010件目 幽霊の正体!?
立ち上がってドレスを風魔法で乾かした王妃様は、自信満々の表情になる。
「旧友だが、テネシィのことは庇えん。せめて私がこの騒動に終止符を打とう」
「母上。何をされるおつもりですか」
「作戦には星渡人の協力が必要となるが、良いか」
「あ、はい。わたしにできることなら、参加します」
「では、そなたら二人に伝えよう。私の作戦を」
王妃様から作戦を聞いた。
決戦は、明後日だ。
決戦当日。わたしもレオンハルトさんも、謁見の間にいた。
そして謁見の間には、王宮の掃除係が全員集められている。そう、犯人も。
赤髪の緑目……。あ、あの人だ。化粧で誤魔化しているけど、うっすらと顎の所に火傷の痕みたいなのが見える。
「この度は、忙しい中よく集まってくれた。普段から王宮内を清潔に保ってくれているそなた達に、労いの言葉をかけようと思ってな」
掃除係が一人ずつ前へ出ていく。王妃様の隣には、侍女が一人。
王妃様に言葉をかけられた人達は、興奮しているように見えた。
王妃様によれば、犯人は絶対挑発に乗ってくるって話だけど……。
犯人も、長い列の後ろの方に並んでいる。
犯人の執着を考えたら最初に声をかけられる名誉を奪いに行くと思ったけど、意外と静かに待っていた。
と、思ったのも束の間。
「きゃー!?」
「な、何だ!?」
掃除係達の悲鳴と共に、「パキッ、パキパキッ」と木が鳴る音がした。それは柱だったり花台だったり、玉座へ続く階段だったりと様々だ。
王妃様を見ると、大きく頷いた。
「皆の者、静まれ。これは二属性の魔法を組み合わせた、巧妙な悪戯である」
王妃様の声に、掃除係達がざわめく。見た感じ、何人か複数属性を持っているみたい。その人達が周囲から目を向けられ、手を振ったり青ざめたりして、自分じゃないと否定している。
「王宮内において、無申請の魔法使用は厳罰の対象である。今、ここで名乗りを上げれば罰を減じよう」
王妃様の声に、犯人は手を挙げない。それどころか、さらに激しくラップ音みたいな音を出す。
音は激しさを増し、急速加熱し急激に冷やされた花台が弾けた。でも、それを察知していたレオンハルトさんが防風膜を張る。怪我人はいない。
「アンネ。こちらへ」
「はい」
名前を呼ばれた瞬間から、犯人の攻撃が激しくなった。わたしを直接狙うように、周辺が暑くなったり寒くなったりする。
もう、犯人は木だけを魔法の対象としていない。赤地に金の刺繍が入った絨毯の上を歩いていても、すぐ横の床石が温度変化していることがわかった。
「アンネ。一昨日私に見せてくれたアレを、ここで披露しなさい」
「わかりました」
作戦を聞かされただけで、見せてはいないけど……。
わたしは、魔法を探知するオノマトペを発動する。
「ビビッと一発、丸わかり! 規則違反はだーれだ!」
玉座がある階段の前で振り返ると、謁見の間が全て視界に入った。両手を左右に広げて、謁見の間にいる全員に魔力探知機をつける。
頭上に現れたのは、丸い入れ物。魔法を使っていれば、そこに使った属性の色が反映される。
レオンハルトさんの頭上には緑の水が。そして犯人の頭の上には黄色の水が入れ物の中に入っていた。水の量は、使った魔法の数もわかる。
犯人の魔力探知機は、ほぼ満杯だった。
「廷臣法官長! その者を捕らえよ!」
王妃様の号令でレオンハルトさん、及び謁見の間にいた兵士達が一斉に動く。犯人は魔法を使おうとしたけど、わたしが阻止する。
「カックンカックン、膝カックン! すってんころりと大打撃!」
犯人がバランスを崩し、放とうとしていた鎌鼬が王妃様の元へ飛んでいく。
でも、王妃様は気合いの一振りでその鎌鼬を無効化した。手に風属性を纏わせていたのか、王妃様の素の力か。何にせよ、すごい。
その後の犯人はレオンハルトさんが持っていた魔力抑制の腕輪をつけられ、自害させないように口に布を噛ませられた。
大捕物のために呼ばれた掃除係達は、ここで解散。謁見の間から出て行った。
「んっ、んー」
兵士に腕を掴まれても尚暴れようとしている犯人の元へ、王妃様が近づいていく。頭を下げるように押さえつけられても、犯人は王妃様を見ることを止めなかった。
その顔は、怒りとは違う表情になっているように見える。
……もしかして?
