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【一章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第二章 貴族令嬢誘拐事件

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016件目 ファンタジー世界の潜入捜査−準備編


 わたしを攫ったのは、教会関係者?

 声を聞けば、あの場にいた人が誰だかわかるかもしれない。でも、大聖堂の中にあの男性の仲間がいる可能性もある。


 欲を出して攫われたばかりだ。今は、一刻も速くレオンハルトさんの元へ戻ろう。




「貴殿は、二人組で動くという意味をわかっていないようだな」

「す、すみませんでしたっ!!」


 レオンハルトさんの所へ戻ってすぐ、雷が落ちた。懇々と廷臣法官の動き方を説かれている。こればっかりは、平謝りするしかない。


「……それで、どこか怪我はしていないか」

「はい! 縄で拘束されていましたけど、オノマトペで逃げられました!」

「ならば、良い」

「あの、レオンハルトさん! 紙をください!!」


 画像として記憶した邪教の旗を、印刷魔法で描き出す。

 受け取ったレオンハルトさんは、眉間にシワを寄せた。


「これを、どこで?」

「攫われた先です。いくつかありました」

「貴殿は、この旗の意味はわかるか」

「い、いえ……勉強不足です。教えてください」


 レオンハルトさんは、この旗がヴァランタン国を冒涜するものだと教えてくれた。


「モルルモア大陸では、太陽神ソゾン様と月女神ルーナント様を信仰していると知っているな?」

「は、はい」

「我が国は二柱を示す太陽と月に照らされる道が国旗となっている」

「でも、邪教の旗はそれを分断している……というか、人っぽい影が落ちているから、冒涜しているという事になるんですね!」

「その通りだ。国だけでなく神々をも侮辱する行為となる」

「これ、大聖堂の前にあった倉庫みたいな所にあったんですけど……まさか、教会の関係者が?」

「それはないと思いたいが……この一件は、私に預けてくれ。調査を進めておこう」

「お願いします」


 レオンハルトさんが、邪教の旗を印刷した紙を異空間へ仕舞った。


「そうだ、あの後大丈夫でしたか?」

「ああ、あの女性はご令嬢の乳母だった。事件が解決するまでは王宮に避難してもらっている」

「それなら良かった。乳母さんは、独自に調べて特攻したんですかね」

「そのようだ。そして、ハーシプ伯爵の事も調べたらしい」


 曰く、伯爵は裏では顔が知られているんだって。賭博場で貴族をカモにしては高額な借金を負わせ、娘がいる場合には嫁がせるみたい。


「……何て最悪な奴。あれ、でもそうすると重婚になりませんか。被害者はシトロン家が初めてじゃないですよね?」


 調べて出てくる情報だったら、前にも同じような事があったのでは。そう思って尋ねたら、レオンハルトさんの秀麗な顔が歪んでいた。


「伯爵は嫁いできたご令嬢を、式を挙げる前に競売にかけるらしい。正式な夫婦にはならず、令嬢の家も借金を背負っているという負い目で訴えないようだ」

「えっ!? 人身売買、ってことですか!?」

「あまり大声で言うものじゃない」

「す、すみません……。あの、人身売買って犯罪ですよね? 今すぐに捕まえられないんですか」

「できるのなら、私だってそうしたい」

「だったら」


 抗議しようとして、口をつぐむ。

 レオンハルトさんは、悔しそうに唇を噛み、手を強く握りしめていた。


「決定的な証拠がない。故に、捕縛できない」

「そ、それなら、潜入捜査なんてどうでしょうか」

「それは許可できない」

「どうしてですか!」

「犯罪を行わなかったかもしれない人物に対し、国家機関が積極的に働きかけて犯意を誘発し、犯罪を実行させる。それは国家が自ら犯罪者を作り出すということになるため、禁止されている」

