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77話 ラビリンス攻略前夜 その2

 カリスはリサヴィのいる宿屋に着き、彼らの部屋に入るなり、


「リオ、お前はラビリンスに連れて行かない事になった」


 とベルフィとの約束を無視し、堂々と嘘を言い放った。


「そうなんだ」

「俺も頑張ったんだがリーダーの言うことには逆らえないからな」


 とても頑張ったようには見えないカリスの笑顔を訝しげに見つめるサラとヴィヴィ。

 カリスは彼女らの様子に気づかず話を続ける。


「俺達が帰って来るまで適当に時間を潰してろ。いや、いっそこの街か出ていってもいいぞ」

「そうなんだ」


 あっさり事が運び、カリスが満足げな笑みを浮かべた時だった。

 サラが口を開いた。


「ではリオ、私達はベルフィ達が帰って来るまで別の依頼をこなしますか」

「な……」


 サラの言葉を聞き、カリスから今までの余裕の表情が嘘のように消える。

 更にその後にヴィヴィが続く。

 

「ぐふ。そうだな。時間が勿体無いからな」

「わかった」

「ちょ、ちょ待てよっ!何を言ってんだ!?」


 三人が不思議そうな顔でカリスを見つめる。

 しかし、本当に理解していないのはリオだけだった。

 サラとヴィヴィはカリスの意図を理解していた。

 理解して気づかないふりをしたのだ。

 サラが首を傾げる。


「どうしましたカリス?あ、ご連絡ありがとうございました。後は私達で話し合いますので。明日に備えてどうぞ先にお休みくださ……」

「そうじゃねえだろ!」

「はい?」

「参加しないのはリオだけだ。いや、棺桶持ちも行きたくないなら無理強いはしない。だが、サラ、お前は一緒にくるんだ!」

「何故です?私はリサヴィのメンバーです。リーダーが行かないのに私が行くわけないじゃないですか」

「俺が行くんだぞ。それでいいだろう?」


 カリスはそう言ってキメ顔をするが、サラは言ってる意味がわからないと疑問の表情を浮かべる。


「カリスはウィンドのメンバーですから行くのは当然でしょう。それが私と何か関係ありますか?」

「何かって……」


 カリスはサラに素気なくあしらわれ、笑顔が固まる。

 だが、なんとか言葉を続ける。

 

「い、今のパーティは仮だろっ。放っておけっ」

「そうは行きません。それにカリスが私達に命令する権利はありません」

「な、……ああ、そういうことか!」

「わかっていただけましたか」

「よしっ、サラ!今からパーティ登録しに行くぞ!」

「は?」


 サラは素で呆気にとられた。

 カリスは笑いながら斜め上の事を言う。


「何とぼけた振りしてんだ。今のはウィンドに早く入れろ、って意思表示だろ?」

「……」


 サラの耳に「ぐふっ」と微かに笑うような声が聞こえたが無視する。


「全く違います。私はリサヴィを抜ける気はありません」


 カリスが顔を真っ赤にして怒り出す。


「何言ってんだ!お前は任務のために俺の力が必要なんだろ!」

「あなた個人ではありません」


 サラはキッパリと否定する。


「な……」

「私の任務に今回のラビリンス攻略は含まれていませんし、何よりリオだけを外すことも納得できません」

「いやっ、そ、それはだなっ、だからリオにはまだ早すぎるんだ!」

「ぐふ。それはベルフィの意見か、それともお前のか?」

「棺桶持ち!お前さっきから態度がデカいぞ!」


 カリスは脅して黙らせようとするがヴィヴィには通じなかった。


「ぐふ。私はこういう話し方しかできないのだ。それで話を戻すが、誰の指示だ?」

「教えてください」

「べ、ベルフィに決まってるだろ!」

「そうでしたね。カリスはベルフィの決定に文句を言ってくれたんでしたね」

「お、おうっ、そうだっ!俺も頑張ったんだがなっ!ベルフィが頑固でよ!だか……」

「それでは私がベルフィと直接話をしましょう」

「な、なにっ!?」


 カリスは焦る。


(そんな事をされたら嘘がバレるだろ!棺桶持ちはどうでもいいが、サラの信用だけは失うわけにはいかない!)


