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【一章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第二章 貴族令嬢誘拐事件

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014件目 ファンタジー世界の聞き取り調査


 贋作師が連行されてから、わたし達はようやく食事にありつけた。

 買っておいた携帯食を食べ、適宜休憩を入れつつ、馬車が動く時間帯まで邸宅内にあった絵を整理する。

 結果、全ての絵が贋作だった。それも、一つの絵に対して複数用意されている状態。


「……これだけ絵が上手かったら、自分の絵も売れたと思うのに」

「芸術は認められるまでに時間がかかる。あの画家は、名声よりも富を選んだのだろう」


 贋作師の事を、レオンハルトさんは画家と呼ぶ。きっと彼なりの配慮なんだろうな。実力は認めているっていう。


「侯爵夫人の秘密の邸宅で捕まえましたが、夫人本人はどこまで知っているのでしょう?」

「まずはティエルの証言が取れてから、という流れになる。貴族を罪人として裁くには、慎重に調査しなければいけない」


 捕縛された贋作師。もし、侯爵夫人が一枚噛んでいるとしたら。もちろん犯罪だけど、それ以上に侯爵家の財政状況が気になる。


「もしかしたら、もっと何かあるかもしれません」

「一度、シトロン侯爵家の事を調べてみるか」


 コナー先輩が寝ている時間に、これからの事を話し合った。目を覚ました先輩がニヨニヨしていたけど、気にしない事にする。


 贋作師を連行していった廷臣法官達が戻ってきた。現場を引きついでもらい、わたし達は一番街へ向かう。

 定期的にレオンハルトさんの元へ届いていた紙の鳥に、気になる文言があったから。




 一番街西地区。令嬢が誘拐されたとされる現場に戻ってきた。

 三日分の集音を終えたパラボラアンテナが、機能停止している。ここから出た情報は随時レオンハルトさんの所へ行っていた。

 でも、紙を出していた部分に元の情報は詰まってる。これを整理しよう。


「ババッと一覧作成し、パパッと結果を教えてよ。ビラーっと目次を作ったら、侯爵令嬢をピックアップ!」


 詠唱を終えると、頭の中に三日分の情報が浮かんできた。これを、二人にもわかりやすいようにしたい。


「レオンハルトさん。何か紙を持っていませんか」

「どれくらい必要だ?」

「そうですね……前にザドルさんが持っていた石板くらいの大きさで五枚ほどでしょうか」


 必要枚数を伝えると、レオンハルトさんは異空間から紙を取り出した。

 紙を一枚受け取ったわたしは、紙の左上から右下へ指を動かす。


「ガガッと倍速印刷。これが三日分のやり取りだ!」


 五枚目までの勢いを表現したお陰で、わたしが想像したよりも早く印刷できた。

 印刷したばかりの紙をレオンハルトさんへ渡すと、先輩も後ろから覗く。

 その紙には、令嬢と誰かのやり取りの他にも注目すべき内容があった。


「賭博場、か」

「侯爵令嬢についての情報収集だったんですけど、どうしてこれも乗ってきたんでしょう?」

「これによれば、店の誰かがシトロンについて話している。この場合は柑橘系の木のことだろう。それに侯爵という話題が高頻度で入っている。だからシトロン侯爵として集められのではないか」

