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33話 合格発表


 試験結果は翌日すぐに発表された。

 学校の正門に張り出された大きな看板に受験番号が張り出されている。

 朝食を食べると、すぐに確認に向かったレティシアはドキドキしながら自分の番号を探す。



「レティ、俺のはあったよ」


「よかったね、おめでとう」


 ほっと安堵するレティシアだが、誰一人として結界を壊すまで至らなかった中で、唯一結界を壊して教官を医務室送りにしたデュークが落ちるはずがない。


 そこは心配していなかったので特に驚きも感動もなく受け入れたレティシアの方が問題である。

 受験番号はデュークと連番だが、張り出されている番号は試験の順位となっており、デュークの隣にレティシアの番号はない。


 デュークの番号は堂々の一位だ。

 それは筆記試験も問題なく答えていたというのがそれで分かる。


 レティシアも筆記試験だけはよかったはず。

 一縷の望みをかけて、順位を下っていくもののなかなか見つからず焦りの色を見せるレティシアだったが、かろうじて受かっているような後ろの方で番号を見つけた。



「ほ、補欠合格……」



 これは素直に喜んでいいものだろうか。

 いや、補欠だろうがなんだろうが受かったのだから問題ない。

 そう気持ちを切り替えてほっと胸をなで下ろす。



「一応はあったからよし!」



 昨日からずっと、やらかした! と思って落ち込んでいたレティシアは感激のあまり涙が出そうだ。

 しかしその感動に茶々を入れる者が一羽。



「おー、よかったな、レティ。補欠だけど」


「さすがに無理かと思ってたぁ~」


「俺様もあれはもう駄目だと諦めてたぞ。補欠だけど」


「補欠でも受かればこっちのもんよ」



 レティシアは『補欠』を連呼するエアリスをじろりと睨む。

 周囲が思わず吹き出して笑うほどの弱い魔法しか出せなかったので、補欠だろうが番号が載っていて御の字だ。

 それなのに、エアリスはまだ揶揄してくる。



「相棒が補欠だなんて嘆かわしい……」



 しくしくと涙も出ていないのに、羽で目元を拭っている。 



「まだ言うか」



 レティシアは人差し指でうりうりとエアリスの頬をつついていると、デュークが短剣を手ににじり寄ってくる。



「レティ。今日の夕食は焼き鳥でお祝いしよう」


「そ、それは普通の焼き鳥よね? さすがにエアリスで乾杯はしたくないんだけど」


「じゃあやめる」

 


 ころりと意見を改め短剣を腰に差したデュークに苦笑しつつ、レティシアはデュークの手を握って引っ張った。



「今日は合格祝いするわよ。デュークはなにが食べたい?」


「レティが食べたいものがいい」


「俺様は肉がいい」 


「お前は関係ないだろ」



 デュークの鋭い眼差しにも鼻で笑うエアリスに、デュークは苛立っている。



「ほんとどうしてそんな仲悪いのよ?」



 初対面からこの調子なのだから、レティシアにも理由が分からない。



「小僧が俺様とレティの仲に嫉妬してるだけだ。いつか馬に蹴られるぞ」


「俺の方がレティと仲がいい。ね、レティ?」


「さーて、なにを食べようかなぁ」



 ここは逃げるに限る。

 レティシアは強制的に話を逸らし、お祝いということでちょっとお高めのお店で食事を取ることにした。

 テーブルに並ぶ料理に目を輝かせるレティシアは、次々に皿を空にしていく。  



「すみませーん。追加の注文いいですか?」


「おいおい、まだ食べるのかよ」


「まだお腹空いてるもん」


「それだけ食ってか?」



 エアリスはテーブルに積み重ねられた皿を見て呆れた目を向ける。

 そして、再度一人では到底食べれられそうにない注文をするレティシアを見て、首をかしげていた。

 注文を終えて店員がいなくなってから、エアリスが問う。



「なあ、レティ。森を通って逃げていた時から気になってたが、お前食べる量が異常じゃね? 子供の頃からそうだったのか?」


「言われてみたら、昔はそうじゃなかったかも」 



 昔はごくごく一般的な量しか食べていなかった。

 そして、アカシトロビアでも、与えられる量もすくなかったのにそこまでお腹が減ったという感覚はなかった。

 だが今は、食べたそばから消化して消えているのではないかと思うほど、際限なく入っていく。

 


「なんか食べても満腹って感じがしないんだよね。どうしてだろ?」


「急に魔力を戻したことが影響してんのかねぇ?」


「最高神様に聞いてもはぐらかされそう」


「だな」



 エアリスに指摘されて初めて気がついたレティシアは、この変化に不思議に思うものの、特に体への変調があるわけでもない。

 ふと、デュークを見ると心配そうな顔をしていた。



「今のところ元気だから気にしなくていいからね、デューク」


「うん……」



 そうは言っても心配であることに変わりはないようだ。

 その一方で、エアリスは気楽なものだ。



「まあ、なんかあったらすぐ言えよー」


「はいはい」



 心配しているのかいないのか分からない軽い調子なのは、きっとレティシアが深刻な状況になっても変わらないのだろう。


 前世でも、邪竜によって穢れた地を守るための結界を命を引き換えに張らねばならないと知った時も、エアリスは笑い飛ばしたのである。



『ここまでくるといっそあっぱれな不幸具合だよなー。最高神の加護って実は呪いじゃね?』



 そんな風に冗談交じりに大笑いするので、レティシアは最後まで平静でいられた。


 レティシアが死ねば、レティシアの魔力によって生み出されたエアリスも眠りにつくことになるというのに、エアリスは落ち込む素振りすらなかった。

 それが誰を励ますためなのかどうかなど、ずっとともにいたレティシアが分からないはずがないのに。



 レティシアは小さく笑い、エアリスの頬をつついてから再び食事を再開させた。






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