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【一章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第二章 貴族令嬢誘拐事件

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017件目 ファンタジー世界の潜入捜査-実践編


 ミッドーニへ行く前。人がいない事を確認し、路地裏で変身する。


「では、ノエル様。行きましょうか」

「そ、そうだな、エナ」


 レオンハルトさんはきっと、ずっと正しく生きてきたんだろうな。演技をするって、偽りの姿を見せるって事。ぎこちなくても仕方ないよね。

 グッとレオンハルトさんの腕に抱きつく。身体が強ばっているみたいだけど、それでも振り払われる事はなかった。

 わたしだって演技は得意じゃないけど、それっぽく見えるように頑張らなきゃ。


 時刻は夜の八時頃。あと数時間すると深夜の雨が降る。それまでに潜入捜査が終わると良いんだけど。

 ミッドーニの前に立つ。そして、中へ入った。


「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」


 店員がにこやかな顔で言う。

 現在店内にいるのは、男性ばかり。みんな適度に酔っていて、酒場らしい騒々しさがある。


 潜入捜査、と思って意気込んできたけど……そもそも、賭博場へはどうやって行くんだろう。

 もっと準備をしてからの方が良かったか、と思っていたら。

 酒飲みの集団の何人かが、酔っぱらってふらついた。


「エナ!」


 ぐっと、腰を引かれる。そのお陰で酔っ払いにぶつかられる事なく回避できた。

 命に直接関わるような事じゃないけど、突然だったから心臓がバクバクしている。


「あ、ありがとうございます。ノエル様、惚れ直しちゃいました」


 婚約者に夢中、というような目をレオンハルトさんへ向ける。

 そんな状態だけど周囲へ気を配っていたら、店員が近づいてきた。


「お二人の親密さが窺えます。どうでしょう、もっと格好をつけたくないですか」

「もっと、とは」

「一晩で稼げる場所があるんです。宝石のように綺麗なお連れ様の瞳を、もっと輝かせたいと思いませんか」

「ノエル様。わたし、結婚の記念に宝石がほしいです」

「エナがそう言うなら……。どこに行けば良い?」

「ささっ、どうぞこちらへ」

「いやっ。ノエル様と離れたくない!」


 レオンハルトさんだけ連れて行こうとしたから、わたしは必死になって彼の腕に抱きついた。そのせいでグラマラスな胸元が強調され、店員の鼻の下が伸びていることがわかる。


「仲がよろしいようで。それでしたら、お連れ様もご一緒にどうぞ」


 店員が先導する。わたし達は頷き合って、その後を追った。

 表側になる店から奥へ行く。最奥は店主の部屋だとわかっているけど、向かったのは真ん中の扉。


 開けられ、中へ行くように促される。

 入ると、地下深くへ階段が続いているみたいだった。レオンハルトさんが手を出してくれ、握って降りていく。

 人工的な壁から、徐々に土壁になっていく。もしかしたら、以前は王宮から出る秘密の通路として使われていたのかもしれない。

 奥へ進むにつれ、鼻につく香りが漂ってきた。


「ノエル様! この先、すっごく臭いです。わたし以外の女の人が多いのかもしれません」

「大丈夫だ。何人いたとて、私はエナしか見ないから」

「ノエル様……嬉しいっ」


 ヤバイ香りがすると伝えたけど、返答は口説き文句にも聞こえる言葉。でもたぶん、レオンハルトさんからすると事実を言ったのだと思う。演技は苦手だと思うから、たぶん天然。というか、真面目そのもの。

