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【一章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第二章 貴族令嬢誘拐事件

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012件目 ファンタジー世界における広域捜査


「現場での情報が皆無だ。このままでは犯人に逃げられる。広域捜査に切り替えるから、わたしについてくるように」


 そう言って、レオンハルトさんが早足で街中を進んでいく。追いつけないかな、と思ったけど、王宮の外でも風の揺り籠で運んでもらった。

 コナー先輩は贔屓だって抗議してたけど、自分の足下に流水を生成して滑るように移動速度を上げる。性格の明るさが前面に出てわかりづらいけど、先輩もできる人だよね。無詠唱だったし。


 天秤宮に戻ったわたし達は、すぐに最奥の部屋へ行った。

 迎えたケビンさんは何かを察したようで、二十体の小鳥の彫像を触って次々と活性化させていく。そしてレオンハルトさんが、大きな鳥の彫像に向けて指示を出す。


「シトロン侯爵令嬢誘拐において、現場での情報なし。広域展開とす。全地域に緊急配備! 新聞社、吟遊詩人、各種職業ギルドへ被害者の特徴を通達! 各所の廷番所ていばんしょにも同時伝達せよ!」


 続けて、レオンハルトさんが五体の鳥を生成する。


「風の魔法師に次ぐ。各街の宿屋、馬車会社、魔道具店の異常購入者がいないかも調査を命じる」


 指示を伝えると、伝令鳥が各方向へ飛んでいった。魔法で作られたからか、壁をすり抜けて最短ルートで行くみたい。

 ファンタジーって思って呆けちゃったけど、わたしにもできる事を見つけた!


「レオンハルトさん! 攫われてしまった令嬢の絵姿はありませんか?」

「それなら今……ちょうど、来たようだな」


 レオンハルトさんの視線を追うと、部屋の入口にザドルさんがいた。その手にはA4サイズぐらいの石板がある。

 レオンハルトさんがザドルさんから受け取り、見せてもらった。

 そこに描かれていたのは、垂れ目気味の令嬢の姿。ザドルさん、絵の才能もあったんだ。


「シトロン侯爵家にて、被害者令嬢の特徴を聞いてきました」

「聞いて? 絵姿で残されていなかったのか」


 問いに頷くザドルさん。でもレオンハルトさんは首を傾げている。絵姿がないのって、そんなに不思議な事なのかな?

 疑問に思いつつ、令嬢の追跡のために魔法を考える。


「あの、レオンハルトさん。既存の方法で令嬢の足取りを辿る方法は、ないですよね?」

「痕跡が見つかればまだ方法はあるが、現状では無理だ」

「わかりました。では、ちょっとまた挑戦してみますね」


 ザドルさんが持ってきた石板は、当然のことながら色がない線画。よりわかりやすくするために、金髪と碧の目っていう情報も追加して……。


「ピシッとピタッと追いかけろ。垂れ目の令嬢追いかけろ」


 詠唱を終え、コウモリ型の追跡カメラを生成した。身体の部分が一つ目の追跡カメラは、瞬きをしたタイミングでカラーの絵姿が瞼の裏に現れるみたい。

 追跡カメラは、レオンハルトさんの伝令鳥と同じように壁を通り抜けていった。


「これで、令嬢を見つけられたら戻ってくると思います」

「アンネちゃん、すごいね? そんなこともできるんだ」

「機能するかどうかは、まだわからないですけど」

「謙遜は美徳だが、時と場合による。貴殿はその力を誇って良い」

「あ、ありがとうございます……」

「え、アンネちゃん? おれの時と反応違わない??」

「コナー。私達も聞き込みをするからついてこい」


 また風の揺り籠で運ばれる。わたし自身、もっと移動が早くできるようにならないと。毎回レオンハルトさんに手間をかけさせちゃう。

 一瞬スケートボードが頭に浮かんだけど、あれは身体能力があってこそ成り立つ移動手段だよね。わたしにもできそうな、他の方法を考えよう。


 そんなことを思いながら、天秤宮を出た。

 向かう先は西地区の酒場「ミッドーニ」。昼間からお酒を飲む人もいるみたいで、お店に近づくと賑やかな声と綺麗な旋律が聞こえてきた。


「歓談中に失礼する。廷臣法官長のレオンハルト・ヴァランタンだ。店主はいるだろうか」

「ミッドーニへようこそ。奥でお話を伺います」


 レオンハルトさんが入った瞬間、店内の音が消えた。ピリッとした緊張感に包まれたのは、レオンハルトさんが怖いからかな。名乗ったし、王族ってわかったのかも。それなら緊張するのもわかる。