「侯爵様が賭博場を経営しているんですかね?」

「賭博場の全てが違法というわけではない。国へ申請し、それが通れば商業として認められる」

「侯爵様からは、申請は出ているんですか」

「私も全ての申請書類の内容を覚えているわけではない。しかし今は、運営されている賭博場はないはずだ」


 違法賭博だ。

 贋作師との関わりに続き、またお金に関わりそうな案件。

 そしてそもそもの目的、令嬢が誰かと話していた内容。その事からふまえると、令嬢に予定されていた結婚は借金のカタという可能性が浮上した。

 もしそうなら、ただの誘拐よりは令嬢が生きている確率が上がる。


「レオンハルトさん。もう一度、シトロン家の事情について話を聞きに行きませんか」

「しかし、ご令嬢の侍女はすげ替えられているだろう。どんな人間が働いていたのかも不明だ。捜すのは難しい」

「まだ、話を聞いていない人もいます。令嬢捜索のために何度もシトロン家を訪れても、警戒されないと思います」

「確かに。他にも聞いてみよう」


 早速、シトロン家へ向かう。

 すると料理長から、有力な情報を得られた。

 令嬢の乳母が侍女としてそのまま働いていたのに、つい最近急に解雇されたらしい。料理長もシトロン家で働いて長く、乳母は戦友のような同僚だったから気になっていたんだって。


 シトロン家から離れ、レコーダーにした魔石を見る。


「噂によると、シトロン家の秘密を知ってしまったから解雇だそうですが」

「その秘密が、もし違法賭博の事であればその乳母はもう死んでいるかもしれない」

「えっ……そんなに、物騒な話なんですか」

「あくまでも、可能性の一つだ」


 貴族であれば、政略結婚もあり得る。でも、借金のカタなら話は違う。

 そんな令嬢の未来を潰すような結婚なんて、小さい頃から見ている乳母が許すはずがない。だとすれば、向かう先は賭博場。


「賭博場って、どこにあるものですかね」

「違法ということであれば、パッと見ただけではわからないようになっているはずだ。しかし、誘拐事件の現場で集めた音が示している。音を拾える範囲にある可能性が最も高い」

「でも……今は、令嬢の命を最優先で守らないといけないですよね」

「当然だ。この一件は、今はケビンへ知らせておく」


 そう言って、伝令鳥を飛ばした。

 わたし達は、令嬢の捜索だ。


「ここで話されていた内容によると、令嬢は恋人と一緒にいる可能性が高いです」

「相手は身分違いの貴族か、それとも平民か」

「それって、台本を読んでいたと思われる侍女の話にヒントがあるのでは! 確か、一年前から変わったって言っていました」

「誕生日から、だったか。その日が転機になるならば、芸術関係者を呼んだ可能性が高い。侯爵夫人はその方面に力を入れている」

「それなら、もう一度香水店へ行ってみましょう。購入した対象者の目的を、恋人へ贈るにしたら候補者がわかるのでは」

「良い案だ。採用しよう」


 新人の提案を受け入れてくれる、働きがいのある仕事だ。先輩の、ニヨニヨ顔を覗けば。


 早速、香水店へ向かう。

 そして、目的が恋人へ送る事だった購入者は全部で三十人。数多いる中では絞り込めた方だと思うけど、それでもまだ多い。


「ここから先は手分けをした方が良い。コナーも、ザドルと回れ」

「えー、そうなったら長がアンネちゃんと二人きりになっちゃうじゃないですかー」

「これは仕事だ。早々に取りかかれ」

「はーい。了解です」


 廷臣法官は二人で一組。令嬢の姿を描くために動いていた時はザドルさんが一人だったみたいだけど、そうも言ってられないよね。

 先輩がザドルさんと動いていない時は、天秤宮でケビンさんを手伝っていたのかな?