犯人が思っていることを推察する。でもそれを王妃様に伝えるかどうかは迷った。
「テネシィ。私は悲しいよ。なぜ、こんな騒ぎを起こしたんだ」
「んんっー、んー」
王妃様が犯人に向ける視線は、慈愛に満ちていた。
犯人も、恨みのような負の感情を向けていないように見える。それどころか、少し顔を赤らめていた。
このまま行けば、犯人の動機が明らかになる。尊敬や親愛の先の深層心理も。
さすがにそれは、と思っていると、犯人が急に苦しみだした。
「テネシィ!? どうした!」
「ぅっぐぐあぁ……」
犯人は苦しそうにもがいている。前世のドラマで何回か見たことのある、奥歯に毒を仕込んだパターンかと思った。
すぐに噛ませた布を取る。口の中を見ても、それっぽいものはわからなかった。でも、どこからかあのニオイがした。
甘く焦げた、煤けた油のようなニオイが。
「ッ、これか!!」
ニオイの発生源が、犯人の左小指にあった指輪だと判明。すぐに抜き、踏み壊す。
その指輪から、毒が入ったのかもしれない。犯人の左手は、小指を中心に赤黒く腫れ上がっていた。それどころか、手先から手首の方へ赤黒い染みが広がっているように思える。
「テネシィ! 今すぐに左手を焼き切れ! そのままだと死ぬぞ!」
「……ラフィーナ。私の話、聞いてくれる?」
「あぁ、聞くとも! だから、早く!!」
犯人は王妃様の言葉を信じ、自分の魔法で毒を焼いた。左手は使えなくなったけど、どうやら毒の進行は止まったみたい。
危うく犯人が死んでしまう所だった。どうにか命を長らえた後の犯人は、まるで憑きものが落ちたかのような顔をしている。
「テネシィ。そなたを牢へ入れる。話はそこで聞こう」
犯人は兵士に連れて行かれる。その背中を見送る王妃様は、どこか寂しそうだった。
「アンネ、レオンハルト。大義であった」
「あ、あのっ……王妃様!」
場所を移動しようとした王妃様に駆け寄る。足を止めてくれたけど、今から言おうとしていることは本当に正しいのかどうか悩む。
わたしの勘違いかもしれない。でも、もし。勘違いでなかったら。
せめてレオンハルトさんには聞こえないように、声をひそめる。
「わたしの勘違いかもしれません。一つの意見として聞いてください。犯人から話を聞いた時、その感情を否定しないであげてください」
「わかった。アンネが何を伝えたいかはわからないが、念頭に置いておこう」
「ありがとうございますっ……」
バッと頭を下げると、王妃様は謁見の間から出て行った。
レオンハルトさんが横に来る。でも、わざわざ声をひそめたからか、どんな話をしたのかは聞かれなかった。
王宮内連続盗難事件は、これにて終了。
レオンハルトさんが部屋まで送ってくれるらしい。途中でザドルさんも加わって、いつもの陣形で螺旋階段を上った。
後日。
王妃様に呼び出された。女二人で、と。
今は、王妃様の私室に招待されている。
「テネシィから話を聞けた。アンネは、どこまで知っていたのだ」
「何も。ただあの人からは王妃様への執着心を感じていましたし、言葉の選び方や表情から予想しました」
「なるほどな。そなたは、観察力に優れているのかもしれない。廷臣法官は男所帯で大変だとは思うが、このまま働くのはどうか」
「働けるのならば、是非に!」
「私が許可しよう。また改めて、その旨を通達すると約束する」
「ありがとうございます」
話は終わりかと思っていると、王妃様が話を続ける。
「此度の一件。使われていた詠唱や知識。どれを取っても、そなたは星渡人だと断定できる」
「その言葉……姫様達も言っていましたが、どういう意味ですか?」
