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オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第一章 王宮内連続盗難事件

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008件目 幽霊と接近!?


 王妃様に犯人が負の感情を持っているとわかった。王妃様ならば犯人の姿を知っているかもしれない。

 謁見を申し込み、今は待っている最中だ。


「王妃様、今は忙しいでしょうか」

「陛下はまだ地方視察から戻っていない。全ての執務を代わっていると思えば……何だ?」


 話している最中に、お城全体に割れるような奇妙な音が響いた。


「ッ!?」


 急激な冷気に包まれた。思わず両腕で身体を抱きしめ、縮こまって暖を求める。


「ななな、何ででですすすかかかねねね? こここ、これははは」


 寒さで声も震える。寒すぎて動きたくなくなった。

 レオンハルトさんも片腕を擦りつつ、冷静に暖炉へ火をくべようとする。そんな姿勢を見て、わたしにはオノマトペがあると思い出した。


「ぬくぬく、程良い暖かさ。三人の服に吹く南風!」

「おお、温かいな。これならばいつも通りに動ける」


 どうにか声を震わせずに詠唱できた。レオンハルトさんもそうだけど、ザドルさんもほわっとした雰囲気になっている。


「この冷気、まさか犯人が?」

「そうだとは思うが……属性が、おかしい。冷たい風までは風属性でも出せる。しかしここまでの冷気となると、水属性が混じっていないと使えないはずだ」

「そうなんですね……。ということは、犯人は風と水だったということですか?」


 質問すると、レオンハルトさんが異空間から煙を閉じこめたティーカップを取り出した。その中では、今でも緑と赤の煙が逃げだそうとしている。


「以前、貴殿が奪取してくれた煙。これが嘘だとは思えないんだ」

「それなら、三属性ってことですか」

「いや……私も水属性を持っている性質上、同じ属性を持っているならばそれを察知できる。しかしあの時、犯人からは全く水属性の気配がなかった」

「それなら……魔道具みたいなので、新たな属性が追加されたとか?」

「あり得ない話ではない。魔道具は生活を助ける物であり、使用する際に申請は必要ないからな」


 ただでさえやっかいな犯人なのに、さらに属性を追加!? 魔道具で属性を増やせるなら、もしかしたらもっと属性を増やしているかもしれない。


「犯人がどこにいるかは不明だ。ただ、これだけ大掛かりな仕掛けをしたとなると、城内にいる可能性が高い。すぐに捜索を始めよう」


 レオンハルトさんに続いて、謁見を待つ部屋から出る。すると、廊下の各所で寒さに震える人達がいた。

 目につく範囲で、ぬくぬく魔法をかける。でもほんの一部だけだ。ここで働く人達全員に魔法はかけられない。

 寒さは、死すらあり得る。大勢の命がかかっているんだ。一刻も速く、犯人を捕まえないと!




 レオンハルトさんとザドルさんと城内を捜索する。どこへ行っても、寒さで震える人達がいた。近くの部屋に集まってもらい、部屋全体にぬくぬく魔法をかけた。


 ……あれ、これも?


 城内を進んでいると、いくつか不審な物を見つけた。

 氷付けになった花瓶、霜が出ている机の足など、冷気に当てられたにしては異様な状態の物がある。

 足を止めていると、レオンハルトさんが戻ってきてくれた。


「どうかしたのか」

「あ、すみません……。いくつかあったんですけど、これ、ちょっと異常だと思いませんか」

「確かに。ここだけ温度が他よりも低いような気がする。ここに仕掛けがあるのかもしれない。貴殿の力で確認できるだろうか」

「やってみます」


 目の前にあるのは、氷付けになった花瓶。凍っているやつを急激に温めるとダメなんだよね、確か。ということは、ゆっくりと解凍しないといけないんだ。

 何ができるかなと考えて、思いついた。

 さっきした、ぬくぬく魔法。服にかけたから、もしかしたら使えるかもしれない。

 ポケットからハンカチを取り出し、花瓶に当てる。外して確認すると、少しだけ溶けていた。


「なるほど。その方法があったか」


 レオンハルトさんもザドルさんもハンカチを取り出して、花瓶に当てた。その後も三人でゆっくり解凍し、花瓶を破損させることなく無事に成功。入っていた花は萎れてしまったけど、これで犯人の手がかりがつかめるはず。

