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【一章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第二章 貴族令嬢誘拐事件

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013件目 ファンタジー世界だけど地道に調査


 シトロン家へ聞き取り調査に向かう途中、使えるかもしれないと思って魔石店に寄ってもらった。


「アンネちゃん、何するの? おれが買ってあげよっか」

「あ……そう言えば、お金持っていませんでした。捜査中に使えるかもしれないと思ったんですけど、道端の石を捜しますね」

「待て。捜査の道具という事であれば公費で落ちる。どの石を求める?」

「ありがとうございます。えっと、イメージはなるべく平たい石で、属性を付与する前の方が良いんですけど……そういうの、ありますかね?」


 レオンハルトさんと話していると、店員さんがやって来た。その後も二人で話しながら理想の魔石を購入。

 買い物を終えると、コナー先輩がニヨニヨと満面の笑みを見せていた。


「おれ、ナイスアシストだよね?」

「何を言っているんですか。そんなんじゃないって言ったじゃないですか」

「ふふっ。おれは学んだよ。長が意外と乗せ、ったあ! 長!! 無言攻撃は止めてくださいって!!」


 学んでいないというフラグを回収した先輩も一緒に、シトロン家へ向かう。

 従来の貴族邸宅訪問であれば先触れが必要だけど、今回は緊急。邸宅にいる廷臣法官達にレオンハルトさんが伝令鳥を飛ばした。

 その甲斐あって、シトロン家に着いたら侯爵夫妻が揃って迎えてくれる。


 侯爵は、いかにも中年って感じの体型。夫人は美魔女って感じで、美意識が高そう。二人とも金髪碧眼で、物語の貴族にありがちな家庭不和はないように見える。


 侯爵夫妻に案内されて、邸宅の中を行く。絵画が複数飾られているんだけど、ちょっと違和感があった。

 柱とかその陰になっている部分とか、小さなヒビが入っているみたい。絵はあるのに補修はしないのかな?


「こちらへどうぞ」


 通されたのは、来賓室。すっきりとした調度品は、貴族の体面をギリギリ保っている感じ。そして、この家に滞在しているはずの廷臣法官達はいない。

 レオンハルトさんが王族だから、別の待遇なのかも。


「現在、全力でご令嬢の行方を追っています。ご令嬢が狙われた理由をご存じではないか」

「いいえっ、まさか……娘は、もうすぐ結婚するのです。大切な時期です。どうか、どうか娘を助け出してください」


 些細な事かもしれない。でも、侯爵の言葉に違和感があった。

 確かに、結婚を控えていたら大切な時期だと思う。でも、娘が大事だからじゃなくて、結婚をするための道具がいなくなった。そんなニュアンスを感じる。


「娘は……これまで、大切に育ててきました。ようやく、わたくし共の手を離れると思いましたのに……」


 夫人が目元を抑える。その姿は、娘を心配している母親のように見えた。でも、レオンハルトさんからは見えない角度で、彼の様子を窺っている。

 同情を誘うような、といったら言葉は悪いかもしれない。でも、そんな風に思った。


「本邸以外で所有している物件はお持ちですか」

「五番街に、引退した義両親が住む家があります」

「なるほど。ではお二方からも話を伺いたい。場所は?」


 レオンハルトさんが侯爵から話を聞いている。ここが一番街だから五番街までは遠いね。

 そんな事を思っていたら、窓の外で庭師が働いている姿が見えた。

 侯爵夫妻は、何だか少し怪しい。シトロン家で働く人達に話を聞いてみても良いかも。


 レオンハルトさんに提案し、侯爵夫妻からも許可が出た。

 ここで、魔石の出番だ。買ってもらった石を手の上に載せる。


「カチッとポチッと録音開始。魔石に音を集めるよ」


 平たい石の表面に録音ボタン、裏面に再生ボタンが着いた。

 これで証言を残しておける。


 令嬢の侍女から話を聞いた。


「お嬢様は、幼い頃はお身体が弱かったのです。ですが成長するにつれ強くなり……ここ一年ほどは、とても活動的になりました」

「活動的、というのは? 具体的にはどう変わった?」

「お元気になられても家の外には出なかったのですが……去年のお誕生日を迎えてから、よく街へ出かけるようになりました」

「よく行っていたのは?」

「そ、それは、その……」


 侍女が、目を左右に泳がせ始めた。

 分厚い本を読んでいなくてもわかる。これは、何か隠し事をしているんだね?


