 そこで、言葉が途切れ、カータはまじまじとリエラを見つめた。


「あれ……?」


 リエラとカータが見つめあっていると、アイシスが、


「誕生日おめでとう、今日は楽しんでーー」


 彼女の言葉も途切れた。そして、よそよそしい態度から、一気に親しみのこもった言い方になる。


「あら……亮じゃない」


 リエラはカータからアイシスへ顔を移した。


「え……? お姉ちゃん!?」


 飛び上がったリエラを見つめ、カータはのんびりと、


「おや? 髪と目の色は違いますが、亮ちゃんじゃないですか」

「櫻井さんっ!?」


 セレニティス姫さまが叫んだところで、従者たちは全員頭を抱えた。


(皆さま、お名前を間違われています!)


 周りにいた人々がざわつき始めて、ユーリはおかしいと思い、一歩前へ出た。


「何かあったんですか?」


 三人が一斉に振り向くと、そこには、ひざまでの長い銀髪と、スミレ色の瞳をしたユーリが立っていた。どこからどう見ても、疑いようのない美少年を見て、アイシスは引っ掛かりを覚える。


「あら? あなた……どこかで見たことあるわね」


 ユーリはギクリとした、ファンに見つかったと思って。


「っ!!」

「あぁっ!!」


 アイシスは大声を上げ、銀髪美青年を指さした。


「あなた、ロック界の王子様、『白石 祐』じゃないの!? きゃあああっっ〜♡」


 一気にテンションが上がったアイシスに、部下は頭を抱える。


(アイシス様、またお名前をお間違えてございます)


 ユーリは不機嫌な顔になり、ぼそっと。


「……やっぱり、仕事のし過ぎだ」

(何で、夢の中まで……。俺、もうダメだ。本当に、仕事休まないと……)


 盛大にため息をついた、ロック界の王子様には構わず、アイシスはキャピキャピ声で、


「きゃあっ! 祐君までいるなんて、なんて素敵なのかしら♡」


 彼の服を指さし、


「その服、とっても似合ってるわよ。やっぱり王子様だわね♡」


 姉の発した名に、リエラはびっくり。


「祐っ!?」


 銀髪少年は射殺すような視線を送りつけ、


(誰だよ? 俺を呼び捨てにするのは)


 彼女のブルーの瞳から、顔全体を見て、


(ん? この顔、どっかで見たことある。このとぼけた顔は……)

「亮……か」


 ため息まじりに王子が発した名に、まわりにいた従者たちはがっくりと肩を落とした。全員、違う名前で呼びあっているのを前にして。


(ユーリ様だけが、頼りでしたのに……)


 みんなの期待をなぎ倒したことに気づいていないユーリは、いつもと違う幼なじみの姿に気づき、


(人……魚……? ……人魚)


 あることを思い出し、合点がいった。


(あぁ……。だから、あの宝石商、陸のものがいいって言ったんだな)


 リエラにピントを合わせ、


(ん? ちょっと待て、人魚って……いや、夢ならありか)


 ユーリはそこで、急におかしくなって、珍しく笑った。


「お前、その格好すごいな」

(夢の中までぼけてる、こいつ。ぷぷぷっ)

「え……?」

(カッコウ? 鳥がいるの?)


 リエラはドームの天井をきょろきょろし始めた。彼女の胸元に視線がいき、ユーリはすっと真顔に戻った。そして、心の中で自問自答。


(俺、何でこいつのこんな格好、夢に見てるんだろう? 欲求不満……!?)


 自分の出した結論にびっくりし、

「っ!」

(違っ! ない……それはない、あるわけない)


 ユーリが慌てて否定していると、従者の戸惑い気味な声が。


「あ、あのぅ……。先ほどから、おっしゃってることが、よくわからないのですが……」


 はたと気づき、四人がまわりに目を向けると。そこには、複雑な表情を浮かべた、四、五十名の部下たちが。王子なのに、カータが遠慮気味に、


「すみません。ちょっと、待っていただけますか?」


 内緒話をするため、他の三人を手招きで、近くへ呼び寄せた。円陣を組むような形になり、


「ユーリ君は、有名人なのですか?」


 この状況下で、カータはものすご〜くズレた質問をした。しかし、もちろん、このメンバーで突っ込む人物などいるわけもなく、そのまま会話は進む。


「ユーリ君?」


 リエラとアイシスが顔を見合わせ、カータは銀髪少年を指さした。

「彼がユーリ君です」

「きゃあっ! 素敵ね♡」

 胸の前で手を組み、体を左右に嬉しそうに揺らしているアイシスを、ユーリは一瞥いちべつし、

「…………」

(何だどう素敵なんだか……)