 反応が遅れそうになって、抱きついて誤魔化した。


「お二方。こちらが当店自慢の遊技場です。どうぞ、存分にお楽しみください」

「ゲームだって! ノエル様、早く行きましょう!」

「エナ、急ぐな。転ぶだろう」


 レオンハルトさんの手を引き、はしゃぐようにして入る。

 なるべく浅い呼吸をするように心掛けるけど、鼻がもげそう。以前も嗅いだ事がある、あのニオイじゃない。

 でも種類としては、甘いニオイ。甘く重たく、高揚感を与えるようなニオイ。


「ノエル様、あのゲームって何ですか?」

「そうだな。あれは」

「ご新規のお客様ですね。よろしければフォーカードで遊んでみませんか」


 左目の上に傷のある店員が、レオンハルトさんの話を遮って話しかけてきた。いくつか人の塊がいるから、それぞれゲームを楽しんでいるのだと思う。

 表面的には。

 わたしは眼鏡の縁に手を添え、店員に質問する。


「ふぉーカード……ふぉーっ!! って勢い良く言い合うゲームですか」

「い、いえ……カードの絵柄を四つ合わせれば勝ちという単純なゲームですよ」

「ふぉー! ノエル様、わたしでもできるかもしれません!」

「エナにはさせない。私が参加しよう」

「どうぞこちらへ。お嬢様は近くで勇姿をご覧ください」

「ノエル様! 頑張ってください!」


 ギュムッと、これ見よがしに胸元を寄せてみる。傷持ちの店員も、他の店員も、みんなこちらへ注目しているみたいだ。

 初めて来たカモカップルに見えるように、キョロキョロと周囲を見ながら眼鏡の縁を触りつつ遊戯台まで行く。

 その台にはすでに二人、焦点が合っていない先客がいる。


「自分がカードを配ります。手持ちを交換できるのは、一人二回まで。手札に自信があれば、交換されなくても良いです」

「わかった。掛け金は?」

「また遊びに来ていただきたいので、初めての方にはサービスしております」

「すごーい! タダで遊べるなんて、画期的ー。ノエル様、わたしに格好いい姿を見せてくださいねー」


 黄色い声援っぽい事をやっておく。

 でも、実際は甘く重たいニオイで頭がくらくらしていた。レオンハルトさんはまだ大丈夫そうに見える。

 応援席、という事で用意された椅子に深く腰掛けた。


 ……きっつ。これは絶対にヤバイやつだよね。捜査が終わるまで、意識を保っておけるかな。


 笑顔を貼り付けて、重ねた手の内側を抓って正気を保つ。


「おお! ご新規様、フォーカード達成です!」

「すごーい! ノエル様、いくら稼げたんですか?」

「一回だけで、十万チップ。これは、すごいな」

「宝石はどれくらいで買えるんですか」

「当店ではチップの十分の一を換金しております。お客様がお求めの宝石は高いかもしれませんが、あっという間に貯まりますよ」

「わー、すごーい! ノエル様、頑張ってください!」


 立って声援を飛ばす事も、つらくなってきた。なるべく遊技場内の空気を吸わないようにしているんだけど、呼吸しなければ人は死ぬ。どうしたって、甘く重たいニオイを吸ってしまう。


