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オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第一章 王宮内連続盗難事件

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005件目 犯人逮捕の立役者!?


 犯人確保まで、あと少しだったのに。また、目の前で逃げられた。


 狡猾、煙化して逃げる等。犯人の情報が明らかになっても、その犯人を捕まえることができない。

 ルリアーナ姫の時は運良く髪飾りを回収できたけど、そのままの形ではなかった。

 もっと、見つけた瞬間に捕まえられるような何かを考えないといけない。


 自分の未熟さを反省していると、扉がノックされた。


「はい、どうぞ」

「ロジェナとあそんで!」


 ザドルさんが扉を開けるや否や、熊のぬいぐるみを持った青髪の女の子が駆け寄ってきた。

 小さい子なんて接したことがなく、説明を求めてレオンハルトさんを見る。すると、入室した後ロジェナちゃんを抱き上げた。


「末の妹、ロジェナだ。今年五歳になる。よろしく頼む」

「え、えーと……?」

「おねえちゃん、ほしわたりびとなんでしょ!? ロジェナにまほう、みせて!」

「え、えーと……?」

「すまない。ルリから話を聞いたらしい。簡単なもので良いから見せてやってくれないか」

「あ、はい。わかりました」


 促され、どんなオノマトペを使うか考える。

 ロジェナちゃんを見たら、ものすごくキラキラとした目で見られた。目線を合わせるように腰を落とす。


「ロジェナちゃん。その熊さん、お名前は何て言うのかな?」

「このこはね、クマちゃん!」

「そ、そっか。ロジェナちゃんのお友達、少しの間お姉さんに貸してもらえるかな?」

「いいよ!」


 にっこりと笑顔で渡してくれたぬいぐるみを、椅子の上に座らせる。


「ふんわりふわふわ、極上仕上げ。ちっちゃなお友達は歩きたい」


 詠唱を終えると、椅子に座らせていたぬいぐるみが立ち上がった。椅子をぴょんっと降り、ロジェナちゃんの方へ歩き始める。

 魔法の効果がすぐに切れるようにイメージしたから、ロジェナちゃんの所まで到達する前に身体が傾き始めた。


「クマちゃんっ」


 ぬいぐるみを受け止めたロジェナちゃんが、ぱぁっと目を輝かせた。


「クマちゃん、ふわふわ!」

「手触りも良いでしょう?」

「うん! おねえちゃん、すごい!!」

「ありがとう。気に入ってくれたなら良かった」


 ロジェナちゃんはぬいぐるみをぎゅぅっと抱きしめている。その姿を見ているだけで癒やされるよ。

 小さい子は苦手だったけど、関われたなら良さがわかる。


「所で、今日はロジェナちゃんと遊ぶためにこちらへ?」

「い」

「ちがうの! ロジェナが、わるものをつかまえるの!」


 レオンハルトさんが話す前に、ロジェナちゃんが目的を教えてくれた。

 目をランランと輝かせているロジェナちゃんと目線を合わせる。


「どういうことかな? お姉さんに教えてくれる?」

「うん、いーよ! えっとね」

「ロジェナの話だけだと要領を得ない。要約すると、犯人を捕まえるために協力したいそうだ」

「もー、レオンおにいちゃん、どうしていっちゃうの! ロジェナのやく、とった!」


 レオンハルトさんに抱き上げられていたロジェナちゃんは、不満を露わにするようにポコッと叩いた。妹姫の可愛らしい攻撃を左手で受けながら、わたしを見る。


「どうだろうか。協力してもらえるなら、場所を移動したい」

「わかりました。行きましょう」


 こうして、ロジェナちゃんが考える最強の捕獲作戦がスタートした。




「まずはね、ここにクマちゃんをおいてー」


 ロジェナちゃんの部屋についてから、早速作戦が決行された。宝物は、あのぬいぐるみらしい。よく見ると、緑の瞳は宝石のような煌めきがある。

