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オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第一章 王宮内連続盗難事件

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004件目 お姫さまからライバル宣言!?


 窃盗犯が持つ属性がわかり、侵入経路も判明。だからレオンハルトさん達と一緒に、まだ被害に遭っていない王族の方たちに注意喚起と換気口を見張る人員の選出も伝えた。


 犯人確保の重要なヒント、ティーカップに閉じこめた煙はレオンハルトさんが保管することになった。

 原理はわからないけど、風魔法と水魔法を組み合わせることで異空間を作り出し、そこに物を入れられるんだって! ザ・ファンタジーって感じ!!

 って、いかんいかん。ついワクワクしてしまった。まだ犯人は捕まっていないんだ。ワクワクするのは、その後だ。


 レオンハルトさん曰く、今掃除係を調べている最中なんだって。でも王宮は広いから大変そう。犯人確保のためにも、早くその調べが終わってほしい。




 翌日の昼。レオンハルトさんが訪ねてきた。


「えっ……次の被害者は、ルリアーナ姫ですか?」

「どうやら、髪飾りを盗まれてしまったようだ。手の平に収まるぐらいの小さなもので、ルリの瞳の色に合わせて私が送った物だ」

「な、なるほど……。それは、姫様も悲しいでしょうね」

「? 今回も貴殿に協力を頼みたいのだが、どうかしたのか。いつもと違うように思うが」

「あ、いやぁ……」


 昨日。レオンハルトさん達と一緒に注意喚起をしに行った。王妃様や末姫様には侍女の方に伝えられている。

 でも、姫様はちょっと違う。

 わたしとレオンハルトさんが一緒にいたからか、ものすごく睨まれたんだ。レオンハルトさんが見ていない所で。


「盗難事件の解決のヒントを、貴殿の魔法で得ることができた。また私を導いてもらいたいと思ったが、ルリは苦手か?」

「い、いえっ。そういうわけでは……」

「では、また貴殿の力を借りても良いだろうか」

「はい! もちろん!」

「良かった。では、早速ルリの所へ向かうとしよう」


 姫様のことは、確かに苦手だ。

 でも、それ以上にレオンハルトさんに頼ってもらえた。そんなの、やるっきゃないでしょ! レオンハルトさんからの信頼を裏切らないために!




「レオンお兄様!」

「ルリ、待たせたな。大事ないか」

「もう、わたくし怖くて怖くて……今夜は寝られそうにありませんわ。どうか一緒に……」

「ルリ。お前ももう十六だ。そんな幼児のような事を言うんじゃない」


 そう言いつつ、レオンハルトさんは姫様の頭を撫でている。

 部屋についた途端、これだ。姫様はわたしの事なんて見えていないと思う。


「安心しろ。お前の髪飾りを盗んだ犯人は、私が捕まえてみせる。協力者も連れてきた」


 ひっ。


 レオンハルトさんからは見えない角度だからか、姫様はまるで獲物を狙う鷲のように鋭い眼光を向けてきた。思わずたじろいだけど、悲鳴を上げなかったのは良い判断だったと思う。


「紹介しよう。こちらは」

「レオンお兄様! わたくし、この方と二人だけでお話したいですわ!!」

「捜査をする上でも、仲は良好な方がいい。ただ、その時間は多くあげられないが、良いか?」

「えぇ、ありがとうございます!」


 頬を染めながらレオンハルトに笑顔を見せると、姫様はわたしに近づいてきた。そして手首をギュッと掴み、部屋に連れこむ。


「あなた! 名前は!?」

「アンネです」

「そう、アンネね。あなた、廷臣法官補佐としてお兄様の傍にいるという自覚はありまして!?」

「ありますが」

「ある!? どの口で言っているのかしら」


 姫様はぷりぷりと怒りながら、わたしが雑にくくっただけの黒髪から紐を取る。そして櫛を使ってくれているみたい。

 ……どういうこと?


