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75話 嫉妬の炎

 冒険者ギルドではベルフィの報告を受け大騒ぎになった。

 五組のパーティ中三組、つまりウィンドとリサヴィ以外全滅という被害を受けたのだから当然だ。

 ヴェイン所属の冒険者が確認に向かい、報告通りリバース体やロードの死体を確認した。

 まだ未探索地区がある可能性があるため遺跡探索依頼はBランクの依頼に変更されることになった。



 報酬の分け前の話になり、ベルフィがリオ達リサヴィにも平等に分けると言ったことでローズが文句を言い出す。

 報酬といってもギルドからの依頼料のことではない。こちらは探索前から決まっていた。

 今もめているのは回収した本などを魔術士ギルドが予想以上に高く買い取ってくれたので、それをどう分配するかである。

 ローズもリオ達が役に立ったことはわかっているが、頭で理解するのと感情は別だ。

 ローズの中では彼らの実力がどうであろうと格下なのだ。格下でなければならないのだ。

 ローズが八つ当たり気味にカリスに食ってかかる。


「大体、あんたが悪いんだよっ!」

「なんだとっ!?」

「見なよこの棺桶持ちを!貰って当然って顔してるよっ!」


 ナックが慌てて二人の間にはいる。


「落ち着けローズ、大体ヴィヴィは仮面被ってんだぞ。わかるわけ……」

「ぐふっ!」


 珍しくヴィヴィが反応し、どうだとばかりに気持ちあごを上げたように見えた。


「この腐れ魔術士が!」

「ヴィヴィは魔装士だよ」

「うるさいっ!」


 空気を読まない事には定評のあるリオがローズの間違いを訂正し、頭を殴られる。


「おいローズ!俺の何が悪いってんだ!?」

「あんたは油断し過ぎって言ってんだよっ!」

「それはどういう意味だ!?」

「言葉通りだよっ!あんたがバカみたいに怪我しなけりゃコイツらにデカい顔させなかったのさっ!」

「そんな顔をした覚えはありませんが」

「そうなんだ」

「リオは黙っててください」

「……」

「カリスっ、あんたワザと怪我してんじゃないだろうねっ!?」

「そんなわけあるか!俺はマゾじゃねえ!大体なんでそんなことしなきゃならんのだ!?」

「そんなの決まってんじゃないかっ!そのショタ神官に……」

「いい加減にしろ」


 ベルフィの一言で渋々黙るローズ。


「今回リオ達は役に立った。それは事実だ。だから報酬は全て均等に分ける。これは決定だ」

「……わかったよ、ベルフィ」


 言葉とは裏腹にローズの顔は不満タラタラだった。

 リオは今回の報酬でベルフィへの借金を完済した。



 ラビリンスへの出発は二日後、ベルフィ達の屋敷から移動することが決まった。

 それまで皆自由時間だ。

 リオ達はヴェインの冒険者ギルドにある鍛錬所にいた。

 リオとサラはいつもの日課である訓練である。

 ヴィヴィは魔装士の姿で来たものの、観戦を決め込んでいるようで参加する素振りは全くなかった。

 リオの相手をしながらサラはリオの成長の速さに内心驚いていた。


(確かにこれならガドタークに苦戦することもないでしょう)



 ひと休みしている時であった。

 サラのストーカーであるカリスが鍛錬場に現れた。

 カリスがサラにキメ顔をした後、珍しくリオに笑顔を向けた。

 

「リオ、たまには俺が相手になってやる」

「ありがとうカリス」


 リオは言葉をそのまま受け取りカリスと向かい合う。

 サラはカリスの行動に違和感を覚えたが、それだけでは止める理由にはならない。


 始まると同時にカリスが先制攻撃を仕掛ける。

 リオはサラの時と同じように剣で受け流そうとしたがうまくいかなかった。

 サラとは力強さが全く違うことを計算に入れていなかったのだ。

 辛うじて大剣を受け流せたもののその一撃で手が痺れた。

 もちろんリオは感覚が鈍いので手が痺れていることに気づかず、剣を扱いにくくなった理由がわからない。

 この最初の一撃が全てであった。終始リオの防戦一方となった。

 どうにかカリスの大剣を受け流していたが、それも終わりの時が来た。

 リオの剣が弾き飛ばされる。しかし、カリスの攻撃は止まらなかった。

 大剣が武器を失ったリオを襲う。


 カァーン、

 甲高い音共にカリスの大剣が弾かれた。

 リオを救ったのはヴィヴィのリムーバルバインダーだった。

 カリスは勝負の邪魔をしたヴィヴィを睨みつけるが、ヴィヴィは怯えることなかった。

 