「ヴァランタン国ではない他の国で過ごした記憶を持つ、神の使徒……という所か」
「えっ……そんな、大層な役なんて無理です!」
「星渡人は国の発展を促すと言われているが、気負うことはない。そなたがやりたいようにやれば良いのだ。ただ、その見極めができていなかったため、これまで条件付きとさせてもらった」
「そうだったんですね。そうしたらもう、自由に出歩けるということでしょうか」
レオンハルトさんと一緒にいられなくなるのは寂しいなと思っていると、王妃様は首を振った。
「そなたの部屋は移動とする。ただ、星渡人というのは貴重な人材だ。何かあっては国の損失となる。愚息と一緒では息が詰まるやもしれぬが、これまで通りレオンハルトと一緒にいてくれ」
「わ、わかりました」
まだ一緒にいられる。そんな気持ちが、にじみ出てしまったのかもしれない。わたしを見た王妃様が、微笑みながら自身の顎を触った。
「部屋はこの後、メリッサに案内させる。荷物も運ばせるから、そなたはただついて行くだけで良い」
「わかりました。ありがとうございます」
王妃様に頭を下げ、部屋を出る。すると大捕物の時に王妃様の隣にいた侍女が立っていた。この人がメリッサさんかな?
メリッサさんに連れられて、わたしは新しい部屋まで案内された。
国の損失ってことだから、国賓扱いってことかな??
犯人はかつて、王妃様と王太子妃争いをしていたみたい。その時、他の候補者に実害を出したんだって。だから、アスドート家は王宮に出入り禁止になった。
そんな、今は考えなくても良いことを考えてしまう。
メリッサさんを見る。
「……あの、案内を間違えたってことは?」
「ありません。ラフィーナ様より直々に仰せつかっております」
「で、ですよねぇ……」
「アンネ様は、ご自身の支度はお一人でできますでしょうか。もし人手が必要とあれば」
「い、いえっ! 問題ないですっ!!」
「かしこまりました。では、私はここで失礼いたします」
完璧な仕草で礼をしたメリッサさんは、案内してくれた部屋から出て行った。
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長らく廷臣法官長としての席を外していたレオンハルトは、久方振りの事務仕事を終えて自室へ戻る。
その際、隣室から気配を感じた。物置として使っていたため、誰かが入る理由がない。
まさか新たな侵入者かと、ベッドの脇に置いていた剣を取り、取っ手に手をかけた瞬間。
「あ、あの、レオンハルトさん。そこにいますか」
「なっ……なぜ、貴殿がそこに」
「王妃様から、新しい部屋を賜りました」
「なる、ほど……? いや、おかしくないか。なぜ貴殿が?」
「わたしもそう思います。王妃様から、お話は来ていませんか?」
扉越しに聞こえたアンネの声に戸惑いつつ、机の上を見る。
勅書が、置かれていた。
「勅令、承った。今後もよろしく頼む」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします」
アンネの言葉を受けたレオンハルトは、万が一にも間違いが起こらないように隣室へ続く扉の前に机と椅子を移動した。
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一章は、これで終了です。
この次は、閑話休題的なお話を入れます。
その後に、二章へ入ります。
十二章完結までまだ先は長いですが、お付き合いいただける方はブックマーク登録をして待っていただけると幸いです。