「祐、ユーリって名前なの?」


 リエラの問いかけを聞き、彼はそっちへ視線をくれた。


「あぁ、そうだよ。目が覚めたら、そう呼ばれてた」


 完全に忘れ去られてしまったカータが、控えめに。


「私の質問の答えが、まだなのですが……」

(どちらへ、いってしまったのでしょうか?)


 アイシスは目をハートマークにしたまま、大興奮で、


「彼はね、今や飛ぶ鳥も落とす勢いの人気ロックバンド、Whitenessのボーカリスト、白石 祐なのよ。この春に出したシングルWhite Goleが大ヒットしてね。それから出す度に、CDランキング、一位を必ず獲得するの。すごくいい声してるのよ。もう、しびれちゃって、メロメロなの♡ CD、全部持ってるわ」

「それは知りませんでした」


 カータはのんきに感心し、ユーリに向かって、


「すごいのですね、ユーリ君は。今度、聴かなくてはいけませんね」


 にこやかな笑顔を向けられたユーリの耳に、リエラのもっとのんきな声が。


「祐、本当に王子様になったんだね」


 ユーリは珍しく突っ込んだ。


「待て、これ、夢だろう」


 カータがすうっと真顔になった。


「いえ、夢ではないようです」


 ユーリはカータのあまりの変わりぶりに、


「それは、どういう……」


 ぼけですか? 思わず、そう聞きそうになった。


「先ほどさん人で話していたのですが、それぞれが夢を見ていると思っているのは、おかしくありませんか?」


 カータの問いかけに、ユーリは珍しく驚き、少しぎこちなくなった。


「みんな……そう思っている……ということ…ですか?」

「えぇ、そうなんです。これは、夢と少し違うのではないかと思います」


 ユーリはカータから視線をそらし、リエラとアイシスをうかがい見た。ふたりともさっきとは違い、真剣な顔。そして、ユーリはボケボケの幼なじみを特によく観察。

ぼけてる……感じはしないな。ということは……現実。夢じゃないなら……)


 ぼんやりしている彼の瞳が、にわかに色づき、


 「……!?」

(ダンス、どうするんだ!?)


 ユーリの最大の心配ごとは、それだった。


 四人の会話が途切れたのを逃さず、部下の一人がすぐさま、


「あ、あの……」

(CDとは何でございましょうか?)

「はい?」


 カータは振り返り、自分たちの置かれている状況を思い出した。


(そうでした、忘れてました。ユーリ君の意外な一面に、すっかり引き込まれていました)


 そして、王子なのに、カータはまた遠慮気味に、とっさに嘘をつく。


「すみません。お会いできたのが、とても嬉しかったものですから、つい……」


 そこまで言って、リエラたちの方へ顔を戻した。


「どうやら、ここは私たちの知っている世界とは違うようです。名前も職業も何もかも……」


 アイシスはあごに人差し指を当て、首を傾げる。


「どうしたら、いいのかしら?」


 カータは愛する人の視線を受け、


「とにかく、他の方たちは元々この世界にいたようですから……。そうですね…?」


 とりあえずの、解決策を提示。


「……多勢に無勢。まわりに合わせるしかありませんね。郷に入ったら、郷に従えです」

「自己紹介した方がいいんじゃないですか?」

(俺、みんなの名前、知らない)


 人を引きつけるような声が響き、三人がそちらを見ると、ユーリがしっかりした瞳をしていた。カータとアイシスが同時にうなずき、


「あぁ、そうですね」

「あぁ、そうね」


 リエラは首を傾げた。

「え……? どっちの?」


 こんがらがっている姫を置いて、話は進んでいく。全員を見渡しつつ、カータがのんびりと、


「では、どなたからにしましょうか?」


 それを聞いたユーリは、心を決めた。


(俺が仕切った方が早い。このままじゃ、時間の無駄)