 その価値は見なかったことにして、ロジェナちゃんに聞く。


「ここに置いたら、お友達が取られちゃうよ?」

「そこを、レオンおにいちゃんがつかまえるの!」

「すごい。クマちゃんは囮捜査をするんだね」

「クマちゃんは、とりさんじゃないよ?」

「ロジェナ、囮捜査というのは」

「おねえちゃん、つぎはこっち!」

「待って、走ったら危ないよ!」


 元気に走り回るロジェナちゃんを追って行く。

 次の目的地は、部屋の入口。ここに何か仕掛けたいみたい。


「ねぇ、おねえちゃん。ここでわるいひと、つかまえられないかな」

「ちょっと考えてみるね」

「ロジェナ、犯人は入口からは来ない」

「そんなことないもん! いりぐちはここしかないもん!」


 うるっと涙目になってしまったロジェナちゃん。侍女へ目線を向ける。ロジェナちゃんには伝えたかもしれないけど、まだ理解はできないよね。

 まだ難しい事はわからないと思うロジェナちゃんに、レオンハルトさんは大人と対応するように話している。

 その間に、わたしはロジェナちゃんが望む仕掛けを済ませよう。


「もちもちっと、鳥もちショット。ここを越えたら動けない」


 詠唱すると、玩具のようなカラフルな銃が出てきた。その引き金は、扉の取っ手にピアノ線で繋がっている。


「ロジェナちゃん、できたよ」

「すごぉい! これでわるいひと、逃げられないね!」

「レオンハルトさん、すみません。この扉に仕掛けたので廊下に出られなくなってしまいました」

「それなら問題ない。隣接する侍女の部屋から出よう」


 視線を向けると、ロジェナちゃんの侍女が頷いてくれた。

 廊下へ出たわたし達は、同じ仕掛けをさらに増やしていく。

 取っ手ではなく、壁と壁をピアノ線で繋ぎ、それをまた玩具の銃に繋げる。その場で遭遇した人達にはピアノ線を跨ぐようにお願いした。そしてできる限り他の人にも伝えるよう頼む。


「おねえちゃん、まだまだだね! おんなじワナばっかりじゃ、わるいひとだってまなんじゃうよ!」

「あー、そっか。気づかなかった。ロジェナちゃん、どうすれば良い?」

「ロジェナにまかせて!」


 レオンハルトさんの腕から降りたロジェナちゃんは、自分の侍女の所へ駆けていく。そして秘密の作戦を伝えるように背伸びをしてやりたいことを伝えているみたい。

 侍女はどこかへ行き、ロジェナちゃんは戻ってくる。


「だいして、おやつさくせん!」

「良いね。美味しそうな食べ物で犯人をおびき寄せるんだね。ロジェナちゃん、頭良い!」

「えへへ。ありがとう、おねえちゃん」


 照れたように笑うロジェナちゃんが可愛くて、思わず立場を忘れて抱きつきたくなる。わたしの衝動は、レオンハルトさんがロジェナちゃんの頭を撫でることで落ち着いた。

 レオンハルトさん、いつも以上に柔らかい雰囲気になってる。うん、わかるよ。ロジェナちゃん、可愛いもんね。


 ロジェナちゃんに癒やされていると、侍女がまるでファミレスの給仕係のように器用な持ち方でお菓子が載ったお皿を持ってきた。

 それを受け取ったロジェナちゃんが、お皿を置いていく。

 今回は、お皿にピアノ線をつけた。

 見てすぐにわかる仕掛け。あくまでもロジェナちゃんに満足してもらうためであって、誰も引っ掛からないと思っていた。




「わ、わー、やっちまった」

「ぐぬぬぬ。まさか、罠だったとは」


 ロジェナちゃんが仕掛けを見守っていると知った兵士達が、率先して罠にかかっている。それを見たロジェナちゃんは、誇らしげに笑う。

 うん。もう、可愛いしかない。


「ぬあっ!? 何だこれは!? くっ……私を誰だと思っている!!」


 本気で演技をする人もいるんだなぁと思ってその人を見ると、きらりと光る禿頭の足下に緑の鬘が落ちていた。鳥もちから逃れようとして頭を振ったのかな? 手には、そんな状況でも落とさなかった布の袋がある。

 あれ、もしかしてこの人、本気で罠に引っ掛かった?


