000件目 プロローグ
「……申し訳ありません。アンネ様の御髪を、見せていただけますか」
今日は成人の儀。
十六歳になった魔法師としてどんなスキルを授けられるかわかる機会だ。
黒髪黒目はわたししかいなくて、今日も教会で遠巻きに観察されていた。
そんなわたしはもちろん、周囲に不快感を与えないために頭まですっぽりと隠せるローブを着ている。
で、今はそのローブを取ってくれないかと、目を輝かせた祭司様に言われているところ。
同じ日に成人の儀を迎える人達とは真逆の反応をする祭司様を見て、わたしは恐る恐るローブを外した。雑にまとめただけの長い黒髪が、全方位から注目される。
「おぉっ、やはり!!」
興奮したような祭司様は長い裾を持ち、全速力で教会の外へ行ってしまった。
それからわたしは、なぜか首都の大聖堂にいた。
白亜の大聖堂はとても荘厳で――とか言っている場合じゃない。大聖堂で働く人達が全員いるんじゃないかってぐらい、多くの人達が祭壇の周りに集まっている。
立派な口髭があり細めの眼鏡をかけた老祭司様が、「んんっ」と咳払いをした。
「それではアンネ様。こちらの水晶へ触れてもらえますかな?」
にっこりと微笑む姿は、落ち着いた雰囲気がある。
わたしは老祭司様の様子に安心して、祭壇の上にある水晶に手を伸ばした。
「な、何と!?」
その見た目からは想像もできないような大声を出した老祭司様は、胸元から何かの紙を取り出した。
折り目の端が切れるくらい使いこんでいるんだな、と思っていたら。
「古代文字を確認!! 至急、陛下に連絡を!!」
老祭司様の一声で、大聖堂内は慌ただしくなった。
……オノマトペ魔法?
老祭司様が使いこんだ紙で確認していた鏡文字を、わたしは苦もなく読んだ。
その、瞬間。
わたしの頭の中に大量の情報が流れてきた。処理しきれないわたしは、その場で倒れてしまったんだ。
目を覚ましたわたしは、大聖堂内で七日間の静養をよぎなくされた。
暇、である。
……この時のわたしは、転生ハイになっていたと思う。
つい。そう、うっかりだよ? 静養している部屋から見える中庭が、ちょっと寂しいと思ったんだ。
それで、魔法も使ってみたいしって軽い気持ちで、出しちゃった。
夜に淡い四色の光を放つ、月桜を。
青、赤、緑、茶色のグラデーションになっている花びらは、目立つ。
大聖堂で月桜を出してしまったわたしは、その後速やかに王宮へ連れてこられた。雨が降る深夜なのに移動を求められた時は驚いたよ。朝で良いじゃんって。
ローブを深く被り、周囲を厳つい兵士達に囲まれ、まるで誰にもその姿を見られないように、ぐるぐると螺旋階段を登らされた。
わたしは罪人か何かかな?
そんなことを考えてしまうような扱いだったと思う。
「オノマ機密」始まりました。
今後、大体4500字ぐらいで一話ずつ投稿していきます。
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