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オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第一章 王宮内連続盗難事件

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003件目 堅物紳士の盗難品!?


「ふっ、ふふっ……」


 部屋の窓を開け、朝の冷たい風を受ける。それでも、口元が緩むのを止められない。

 昨日、レオンハルトさんに褒められた。着実に、脱・塔計画が進んでいる。このままレオンハルトさんからの心証が良くなれば、この部屋ともおさらばだ。


「もうそろそろ来る、かな……」


 レオンハルトさんの訪問を心待ちにしている自分に気づき、ハッとなる。

 わたしは部屋の外に出られるという前向きな気持ちがあるけど、出る時には事件が起きている。昨日、陽動を企てるような犯人だとわかったばかりだ。犯人はまだ捕まっておらず、盗難品も見つかっていない。

 軽率な考えだったと反省し、あの扉が開かない方が良いのだと言い聞かせる。


 犯人を捕まえて、レオンハルトさんの憂いを絶つ! そして自由を掴み取るんだ!

 そう思っても、わたしは未だに自由に部屋を出入りできない。

 だから、待つ。鉄の扉が開く瞬間を。




 午前中に扉は開かなくて、今日はレオンハルトさんの訪問がないと思った昼。

 昼食を食べ終えた後にレオンハルトさんがやってきた。慌てていたようで、いつもはザドルさんが開ける扉を、彼が開ける。その際外に出していた空の食器に足がぶつかってしまったらしく、カランカランと螺旋階段を転がっていく音が聞こえた。