 中に入っていた花を花台に置くと、レオンハルトさんが花瓶を覗いた。


「痕跡かもしれない。ここから何か感じるだろうか」


 そう言って見せてもらったのは、花瓶の内部にあった暗褐色の筋。白い花瓶だったから、上部の傷がよく見えた。

 短いその線は、一見すると何も関係のない傷のようにも思える。でももし、ここから犯人の手がかりが掴めれば。


 廷臣法官補佐として、臨時でも成果を上げたい。もしかしたら、そのまま正式に就職できるかもしれないし。

 となると、やっぱり魔力紋があるかどうか確認してみるべきかな。いや、それだと犯人と直接対峙しないと結果はわからないか。

 ってことは、追跡系?


 わたしは花瓶の暗褐色の傷に手を向ける。


「チクタクチクタク、傷をつけたのはどこの誰? あなたの代わりに捕まえる」


 詠唱を終えると、ポンっと丸い時計が現れた。示す時間は十二時十分。時間を示したままクルクル回る。

 これはわたしにだけ見えるのかなと、レオンハルトさんを見た。驚いたように目を見開いている。


「……貴殿の力には驚かされるばかりだ。まさか、時を司る力もあるとは」

「あ、それならレオンハルトさんにもこの時計が見えている感じですかね? それなら良かった。この時間って、傷がつけられた時間ですかね?」

「恐らく、宝物庫の騒動の間につけられたのだろう。最初に報告があった時間を考えれば、それは昨昼の時間。他の場所も調べてみよう」


 レオンハルトさんの分析を元に、異常な凍り方をしている箇所に同じ作業を繰り返す。

 二箇所目は十一時二十分。三箇所目は十時五十分。

 途中で時間を遡っていることに気づき、進路方向を逆にする。

 四箇所目は十三時。五箇所目は十五時四十分。

 時間の間隔が開いていると思っていると、いつの間にか王族の居住区域に来ていた。道中も寒さで凍える人達を一部屋にまとめて暖めていたら、すでに外が暗い。これから夜になり、深夜になったら雨が降る。


