43話 腕試し
「リオ、どれくらい腕を上げたか見てやる」
昼過ぎ。
街道を少し離れたところで宿屋で作ってもらった弁当で昼食をとった後、ベルフィが腹ごなしとばかりにリオを剣の稽古に誘う。
当初は道中で遭遇した魔物相手にリオ達新参組の力を見ようと思っていたのだが、カリスが非常にやる気を見せ、普段、積極的に戦闘に参加しないローズまでもやる気を見せたため、彼らの力を見る機会は訪れなかった。
命令してやめさせようととも考えたが、やる気を削ぐのもよくないと考えて好きにさせたのだった。
それでも強くなったというリオの実力は早めに知っておきたいと思い、自ら確かめる事にしたのだ。
リオは「わかった」と返事をすると剣と盾を持ってベルフィの後について行く。
それを見てサラは嫌な予感がした。
「私も見学させてもらいます」
「じゃあ俺も」
近くで見ようとサラ、ナックが立ち上がり、無言でヴィヴィが立ち上がった。
「あんたら暇人だねぇ」
「じゃあ、俺も……」
カリスが続こうとするのをローズが止めた。
「ちょっと待ちなよ!あんたまで行ったら誰が荷物の番すんのさっ?」
「大して離れてねえよ。それにお前がいるだろ」
「あんた、あたいみたいなか弱い女一人に番させる気!?」
「「「それ、誰?」」」
と皆思ったが口には出さない。
飛び火しては敵わないとナックが足速に離れる。
それに倣うサラとヴィヴィ。
「何であなたもついて来るんですか?」
ヴィヴィはサラの質問に答えなかった。
「……やっぱり」
サラの悪い予感は的中した。
リオは以前と同じ剣と盾を使う戦い方に戻っていた。
ベルフィの剣によってリオの盾、続いて剣が叩き落とされる。
「お前、全然強くなってないぞ」
ベルフィの目には明らかに失望の色が見える。
「そうかな?」
リオはその事に全く気づかず剣と盾を拾うと再び剣と盾を構えた。
それを見てサラはこのままではダメだと口を出す事にした。
「ベルフィ、ちょっといいでしょうか?」
「なんだ?」
「リオにはその剣と盾は重すぎるのです。ですので私達と旅している間は剣のみで戦っていました」
「そうなのか?」
「うん」
ベルフィの問いにリオが頷く。
「何でそうしなかった?」
「ベルフィに教わってないから」
「あのなぁ……」
ベルフィが呆れ顔になる。
「あの、この剣と盾はベルフィからお借りしているそうですが」
「ああ」
「正直に言って今のリオには合っていません。重すぎるのです。武器をリオにあったものに変えてもいいでしょうか?」
「好きにすればいいだろう」
「ありがとうございます。ただ、リオはベルフィに武器だけでなくお金も借りていると聞きましたので、自分で稼いだお金とはいえ自由に使っていいのか確認しなければと思っていたのです」
「俺にとっては大した額じゃない。返してもらうのはいつでもいいんだが……」
ベルフィがサラの顔をじっと見る。
「なんでしょうか?」
「それはリオが直接俺に言うべきだろう。なんでそんなおせっかいを焼く?」
「ぐふ。リオを自分の好みの男に育てる、いわゆるリオ調教計画のいっ……」
「黙りなさい!……失礼しました。仲間にアドバイスを送るのはいけない事でしょうか?特にリオは自分でもわかっているはずなのに自ら行動しようとする意思が見えないので正直見ていてイライラするのです」
「イライラするか、……くくく…あははははっ!」
「あ、あの……」
「おお、ベルフィが笑うなんて珍しいぞ。サラちゃんやる!」
「何をですかっ!って、ベルフィも何がおかしいんです!?」
「いや、悪い悪い。お前は全然悪くない。確かに当然のことだ」
ベルフィの表情が少し優しくなった。
「よし、リオ、今度はお前がやりたいように、お前の好きな戦い方でかかって来い」
「わかった」
リオは盾を背負い剣を両手で構える。
「ほう……確かに少し違うな」
剣のみで戦うリオは先程とは比べものにならない程強かった。
とはいえ、まだまだベルフィの敵ではない。
リオの手から剣が落ちた。
リオが自分の右腕を見ると服が裂け血が出ていた。
「悪い。加減を間違えた」
「動くから問題ないよ」
リオは手を開いたり閉じたりする。
その腕をサラが掴む。
「動かすのをやめなさい。傷口が広がります」
