第13話 神の力
サティが運んできた大量の食材。
それらに火を通し、口の中に運ぶ。
人間に毒がない食材。
俺が知らないだけで、それはこの森の中にはたくさんあった。
感動のあまり泣きそうになりながらも、サティの手前、俺は強がった。そして食事が終わると。
いよいよ始まるのだった。
サティによる魔法教育が。
「しかし、ソード様ともあろうお方が私のような低俗な存在に教えを乞うとは、何か事情がおありなのですか?」
ああ、なんだろうなぁ。
なんでそんなに自分を卑下するのだろうか。
眠ってる間に何があったんだよ……(大量の魔力の放出・結界の崩壊)。
「実はサボり癖があってさ。子供の頃からあんまり魔法の修練をしてこなかったんだ。そのせいで基礎的な魔力操作や出力コントロールが苦手でね」
「え……。魔法の修練を積んだことが、ない?」
虐待の話は出したくない。
だから俺はサボり癖という嘘を吐いた。
修練を積んでこなかったこと自体は事実だし、全部が全部嘘ってわけじゃないから少しは信ぴょう性も増すだろう。
などと思っていると、なにやら気落ちした様子のサティ。
一人でボソボソと何かを呟いている。
耳を傾けてみると、
「これが神に愛されし者」とか、
「圧倒的な天賦の才」とか、
「私なんてミジンコにすぎなかったのね」とか、
「消えてなくなりたい」とか、
「四天王名乗ってたのが恥ずかしい」とか、
なんだかネガティブな発言が多い。
俺はこの時になってようやくサティというモンスターの性格を完璧に理解した。
サティは、恐ろしいほどに謙虚なのだ(理解してない)。
#
「本来、私如き存在がソード様という高次な存在の指南役を務めさせて頂くなど万死に値するのですが、しかしながらソード様直々の申しつけということですので、身の程知らずではありますが、まずは基礎的な魔法の知識について――」
なんかもう魔法の詠唱みたいになってる。
これだけで空中に魔法陣が展開されそうだ。
謙虚なのはいいことだけど、それが過ぎるとこうなるのか。
というかマジで休眠中に何があったんだよ……(大量の魔力以下略)。
「なるほど。モンスターには核というのがあって、そこから魔力が流れていると。そして人間の場合は核が心臓になるから、血液に魔力を含ませるようなイメージになるんだな」
「流石はソード様。ご理解の早さはまさしく光が如く。このサティめ、畏敬の念で胸が一杯にございます」
「よし、それを踏まえたうえでもう一度やってみよう!」
「御武運を!」
謎の激励を受けながらも。
俺は川の水を掬い上げ、意識を集中させた。
素晴らしい、とサティは思った。
なんという神々しい姿。
全身隙だらけ。
それなのに立ち入る隙を与えない。
放出される魔力、その間合いに入れば待つのは死。
それをまざまざと実感させられる。
これが神に選ばれた者の力。
修練を積むまでもなくあの結界を破壊するほどの力……。
ああ、神よ。
あなたは私を人界に召喚し「これは罰だ」とおっしゃられました。しかし、本当はそうではなかったのですね。
私とソード様を出会わせてくれた。
これ程までの幸福は、今までに味わったことがない。
願わくば、ずっとお傍に……。
ソード様と私の格差は歴然。
恋心を抱くことすら烏滸がましい。
だから、だからせめて。
このお方の傍にいることくらいはお許し下さい……。
「おおっ、できた! 前より早く水が消えたな。しかも疲労感も軽い! サティ、君には人に物事を教える才能があるみたいだね」
この瞬間、サティは自分の未来を決めた。
きっとこれから先、ソード様は数多くの方々を魅了し仲間にしていく。だとするならば私の役目は――。
ソード様がいかに優れた存在であるのか。
それを布教し啓蒙すること!!
「ん? サティ?」
「……はっ! 申し訳ございません。あまりにも勿体ないお褒めの言葉に感極まっておりました」
「は、はぁ。まぁいいや。もう少しだけ付き合ってくれ。次はさっきの水を放出してみようと思う」
「放出ですか。吸収・放出。この二つを司るとなると、ソード様の魔法属性は【闇】なのですね?」
「それがさ、そうでもないみたいなんだよ」
サティは頭上に?マークを浮かべた。
「といいますと?」
「俺の魔法属性は闇に似てるんだけど、ちょっとだけ違う点があってさ。例えば、さっき掬った水だけど、普通なら掬った分しか放出できないはずなんだよ」
言いながら、俺は意識を集中させる。
十秒くらい集中すると、ドバァ―――ッ!! と水が放出された。その量は明らかに俺が吸収した量よりも多い。つまり、増えているのだ。
「な? 今みせた通り、俺の魔法は――て、サティ? おーい、どうした?」
サティは硬直していた。
というか失神していた。
俺の魔法を見て、立ったまま。
#
意識を取り戻したサティ。
サティはまたもや跪き頭を垂れた。
そして涙声で「私は世界一の幸せ者です!」などと言う。
「ソード様の魔法属性、それは【虚無】にございます」
「【虚無】?」
「万物を虚無の空間へと送り込み、送り込んだ万物を自由自在に操ることができる。そんな属性なのです」
なんとなく闇系統だと想像していたが。
虚無などという属性は聞いたことがない。
「虚無属性を持つものは世界に一人、それがこの世の摂理にございます。なぜなら虚無属性は宇宙を生み出したとされる属性だからです。つまるところ――神の力なのです」
俺は沈黙した。
話が大袈裟になりすぎて、なにを言えばいいのか分からなかった。
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