 そして、最低限の言葉を口にする。


「年功序列で」


 カータはにっこり微笑み、


「私からですね?」


 コホンと咳払いひとつ。そして、さっそく、


「えー、私は、櫻井ーー」


 リエラと同じ間違いをする人がここにいた。アイシスが慌てて止める。


「正貴さん、違うわよ、ここでの名前」


 ふたりのやり取りに、ユーリはあきれ顔。


「…………」

(ふたりとも間違っています。カータさんです)


 さほど驚きもせず、カータはのんびりと。


「あぁ、そうですよね」


 ユーリは心の中で、盛大にため息をついた。


(ダメだ、この三人は……)


 カーラは姿勢を改め、


「私の名前は、カータ ソフィアンスキー。この国の王子で、ユーリ君の兄です」


 言い終えた彼は優しい眼差しを、次の人へ送る。


「私は、アイシス ソフィアンスキー。カータさんの妻で……」


 そこで、リエラの方をちらっとうかがい、妹がささやき声で、


「リエラ!」

「リ、リエラの姉でもあります」


 次は、誕生日の早いーー四月十四日生まれのユーリが。


「俺……じゃなくて、僕はユーリ ソフィアンスキー。この国の王子で、カータさんの弟です」

(何で、俺、僕って言ってるんだろう?)


 彼が微妙な顔をすると同時に、最後のリエラが自己紹介を始めた。


「私は、リエラ カリアント。アイシスお姉ちゃんの妹です」


 こうして、全員が言い終えると、四人は妙な違和感に包まれた。お互い、恋人や姉妹、幼なじみという関係なのに、自己紹介をしているーーという、何とも奇病な光景。


 しかし、彼ら以上に奇妙な光景を目にしている人々がいた。それは、まわりにいた部下たちである。無言のまま、自分たちの仕える人たちの背中を見つめ、


 「…………」

(なぜ、皆様、自己紹介されているのでしょうか? 記憶喪失でございましょうか?)


「ユーリ君、これでよろしいですね?」


 カータが振り向こうとすると、ユーリの引き止める声が。


「ちょっと、待ってください。カータさんは、俺のことユーリって呼ばないと変じゃないですか?」


 カータは振り返るの止め、妙に納得。


「確かにそうですね。では、私は君のことをユーリと呼びましょう。ということは、ユーリも私のことをカータと呼び捨てか、兄さんをつけないと少し変ですよね?」


 新たな問題を提示されて、アイシスはため息をついた。


「何だか、ややこしくなってきたわね」

「う……うん」


 リエラが戸惑い気味に返事をすると、カータが、


「それでは、その辺りはまわりの反応を見て、臨機応変にいきましょう」


 その言葉に他の三人はしっかりうなずき、円陣は解散。その間、ずっと待っていた部下たちは、ユーリたちが振り返った後も、しばらく黙ったままだった。ジュレイテ国の冷たい風が、四、五十名いる部下たちの間を、ヒュ〜っと吹き抜けてゆく。


「…………」

「…………」

「…………」


 物音ひとつしない空間が数分続き。


 そして、突然。アイシスのきゃぴきゃぴ声が響いた。


「ま、待ってたわよ、リエラ。さぁ、髪飾りをつけて」

「う……うん」


 姉に言われた通り、髪飾りを挿すと。全身がキラキラと輝き始め、眩しい光に包まれたかと思うと、それは消え、リエラの尾ひれは、ハイヒールを履いた2本の足になっていた。ふんわりとしたパステルピンクのドレスに、頭には光り輝く銀のティアラ。まるで魔法みたいな出来事に、リエラが目を瞬かせていると、驚くことなく、カータはリエラーー一瞬にしてドレスアップした、姫に手を差し、


「さぁ、お手を」

「……あぁ……はい」


 リエラ姫はすっと立ち上がった。慣れないヒールで少しふらつくが、カータに支えられ、すぐに落ち着いた。挨拶が無事行われたのを見届けた従者が告げる。


「それでは、ご案内いたします」


 こうして、この世界の住人となった、リエラたち四人は案内されるまま、ジュレイテ城内を歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