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【一章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第一章 王宮内連続盗難事件

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009件目 やっぱり犯人は幽霊!?


 先頭に立ったレオンハルトさんは、道を塞いでいる瓦礫に手を向ける。


「大気を舞う風のマナよ、風属性魔法師レオンハルト・ヴァランタンが命じる。道を塞ぐ瓦礫から水分を抜け」


 黒っぽいように見えていた瓦礫は、みるみるうちに薄い色になっていく。それどころか、軽くなった瓦礫を無詠唱で左右に動かした。

 わたしもよく運ばれていたし、物を動かす事なんてレオンハルトさんにとっては朝飯前ってことだね。何となく瓦礫を触ってみたけど、完璧に乾燥していた。

 レオンハルトさんの魔法って、ザ・ファンタジーって感じで良いよね!


「よし。道が開けた。犯人を追いかけよう」


 執務室から奥まで、ひたすら真っ直ぐ進んできた。でも、それっておかしくない? あんなに真っ直ぐに道は延びているものかな。

 煙化した犯人は幻覚で、あの場にはいなかった可能性もある。だとしたら、どこかに見つけられなかった横道があるかもしれない。

 三人で、犯人の行方を捜す。

 開けた空間には怪しいものはなくて、一度来た道を戻ることに。ザドルさんを先頭に進んでいると、レオンハルトさんが足を止めた。


「どうかしましたか?」

「……ここに、違和感があるのだが」


 レオンハルトさんが示したのは、普通の土壁のように見える場所。でも、眉をしかめながら何度も見ているから、わたしにはわからない、属性の魔法みたいなのを察知しているのかな。