「わるいひと、つかまえた!」


 目を輝かせて近づこうとしたロジェナちゃんは、自らの罠に捕まってしまった。


「おねえちゃーん……たすけてぇ……」

「待ってて。今、解除するね。パチンと弾けて罠解除!」


 指を弾いて罠の全てを解除する。ロジェナちゃんはわたしの足に抱きつき、わかりやすい罠に引っ掛かっていた男性が青筋を立ててわたしを指差した。


「お前! よくも私をッ、こ、これはこれは、レオンハルト様では」


 コツコツコツと、乾いた靴の音がした。背後にいるレオンハルトさんから、怒気を感じるのは、気のせいかな。

 この男性が顔を青ざめて黙っているから、たぶん、気のせいじゃない。今はきっと、振り返ってはいけない表情をしていると思う。

 やっぱり、気軽に名前を呼んじゃいけないんだ。


「アスドート伯爵。そなたの一族は入城を禁止されている。いつそれが解除された?」


 声からも怒気がわかった。

 レオンハルトさんの怒りを身に受けた伯爵は、この場をどうにか凌ごうと目を左右に泳がせている。そして自分の手元を見て、足下を見た。

 鬘を被り直した伯爵は、持っていた布袋を両手で差し出す。下げた頭から、また鬘が落ちた。


「こ、こちらの品々をお持ちしました!!」


 前に出たレオンハルトさんが、布袋を受け取る。そして中身を確認すると、すぐに指示を出した。


「アスドート伯爵を直ちに捕捉し、牢屋へ入れよ」


 罠にわざと引っ掛かっていた兵士達が、レオンハルトさんの指示に従う。両脇を固められた伯爵は、そのまま連行された。

 そしてまるでタイミングを見たかのように、緑の鳥がレオンハルトさんの肩に止まる。口がパクパクと動いているから、何かの報告を受けているのかな?


 気軽に話しかけても良いものなのか。

 悩んでいたら、くいっと手を引かれた。


「おねえちゃん。わるいひと、もうわるいことできない?」

「そうだよ。捕まったからね」

「そうなんだぁ……ざんねん。もっとかっこいいとおもってた」


 ぷぅ、と小さな頬を膨らませている。これは、あれかな? 悪い人に憧れる感じかな??


 ロジェナちゃんの様子を見ていて、ハッとする。

 今まで追ってきた犯人が、こんなに簡単に捕まるわけがない。その事を伝えようとして、レオンハルトさんの名前を呼ぶことを躊躇った。


「……改めて言おう。貴殿には私の名を呼ぶことを許可する」

「あ、ありがとうございます」


 レオンハルトさんがロジェナちゃんの頭を撫でながら言う。


「ロジェナ、本当の悪い人はまだ捕まっていない」

「ほんとう!? それなら、ロジェナがやっつける!」

「ここからは危険を伴う。犯人を捕まえたら報告するから、大人しく部屋で待っていなさい。ロジェナは良い子だから、できるな?」

「はぁい。レオンおにいちゃん、わるいひとつかまえたら、ぜったいロジェナにおしえてね! ぜったいだよ!」


 レオンハルトさんは侍女にロジェナちゃんを任せ、わたしとザドルさんを呼んだ。


「部下から報告があった。緑髪で赤目の掃除係はいないそうだ」

「それなら、あの時の人は?」

「恐らく変装していたのだろう。それを仮定とすると、もしかしたら髪の色すら違うかもしれない」

「そんな……せっかく、犯人に近づいたと思ったのに」

「ひとまず、アスドート伯爵から話を聞く。それから考えよう」




 結論からすると、伯爵は白。突然、盗難品が机の引き出しに入っていたという。罠に引っ掛かるくらいだ。その証言は、恐らく正しい。

 伯爵には、結婚できなかった一人娘がいる。その娘さんは、現在行方不明らしい。




 ▲▲▲


「邪魔な男がいない、今がチャンスなのに!」


 むき出しになっている土壁を悔しそうに叩いている人物の顔には、火傷の痕があった。


 ▲▲▲


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