「でも、乳母さんが調べられるくらいまで情報が流れているんですよね!? それなら問題ないじゃないですか!」

「それはあくまでも、噂にすぎない。現行犯でなければ、確保は無理だ」

「そうだとしても、ここで動かなければ被害者を増やすだけです!!」

「駄目だ。潜入捜査は法も司る廷臣法官が、その職務から外れないために禁止されている。どうあっても許可はできない」


 平行線だ。このままでは、悪党をのさばらせてしまう。

 何か方法は。そう思ったわたしの手は、胸元にあった。


「こ、これっ……! この徽章バッジがあれば!」

「許可できない。それが母上の腹心の部下の証だと知っている貴族と鉢合わせたらどうする? 利用されるだけだ」

「だったら! この徽章が外から見えなくすれば潜入しても良いですよね!?」

「……何をするつもりだ」

「わたしはオノマトペの使い手です。変装すればわたしだとばれません」

「駄目だ。そんな危険な事をして、貴殿の命が奪われたらどうするつもりだ」

「わたしは星渡人ですけど、普通の人間です! 同い年の令嬢が悲惨な目に遭いそうなのに、わたしなら救えるかもしれないのに、動かず最悪の結果になるなんて嫌です!!」

「一人で動いた結果、貴殿は攫われただろう? 反省していないのか」

「そ、それは……」


 ぐぬ、と唇を噛む。

 結局、わたしは一人じゃ何もできないのか。いや、できるはずだ。何だったら廷臣法官を辞してでも……。

 レオンハルトさんに宣言しようかと思ったら、彼は腕を組み右手で両側のこめかみを押さえていた。


「……貴殿は、一人でも乗り込みそうだ。星渡人を失う事は国家にとっての損失。深追いはしないという約束で、共に行こう」

「っ、ありがとうございます!!」


 レオンハルトさんから許可が出た! 渋々だけど、これで潜入捜査ができる。

 潜入捜査は禁じられているから、その相談をするためにレオンハルトさんの私室へ向かった。

 そして、詠唱をしなくても魔法の効果が得られる魔道具を作る。縁に触ると写真を撮れる眼鏡を二つ、それにイヤリング型通信機。


「イヤリング型通信機ですけど……レオンハルトさんもつけてもらえますか」

「なぜ疑問に思う? つけなければ連絡できないだろう」

「そうなんですけど……お揃いの装飾品って、恋人同士みたいじゃないですか。今さらですけど、レオンハルトさんに婚約者はいらっしゃいませんか」

「問題ない。兄上の結婚後と周囲に伝えてある。私には婚約者すらいない」


 王太子様は、婚約者さんが亡くなっている。新しいお相手もいないみたいだけど、その王太子様よりも後に結婚って……。王家存続は大丈夫かな?

 まぁ、わたしには関係ないか。


「同じ装飾品をつけるので、設定は結婚間近の婚約者同士って事にしましょう。名前はそうですね……わたしはエナ、レオンハルトさんはノエル様ですかね」

「なぜその名前なんだ」

「単純に、名前の表記を後ろから読んでいる感じにしました」

「貴殿は楽しんでいるようだが、何か勘違いしていないか。これは禁じられた捜査だ」

「わかっていますよ。だから偽名を使うんじゃないですか。そうですね、次は変装する姿を決めましょう。わたしは変装できるオノマトペを考えるので、レオンハルトさんはどんな姿になりたいのか考えてください」


 レオンハルトさんが額に手を置き、頭を抱えている。でも一度行くと決めたからか、腕を組み直して考えてくれているみたい。

 わたしもオノマトペを考えないと。


 変装といえば変身。変身といえば特別なアイテム。

 最初の変身はオノマトペだけで良いけど、万が一解けてしまった場合に備えて、ワンタッチでできる何かがほしいよね。服の伸縮機能もついていると尚良い。


 ちらりと、レオンハルトさんが用意してくれた装飾品コレクションを見る。

 意外だよね。使われている宝石は全部緑だけど、色んな形の装飾品がある。イヤリング、ネックレス、ブレスレット、カメオ……。どうしてこんなにあるんだろう。


 疑問には思ったけど、人それぞれ趣味があるだろうから聞かないでおこう。

 装飾コレクションの中からブレスレットを二つ取る。


「レオンハルトさん。変身後の姿は想像できましたか」

「ああ、問題ない。貴殿はどうだ」

「わたしも準備が整いました。変身できる機能もつけるので、レオンハルトさんもこのブレスレットを持ってください。詠唱している時、変身後の姿を強く描いていてくださいね」


