42話 戦う機会がない
ウィンドはヴェインの街まで歩いて向かう事にした。
ヴェインに着くまでにサラとヴィヴィの実力を見極めて最終的にウィンドに入れるか判断することになっている。
「ベルフィ、僕強くなったよ」
ベルフィはリオの表情を見て以前と雰囲気が変わっているのに気づいた。
そう感じたのはベルフィだけではなかった。
「なんか変わったなぁと思ってたが、リオ、お前もしかして男になったか!」
その言葉にサラがナックをにらみつけるが、ナックは気づかぬふりをする。
しかし、当のリオはその意味を理解しておらず、
「ナック、僕は前から男だよ。気づかなかったの?」
と不思議そうな顔をしてナックのからかいにまじめに答える。
「まったく……お前すぐ人の話の腰を折るな」
リオは「ん?」と首を傾げる。
「リオ、今の言葉忘れるなよ」
「うん」
ベルフィの言葉に頷くリオだが、戦う機会はなかなかやって来なかった。
街道を進むベルフィ達の前にウォルーが現れた。
「最近物騒だなぁ。街道にまでウォルーが現れるなんてよ」
緊張感のない声でナックが言った。
「気を抜くなよ」
ベルフィの言葉が戦闘開始の合図となった。
パーティのリーダーであるベルフィは剣と盾を使って戦う典型的な戦士だ。容姿はハンサムな部類に入り、彼に憧れる女冒険者は多い。
副リーダーである戦士のカリスは身長は百九十センチメートルを超える大男で、その武器は背中に背負っている自分の身長程もある大剣だ。容姿は普通だがその鍛えられた肉体から特定の女性に人気がある。
どちらもBランク冒険者だけの事はあり、魔法の武具を装備していた。
ローズは盗賊で、基本的に戦闘には参加しないが、状況によっては弓と短剣で援護する。
中でも短剣の腕は大したものである。
容姿は美人の部類に入るが“すごい”とかの形容詞がつくほどではなく、サラのように形容詞がつく美人には劣等感を抱き攻撃的になる。
そしてナックだが、彼は魔術士で攻撃魔法、回復魔法、そして補助魔法とあらゆる魔法を習得しており、状況に応して使い分ける。またパーティの参謀的な役割もこなす。
ウィンドの副リーダーはカリスだが、これは彼のプライドを満足させるためのものであり、実質的な副リーダーはナックであった。
最後のウォルーがカリスの大剣によって葬られるの見てリオは剣を鞘に戻した。
カリスはサラに向かって剣を掲げ戦果をアピールする。
それを受けてサラは「面倒な人ね」と思いながらも形だけの笑顔で頷く。
リオがウィンドと再び行動を共にするようになってから一度も戦闘に参加していない。
今のところ背後から襲撃を受けることもなく、パーティ後衛のリオが戦闘に参加することはなかったのだ。
戦闘に参加していないのはリオだけではなく、パーティの回復役を任されているサラと援護を任されているヴィヴィも同様だった。
サラはいつでも戦闘に参加できるように常にショートソードを抜ける準備もしていたが、ヴィヴィは戦う素振りすら見せなかった。少なくとも表面上はそう見えた。
少し休憩をとる事になり、サラはナックの元へ向かう。
「ナック、あなたに話があります」
「お、何かな、って、そういえばサラちゃん、なんか俺だけぞんざいな扱いじゃね?」
「あら、すみません。あなたのことはよーくリオから伺ってましたのでとても初対面とは思えなくて」
「へえ、光栄だね」
ナックがリオに顔を向ける。それに気づいたリオは「ん?」首を傾げた。
サラは笑顔で言った。
「ナックはリオにいろいろ、ないこと、ないこと、それにないことを教えたそうで」
「ん?」
一瞬間があり、ぽんと手を叩いて叫んだ。
「おお!サラちゃん、もしかしてリオにフルコースで歓迎されたか!リオを男にしたか!」
サラの冷ややかな視線がナックを貫く。
「う、痛いぞ、サラちゃん。俺はそっちの趣味はない」
「……」
「……悪かった」
「今後、リオに変なことを教えないでくださいね?」
「……努力します」
「努力ではなく、しないでください」
「まあ、それはそれとしてさ、」
「話をそらさないでください!」
「まあまあ。サラちゃんていいとこ育ち?」
「……何故そう思うのですか?」
「匂いかな」
サラはナックからさっと離れる。
「冗談だって」
「……」
「で、どう?」
「ご想像にお任せします」
「じゃあ、胸は大きめにしとくね」
「なんの想像をしてるんです!?」
「ははは」
「……ところで何故私は”ちゃん”付けなんですか?」
「そりゃ、かわいいから」
「……」
サラはちょっと顔を赤くしてナックを睨む。
その沈黙を二人の話が終わったと思ったのか、空気を読まない事には定評のあるリオが話を蒸し返す。
「僕、ナックの言う通りにしたらサラに怒られたよ」
「悪かったって。で、怒られ損してないだろうな?やることはしっかり……」
「ナック、私の言ったことが理解できなかったようですね。魔術士は理解力はあるはずなんですが」
「いやあ」
「褒めてませんが……まったく」
「まあ、許してやってくれ。サラ」
いつから話を聞いていたのかカリスがサラの隣に来て会話に加わる。
「大丈夫です。どういう性格かはリオの話でわかっていましたから」
「へえ、俺は?」
カリスがキメ顔をサラに向ける。
サラは内心引きつつも表情に出さずに答える。
「カリスは大剣使いでとても腕が立つと伺っています」
実際には「大剣使いの男戦士」としか聞いていなかったが、期待された目を向けられては流石にそのまま言えず、サラは当たり障りのない程度に補強した。
「それほどでもないけどな!」
そう言いながらカリスは満更でもなさそうであった。
「いえ、見ればわかります」
「そうかっ。はははっ。まあ、よろしくなっ!」
「はい」
カリスが格好つけて挨拶をする。
カリスには勇者願望があった。
彼も勇者は神官が神へ名を告げた者の中から選ばれることを知っており、サラこそ自分を勇者にする者だと思いアピールするのだが、当のサラはなんの感銘も受けなかった。
「ほら、カリス!いつまでデレっとしてんだいっ!出発するよっ!隊列に戻りなっ!」
「誰がだっ!じゃあ後でなっサラ!」
「はい」
カリスは笑顔で手を振りながら先頭へ戻っていった。
その様子を見て、ヴィヴィが「ぐふ」とつぶやいた。
サラは笑ったのだと察し、ヴィヴィを睨むとヴィヴィはぷいと顔を逸らした。