 そう思っていると、一人の男性に目が行った。柔らかそうな服を着て弦楽器を持っているから、さっきまで聞こえていた旋律の主かな?

 吟遊詩人だと思うけど、酒場にいるんだね。薄緑の髪色だから、令嬢を捜しているよって事を風に乗せて歌ってくれるかも。


 吟遊詩人に会釈をして、コナー先輩と一緒にレオンハルトさんを追った。

 酒場の奥はいくつか扉があって、まるで宿屋も兼任しているみたい。定番だよね、酒場と宿屋って。


 奥まで行こうとしたら、すでに話を伝え終えたレオンハルトさんが出てきた。肩には二体の伝令鳥がいる。伝え終わったのか、霧散して消えた。


「一番街と二番街での情報拡散は終わったようだ。ここでも情報はないから、私達も他の場所へ行こう」


 ミッドーニを出たわたし達は、次はどこへ聞き込みに行くかと相談中だ。

 レオンハルトさんの元には伝令鳥がひっきりなしにやってくるし、集音魔法の結果の紙の鳥も定期的に飛んでくる。


「まだ有益な情報が出てこないな」

「緊急配備も情報拡散もして、わたしの追跡魔法もやりました。後は何をすれば良いんでしょうか」


 この先の行動について考えていると、新たに伝令鳥が飛んできた。その伝言を聞いているレオンハルトさんが、目を見開く。


「重要な証言を得た。直ちに宿屋ファミリアへ向かうぞ」


 すぐに移動する。

 宿屋があるのは、一番街と二番街の境。西地区の端だ。白い建物の前にいくつもの花が植えられていて、温かいイメージがある。でも、何かあったのか数本折れちゃっているみたい。


「話を伺い、すぐに似ているお客様の部屋へ行きました。ですが、少し前に戻られたお連れの方と一緒に、逃げるように出て行かれました」

「その者達が泊まっていた部屋まで案内してもらえるか」

「レオンハルトさん!? すぐに追いかけなくて良いんですか!?」

「伝令鳥で追跡中と聞いた。私達は現場に何か手がかりがないか捜そう」


 勝手に焦っちゃったけど、レオンハルトさんの姿勢を見て学ぶ。廷臣法官たる者、冷静さを忘れちゃいけないよね。


 表の花が数本折れちゃっていたのは、犯人が逃走した時の被害かな。

 え、待って? おかしくない??

 令嬢って、確か誘拐されているんだよね? それなのに、一緒に逃げる?? もしかして、誘拐犯は令嬢と顔見知りなのかな?

 ……いや、誘拐するぐらいだ。ファンタジーの世界だし、魔法で脅されているのかもしれない。


 店主の案内で、二階の角部屋に行く。

 部屋に入った瞬間、甘い香りがした。


「……コナー先輩。香水を使いました?」

「いや、使ってないよ? どうしたん?」

「先輩がつけていた香水と同じ香りがしたんです」

「マジ? あの香水、今の流行りなんだよね」

「ということは、香水店も捜査の範囲に含めた方が良さそうだ。ここの現場を検証した後、その店へ行くぞ」


 言いつつ、レオンハルトさんは現場検証を続ける。わたしはやり方がわからないけど、先輩はやらないのかな?


