第24話 暴かれた幻影
――ジャラッダの町・某所――
金縁の扉が四度ノックされる。
それはいつだって緊急の合図。
「チッ、今いいとこなのに。――入れよ」
ラウドの許可とともに、扉が開く。
そしてラウドお抱えの暗殺者が入室する。
「ご報告が上がりました。疾駆のゼレンが憲兵に捕えられたようです」
「ふ~ん。……………………はぁっ!? ゼレンくん、捕まっちゃったの!?」
「間違いありません。情報筋はいつもと変わらずですから」
「はーあ」
ラウドは葉巻を口から離し、全裸の奴隷少女に押し付けた。
ジュッ!
「ッ~~~!!」
ここで叫べば殺される。
それを理解している奴隷少女。
なので必死の思いで悲鳴を耐える。
「使えねぇゴミだなぁ。で? ハルメッタはどんな様子なの? ……って、聞くまでもないか」
ラウドは目を閉じて精神を集中させる。
超遠距離からの魔力探知だ。
数秒後、ラウドは息を切らしながら顔を上げた。
「はぁ~、これ疲れるからやりたくないんだよね。だからわざわざカス共に賃してたのに。……それにしても、随分と賑わってきちゃったねぇ」
「はい。残念ながら、活気を取り戻しつつあるようです。このままだと一月後には以前の姿を取り戻すでしょう」
「……計画が台無しだ。衰弱した街、そして巣食う賊。法外な値段での商品取引。ある程度のルドーが手に入ったら、モンスターを放ち、それを討伐させて英雄をでっち上げる。そしてその英雄はお前になるはずだった。そうすれば国一番の冒険者ギルドに潜入させることができたのに。――邪魔してきたヤツは何者なんだ」
「二人組の少年少女。どちらも年の頃は十五前後とのことです。そして、これは下っ端からの目撃情報なのですが……」
「続けて?」
「はっ。どうやら、ゼレンの振るった剣が消滅したらしいのです」
「はあ? 剣が消滅?」
どういうことだ。
時属性でモノを朽ちさせるというハッタリ。
そんな演出ができるのは腐食や毒系統の属性だろ。
それが今度は消滅だぁ?
それじゃあ闇系統ってことか?
だが、消滅を思わせるほどに闇系統を使いこなす魔術師なんて滅多にいない。それこそ親父くらいのはずだ……。
「指示さえ頂ければ私が首を取ってきますが、いかがなさいますか?」
「……少し様子を見よう。調査隊を忍ばせて情報を収集させる。それから、アレの準備をしておけ。近いうちに今作戦に導入する」
「だいぶ前倒しになりますがよろしいのですか?」
「致し方なしってヤツだね。もう下がっていいよ、お疲れ様」
「はっ!」
男が失せると、ラウドは一枚の金貨を手に取った。
そしてそれを奴隷少女の手に握らせた。
「さっきはごめんね? 軽いパニックになっちゃったんだ」
「問題ありません。私の全てはファントム様のモノにございますから」
「フフ、ちゃんと理解してるみたいだね。いい子だ。そうだね、久しぶりに褒美を与えよう」
「褒美、ですか?」
「たまには家族の顔も見たいだろう。その金貨で美味しいご馳走を振る舞ってあげるといい」
「よ、よろしいのですか……? 私のような低俗な人間が家族奉仕などという幸福を……」
「君という優れた商品に傷をつけてしまったせめてもの詫びさ。期間は十日くらいかな。たまの自由を謳歌してくるといい」
「あっ、ありがとうございます! このご恩は一生忘れません……ッ!!」
ラウドは奴隷少女に衣服を与えた。
そしてヒラヒラと手を振って少女を見送った。
「フフッ。いい反応をする子だよな~、本当」
ラウドの娯楽その二。
ごく稀に与える飴で奴隷を喜ばせる。
絶望とはそれが続けば慣れてくる。
弟を見てきたからこそ、それを理解している。
「親父もやり方が下手クソなんだよ」
鞭ばかり振るっていても面白くない。
定期的に飴を与えること。
そうすることによって絶望はより一層に大きくなるのさ。
「久々にあのゴミのことを思い出しちまったな。アイツ、今頃は骨も残ってないんだろうな。無意味で無価値な人生。……ああはなりたくないねぇ」
やめろ、それはフラグだ!
そう諫めてくれる声などあるはずもなかった。
#
ゼレンからの証言で思い出した。アレは蛇じゃない。
上級ドラゴンの一種・ウロボロスを模した刺青だ。
影魔法の使い手。
そしてウロボロスのピアス。
ゼレンによれば、ファントムは紺色の髪を持つ。極めつけは他人を傷つけても平気なその思想。
ここまで条件が揃えばファントムの正体はほぼ明らか。
俺の兄――ラウド・ダクヴェルムだ。
あんな歪な家で育ったせいで枷が完全にぶっ壊れてしまった。結果、領民を所有物か何かと勘違いしてしまったのだろう。
そもそもにしてダクヴェルム領の一部が賊に支配されたというのに黙っているなんてあり得ない話。しかし実際には奴らは姿を現さなかった。
これも全て裏の権力者とやらがダクヴェルムの人間だから。そう考えると辻褄が合ってしまう。
「本当はジャラッダの町に向かおうとも思ってたんですが、少しだけ様子見します。裏の権力者とやらがこの街にくるかもしれませんから」
ヴォルフさんにそう告げると、滅茶苦茶に頭を下げられた。
一度にここまでの感謝を受け取るとさすがの俺もキャパオーバー。なんだか逆に申し訳ない気分だ。
「明日はどうされるのですか?」
「とりあえず街を観光してみようかなって。せっかく活気が戻ったんだし、色々と見て回りたいんだ。それにユニにも会いたいし」
この街に留まる間、ユニの定位置は馬車小屋だ。
明日の観光では紐で繋いで散歩するのもありかなと思っている。
「なるほど、さすがはソード様。ハルメッタの民のためを想い自らの時間を削って街の巡回に出向こうとは……。なんとお優しき方なのでしょう。このサティ、ますますソード様のことが好きになりました」
一息に言ってから、サティは失言に気付く。
そして顔を真っ赤にしてあたふたと言い訳を始めた。
「あっ、えと、今のは違くて! その、私如き低俗な存在がソード様を好きになるなど、そのような烏滸がましい真似は決してなさりませんのでどうかご安心下さいッ!!」
猪突猛進。
サティは自分の部屋に戻っていった。
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