「ぐふ。勝負はついていただろう。リオを殺す気か?」

「……悪いな。リオが思った以上に強かったからな。つい夢中になっちまってたぜ」

「そうなんだ」


 リオの言葉はいつものように感情がこもっておらず、カリスの言葉を信じたのか判断がつかない。

 カリスは剣を収めるとサラに向かって「俺の方が強いだろっ!」とでもいうようにキメ顔をする。


「サラ、これから飯でもどうだ?」

「いえ、私はまだ訓練があります」


 カリスがやれやれ、という表情をする。


「仕方ない。俺も付き合ってやるぜ」

「不要です」

「気にするな。俺も……」

「ぐふ。邪魔だ」

「うるせえ!棺桶持ち!テメエこそどっか行け!なあサラ?」

「私は不要、と言いましたが」

「さらぁ」

「気持ち悪い!」

「おいおい……」

「ぐふ。まだ邪魔するようならベルフィに言いつけるぞ」

「テメエ……」

「そうですね」

「おいサラっ、お前まで……」

「カリス、手加減を知らないあなたはリオの相手に向きません。どうしてもと言うのならベルフィの許可を貰ってきてください」

「なんでベルフィの許可がいるんだ!?」


 サラからベルフィの名が出てカリスはカッとなる。


「私はリオの教育をベルフィに依頼されたのです。その私はあなたの協力は不要と判断しました。それでもリオの訓練に協力したいのならベルフィの許可をもらうべきです」


 サラはベルフィが許可を出すことはないと思っている。


「……わかったぜ」


 カリスが不貞腐れた表情でそう言うと訓練場を出ていった。



 サラがリオを見ると右腕の感触を確かめていた。


「どこか痛めましたか?」

「うん?どうだろう?ちょっと動きがおかしい気もするけど大丈夫じゃないかな」

「見せてください」


 サラが調べると右肘を痛めていた。

 骨折はしていないがヒビが入っているかもしれない。本来であればこんな平然とした顔をできないはずだった。

 

「……まったく。治療しますので動かさないでください」

「わかった」


 サラはリオの右肘に触れヒールを発動する。

 

「他にどこか異常はありませんか?」

「んー、大丈夫だと思う」

「そうですか。リオ、前にも言ったと思いますが少しでもおかしいと思ったら聞かれる前に自分から話してください。いいですね?」

「わかった」


 毎度のことながら本当にわかっているのか理解しにくい反応に頭が痛くなる。

 

「では今日はここまでにしましょう」

「ん?」


 リオが首を傾げる。


「恐らくカリスはベルフィの許可など関係なく戻って来るでしょう。そうしたら訓練どころではありません」

「ぐふ。あのバカの事だ。ベルフィに会うことすらせず許可を貰ったと嘘をつくかもな」

「ええ。だから早くこの場を離れましょう」

「わかった」


 サラ達はカリスがいないか警戒しながら鍛錬場を後にした。

 サラの横にヴィヴィが並ぶ。


「なんですか?」

「ぐふ。お前も気づいただろう?」

「……何をです?」

「ぐふ。カリスはリオを殺す気でいた。恐らく最初からそのつもりで来たのだろう。あの一撃には全く躊躇がなかった」

「……」

「ぐふ。嫉妬とは恐ろしいな。周りがここまで見えなくなるとはな」

「……」

「ぐふ。前から思っていたのだが、お前は思い込みの激しい自己中心的な奴に好かれるな。類は友を呼ぶ、という奴か」

「何ですって!?」



 この後、カリスはサラ達の推測通りベルフィに許可をとることなく適当に時間を潰して戻ってきたが、すでにサラの姿はない。


「リオの野郎!俺とサラの邪魔をしやがってっ!!絶対に許さん!!」


 カリスは嫉妬の炎を燃やしながら叫んだ。


 


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