 既に嘘はバレていたのだがカリス本人は気づいていなかった。



 カリスは必死にベルフィとの話し合いを阻止しようとする。


「サラ!俺が行くんだぞ!それでいいだろう!なっ?」


 そう言ってカリスはサラにキメ顔をするが、その表情は硬い。

 サラが首を傾げる。


「先程もそのような事を言っていましたが、それがどうかしたのですか?」

「な……お、俺はお前の勇者だろっ。その俺が言ってるんだから……」


 カリスの言葉をサラが遮る。


「私はそのような事を言った事も思った事もありません」

「そ、それは、お前がまだ気づいていないだけ……」

「それに今は勇者がどうとか関係ないですね」

「う……」


 カリスはサラを説得するのは無理だと悟った。



「……わかった。リオもラビリンスに行く事を許してやる。それでいいなっ!」


 サラはそこで終わってもよかったのだが、意地が悪いことには定評のあるヴィヴィが仮面の下で笑みを浮かべながらカリスの矛盾を追及し始める。


「ぐふ?お前にそんな権限があるのか?」

「俺は副リーダーだ!」

「ぐふ。しかし、一度説得に失敗したのだろう?」

「そ、それは……」


 カリスが言葉に詰まる。

 サラはヴィヴィは相変わらず意地が悪いと思いながらも、カリスのやり方が気に入らなかったのでヴィヴィを止めない。

 カリスは自分の都合のいいように物事を考えがちであり、下手に擁護して誤解されても困るからだ。

 ヴィヴィは更にカリスを追い詰める。


「ぐふ。お前にそこまでしてもらう必要はない。私達の事だ。私も直接ベルフィと話そう」

「だから待てっ!それはまずいっ!」

「ぐふ?まずいとはどういうことだ?」

「い、いやっ、それはだな……」


 カリスは単純な男である。

 今までろくに策を弄した事がないので策が失敗し話が想定外の方へ進むと、その後どう繕えばいいのかさっぱりわからない。

 

「ま、まあ、俺に任せておけ!」


 カリスは力づくで押し通そうとするが、意地の悪い事には定評のあるヴィヴィがそうはさせない。


「ぐふ。いや、無理するな。お前に何度も無理させてお前とベルフィとの間に亀裂が入っては困る」

「大丈夫だって言ってるだろうが棺桶持ち!とにかく俺に任せろ!いいな!余計な事は言うなよ!」


 カリスは有無を言わさぬ勢いでそう言うと、逃げるように部屋から出て行った。



「満足ですか?」

「ぐふ。お前も満足しただろ」

「少しやり過ぎだとは思いましたけど」

「ぐふ。大丈夫、と言っていいのかわからんが、あの男はあの程度では懲りんだろう」

「それもそうですね」



「サラ、ヴィヴィ」


 今まで全く会話に参加しなかったリオが二人の名を呼んだ。


「どうしました?」

「僕、フルモロ大迷宮に行ってみたい」

「「……」」


 サラは頭を押さえる。

 

「……リオ、一応確認ですが、私達もラビリンスに行く事になったのは理解してますね?」

「そうなんだ。じゃあ、次の機会だね」

「……そうです、ねっ!」


 サラはリオに近づくとその頭をぐりぐりした。

 相変わらず将来、勇者、そして魔王になるかもしれないリオへの扱いは雑だった。



「悪いベルフィ」


 家に戻るなりカリスがベルフィに苦笑いをしながら言った。


「どうした?」

「ラビリンスの事だがよ、サラ達に説明したんだが曲解されてよ、ベルフィがサラ以外は残れ、って言ったと思われちまったぜ」

「「「……」」」


 「何をどう説明したらそのように勘違いされるんだ!?」と皆が突っ込みたかったが、カリスが何を言ったのか容易に想像がついたので、ナックとローズは黙っていた。

 冤罪を押し付けられたベルフィはと言えば、ため息をつき、


「わかった。ご苦労だったな」


 と言っただけだった。


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