性悪レイラン①
砂漠の町の日差しはまるで俺たちに死ねといっているかのように強い日差しが照りつける。その日差しのせいか舗装されていない赤土の通りを歩く人々はどこか脱力していて数も少ない。
俺は一応追われている身であるのであまり周囲に顔を見せないようにして前を歩くキュリーについていく。土壁でできた建物の路地に入ると日差しが建物によって影って少しばかり乾いた空気が冷たくなる。顔を上げると振り返るキュリーさんの碧眼と目が合う。
「着いたわ」
そこは最早怪しい以外の空気がまったくないいかも怪しい店だった。店先に出た看板にはアラブ文字で何かかれているが何を書いているかわからないが魅惑な濃いピンクと黒の看板は怪しさを増大させる。逆に入り口はなんとも質素な木の扉で置くから妙な気配を感じる。
「ここなのか?」
「そうよ。一応、レイランは占い師としてこの町に住み着いているわ」
といって一呼吸置いてキュリーさんも店の中に入る。扉を開けると可愛げのある鈴の音があるが、中に入るのをまるでさえぎるかのようにピンクののれんがかかっていた。それを持ち上げるようにしてキュリーさんが中に入り俺もその後に続く。
中はピンクと黒の色が交互に円状の柄の入っている丸いじゅうたんに中央にはいすとテーブルがる。その周囲を覆うように薄ピンクのレースのカーテンがある。部屋の四方にはサッカーボール並みの水晶球が飾られている。その下にランプがあって不気味に輝くその光が怪しさを、さらにテーブルの上には太くて短いろうそくが二本あってそこから妙な甘い香りが怪しさを、そのまたさらに部屋の奥のほうから出ている薄紫色の煙が怪しさを―――といった感じに怪しさ以外のものはこの部屋には存在しないほど不気味で息苦しい部屋だ。
「レイラン!私よ!キュリー・シェルヴィーよ!」
と奥のほうに向けてレイランの名前を呼ぶ。
「もぉ~、そんな大きな声を出さないでちょうだい」
と置くから聞こえた声は女口調だが妙に野太く低い声だった。
「あなたみたいなゴリラが大声をあげなくとも人が入ってきたのは分かってるわよ~」
隣ぶちって音が聞こえた気がするけど聞こえなかったことにする。
すると煙を吐き出す奥のほうから姿を現した魔人。身長は高く190はあるだろう。マッチョとは言わないが筋肉質な体格に隠し切れない濃い体毛。その上に濃いピンク色のきらきらしたどれを身に纏ったあごがふたつに割れたおっさん。
「どうも、レイランです~」
「・・・・・・え?」
思わず言葉を失った。そいつは化粧をしているが口調やしぐさは女だがどう考えてもおっさんだ。隠し切れないおっさんが湧き出ている。
「ひ、久しぶりね。レイラン」
なんで会ったことあるはずのキュリーさんがドン引きしてるの?会いたくない理由って単純にこんな見た目だからなの?過去を勝手に見るような性悪だからじゃないのか?どう考えても違うよね?
「あら、豚ゴリラ。お久しぶりね」
ぶちぶちって音が聞こえたがきっと店の正面を通りかかった人の靴紐が連続で切れた音だろう。その人、めっちゃ不吉なことでも起きるんじゃないかな~。大丈夫かな~。
「と、隣にいるのが教太っていうの。あなたに用事があるのは私じゃなくてこっちよ」
「ど、どうも、こ」
国分教太というと俺の正体がばれてまずい気が一瞬して息を止めて咳払いしてからから再び名乗る。
「教太です」
するとレイランの目の色が変わる。
「男じゃな~い!」
と興奮して俺に飛びついてきた。
「ば、ちょっと!」
のしかかってくるレイランは俺の頬ずりをするが頬は微妙に伸びたひげのせいでこすれてめっちゃ痛い。匂いは部屋のアロマの匂いとレイランのおっさん加齢臭が合わさってカオスことになっている。鼻が壊れる、気持ち悪い。
「もぉ~、男を連れてきたなら早く言いなさいよ~。クソビッチさん」
びきびき、ぶちって音がしたぞ!キュリーさんの我慢ボルテージがこれ以上上がると爆発がするからそれ以上何も言わないで!
「それで教太ちゃんとか言ったかしら~」
「は、はい」
顔が近い!離れろ!お前みたいなおっさんに抱き着かれても何もうれしくない!
「あたしにどんな過去を暴露しに来たのかしら~」
「いや、暴露しに来たわけじゃない!」
「あら~、ここは暴露屋よ~」
「はぁ!なんだよそれ!」
「表の看板に書いてあったじゃな~い。暴露屋って」
「アラブ語読めるか!」
さすがに押し返してレイランの呪縛から逃れてキュリーさんの背後に逃げる。
「気持ち悪いよ~」
「だからって私の服で拭くな!」
いつの間にか取り出していた剣を俺に突きつける。
「やめなさい!メス豚ビッチ!教太ちゃんに傷つけたらあなたの過去を町中に暴露してやるわよ!」
ぶっちん。
完全に何かが切れた音がした。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺に向けていた剣先をレイランに向ける。
「いっつもそうよ!あなたはいつも私をそうやって罵って!私のどこにゴリラ要素があるのよ!豚要素があるのよ!」
キュリーさんの体格はほっそりとしていて控えめに出るところは出てしまっているところはしまっているスタイルでどちらかといえば華奢だ。ゴリラの要素も豚の要素も俺にはないように感じられる。
「ありまくりよ!あなたあたしを殴り飛ばして家の壁に穴あけたじゃない!」
そういえば、一度キュリーさんと戦ったときにすごい力で蹴り飛ばされたことがあった。あの細い足ではありえないほどの力はまるでゴリラのような。
ザク。
聞こえていたのかキュリーさんの握る剣の剣先が俺の頭すれすれのところを通って壁を突き刺した。鋭い碧眼で私がゴリラだと?っと問いかけられている気がして。
「何も言ってないし、思ってないです」
と機械的に返すと剣を引き抜いた。
「あれは筋力増強術って言う魔術を使っただけよ!一瞬だけ筋力を増強させて攻撃しているのよ!」
「筋肉が増強しての~。それってもうゴリラじゃな~い。ほらほら、ゴリラさんバナナでも食べます~。あ、ごめんなさ~い。ゴリラにはゴリラらしい言葉で話さないと~。ウッホ!ウッホ!」
「うがああぁぁぁぁぁ!!!」
キュリーさんの握る剣に陣が浮かび上がって刃に氷が宿る。
「落ち着いて!キュリーさん!」
と後ろから抱えるようにして止める。
「こいつ殺す!二度と話せないように舌を八つ裂きにしてやる!」
「ごめんなさ~い。さっきからウホウホしか聞こえないわ~」
「死ねー!死ねー!」
「落ち着けー!キュリー!」
その後、暴走するキュリーさんとそれでも悪口を言い続けるレイランを止めるのに砂漠を越える以上の体力を使った気がする。