「貴殿も、私の事はただの上司だと思ってくれれば良い」

「わかりました」


 わたし達が担当する分のリストを見る。二番街に住む貴族が多いみたい。一人一人、話を聞きに行かないと。

 そう思ったけど、リストの最後の人に注目する。該当人物は貴族ではなく、吟遊詩人だ。


「っ! 芸術関係者です!!」

「有力な候補者だ。何々……名前はオルミンか。残念な事に現住所が書かれていないな」

「吟遊詩人ですし、流浪しているんですかね」

「首都へ来ていたとしても、一番街で買い物をするとなれば流浪の民は難しい」

「そういうものなんですね? お金を払えば良いってだけじゃないんだ」

「購入はできている。それならば、貴族の後ろ盾があると見て良いだろう」

「っ、それがシトロン家では!?」

「その可能性が最も高い。侯爵夫人のツテでご令嬢の誕生日に呼ばれ、縁ができたのかもしれないな」

「それなら、シトロン家で聞けばわかるのでは!」

「いや、そうとも限らない。仮にご令嬢の恋人がその吟遊詩人だとして、平民との結婚は許さないはずだ」

「あっ!! それなら、この誘拐事件の真相は令嬢と吟遊詩人の駆け落ちなんじゃないでしょうか!」

「なるほど……一理ある。侯爵としてはご令嬢の恋人が平民だと認める訳にはいかず、突然ご令嬢がいなくなったなら誘拐されたと思うかもしれない」


 駆け落ちした恋人同士。そう考えると、誘拐犯と令嬢が一緒に逃げているのも頷ける。


「……駆け落ちだとしたら、二人の恋を応援したいです」

「そういう訳にもいかない。成人しているとはいえ、親の承諾無しには貴族令嬢の結婚はできないのだから」


 借金のカタにされるよりも、好きな人と暮らせた方が良い。そう、思うけど。

 貴族である前に、捜索依頼を出した両親がいる。このまま、逃げ続けても幸せにはなれない。


 恋人と逃げている令嬢が幸せになれる方法を考えつつ、一軒一軒酒場を訪問する。

 西地区に構える酒場は多く、距離が離れている店もあった。即時移動が推奨されるため、レオンハルトさんに頼りきりだ。

 このままではいけないと、三軒目に向かっている途中で移動方法について相談した。


「私は水よりも風魔法を得意とする。貴殿であれば、異国の地の知識を利用してみてはどうだろうか」

「それは考えたんですけど……こう、パッと移動するには不向きなんです。乗り物も、小さくする技術はないですし」

「それならば、物に魔法を付与しておくのはどうだろうか」

「付与?」

「靴に関係する物とか、魔石とか」

「確かに! 身につけられる物だと、尚良いですよね!」


 王妃様から頂いた、胸元の徽章バッジを触る。いや、さすがにこれに何かするのは気が引けるな。

 前世のゲームで見た、羽根のついた靴を思い出す。あんな感じの羽根に付与して、普段は髪留めにするとか!


 羽根を捜してみようかと思っていたら、レオンハルトさんにじっと見られていた。正確に言えば、胸元の徽章を見られている。


「あの、何か気になることでもありましたか」

「貴殿のその徽章……それは母上を象徴するものだ。それをつけているという事は、母上から受け取ったのか」

「はい、そうです。王妃様から廷臣法官たる資質を示す物だって言われたんですけど……違うんですか? そういえば、レオンハルトさんはこれをつけていないですね」

「そのしるしをつけると言う事は、母上の腹心の部下ということになる」

「えっ!? そ、そうなんですかっ!?」


 すごい事を聞いた。でも、逆に外せなくなる。


「わ、わたしはどうしたら……」

「恐らく、貴殿の事を母上も気にしているのだと思う。星渡人が稀有な存在だから」

「な、何かしなければいけないって事は?」

「ないだろう。ただ、母上の後ろ盾を得ているのと同じ。これまで以上に貴殿に注目が集まるようになるだろうな」

「えっ……困ります」

「貴殿が星渡人である以上、注目は避けられない。なるべく貴殿が動きやすいよう私も配慮する」

「ありがとうございます……」


 レオンハルトさんと一緒に動いている時点で、すでに注目されると思う。でも王妃様から一緒にいるように言われているから、どうにもできないよね。


 盗難事件の時は、わたしが星渡人だという見極めができていなかった。今はそれも終わっている。

 レオンハルトさんの姿勢を見習おう。レオンハルトさんは上司。わたしは部下。仕事は警察と裁判官を兼務。うん、それだけで良い。


 その後も、レオンハルトさんと酒場を一軒一軒訪問した。そして件の人物は、ミッドーニの看板吟遊詩人だと判明。

 でも、オルミンさんはすでに職場を辞めた後だった。




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