砂の遺跡で②
魔術以外の力というものは特に魔術よりも強力であることがある。例えば、リュウの拳銃の技術もそのひとつだ。あいつは早撃ちの技術を使って撃った銃弾同士をぶつけて軌道を変えて攻撃することができれば、相手が撃った銃弾を打ち落とすことができるだけの瞬間的動体視力が人間域を超えている。それと同じようにキュリーさんも魔術以外の力を使う。それを俺は目の当たりにした。
「どうやって気配を消したんですぅ?」
「だから、教える気はないから!さっさと遺跡のほうを調べなさい!」
と詰め寄るハンナを引き離す。
月明かりで魔術を発動させたときと同じような青白い月明かりが砂漠の遺跡を包み込む。聞こえるのは障害物のない砂漠の砂の上を滑るように吹く風音だけ。静かな遺跡は何か出てきそうだ。
「入りますぅ」
そんな何か出そうな雰囲気をものともせずに遺跡の中に入っていく。見張りからパクった明かりであるランタンを手に持って遺跡の中に入っていく。砂に埋もれた岩の隙間に同じ岩で出てきた門をくぐると地下へと続く階段が闇の地下世界へと伸びていた。中は砂漠による風化のせいかところどころ崩れていて砂が降ってくる。ここを発見した際に中に入れるように砂を除去したらしく階段の上に積もる砂は少ない。それでも風化した天井から降ってきて積もった砂を踏みつけながら階段を降りる。
「ここは何の遺跡なんだ?」
エジプトといってもいろいろ遺跡にも名前というか役割とかいうかいろいろあると思う。
「この辺り一帯は昔大きな町だったらしいのよ。その町の施設のひとつじゃないかって。まだ、発見されたばかりで調査段階らしいのよね」
「でも、普通の町にこんな地下の施設が必要か?」
「普通いらないでしょうね。それに地上じゃなくてわざわざ地下にこうやって階段が伸びていることも少し引っかかるわね。王宮ならまだ分かるけど、この遺跡は王宮跡でないことは確かよ」
「そうなると考えられるのは何か秘密の実験とかをやっていたとか考えられますぅ」
「秘密の実験?」
階段を下るハンナが足を止めて振り返る。下からたらされる表情はなんとも不気味なものだ。まるで魔女のようだ。
「この辺りで発見された古代魔術兵器のカントリーディコンプセイションキャノンの効力は打ち出した砲弾が着弾した国を跡形もなく分解するように破壊するというものですぅ。そんな危険なものを開発するのに誰の目にも触れられてはいけません。下手すれば自分の国を破壊しかねないものですぅ。おそらくですけど、この砂漠の下にはまだまだ多く古代魔術兵器なるものが埋まっている可能性がありますぅ。もちろん、シンが使うような神の法則に守られた力もですぅ」
悪用されないようにばれないように地下に施設を作りそこで研究を重ねていた。
ハンナの止まっていた足が再び進み始めて俺たちもそれに続く。階段は長く数分間下のほうまで下がっていくとさすがに空気が入ってこなくなって苦しいんじゃないのかって思ったがそんなことはなく、俺が空気の心配をしていると階段は終わり大きな空間が目の前に広がる。
東京の地下には大量の雨水を貯めるための巨大な地下施設があるという。そこは俺の世界で重機などの機械を使って人間が作り上げた巨大な地下空間とほぼ同等の大きさを誇っていた。天井を支えるための巨大な円状の柱が円を描くように並んでいた。そして、その中央は何かするために作った空間があった。
何かに気付いたハンナが手に持っていたランタンで足元を照らすとそこには地面に何かが描かれるように彫られていた。
「まだ、発掘段階みたいですぅ」
砂を払うと彫りは曲線を描くように続いていた。
「キュリーさん。この遺跡全体を照らす明かりのような魔術がどこかに施されていますぅ?」
「確認するわ」