「レオンハルトさん……これは、今日は寝ずの護衛ですかね?」

「そうなってしまう可能性が高い」


 城中の暗褐色の傷を追っていたら、王妃様の私室にたどり着いた。犯人の狙いは王妃様だとわかっている。何としてでも、王妃様を守らないと。

 レオンハルトさんが、直ちに警備体制を整えようとする。でも、王妃様は私室にはいなかった。


 部屋から出て、効果が切れてしまったんだと思う。寒さに震える兵士が二人やって来た。


「廷臣法官長様に申し上げます! 執務室から、王妃様がいなくなりました!」


 目の前に掴んだと思った証拠すら、陽動だったのかもしれない。

 そんな苦々しい思いをしながら、レオンハルトさん達と執務室へ急いだ。




「これは……」


 王妃様は抵抗したのかもしれない。執務室へ行くと、部屋の中が荒らされていた。散らばる書類、鎌鼬の様な鋭い傷が複数。

 王妃様も風属性を持っているから、この傷が犯人か王妃様かどちらの攻撃かわからない。レオンハルトさんは執務室内を歩き回り、犯人の痕跡を捜す。


「ひとまず、母上はお怪我をされていないようだ」

「良かった。でも、犯人が逃げてしまいました。もしかしてここにも、秘密の通路が?」

「そうだろうな。あれから仮説を立てた。犯人は煙化はできるが、物質を一緒に持っていくことはできないと」

「あっ、そうか。最初に目撃した時、道具が落ちてました!」

「そう。となれば、残りは一つ。煙化して侵入し、人間が通れる場所……つまり、秘密通路を使って逃げている」

「そんなっ……早く捕まえないと、王妃様がっ」

「焦りは禁物だ。あれで母上も辺境の出だから、強い。母上が持ちこたえている間に、捜し出さねば」


 辺境ってことは、地方視察で陛下と出会ったのかな。

 そんな浮ついた事を思ったけど、すぐに考えを改めた。冷静に見えたレオンハルトさんの拳が、怒りで震えている。


 レオンハルトさんは、すぐに近衛や兵士達に指示を出す。そうしている間にザドルさんが入口を見つけたみたい。

 レオンハルトさんが、わたしを見る。


「貴殿の力で、ここを通る者に暖かさを付与することはできないだろうか」

「できると思います」


 レオンハルトさんから言われ、すぐに動く。

 ぬくぬく魔法を発動するように、秘密の通路の壁に手を添える。対象をここの入口に設定して、詠唱を終えた。

 ついでに、ここを通れば暗視の効果が付与されるようにもしておく。


「これでオッケーです」

「さすがだ。わたし達は先に向かう。集まった者達に伝え、すぐに来るように」


 その場にいた兵士に伝え、レオンハルトさんが先頭に立つ。でもすぐにザドルさんが先頭に立ち直り、いつもの陣形になる。

 進んでいくと、追われるとわかっていたのか、いくつも罠が仕掛けられていた。


「解除します! ザドルさんは、一度後ろへ!」


 先頭に立ったわたしは罠を解除する魔法をささっと使った。今度は漏れがないように、逆回転の解除魔法もかける。

「ポンッポンッ」と弾ける音は長く続き、未だに鳴り続けていた。


「結構長く罠を解除できたはずです。進みましょう」


 駆け足で進む。執務室から伸びる秘密の通路は、一本道だ。これなら犯人を逃さない。

 そう思って進んでいたら、突然開けた空間に着いた。そしてその瞬間、ザドルさんがつむじ風に巻きあげられる。


「ザドルさんっ」

「問題ない。周囲は土壁だ」


 焦ったわたしを落ち着かせるように言うレオンハルトさんの言葉通り、ザドルさんは土の天井に棘を出してそこに掴まった。


「この先から、風属性の気配がする。注意しながら進もう」


 ザドルさんが地上に降りてきた。つむじ風はまだ発生しているけど、周期的に動いている。それさえ読めれば、間を縫うように進めた。

 奥へ進んでいくと、ついに人影を発見する。


「アスドート伯爵令嬢か」


 レオンハルトさんが問うと、その人影は振り返った。


「ッ、戻れ!!」


 ゆらりと揺れる影を見たレオンハルトさんが叫ぶ。同時に、目の前の人影は煙になってわたし達の間を通り抜けていく。

 そして先程の開けた空間へ行く手前で爆発が起きた。ここにも罠が仕掛けられていたんだと思う。左右と上の壁が崩れてきた。

 すぐにザドルさんが魔法でどかそうとするけど、崩落が止まらない。後ろに下がらざるを得ず、奥に閉じこめられてしまった。

 不幸中の幸いは、ここに王妃様がいなかったってことだけ。


「ザドル。どかせそうか?」

「無理そうです。崩された土壁に水が混じっています」

「そうか……」


 ザ、ザドルさんが喋った……! 想像通りの低い声っ!


 あぁ、いやいや、いかんいかん。つい、変なところで興奮してしまった。

 レオンハルトさんの様子からすると、地属性は水と相性が悪いのかな? 動かすにしても水分が入っているとやりづらいのかもしれない。


「はい!」

「なんだ?」

「わたしが火を出せば、乾きますよね?」

「そうすると通路内の空気が薄くなる。推奨はできない」

「そ、そうですよね……」

「落ちこむことはない。貴殿にはいつも助けられている。ここは、風属性を持つ私が尽力しよう」


 そう言うレオンハルトさんの背中は、とても誇らしげだった。


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