 遊戯台では、第二ゲームが始まった。

 少しだけ、休めるかな。

 そう思って、椅子にまた腰掛けようとした時。足から力が抜けた。大げさなほど音を立てて倒れてしまう。


「エナ!?」

「ノエル様……すみません。限界みたいです」

「ああ、よく頑張った。すまないが、彼女を休ませたい。そのような場所はないだろうか」

「どうぞこちらへ!」

「エナ、立ち上がれるか」

「が、頑張ります……」


 椅子に手を置いて足に力を入れようとするんだけど、なかなか上手くいかない。


「エナ。失礼する」

「なにッ、をっ!?」


 ここで「きゃっ」とか言えたら良かったんだけど。

 レオンハルトさんに抱き上げられて、思わず変な声が出ちゃった。その衝撃で一瞬、霞がかったような意識が覚醒する。

 でもすぐに、甘く重たいニオイで意識が飛びそうになった。


「どうぞ、こちらの部屋をご利用ください」

「恩に着る」


 通された部屋は、部屋の規模からすると不自然なほど大きなベッドがあった。そのすぐ横には、釣り鐘みたいに連なった青い花が置いてある。

 ベッドに下ろされる頃、店員が出て行って扉が閉められた。


「気分はどうだ」

「すみません……わたしだけ、こんなで」

「貴殿は鼻が良いから、耐えられなかったのだろう」

「申し訳ないついでに、その青い花を遠くに置いてもらえませんか。甘く重たいニオイが、つらくて……」

「わかった」


 レオンハルトさんが植木鉢を持ち上げた時、花弁がかすかに動いたような……。部屋の隅に置いた時、彼が急に倒れた。


「レ、ノエル様!? 大丈夫、ですか!」


 返答がない。わたしにとってあの青い花はニオイが嫌だって事だけだったけど、もしかして何か細工があったのかもしれない。

 ベッドから這いずり降りて、レオンハルトさんの所へ向かう。

 身体が重たい。自分の身体なのに言う事をきかないのは、どうして。


「すみま……せん。わ、たし、の……せい、で……」


 瞼も重くなり、わたしはレオンハルトさんにたどり着く前に意識を失った。






 意識を取り戻した。

 だから身体を動かそうと思うんだけど、足が重たい。鎖で繋がれた先に、鉄球みたいなやつがある。

 これ、逃げられないんじゃない?


「エナ。聞こえるか」

「は、はい」

「よし、無事なようだな。これから貴殿を助け出す。待っていてくれ」


 短いやり取りだけで、イヤリング型通信機が切れる。

 良かった。レオンハルトさんは無事なんだ。そう、思った瞬間。バンッと、強い明かりに照らされた。


「紳士の皆さん! 本日の目玉商品をご紹介します! 感受性が豊かで蠱惑的なボディ。結婚を控えた男に捨てられッ!?」


 眩しい照明に目を慣れさせようとしたら、司会進行の男が気絶していた。ざわめく会場。

 そんな中、誰かが逃げようとしたみたい。でも、入口は封鎖されている。


「これよりこの現場は、廷臣法官長レオンハルト・ヴァランタンが取り締まる! 全員、その場から動くな!!」


 レオンハルトさんの号令と同時に、会場にいた何人かが動き出す。わたしが意識を失っている間に、同僚達が会場に潜んでいたみたい。

 観念した人達は、次々と捕まっていく。でも中には往生際の悪い人もいて、無謀にもレオンハルトさんがいる入口へ向かった。

 でも、レオンハルトさんが地下競売に参加するような人に負けるわけがない。


 ドデンと、盛大な音を立てて転ばされた人は立ち上がれないみたいだ。無詠唱で事を収めた。レオンハルトさん、やっぱりすごい。

 逃げようとした人を縄で締め上げたレオンハルトさんが、わたしの方へ来る。そして舞台上にあった剣を引き抜き、鎖に突き立てた。


「すぐにこの鎖を壊す。待っていてくれ」

「ありがとうございま……レオンハルトさん、怪我をしているじゃないですか!! どうしたんですか、それ!!」


 柄を握る左手に巻いていた布が赤く染まっている。


「気にしないで良い。貴殿を連れていかれた後、正気に戻るために傷つけただけだ」

「気にしないなんて、無理ですよ!! 剣を貸して下さい! 自分で壊します!」


 一向に剣を渡してくれないレオンハルトさんに苛立ち、彼の手に重ねる形で柄を握る。

 そして、グッと力を入れて鎖を切った。

 続けて着ていたドレスを剣で裂き、レオンハルトさんの左手の布を新しくする。


「助けてくださり、ありがとうございました。きちんと、治療を受けてくださいね」

「ああ、そうしよう」


 そう言って、レオンハルトさんは上着を脱いで渡してくれた。わたしは変身後の姿だから特に気にしていなかったけど、胸元が想定よりも開いていたみたい。




 その後。

 地下競売に参加していた人達は全員捕縛された。違法賭博場で働いていた店員も牢に入れられている。

 ミッドーニも廷臣法官の監視の目が置かれ、経営権を持っていたハーシプ伯爵も追求を免れなかった。


 こうして、シトロン家を蝕んでいた借金問題が解決。

 伯爵は貴族裁判にかけられることになるらしい。







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