サラが傷口に手を当てるとその手が薄い黄色い光を放った。
光が消えると傷口は綺麗に消えていた。
神官の使う神聖魔法は魔術士の魔法と異なり、呪文などが絶対必要というわけではない。念じるだけでも発動するのだ。
「もう大丈夫です」
「ありがとうサラ」
「痛みを感じないからと言っても怪我している事に変わりないんですから無茶はしないように」
「わかった」
リオは頷いたがいまいち信用できないサラだった。
「やはり神聖魔法は便利だな」
サラの治療の様子を見ていたベルフィが呟く。
「ベルフィも無理はしないで下さいね。治療魔法は万能ではありません。治せない怪我もありますから」
「ああ」
「ねえ、ベルフィ、どうだった?」
「ああ、今のはよかったぞ。確かに強くなったな。武器の重さに関係なくお前は剣だけで戦う方が合ってるようだな」
「そうなんだ」
他人事のよう返事をするリオにベルフィはため息をつき、サラを見る。
「俺が教えたのとは違う型があった気がしたが、あれはお前が教えたのか?」
「いえ、教えた事はありません。パーティの教育方針もよくわかりませんでしたので」
「そうか」
「ただ、確かに私も私の剣術に似ている気はしました。旅の間、私はリオの相手をしていましたので自分なりに取り入れたのでしょう」
「ぐふ。ベッドの相手もな」
「マジかっ!?サラちゃん!!」
「してませんっ!ヴィヴィ、いちいち話の腰を折るのをやめてください。というか邪魔ですからどっか行って下さい!出来れば永久に!」
サラがヴィヴィを睨むとぷいと顔を背けた。
「いい機会だ。サラ、次はお前がリオの相手をしてくれ。お前が魔法を使える事はわかったが、剣の腕も見てみたい」
「わかりました」
「あとお前もだヴィヴィ。魔装士の力を見せてくれ」
「ぐふ」
ヴィヴィは微かに頷いたようだ。
剣の腕は並上程度のサラであるが、まだリオより強いし戦闘経験も豊富だ。
サラは盾で剣を受け流し、バランスを崩したリオから剣を叩き落とそうとした時、サラの剣は浮遊した盾に防がれた。
ヴィヴィのリムーバルバインダーだ。
「ぐふ。防御は任せろ」
「わかった」
「ちょ、ちょっと二人がかりって……」
「面白い」
「ベルフィ!?」
「ただし、ヴィヴィ、お前はその盾のみだ。他の行動は許さん」
「ぐふ」
「……わかりました」
サラは不本意ではあったが了承する。
変則的とはいえ、二体一となった戦いに勝利したのはサラだった。
「お前達の実力は大体わかった。サラもヴィヴィも問題ない。いや、ヴィヴィは想像以上だ。そこまでその盾、リムーバルバインダーだったか、を扱う奴は初めて見たぞ。お前なら荷物持ちだけでなく、戦闘でも十分役に立ちそうだ」
「確かになっ、ヴィヴィには俺も驚いたぜっ」
ベルフィに続き、ナックもヴィヴィを誉める。
「ぐふ。それほどでもある」
ヴィヴィがどこか偉そうに頷くのを見て、ベルフィは苦笑した。
「後は連携だが、それは実戦で確かめていこう」
「はい」
「ぐふ」
キャンプへ戻る途中でベルフィがサラに声をかける
「そうだサラ」
「はい?」
「どうやら俺よりお前の方がリオの稽古相手に向いているようだ。怪我してもすぐ治せるしな。悪いがこれからも時間がある時に頼めるか?」
「私がですか?」
「ああ。俺は人に教えるのは向いていないようだ。実のところ、初心者に教えるのはリオが初めてでな。剣の重さとか全く気にしてなかった。俺がリオの歳の頃にはあれくらいの重さの武器は使いこなせてたからな。みんなそうだと思い込んでいた」
「そうですか。でも両手で扱うならカリスの方が……」
そこへナックが笑いながら会話に参加する。
「いやいや、サラちゃん。カリスはベルフィよりもっとダメだぜ。アイツは自分が強くなる事しか頭にないんだ。『人に教える時間があるなら自分を鍛える方に使う』って絶対言うぜ。それにあいつもリオをパーティに加えるのに反対してたしな」
「そうなんですか、って、そんな事本人の前で言っていいんですか?」
「大丈夫だって。ローズ程じゃないがカリスも本人に何度も言ってるし。それにリオだぜ?そんな事気にすると思うのか?」
「それもそうですね」
「ぐふ」
「そうなんだ」
リオの他人事のような返事に皆ため息をついた。