 レオンハルトさんが睨みつけている部分の壁に、手を置いてみる。


「って、えっ!?」


 壁だと思っていた所が、そうじゃなかった。別に体重を乗せていた訳じゃないけど、全く考えていなかったからバランスを崩す。

 とっとと、転ばないようにしたら前にあった何かにぶつかった。


「ったぁ……ん? 鏡??」


 土壁の中になぜ鏡が、と思えるぐらい、目の前の壁が光っていた。ぼんやりとしているけど、自分の姿が映し出されているとわかる。


「大事ないか!」

「あ、はい。問題ないです」

「それならば良かった。しかし、ここは……」


 レオンハルトさんが周囲を窺う。左右にも前後にも、ぼんやりとした三人が映っている。完全な鏡という訳じゃないけど、鏡の迷路に入り込んじゃったみたいだ。


「正面の土壁が映っていたから、一本道だと思ったんですね」

「そのようだ。犯人がこの先にいるかもしれない。十分気をつけて進もう」

「っあ、大丈夫ですか!?」


 進もうとした矢先、レオンハルトさんがツルピカの壁にぶつかった。

 わかる。鏡の迷路って、無闇に進めないんだよね。

 思わず前世を思い出して頷いていたら、ザドルさんが地面に手を当てた。


「大地に眠るマナよ、地属性魔法師ザドルが命じる。我らを正しき道へ導け」

「鏡の迷路に、そんな攻略法が……」


 ザドルさんの詠唱と同時に、地面がもこもこっと少し盛り上がった。それを辿れば、壁にぶつからずに進めるみたい。

 迷いもせずこの方法を編み出すとは、さすがレオンハルトさんと一緒に行動しているだけある。


「……そな……」

「王妃様の声です! 急ぎましょう!!」


 咳き込むような王妃様の声が聞こえ、ザドルさんの攻略法に従って奥へ急いだ。




 右へ左へ、進んで少し下がって。

 足下のガイドに沿って進んでいく。複雑な道になっているのは元々なのか、それとも犯人が仕掛けた罠なのか。

 考えることはあったけど、それよりも。


「ぁっつくないですか!?」

「そうだな。これは、なかなか堪える」


 レオンハルトさんが、顎に伝った汗を手の甲で拭う。わたしは男性の前ではしたないと思いつつも、二人の見ていない所で服をパタパタと動かして空気を入れた。

 鏡の迷路を進むにつれ、どんどん内部の熱が上がってきている。心なしか、空気も薄くなっているような気がした。

 服の裾を掴んでいた時ぬくぬく魔法をかけたままだった事に気づき、すぐに解除する。


「ふわっとパッと、ぬくぬく解除。代わりにそよそよ春の風!」

「おお……気持ち良いな」


 レオンハルトさんもザドルさんも、服の中から吹き上げる風で涼んでくれている。

 これで動きやすくなった。でも、こうして暑いということは、王妃様も危険ということだ。わたし達よりも、厚手の格好をしていると思うから。


 それから、また足下のガイドに沿って進んでいく。そよそよ魔法がなかったらやる気を削がれていたぐらい、ずっと暑い。


「あっ、あの影は!」

「えっ? あっちにも!?」


 進めば進むほど、ツルピカの壁にぼんやりとした四人目が映る。でもそれは幻覚なのか、暑さでやられてしまっているのかわからない。

 でも、どうにかこうにか、足下のガイドが示す最後の場所までやってきた。


「こ、この先ですか……? 何も、ないように見えますが」


 足下のガイドは、直線を示している。でもその先には、わたし達三人をぼんやりと映すツルピカの壁だけ。また入口の時みたいに正面の壁を反射しているのかと思ったけど、様子が違った。

 異常に、暑い。そよそよ魔法じゃ対応できないほど、熱を感じる。


「これだけ暑いと、水をぶつけてもすぐに蒸発しちゃいますよね」

「それどころか、温度変化で事故が起こる可能性がある」


 この先に進みたい。でも、入口でした時のように手を添えるのは無理だ。異常な熱で、火傷じゃ済まないかもしれない。


「んー……何か、方法があると思うんですけど……」

「何かしてごらんなさい? 私が仕掛けた罠が、二人の姫を襲うわよ!!」

「えっ……」


 どうやら犯人は声が届く範囲にいるらしい。

 不審な発言だ。これはこの先にわたし達を行かせないようにしている、罠かもしれない。でも、今までの行動を考えると、罠が仕掛けられていないとも言いきれない。


「レオンハルトさん、どうしましょう……」

「ここは一度、確認に戻らなければいけないな」


 言いつつ、レオンハルトさんはザドルさんを見た。頷いたザドルさんは、足音を立てないようにその場を離れる。


「アスドート伯爵令嬢。このままだと王族誘拐に加え、殺害未遂、もしくは殺害となれば極刑は免れない。今ならまだ、間に合う。自分の罪を認めて出頭しなさい」

「ここまで来て、そんな馬鹿なことをするわけがないでしょう? やっと、手に入れたのよ」

「手に入れた? それはどういう意味だ」

「私の崇高な願いは、私にしかわからないことよ」


 レオンハルトさんが、時間稼ぎをしている気がする。ザドルさんが様子を見に行くまで、持ちこたえないといけないんだよね?

 でも、入る時には聞こえていた王妃様の声が全く聞こえないのは気になる。ザドルさんを待っている間に、王妃様が亡くなってしまうかもしれない。


「あ、あの、そこに王妃様はいますか」

「ラフィーナは私の隣で美しい寝顔を見せているわ」

「そ、その、ここは暑いです。王妃様は寝ているのではなく、体調が悪いのではないですか? だとしたら、迅速な対応が必要です。わたしなら、対応が可能だと思います。傍に行ったらダメですか」

「何人たりとも、私とラフィーナの間に入れさせないわ」


 女性同士であればどうかな、と交渉してみた。でも、上手くいかない。

 そうだよね、眼前の壁の仕組みがわからなければ、安全な場所だもんね。

 うーん……。何か、突破口みたいなものはないものか。


 ザドルさんは、まだ戻ってきそうにない。ここは、わたしかレオンハルトさんがどうにかするしかない。


「アスドート伯爵令嬢。貴女の望みは何だ」


 レオンハルトさんが、壁の仕組みがわかっていないのにじりじりと前に出て行く。邪魔者を跳ね返すような熱で汗が滝のように流れていた。

 強行突破なんて、そんなの危なすぎる!