「ど、どうしたんですか。そんなに慌てて」

「貴殿に、捜査協力を頼みたい!」

「え、えぇ。それはもちろん協力します。今度は、誰が狙われたんですか」

「私だ。私の部屋から、盗まれた」

「えっ!?」


 廷臣法官長たるレオンハルトさんの部屋で盗みを働くなんて、犯人は狡猾なだけじゃなく肝も据わっているみたい。

 そんな相手に、わたしが立ち向かえるかな。


「私が可能な範囲で捜査をした。しかし、見つからないんだ」


 そう言うレオンハルトさんは、目の下にクマができている。レオンハルトさんに椅子を勧め、座ってもらう。

 レオンハルトさんが、座った足の上で固く拳を握っている。力を入れすぎて、その拳は震えていた。


 ……力に、ならなくちゃ。どんな相手にだって挑んで、レオンハルトさんの憂いを取りたい。


 わたしはレオンハルトさんの前に座る。


「レオンハルトさん。絶対に、犯人を捕まえましょう。何を盗まれてしまったのか、伺っても良いですか」

「……羽ペンだ。兄上から成人の祝いとしていただいた」

「思いの深い品なんですね。絶対に取り戻しましょう。そのためにも、まずは現場ですね。わたしを連れて行ってください」

「ああ、すまない。恩に着る」


 椅子から立ち上がった時、レオンハルトさんがふらつく。でもすぐにザドルさんが支えた。


「では、現場へ向かう」

「あ、はい……」


 眠気を飛ばすように頭を振ったレオンハルトさんに続いて、螺旋階段を下りていく。先頭にザドルさんが立ち、いつでもレオンハルトさんを支えられるようにしている。


 わたしにも、成人男性を支えられるくらい筋力があったら。もしくは、レオンハルトさんみたいにパッと人を浮かせられる魔法を使えたら。

 ザドルさんみたいに、レオンハルトさんに頼られるかもしれない。


 今は何もできないけど、捜査ではわたしにしかできないことがあるはずだ。

 うん、頑張ろう。




 おん……。


 レオンハルトさんから捜査協力をしてほしいと言われて快諾した。

 でも、まさかレオンハルトさんの私室に行くことになるとは。てっきり廷臣法官長として働く執務室かと思っていたよ。


 開かれた扉の奥に、大きなベッドが見えた。

 レオンハルトさんとザドルさんは、すでに入室している。わたしだけ、部屋の前で固まっていた。


「どうかしたのか? 入室すると良い」

「あ、はい。失礼します」


 レオンハルトさんに促され、緊張しながら入室して扉を閉めた。

 入ってすぐに気がつくのは、足下の絨毯。ふわふわのふかふかで、一歩進むごとに長い毛足を潰してしまうのが忍びなく思ってしまう。

 そして部屋全体に調和が取れているような気がするのは、目に入る家具の全てに緑のアクセントが入っているからかな。

 洗練されていると思うと同時に、部屋の広さに対して少ない家具が、レオンハルトさんらしいと思った。

 レオンハルトさんは、私室内にある机の前にいる。


「ここに、羽ペンを置いていたのだ」


 示されたのは、机の天板。仕舞っていたわけではないようで、この部屋に入れれば誰でも盗み出せる。

 しかし、ここはレオンハルトさんの私室だ。王族の居住区域はその入口に兵士がいた。正面突破はまずできない。


「どうか、貴殿の魔法で見つけてもらえないだろうか」

「お部屋の中を見て回っても良いですか」

「もちろん許可する」

「ありがとうございます。もしよろしければ、捜索が終わるまで少しでも身体を横になってはどうでしょう?」

「ああ、そうさせてもらおうか。見て回ったら、声をかけてくれ」

「わかりました」


 レオンハルトさんはザドルさんに支えられ、ベッドへ行った。バタンと倒れるように、すぐに寝てしまったみたい。

 わたしの行動を監視せずに、全面的に任せてくれてた。信用してくれているってことだよね。その信用を裏切らないように、結果を出さないと。

 わたしは改めて、拳をグッと握って気合いを入れた。


 レオンハルトさんの私室は、さすが王族という感じ。寝室の隣には専用の浴室があって、広いバルコニーもある。

 浴室の反対にはキッチンがあった。中は、庶民のわたしが落ち着けるぐらいの広さだ。棚の中には、いくつかのティーカップが並べられている。キッチンの中にあった扉を開けてみたけど、掃除用具が入っているだけ。


 廊下側の壁には、びっしりと詰まった本棚。その中の一段だけ、本が半分しかない段がある。そこには写真のようなサイズで、王太子様とレオンハルトさんが並んでいる絵が飾られていた。


 ぐるっと見て回ったけど、犯人がどうやって侵入したのかわからない。

 そもそも犯人は、どうして盗みを働いているんだろう。そして、なぜ今なのか。

 この疑問はわたしだけが考えても答えは出ないから、ベッドで眠るレオンハルトさんに声をかけようとした。

 ベッドへ足を向けた時、扉がノックされる。ザドルさんを見ると、レオンハルトさんを起こしてくれた。


「レオンハルトさん。誰か来たみたいです」

「あ、ああ……対応しよう」


 ほんの数十分くらいだと思うけど、少しは睡魔が抜けたかな。レオンハルトさんはまだ眠そうだったけど、ベッドから下りて扉を開ける。

 部屋は広い。だからか、訪問者の声は聞こえなかった。声が小さいのかな。

 その人は、暗めの緑色の髪をしている。女性としては珍しく、髪が短い。

 手には何か細い物を持っていて、服装からすると王宮内で働いている人みたい。レオンハルトさんと話すのに緊張しているのか、顔は俯いている。

 レオンハルトさんがその人と話を終えて、扉から離れた。


「どうやら、キッチンの換気口の蓋が外れかかっていたらしい。掃除の際にそれを見つけ、ネジをしめに来たようだ」

「ほえー。細かいところまで見ているんですね」


 ネジしめがどれだけかかるかわからないけど、たぶんすぐに終わるよね。それまでは事件に関しては話さない方が良いかな。

 でも、そうすると間が持たない。だから何気なく、キッチンがある扉を見た。掃除係の人は、きっちりとした性格みたいだね。ネジしめなんてそんなに時間がかからないと思うけど、ぴたっと扉を閉めている。


 換気口の蓋って、どんな感じだったかな。普通、換気口って高い場所にあるよね? レオンハルトさんと並んでいた時に見た身長差を考えると、少しやりづらくない?