 頷いてくれる。わたしは、金髪碧眼のグラマラス美女を思い描く。もちろん、華やかなドレス姿も。


「はらりはらりと舞う花は、姿を隠して偽装する。桜吹雪は通り過ぎ、新たな姿を作り出す!」


 詠唱を終えると、わたし達は桜吹雪に包まれる。そしてそれがなくなると、目の前に茶色の瞳を持った緑髪のレオンハルトさんがいた。


「その姿、何かこだわりがあるんですか」

「本当は紫の髪にしたかったのだが……潜入は、目立ってはいけないからな」

「紫の髪……ふふっ。レオンハルトさんは、本当に王太子様の事が好きですね」

「当然だ。兄上は貴重な四属性を持ち、世の中を良くするために日夜魔法を研究されている」


 曇りなき眼で絶賛している。兄弟が仲良しなのは良きかな。


「万が一変身が解けてしまった場合は、このブレスレットを触ってください。すぐに今の姿になれるので」

「了解した」


 ブレスレットを受け取ったレオンハルトさんが、不自然に目をそらした。気まずそうに鼻の下に手を置いている。

 なぜ、と思ったけど、すぐにピンときた。変身によって得たグラマラスな身体を、くるりと回転させる。

 金髪がふわりと浮き、ざっくりと開いている背中がレオンハルトさんにも見えたと思う。


「どうですか? 本来のわたしとは似ても似つかないでしょう?」

「そ、それはそうだが。もっとどうにかできなかったのか。淑女たるもの、肌を見せるのは生涯を共にするパートナーのみだ」

「レオンハルトさん……いや、ノエル様。設定を忘れちゃったんですか? わたし達は結婚を控えた婚約者同士、ですよ?」

「そ、それはそうだが。潜入するのに、そこまで肌を見せる必要はないはずだ」

「そうは言っても……油断を誘えるかもしれないじゃないですか。こういう姿って」


 あのレオンハルトさんがこんなに動揺しているんだ。一定の効果はあると思う。


「ほら、レオンハルトさん。本番でミスしないように練習してください。わたしは誰ですか」

「エ、エナ殿、だったか」

「ダメですよ? 設定は守ってください。結婚間近の婚約者なんですから、呼び捨てです」

「エ、エナ」

「ぎこちないですねぇ。それも味があって良いと思いますけど、それだといつものレオンハルトさんと変わらないです。なるべく普段とは違う印象にしないと」


 印象は、大分違う。でもわたしは目の前にいるのがレオンハルトさんだって知っているから、ついついからかいたくなっちゃう。


「……その顔は、私の反応を楽しんでいるな?」

「あ、ばれました?」

「何度も言うようだが、本来は禁止されている捜査方法なんだ。遊び半分では困る」

「ノエル様こそ、何を言っているんですか。遊びじゃない。本気です。わたし達が失敗したら、悪党に気づかれちゃうじゃないですか。そうしたら、現行犯で捕まえる事もできません」

「ぐっ……。貴殿の、言う通りだ」

「はい。それじゃぁもう一度。わたしは誰ですか」

「……エナ」

「――ッ!! い、良い感じですね! これで準備は整いました! いざ、潜入です!!」


 くっ……レオンハルトさん、やっぱり顔面偏差値が高いな。少しはにかみながら名前を呼ばれて、思わずドキッとしてしまった。

 わたしにも精神力が必要だ。

 そんな事を思いながら、一度変身を解いて王宮を出た。


 目指すは、一番街西地区。酒場、ミッドーニ。




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