「おれは、水分が関わる事なら強いんだけどね。濡れていない現場は長の方が適任なんだ」

「濡れて……?」


 水回りの現場だろうかと考え、思いつく。廷臣法官は前世で言う警察と裁判官。現場で水分と言えば、血痕。

 ブルッと震える。自ら志願したけど、現場に行くって事はそういう場所にも行くかもしれないんだ。


「アンネちゃん、怖がらなくて良いよ。そういう現場にはおれが行くか、ったあ! 長!! 痛いじゃないですか!!」

「金の髪と、薄緑色の髪を発見した。金の髪が令嬢だとすれば、誘拐犯は風属性の持ち主ということになる」

「風属性の犯人……もしかして、今回も煙化をする可能性が?」

「それはわからない。ただ、風属性を持っているとすれば気配を消しやすい。ニオイで辿るのは難しそうだ」


「無視しないでくださいよ、長!!」と言っている先輩を置いていくレオンハルトさん。先輩も負けじとついて行く。

 そんな二人にわたしも続いて、外へ出た。折れていた数本の花の所にいる。


「コナー。恐らく犯人の手がかりがある。頼んだぞ」

「了解しました。おれの力を、アンネちゃんに見せ、うわっ! 長!! 無言で攻撃は止めてっ」


 レオンハルトさんに対して軽いなと思っていたけど、二人は仲良しなのかな? じゃれ合っているみたいに見える。

 微笑ましいなぁと思っていると、先輩が折れた数本の花に手を向けた。


「大気を巡る水のマナよ、水属性魔法師コナー・リンガルが命じる。この花の水分が移動した先を示せ」

「おぉ! 何か出てきた!」


 先輩が詠唱を終えると、まるで雫が弾むように動き始めた。一定の間隔なのは、犯人の歩幅を示しているのかもしれない。

 三人でその雫を追いかける。でもすぐに、馬車乗り場で途切れてしまった。


「ここまでか……。この先は追尾した部下達の報告を待とう。コナー。香水店に案内してくれ」


 その後先輩の案内で香水店へ行ったけど、流行っているから購入者は多岐に渡る。件の令嬢が購入していないことだけわかった。


 追尾した人達の報告待ち。途切れた犯人の足取り。追加の情報もなく、今できる事はない。

 首都全体の捜査網が敷かれている。それでも新たな情報を得られないって事は、犯人は首都を熟知しているのかも。

 今、この瞬間にも令嬢の命が危険かもしれない。

 すぐに見つけてあげないと。そう考えていた時に、ふと思った。


「あの、レオンハルトさん。誘拐事件なら、シトロン家に何か要求が来ているんじゃないですか」

「いや。侯爵家に数名待機させているが、犯人からの要求はないようだ」

「そっか……それなら、犯人の目的は何だろう?」

「これだけの捜査網に引っ掛からない相手だ。その目的は捕まえてから聞けば良い」


 レオンハルトさんと話していると、先輩が近くでにやついていた。ここで反応しちゃダメなんだろうなぁと思って、あえて無視する。


「隠れ家の候補を絞り込むため、一度天秤宮へ戻ろう」

「わかりました」


 三人で、天秤宮へ行く。机の上に地図を広げ、指差し確認する。


「ヴァランタン国は一年で気候がほとんど変わらない。緩んだ生活をしないため、社交シーズンが設けられている。今はその時期から外れていて、一番街には空いている邸宅も多い」

「貴族の家に不法侵入なんて……犯人は、肝が据わってますね」

「他にも、貴族は第二第三の邸宅を持つことが多い。爵位を譲った者は五番街で暮らすことを望む」

「シトロン家も、そういう家ってないですかね?」

「得ている情報が少なすぎる。私達も、侯爵家ヘ聴取しに行こう」


 シトロン家へ向かっている最中、伝令鳥が飛んできた。それによると、追跡班は犯人を見失ってしまったらしい。

 三番街まで行った、ということはわかった。三番街には、他の街へ行ける転移門みたいなのがあるんだって。

 レオンハルトさんは、即座に転移門周辺の巡回を強化するように伝えた。




 ▲▲▲


 オルミンが、邸宅の女主人に会釈をする。

 ここはまだ安全ではないが、時間は稼げるだろう。その間に、次の行動を決めなければいけない。


「絶対に、捕まるわけにはいかないんだ」


 ▲▲▲ 




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