 手伝った方が良いかもしれないと思って、キッチンへ近づく。

 その、瞬間。

 嗅いだ覚えのあるニオイがした。甘く焦げた、煤けた油のような独特な臭さは、王太子様の部屋でもしていた!

 わたしはダッシュしてキッチンの扉を開ける。


「あっ、待て!!」


 掃除係は突入してきたわたしを見て、一瞬笑ったように見えた。でもすぐに身体を黄色い煙のような状態にして、換気口の中へ入っていく。わたしは必死にオノマトペを考える。

 棚からティーカップを一つ取り出した。


「ゴォォォッと煙を吸いこんで、犯人確保のヒントを奪取!!」


 犯人との突然の接触。逃げられている最中だから、時間もない。それでも思いついた言葉を詠唱した。

 イメージしたのは、掃除機。でも明らかにサイズが小さいから全ては吸いこめない。でも、煙の欠片のような物が吸われたのを見て、それが逃げ出さないようにシンクに押しつけた。

 床には掃除係が持っていたドライバーが転がる。


「どうした!?」

「あっ、レオンハルトさん。すみません、犯人を逃がしてしまいました」

「何ッ!? まさか、先程の人間が!?」


 驚きつつ、キッチンの中を見回して不思議そうにする。


「犯人は、煙化して逃げていきました」

「煙……なるほどな。兄上の部屋から逃げたものも煙だった。そうなると厄介だな。どの部屋にも換気口はある」


 顎に手を当てて対策を考えているようなレオンハルトさんは、わたしを見て首を傾げた。


「それで、貴殿はそこで何をしているのだ」

「あ、はい。せめて犯人の手がかりを掴もうと思って、このティーカップの中に煙の一部を閉じこめました」

「素晴らしい! しかし煙ということならば、開けた瞬間に逃がしてしまうか」

「ちょっと待ってくださいね。逃げられないようなやつを考えます」


 わたしは、前世を思い出した。

 夏になると出てくる小バエ。その時の捕獲方法を思い浮かべ、唱える。


「ピッとしっかり蓋をする。強固な魔法で逃さない!」


 前世と今は違うから、透明な魔法の蓋をイメージした。

 恐る恐る、ティーカップを裏返す。緑と赤の煙が外へ逃げだそうとしたけど、きちんと蓋が機能しているみたい。


「レオンハルトさん、これっ!」

「これは……犯人は、火と風属性の複合魔法師か!」

「さっきの人、緑の髪だったから瞳が赤い人ですね!」

「貴殿のおかげで、犯人確保の重要なヒントを得られた。感謝する」


 これで犯人を捕まえられるんだ。

 そう、思ったけど、すぐに不安に駆られる。


「……犯人が煙化できるということは、対策できないですよね。換気口は塞げないですし、レオンハルトさんがまた狙われてしまうかもしれません」

「それは低いように思う。幽霊騒動で私の部屋に侵入されたが、あれから兄上の部屋で盗まれた物はない。ならば、犯人は同じ王族を狙わない可能性がある」

「もしそうなら、次は……」

「私の妹二人か、母上だろうな。すぐに話に行かなければ」

「え、待ってください。どうして王妃様なんですか? 陛下も狙われるのでは?」

「陛下は今、地方査察のため城を離れている。それなのに被害を受けていない。犯人の中で規則があり、王宮内にいる王族しか狙っていないと思われる」

「な、なるほど……」

「部屋まで送ろう」

「いえ、それではすぐに動けません。わたしもついて行きます」

「そうか、わかった。では私に続くように」


 レオンハルトさんが、わたしを無詠唱の風魔法で運んだ。




 ▲▲▲


 犯人のヒントを得た翌日。


「わたくしの髪飾りがないわ! 至急、レオンお兄様を呼んで!!」


 ルリアーナ姫の部屋から叫び声が聞こえた。


 ▲▲▲


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