第28話 中級ドラゴン肉の丸焼き!
「いらっしゃいませソード様、サティ様!」
水の注がれた木製カップ。
それと一緒にメニュー表が置かれる。
「お決まりになりましたらお声掛け下さい」
「ありがとうございます」
なんて言いはするが、注文の品はほぼ決まってる。
でも念のためメニュー表は見ておこう。
もしかしたらもっと美味そうなのがあるかもしれないし。
「看板メニュー『中級ドラゴン肉の丸焼き』は1000ルドーか。中々の高級品だけど、せっかくハルメッタに来たんだから食べておきたいな! やっぱりこれで決まりだ。店員さん、お願いします」
ちょっとルドーを使いすぎかも?
そうは思いつつも、長時間の森生活の反動を止めることは難しかった。
それに、いざとなったらサティがいる。
野宿するとなっても、空からなら飲食料を見付けることは容易いだろう。
ま、後々のことを今考えても仕方がない。
今は『中級ドラゴン肉の丸焼き』の完成を楽しみにしよう!
しばらくすると。
大きな丸皿の上に乗せられた、程よい焦げ跡を付けた肉がやってきた。
「アイツら、自分たちだけは良いモン食ってやしたからね。ソード様のお陰で着の身着のままシッポ巻いて逃げ出したモンだから最高の気分ですよ。お礼に少しだけ増量しておきやした。お値段も700ルドーに負けておくんで心ゆくまでお楽しみ下さい」
なんとなく想像はしてた。
してたけど、まさか700まで負けてくれるとは。
「ありがとうございますっ!」
眼前には中級ドラゴンの肉の丸焼き。
香ばしい匂いと滴る油。
横に添えられた刻み野菜のおかげで見栄えも良く、最高に食欲をそそる感じだ!
「いただきます!」
フォークを突き刺し、ナイフで一口サイズに。
そして――。
「はむっ!」
口の中で幸福が広がった。
まるで楽園にやって来たかのような。
そんな多幸感が全身を包み込んでくれた。
「反則級だ……。こんなの、一度食べたら二度と忘れられないよ!」
そういえば、これって中級なんだよな。
もしも上級ドラゴンを倒したら、それってどれだけ美味しいんだろうか?
想像すると余計にヨダレが出てきそうだ。
「ダメだ、食べる手が止まらない! 食べれば食べるほど余計にお腹が空いてくるような矛盾! 誰か俺を止めてくれ!!」
瞬間、ビタッ!! と手が止まる。
サティが。
俺の手を。
もの凄い力で。
握っていた。
しかも、真顔で。
「…………サティ、なにをしている」
「ご命令に従わせて頂きました。「誰か俺を止めてくれ!!」とのことでしたので」
「いいか、三秒間だけ待ってやる。その間に手を離すんだ」
「はぅ! も、申し訳ございません! 私のような下卑た存在がソード様のお身体に触れるなど……。いくらご命令とはいえ、身の程知らずにございました! お許しください!」
「そういうことじゃなくて……」
まぁいいや。
こういう一面もサティの愛らしいところだ。
堅実で真面目で謙虚。
ちょっと堅苦しいけど、そこが憎めないんだよな~。
「それじゃ改めてっと」
そこからは飢えた獣みたいだった。
中級ドラゴン肉の丸焼きを頬張り、時々はシャキシャキ野菜の食感を楽しみ、またもやメインに戻ってくる。
もの凄い勢いでがっつくものだから、サティの目は点になっていた。俺はそんなことも気にせず、ご馳走を食べ続けた。
「あー、美味しかった! お腹も膨れたし一度宿屋に戻ろうか。昼寝したい気分だ」
「ふふ、ソード様が幸せそうでなによりです」
「いつかサティにもこの幸せを味わわせてあげるから、楽しみにしてろよ」
「はい。その時を心待ちにしております」
#
太陽が地平線に沈みかける。
そして、美しい夕陽がハルメッタを照らす。
街の人々や建造物。
それらの影が、すーっ……と伸びていく。
その瞬間を待っていた者がいた。
ハルメッタの街・北西部。
緑豊かな高台にて男は佇んでいた。
「そろそろ頃合いか――」
男は生まれてすぐに捨てられた。
理由は呪いのせいだ。
この世界には稀に忌み子が生まれる。
呪われた子供は長く生きられず、さらには災いを招くという。
子供の頃から各地の孤児院を転々とした。
そしてその度に気味悪がられ、邪険に扱われてきた。
忌み子が災いを呼ぶ?
ならば自分が災いそのものになってやろう。
それが私なりの世界への復讐だ。
こうして一人のアサシンが生まれた。
その後アサシンは運命的な出会いを果たす。
耳にウロボロスのピアスを付けた青年。
青年は自らをファントムと名乗った。
そしてこう告げた。
「俺についてこい。俺はお前の全てを肯定してあげるよ」
ファントムが手を向けると、レイヴンの内から何かが吸い出され、それは影の中に吸い込まれた。
「い、今のは……!?」
「影魔法さ。これでお前の中にある呪いの効果は半減されただろうね」
「まさか影魔法の使い手とは。――いいでしょう。このレイヴン、ファントム様に身を捧げます」
こうしてレイヴンはファントムに下った。
そして自身を暗示した。
私はファントム様の奴隷である、と。
「ファントム様、今に見ててください。このレイヴンめ、必ずや二つの首を持ち帰ってみせます」
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