といって入ってきた階段付近に何か魔術を発動させるためのものがないか探し始める。
その間もハンナはランタンを床において砂で埋もれた彫りを手で払って掘り返そうとしていた。俺も歩み寄ってしゃがんで手助けするように砂を払う。
「傷つけないように気をつけて欲しいですぅ」
「分かった」
地面も風化して脆い状態だ。少しでも力を入れれば崩れてしまいそうだ。
払い続けること1分程度でその彫りが何か文字のようなものであると分かった。そして、その文字は胸腺を描くように彫られている線の上に描かれていた。
「この形状はやはり予想通りですぅ」
「え?何が?」
と呟くと近い席の天井から明かりが灯る。中央の広場を四方から巨大なランタンのような光が照らすと暗くて見えなかったその一望が見えてきた。そして、ハンナの予想がなんだったのか俺もそこで気付く。
「・・・・・陣だ」
「そうですぅ。魔方陣ですぅ」
地面に彫られていたのは六芒星の魔方陣だった。それを見たキュリーさんも驚きの表情で固まっていた。それもそうだ。魔術は近代技術だ。にもかかわらず、こんな古代遺跡の中に魔方陣は存在している。地面の風化の具合から見てもここ100年、200年前のものだという感じはしない。
「何の魔術なの?」
真っ先にキュリーさんが尋ねる。
「分かりません。ですが、これは私たちが使う魔術とは少し違いますぅ」
「違うって?」
「陣の外側を見て欲しいですぅ」
ハンナが指を刺すのは俺とハンナは砂を払った文字だ。
「この文字は英語ですぅ?」
「・・・・・英語じゃないわ」
魔方陣の外側に魔術に関する情報を書く。俺もこの間ハンナに教わったばかりだ。そして、その陣の外側に書く情報は英語の筆記体で書かれるらしいのだ。だが、遺跡に描かれた陣は英語ではなかった。
「陣を描くときに英語以外の言語を試したことがあるんですけど、魔術は簡単には発動しませんでしたぁ。英語で作成された魔方陣が完成されているせいで他の言語で作るのは手間と時間が掛かるからですぅ」
「でも、その言い方だと発動はするのか?」
「することにはするんですけど、一から作り上げるのは苦労しますぅ。英語ならば、単語単語で出る魔術の効果が大方分かっていますし、随時研究されていますから陣を作る際には絶対といっていいほど英語が採用されますぅ」
蓄積された情報というのが英語ということなのだろう。
英語と日本語でも同じ読みでも意味が違うように言語が変わると魔術が感知する解釈も変わってきて魔方陣を作るのに手間が掛かる。だから、魔方陣の外側は英語で書かれるということなのだろう。
「書体からアラブ系の文字ですかねぇ?」
「分からない。キュリーさんは?」
「私も分からないわ。アフリカ大陸に来たこと自体が初めてだもの」
となるとここにいる奴らは誰も読めないと。
しかも、陣は大きく半径は2、3メートル有にある。そのほとんどが砂に埋まったままだ。アラブ系の文字が読めたとしてもどんな魔術なのかは判断できないだろう。
するとハンナは天井や壁に目をやる。
「何か書いてありますぅ」
いわれから初めて天井を見上げるとはげてしまって見難いが確かに何かが書いてある。色も塗ってあって絵のようだ。真ん中に植物のような緑色の物体があって周りにいるのは人のようだ。
「襲っているように見えるわね」
「どうして逃げてるのか分からないけど」
「それはたぶん足元の陣に関係があると思いますぅ」
再び足元に目を戻す。
「この魔術は発動した実績があったんだと思いますぅ。その様子が上に描かれていると思いますぅ」
「どうしてわざわざ上に書いたのよ?壁とかに書けば楽じゃない?」
天井に直接書いたようだからわざわざ足場を組んだりしたに違いない。それは非常に手間じゃないのか?