 わたしはとっさに、レオンハルトさんの袖を掴んだ。振り返ったレオンハルトさんを見て、首を振る。

 何か……何か、ない!? この状況を打破できるものが!?


「ッ。そ、その、あなたは王妃様のために動いたんですよね!?」

「そうよ。それなのに……」

「そ、それは、つらかったですよね。努力が報われないというのは、とても悲しいです」

「そうよ。あなた、わかっているじゃない」

「で、でも、そうやって動いたのに、どうしちゃったんですか? このままでは、これまでの努力が水の泡になっちゃいます」

「無駄にはならないわ。今が好機なの」

「それは……」


 どういうことか。

 質問しようとしたら、ザドルさんが戻ってきた。そして、大きく頷く。ルリアーナ姫もロジェナちゃんも、無事って事だ。

 躊躇う心配がないなら、この壁の仕組みを明かす!


「ムワッと熱気をカシャッと記憶! ピピッと脳内解析、即終了! 見つけた!!」


 目の前にある熱の壁に、少し屈めば人が通れるような抜け道が見える。すぐにそこをくぐった。


「まさか!? ッ!」

「きゃぁっ!!」


 犯人はやっぱり頭が頭が回る。わたしと目が合うや否や、無詠唱で鎌鼬攻撃を仕掛けてきた。でも、続いていたレオンハルトさんの防風膜に助けられる。

 土壁を出して防御していたザドルさんが攻撃を仕掛けるけど、犯人は煙化して逃げていってしまった。


「ザドル! 深追いはするな」


 ザドルさんが動こうとするけど、すぐに止めた。そして、レオンハルトさんが防風膜を解除する。


「あ、ありがとうございます……。助かりました。無詠唱でもいけるんですね」

「一度実行した事のある魔法は、無詠唱でできる」

「な、なるほど……」


 レオンハルトさんの魔法技術は、やっぱり卓越している。

 感心したけど、今は王妃様だ。すぐに駆け寄る。ドレスは汗でぐっしょりと濡れているのに、顔からはもう汗が出ていない。手先が痙攣している。


「ザドルさん!! 今すぐに拳大ぐらいの石を五つ用意してください!!」


 ザドルさんに指示を出しつつ、わたしは王妃様全体を視界に捉えるような位置に立つ。


「スースー涼しい風よ吹け! 王妃様の身体を冷やせ!」


 そよそよ魔法よりも一段階上の風を吹かせ、ザドルさんから石を受け取る。


「ヒヤッと冷たい石になれ! 熱を取るまで熱吸うな!」


 自販機から缶を買ったばかりぐらいの冷たさになった石を、首の両脇、左右の脇の下、そして失礼しますと声かけしてドレスを跳ね上げ足の付け根に挟みこむ。

 ドレスを戻し、一息つく。


「ふぅ……これで応急処置、は……あ、あの、今さらですが、わたしは投獄ですか」

「なぜそう思う?」

「そ、その……緊急事態とは言え、王妃様の肌を露わにしてしまいました」

「貴殿の言う通り、緊急事態だ。私からも母上に伝えておく。ザドルは、母上を運ぶための担架と人員を用意してくれ」


 ザドルさんが指示を受け、またこの場を離れた。


「……ん……」

「お、王妃様!? お目覚めですか!?」


 目を覚ました王妃様が、脇の下に入れられていた石を見て不思議そうに首を傾げた。


「これは、そなたが?」

「は、はい! 緊急事態とはいえ、勝手に触れてしまい申し訳ありませんっ!」

「いや、良い。星渡人の知識で私は助かったようだ」

「母上。今、人を呼んでいます。まだ横になっていてください」

「テネシィは、逃したか」

「申し訳ありません」

「良い良い。私の体調を優先したのだろう」


 王妃様は、自己回復力が高いのかもしれない。レオンハルトさんと話しながら、顔色が戻ってきている。

 そんな王妃様を見ていたら、ニッと笑った。



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