「アンネの活躍はわたくしの耳にも届いていましてよ。あなた、星渡人だからって身なりに無頓着すぎるわ。レオンお兄様の隣に立つならば、身なりはきちんとなさい」


「くっ、この髪なかなか頑固ね」と言いながら、ルリアーナ姫がわたしの髪に櫛を通そうとしてくれている。


「あ、あの、姫様?」

「何かしら」

「わたしはあなたに、嫌われていると思っていたのですが……?」

「えぇ、よくわかっているじゃない。あなたなんて嫌いよ。でも、レオンお兄様がアンネの力を認めている以上、そんな子供じみたことはできないわ。だったら、あなたの見た目を改善するしかないじゃない」

「……よくわかりません」

「あなた、お馬鹿ね。あの、レオンお兄様の隣に立つのよ!? 数多の令嬢からの秋波を一睨みで黙らせ、発生した事件は類い希なる観察眼で解決する。レオンお兄様と近づくには事件を起こすしかないとまで言われているの。そんなお兄様の隣に立つのが芋女なんて、絶対に許されないわ!!」


 クッと、櫛に髪が引っ張られる。

 姫様に櫛を渡してもらう。


「しっとりさらさら、スーッと通れ」

「まさか、それがあなたの詠唱?」


 レオンハルトさんと似たような突っ込みを入れてる。眼光が鋭いのもそうだけど、二人は兄妹なんだと実感した。

 わたしは魔法をかけた櫛で、自分の髪を梳く。すると、驚愕の声を出したルリアーナ姫に櫛を奪われた。

 そして玩具を見つけたかのごとく、何度もわたしの髪を梳く。

 鏡越しに見る姫様の顔に、陰りが見えた。


「姫様、何かお困りですか」

「……隣国に、輿入れが決まっているのよ。だから、お兄様から頂いた髪飾りを持っていきたかったのに……」


 姫様の手が震えているように見える。嫁ぎたくないのかもしれない。でも王族として、国同士の繋がりは重要なんだとわかっている顔。

 わたしは立ち上がり、ルリアーナ姫に宣言する。


「安心してください、姫様。わたしが姫様の大切なお守り、必ず取り返してみせます」


 ルリアーナ姫は頷くと、ベルを慣らして侍女数名を呼んだ。そして、あっという間にわたしの髪が結い上げられる。ドレスを勧められたけど、捜査のために動きやすい服装は固辞した。

 侍女の方々とのやり取りを終わらせ、外で待っていたレオンハルトさんの元へ行く。


「お待たせしました。捜査を始めましょう」

「……ルリと仲を深めたようだな」


 似合っているとか髪型に関する感想はなかった。でも、レオンハルトさんの雰囲気が柔らかい。妹姫の事を心配していたんだと思う。

 そんな表情を引き出せる姫様が、少し羨ましかった。




 レオンハルトさんとザドルさんも部屋に入り、捜査がスタートした。


「では、室内の捜索を行う。換気口にいた見張りから、何も見なかったと証言を得ている。だとすれば、犯人は違う侵入ルートを使ったはずだ。どこかに痕跡が残されていれば良いが……」

「あの特徴的なニオイもしません」

「そうか……。では、犯人はどこから侵入したのか」

「姫様。部屋の中を見て回っても良いですか」

「えぇ。許可するわ」


 ルリアーナ姫の許しを得て、部屋を見回る。

 女の子らしい可愛い部屋だ。茶色がアクセントになっている。

 造りは、レオンハルトさんの部屋と変わらない。バルコニーと浴室と、キッチン。でも換気口は、今回使われていない。

 もちろん、王族の居住区域だ。入口には兵士が常駐している。


 王宮といえば、王族しか知らない秘密の通路があるよね。そこを使ったなんて……。


 王宮のあるあるを考えていたら、部屋の中の違和感に気づいた。

 その壁の前へ行く。


「何かわかっただろうか」

「ちょっと、確認してみます」


 壁の中を透視するようなイメージで、オノマトペを使う。

 両手で縁を作り、壁へ向ける。


「ジッ、ジジッ……ピコーン! 解析完了! この先には……」


 人が通れる空間がある。

 え、いや、マジか。秘密通路、発見しちゃったんだけど。

 これって、一般人が知っちゃいけないやつだよね? 罰せられちゃう??