「この空間で天井というのは空を意味すると思いますぅ」
そういわれると描かれた絵の周りには若干だが青色が見える。
「空は誰がいますぅ?」
「鳥かしら?」
「違いますぅ。バカですぅ?」
「うるさい!」
「正解は神様ですぅ」
「あなたの答えのほうがよっぽどバカじゃない!」
なんかエジプトに来てからキュリーさんの印象がどんどん悪くなっていく・・・・。
「バカにするならあれを描いた人に言って欲しいですぅ。あれは神様からの警告を意味していると思いますぅ」
「どういうことだ?」
神の法則が隠されているかもしれない。神という単語は俺にとっても重要な単語だ。
「この魔術を発動させたことで何かよくないことが起きたんですぅ。上に描いてあるようなことがですぅ。この魔術は危険だ、使えばどうなるか、こうなるから発動させるんじゃないって言う神の警告の意味もこめて古代の人は上にこの魔術によって起きた悲劇を神様を装って描いたと思うんですぅ」
天にいる神様は何でも知っているというのを前提にしてこの魔術を見つけたものへの忠告。
「もしも、天井に描かれていることとこの魔術が同じならこの魔術は中央の植物みたいなものを出す召還系の魔術?」
「かもしれないですぅ」
召還系魔術は話だけ聞いていて実際に見たことはないが使い間のような動物を魔術によって出現させる魔術らしいのだ。ちなみにアキから得た知識だ。
「絵を見るとその植物が根っこのようなもので攻撃している?人間を?」
「どんな魔術なのかは発動してみないことには分からないですぅ。でも、この状態ですと一度発動したら発動の光と衝撃で陣が壊れかねないですぅ」
「つまり、一度発動したら二度と同じ陣では発動できない」
「複製をするためにこうやって丁寧に砂を払っているはずですぅ」
神の法則に守られた教術師を発動素材とする国を破壊するカントリーディコンプセイションキャノンのようにイギリス魔術結社は危険な魔術を複製しようとしている。
「近くの壁にも何か神の法則に関することが描かれているかもしれないですぅ。シンの力に関することも描かれているかもしれないので、少し探索したほうがいいですぅ」
「そうだな」
と巨大な空間を支える柱のそばを通ろうとするとキュリーさんががつがつと俺たちの正面に回ってきて俺たちの肩を押して柱にぶつける。
「え?」
「どうしたんですぅ?」
俺とハンナは何のことだか分かっていないがその険しい表情から何かやばいってことは分かる。
「誰か来た」
「なに!」
「ふたりはここでじっとしていて」
といわれる。キュリーさんの両手首にかすかだが青白く光った気がした。するとハンナの体が半透明になっていって消えていく。
「ハンナ。消えてるぞ」
「それは教太もですぅ」
透明化の魔術のようだ。
「隠れてて。動かなければばれはしないから」
「キュリーさんは?」
「私は大丈夫」
と笑顔を見せると方から手を離すと階段のほうから足音が聞こえた。キュリーさんはすでに剣を取り出して戦闘態勢だ。だが、今一瞬だけ見えた魔術が発動するときに見える光を俺は見た。キュリーさんは魔術師だ。でも、どうして発動の光が見えないのだろう。それをキュリーさんからではなく階段を降りてくる人物の言葉から聞くことになるとは思っていなかった。
階段を降りてきて明るい地下空間に降り立った足音の主は純白の修道服を纏った女性。顔立ちはかわいいという部類ではなくきれいの部類だ。厚く塗られた化粧と盛られたアイシャドーから垣間見れる赤い瞳は純白で清純そうなその女性の印象を不気味なものへと変える。
「妙に遺跡の中が静かだと思えばあなたが来ていたのか」
「私が来たらいけないの?」
その後にキュリーさんの口から出た名前に俺は思わず声が出そうになってしまった。
「ユーリヤ」
ユーリヤという名前は風夏から聞いた名前。イギリス魔術結社の幹部クラスの称号である七賢人でありながら風也たち属性戦士やアテナのような人工天使の力を作り出すために非道な実験を行った機関という施設を作った女の名前がそれだ。




