番外編 航路の白鯨
ゼーレフォン・・・。
「では行きますか。」
江田野二佐のUS-2が『ましゅう』からの燃料補給を終え、発進準備に掛かっていた。
「はい。お願いします。」
日本で精密検査を受ける為、クローディアも搭乗していた。
桟橋には多くの住民が集まり口々に「ありがとう」と感謝の声を送っている。
「出力上げ!離水準備!」
江田野達もコックピットの窓越しに手を振り返す。
「七時間じっくりと海を空から眺めています。」
いずもでの三日間は笑談に、US-2で戻る時は緊急事態であったので、機内では作戦会議をしていた。
「横須賀に帰るぞ。」「よおーそろー。」
今回の日本への往路は特に何も無い。だからこそ海を眺めている事しかできなかったのだが・・・。
「うわぁ~。」
目をキラキラさせて食い入る様に見つめるので、わずかだが暇つぶしになりそうな事を考えれる。
ゼーレフォン離水から四時間、横須賀まで残り三時間・・・。
「やはり日本も神話から成り立っているのですね。」
海を見続けるのに飽きたので、互いにどんな国なのか、神話の観点まで持ち出して披露している。
「夫婦の神様の持つ矛の先端から滴り落ちた雫が固まり島になった、とは言いますが現在では考古学や地
政学に基づいた科学的な証明が成されているので、この話は全否定されていますが。」
「何かつまんないですね?」
「そうは言われましても・・・。」
江田野たちにとっては、確実に専門外である。
「ジュッシュ公国は-」
ここからは長い話になる。
三十分後・・・。
「・・・。・・・っ!クジラが居ます!!」
副操縦士が嫌気を刺し窓の外を見ると、そこには目測で20mは有ろうかという、巨大な『シロナガスク
ジラ』が居た。
「すっげえ!初めて見ました!」
「おい!カメラはあ、るかな・・・?」
一気に歯切れが悪くなる。
「ゴムボート以外・・・、全部置いて来ています。」
平時なら、不審船の情報収集に一台は最低用意してあるが、不要物として、陸に揚げていた。
「なぁ~、なんだ?見れただけでも幸運と言うし、多少はな。」
凄まじい後悔を残しつつUS-2は横須賀を目指す。