「どうかしたのか」

「あー……えっと……」

「言葉を濁さず、最後まで言いなさい」

「は、はい! この壁の奥に、空間があります!!」


 ピッと背筋を伸ばし伝える。わたしの処罰はどうなるのかと目を泳がせたけど、何もなかった。

 レオンハルトさんは壁に近づき、通路へはどうやって行くかを調べている。そして、右側が前に出る形で壁が回転した。

 レオンハルトさんはすぐに詠唱を始め、緑色の鳥を作り出す。そして何か伝えると、その鳥はザドルさんが開けた扉から部屋の外へ出ていった。


「すぐに犯人の痕跡を追う。私の後に続け!」


 レオンハルトさんが駆け出す。わたしもザドルさんも、遅れずに追いかける。

 毎日螺旋階段を上り下りしていたお陰か、それほど離されずについて行けた。


「こっちは行き止まりか」

「王族の人に、どう進めば良いかって伝わっていないんですか?」

「陛下や母上ならば、伝わっているだろう。だが、私は知らない」


 秘密通路の中は迷路状になっていた。王宮内の裏側を歩くためだと思う。

 何か目印みたいなものがあればわかりやすいんだけど……。


 通路内は、ポツ……ポツという感じに、蝋燭の間隔が広くて暗い。


「レオンハルトさん、明るくしても良いですか?」

「ああ、頼む」


 場所は明かりが乏しい暗がり。明るくしすぎると、逆にダメな気がする。

 だから、暗視の効果をつけるようなオノマトペを考えた。


「ニャーンと猫の目を借りよう。三対の目を光らせて」

「さすがだ。よし、これで捜索がし易くなった。行こう!」


 この場にいる三人に魔法をかけた。暗がりで光る対の目はなかなかシュールだけど、今はそんなことを気にしている暇はない。

 犯人は、レオンハルトさんさえ知らない通路を知っていた。余裕ぶって、のんびり歩いているかもしれない。


 三人で、通路内を捜し回る。でもなかなか、犯人の手がかりを掴めない。犯人は、どこを歩いているんだろう。

 捜索していると、何カ所か気になるものがあった。むき出しの土壁の一部が、変色している。そこだけツルッとなっていた。


「レオンハルトさん、これ、何かの目印ですかね?」


 指した足下を見る。その場所を触ったレオンハルトさんは、ある仮説を立てた。


「これは恐らく、高火力の火魔法でつけられたものだ。壁の性質が変異している。一点を集中するように出せるのは、これをつけた魔法師が相当な実力を持つ人物だと言うことだ」

「犯人、ですかね?」

「そう考えるのが妥当だ」


 陽動する知略、純粋な魔法力。早く捕まえないとさらに被害が出てしまうかもしれない。

 そう思っていると、視界の端で何かが動いた。目を向けると、そこには。


「レオンハルトさん! 犯人です!!」

「何ッ! ザドル、任せた!」


 頷いたザドルさんが、地面に手をついた。すると波打つような地面が犯人を襲う! 両側の壁も動き、犯人を捕獲しようと手の形を作った。


「あぁっ……そんな……」


 ザドルさんの攻撃は、全て防がれてしまった。それどころか、犯人は突然発生した霧の中に消えていく。

 急いで犯人がいた場所に向かうけど、そこには姫様の髪飾りが落ちているだけだった。


「火で熱し、風で冷やした事による温度変化を利用するとは……魔法原理をよくわかっている」


 レオンハルトさんが悔しそうに壁を叩く。

 わたしは一部溶けてしまっている髪飾りを拾った。もう、犯人はどこへ行ったのかわからない。




 姫様の部屋に戻って、髪飾りを渡した。受け取った姫様は両手で抱え、涙を浮かべている。

 今回の成果は、それだけだった。




 ▲▲▲


「ふっ。ようやく私の時代が来たようだ」


 壮年の男は、机の引き出しに入っていた品々に驚愕する。

 そこにあったのは、カフスボタンと羽ペン。今、王宮内で騒がれている盗難品だった。


 ▲▲▲


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