Chapter30-4 大掃除(9)
昨日、ニコニコにてコミカライズが更新されました。
セワスチャン視点はかなり珍しいので、結構オススメ回です。
よろしくお願いします!
ブレイカー……標破者か。
標破者とは、己道を極めた上、星に溢れる生命力をも操る仙術を習得した存在。いわゆる、己道版の魔法司や死鬼だ。
その領域に座する者なら、小惑星レベルの攻撃くらい、簡単に放てるだろう。納得である。
疑問なのは、地球にも劉仙という標破者がいたこと。かの存在は一人しか存在できなかったはずだが、どうなっているんだろうか?
憶測にすぎないが、標破者のカウントは星単位なのかもしれない。それなら矛盾しない。
だとすると、魔法司や死鬼も星ごとに存在するんだろうか?
後者はともかく、前者は可能性が低そうかな。
魔法司とは、魔法の深淵を除くために世界と契約した人柱。他の同格存在とは異なり、世界単位でカウントする方が理に適っている。
……話が逸れたな。
敵の正体が判明したのは良いとして、どうして、このタイミングで攻撃してきたんだろうか。同胞を守るにしては、些か遅い気がする。
オレがメタルヴァ星に侵入した時や反撃した時など、参戦する機会はいくつかあったはずだ。
オレの存在に今まで気づかなかった、なんて可能性は皆無だろう。
仙術を身につけている標破者は、星全体が自身の延長である。星外からやって来たオレを察知できないわけがない。
タイミング的に、無色魔法を広域展開したせいか? それが標破者の琴線に触れた?
「考えても仕方ないか」
巡らせた思考を一旦切り上げる。相手の情報がほとんどない以上、その行動原理を予想するなんて不可能だ。オレが行うべきは、敵の迎撃である。
道士と戦った経験はそれなりに積んでいる。とりわけ、神の使徒ラディウスとの対戦経験は大きかった。今さら、標破者程度に手こずるオレではない。
ただ、相変わらず魔法の制限はあるし、この場にいるメタルヴァ星人たちを放置するわけにもいかない。迎撃方法は工夫するべきだろう。
オレは右手をギュッと握り締める。その中へ、【万物の色を剝す無彩色】の一部を注ぎ込んだ。
こぶしを作るのは一瞬。開いた手のひらには、魔力で構成された一つの銃弾があった。無色魔法で構成された銃弾である。
その名も【剥色装填】ってところかな。【皡炎装填】の応用だ。
生成した弾丸を指で弾く。それは緩く回転しながら真上へ向かい、頂点へ到達。そして――
「【弾く銃撃】」
新たに発動した魔法によって、展開中の【万物の色を剝す無彩色】より外に向かって発射された。
銃弾は生命力のレーザーを迂回しつつも、音速を越えて敵の標破者へと駆ける。周囲にソニックブームを撒き散らしながら、あっという間にその距離を詰めていく。
こちらの反撃に対処するためだろう。ずっと続いていたレーザーが止んだ。
その直後、地鳴りのごとき轟音が響き渡り、地平線付近の溶岩がここからでもハッキリ認められるほどの柱を立てた。
オレの放った攻撃が着弾したんだ。
とはいえ、標破者には当たっていない。当たっていれば、周囲に被害が拡散しなかったはずだから。
仮にも己道を極めし者。超遠距離攻撃の一発くらい、回避できて当然のようだ。
溶岩の柱は重力に従って崩れ、大波となって周りを巻き込んでいく。余波は、オレの眼下にまで到達していた。
これが地球で起こったら大惨事だが、メタルヴァ星では異なる。全生物が液状ゆえに、かなりの混乱が窺えるものの、死傷者は出ていなかった。
この様子なら、もう少し無茶しても大丈夫だな。
加減を把握したオレは、さらに五発の【剥色装填】を作り、【弾く銃撃】で同時に発射する。
五発の銃弾は標破者へと走った。
ただ、それぞれ別の軌道を取らせた。真っすぐ直進するものもあれば、大きく弧を描くもの、小刻みに曲がるものもある。
それにより、銃弾の速度は同じもだが、着弾する方向とタイミングが異なった。
正面からの一発目は軽々避ける。頭上から落ちてくる二発目も同様。右斜め後ろの死角から滑り込んだ三発目も、ギリギリでかわした。
そうして四発目、三発目の陰から襲い掛かったそれ。体勢を崩した標破者だったが、強引に体を捻ることで回避した。さすがである。
しかし、善戦もここまでだった。もはや微塵も動けない彼を、五発目が襲う。
回避が叶わない標破者は、最後の銃弾を防御することに決めたようだった。生命力を集中させ、壁を作り出していた。
先の四発を必死で避けたことに加え、生成した壁に莫大な生命力を込めていることを鑑みるに、標破者は【剥色装填】の危険性を薄々察していたんだろう。
その危機察知能力は見事だが、最後の最後で“防御”を選ぶのは甘いと言わざるを得ない。
この銃弾は、すべての異能を無効化する色魔法で形成されている。
つまり、己道で防げないんだ。たとえ、惑星レベルのエネルギー量を込めていても無意味。
勝負するジャンルが違うんだ。【万物の色を剝す無彩色】に対抗するんだったら、質量を上げるのではなく、概念強度を上げる他ない。
結果は言をまたない。【剥色装填】は生命力の壁を易々と消し飛ばし、標破者に到達した。
体内に入り込んだ銃弾は、瞬く間に標破者を侵食する。あれほど膨大だった生命力をゼロへと戻し、その命すら泡沫へと帰す。
骸と化した標破者は、周囲の溶岩によって焼失した。抱えていた強大な力を失ったがゆえに爆発など起こるはずもなく、ひっそりと、静かに。
「さて」
「「「「「「「「「「「ッ」」」」」」」」」」」
思考加速していたせいで長く戦っていたように感じるが、実際は五分と掛かっていない。普通なら、様子見程度で済む衝突だっただろう。
にもかかわらず、この場に残っていたメタルヴァ星人たちは、オレが標破者を下したと察したようだった。
探知系の術を行使したわけではない。それらは周囲を覆う無色魔法で消されるから。
状況から分析したんだろう。最初の威圧を乗り越えただけあって、相応に優秀な面々らしい。
であれば、この質問を投げかけても問題あるまい。
「返答は如何に?」
メタルヴァ星人にとって、他星への進出は種の存続をかけた重大プロジェクト。本来なら、たった五分で結論を出せるはずがない。
しかし、オレはあえて問うた。鉄は熱いうちに叩くのが鉄則だからね。
――その日、メタルヴァ星人は全面降伏した。
次回の投稿は4月25日12:00頃の予定です。