 どうやって聞き出そうかと思っていたら、ちらちらとレオンハルトさんと先輩を見ていた。その顔は少し赤らんでいる気がする。

 先輩の手を引いて、声を潜めて話す。


「先輩。色仕掛けであの人から話を聞き出してください」

「えー……ん、まあ、おれの役割か。長は無理だと思うし」


 作戦を遂行するため、先輩が侍女へ近づく。流れるように手を取り唇を寄せ、壁際に優しく追いつめる。


「働き者の美しい手だ。おれに、君の秘密を教えてくれないかな」


 耳元で囁かれ、侍女は腰砕けになってその場に頽れた。顔は真っ赤になっている。


「お、お嬢様に言われて……何度か、お側から離れたことがあります」

「その時、ご令嬢はどこへ?」

「わ、わかりません。時間を指定され、その時間に迎えに行っていたので……」

「そう。貴重な証言ありがとう」


 侍女の手を引き立ち上がらせると、先輩がレオンハルトさんを見た。頷いたため、侍女を解放する。

 名残惜しげに去って行く侍女を見ながら、先輩が彼女を評した。


「あの子、普段はあまり仕事をしていないかもね。侍女としては、手が綺麗すぎる」

「話している最中も、何度も手を触っていた。まるで暗記した内容を思い出しているかのように」

「侯爵夫妻もちょっと怪しい感じでしたし……この誘拐事件、令嬢が攫われただけではないのかもしれません」


 シトロン家から出る直前。週一で働いているという庭師からも話を聞いた。


「私の情報がお嬢様の行方に繋がるかはわかりませんが……何度か、仕事の最中に奥様だけがどこかへ行くのを見ました」

「何が気になった?」

「私の妄想ですがね……奥様は、外に恋人がいるんじゃないかって。ああ、もちろん旦那様には漏らしていませんよ? お家騒動があって仕事がなくなっては困りますから」


 庭師から話を聞き、シトロン家を出る。

 五番街へ向かう馬車乗り場まで歩きながら話す。


「仮に愛人がいるとすれば、侯爵夫人ともなれば人目を忍ぶのが定石。もしかしたら秘密の邸宅があるかもしれませんよ。あそこは婿を取ったから、全てを把握していないかもしれないし」

「もしかしたら令嬢がその場所を知っていて、犯人に利用されたかも?」

「その説も考えられる。すでに捜索依頼が来てからだいぶ時間が経ってしまった。五番街へ向かう前に携帯食を購入しよう」


 朝方に入った依頼。そこから時間が経って、もう夕方だ。夜になれば雨が降る。残っているかもしれない犯人の痕跡もなくなってしまうかもしれない。

 五番街まで行く馬車を待つ間、近くの店で携帯食を買った。


 そして、目的地へ向かう。

 街の間にはそれぞれ門があって、廷臣法官と兵士が入口の検問をしているんだって。でも本格的に行うのは、首都の外郭五番街。

 今は緊急事態だから、進む馬車が全てチェックされている。こんな状態で、犯人も良く一番街を抜けたよね。王宮に繋がる道も街中にあったし、もしかしたら門を通らないで行ける場所があるのかもしれない。


 それにしても……。

 緊急事態の時、移動がもどかしいね。今は馬車の検問も各街の門でされているから、普段よりも時間がかかっちゃっていると思うけど。

 道なりに下っていく馬車の中で、首都と他の街だけじゃなくて、首都内でもどこにでも行けちゃうような魔道具があれば良いのにと思った。




 五番街に着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 西地区の、老侯爵邸に向かう。五番街は一番街と比べて建物同士の間隔が広く、ポツポツと明かりが見えた。

 到着し、扉を叩く。


「まぁ、何てことでしょう。クリムが、攫われたなんて……」

「廷臣法官長様、どうか孫を助け出してください」


 驚いた様子の老夫人。それを支える老侯爵。その様子に嘘はないように見える。


「侯爵夫人に愛人がいるという噂があります。何かご存じではないか」

「……あの子は昔から芸術に造詣が深いですから、支援をしている方ではないかしら」

「その芸術家は、侯爵夫人から家を与えられていると聞いたことは?」

「確か……五番街の東地区に家を買っていたような……」

「なるほど。建物の特徴は」


 レオンハルトさんが、老侯爵夫人から話を聞いているけど……。

 何か、おかしい。令嬢が攫われたと聞いた瞬間の反応は正しかったと思う。だけど、立ち直りが早すぎる気がする。

 侯爵夫人の方へ意識を向けたいのでは。何て、考えすぎかな。


「よし。場所が判明した。直ちにそちらへ向かう」


 三人で、侯爵夫人が持っている家へ行く。西地区から東地区。真逆の方向だから、また馬車を待たなければいけない。

 やっぱり不便だよねぇ。もっと手軽に移動できる方法があれば良いのに。


 そんなこんなで到着した、侯爵夫人の秘密の別邸。明かりがなくて暗いから、邸宅に触りながらオノマトペでさっと照らす。


「パーッと明るく全てを照らせ、建物内を昼間のように! これで、中も明るいはずです」

「さすがだ。よし、早速捜査を始めよう」


 もしここに犯人が令嬢と潜伏しているとすれば、突然明るくなって慌てているはず。些細な物音も逃さないように気をつけよう。

 物陰から襲われても対応できるように、三人で固まって歩く。


 邸宅は二階建てになっているから、まず一階から。

 部屋の数は五つ。一つ一つ確認していく。


 捜査を進めていると、やけに絵画が多いと思った。壁に掛けられていないもの、真っ白なキャンパスもある。侯爵夫人が今支援しているのは、画家なのかもしれない。

 一階の部屋は倉庫というイメージ。その中で、レオンハルトさんが一枚の絵に注目した。

 農耕作業を描いた、どこにでもありそうな絵。


「レオンハルトさん? 何か気になる事がありましたか」

「……私の記憶にある絵と、違うような気がするんだが」

「画家なら、既存の作品を模写して練習するかもしれませんよ?」

「もしそうであれば、サインを似せる必要はない」

「えっ……もしかして、贋作?」


 部屋にある絵を見る。そこには優に二十以上の絵画があった。額縁に入っていたり、なかったり。

 もしこれが全て贋作だとしたら。


「ひとまず、この邸宅に犯人が潜んでいないか捜すことを優先しよう」

「は、はい」


 一階の捜索を終え、二階へ行く。

 二階へ行く階段は一つしかなく、もし犯人が潜んでいるとすればこの階にいるということ。

 気を張って進んでいると、コト、と物音がしたような気がした。レオンハルトさんを見ると、頷く。先輩も聞いたみたいだ。



 そして。

 贋作画家、ティエルを捕縛。

 レオンハルトさんが伝令鳥で知らせを飛ばし、五番街の廷臣法官達に連行されていった。ティエルはこれから、調べが進められるみたい。




 無関係と思われた贋作師。まさかこの捕縛が、誘拐事件の真相と繋がるなんて……この時は、思ってもいなかった。







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