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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter30-4 大掃除(1)

 “道”の続く先を特定するのは、予想通り、ほとんど一瞬で終了した。全部で九ヵ所の山が、最初の鉱山と同様の状態に変わっていた。


 内訳はカナミラ王国の鉱山が六、未だ掘られていない山が二、国外が一である。


 不幸中の幸いだったのは、国外のそれが築島(つきしま)だった点。聖王国の管轄ゆえに、対処が複雑化せずに済んだ。


 また、いずれの山も、最初の鉱山ほどエネルギーが溢れていなかった。


 成長途中なのか、エネルギーが足りなかったのかは分からないが、最初の鉱山ほど対処は難しくないだろう。外に飛び出た逸魔(いつま)の気配も感じられないし。


 築島(つきしま)に関しては、即座にウィームレイと部下たちに連絡。周辺を封鎖した。


 留守番しているメンバーに処理を任せようとも考えたけど、棄却している。


 環境的に、魔法師がどこまで通用するか未知数だからね。特に、魔力に強く依存している魔法司のガルナやプラーミア、精霊魔法師のマリナなんかは非常に相性が悪い。


 ここは、オレの帰還を待ってもらった方が確実だった。


 カナミラ内の異常地については、他国なので勝手はできない。急いでカナミラ王との会談をセッティングしてもらい、状況を説明した。


 周囲の連中に怪しまれる可能性はあったが、こればかりは仕方ない。一応、ニナには最初の鉱山の見張りに立ってもらっている。


 鉱山の現状と採掘される鉱物の価値、それが方々へ広がっていること。そのすべて聞き終えた彼は、盛大に頬を引きつらせた。


「その話、嘘ではないな?」


「このような内容で偽りを申し上げるほど、私は愚かではありませんよ」


「だよなぁ」


 深々と溜息を吐くカナミラ王。その姿には哀愁が漂っていた。


 彼は頭をガシガシと搔きむしる。


「どうしてこう……俺さまの代で問題が続出するかねぇ。常立国(とこたちのくに)にしろ、今回の鉱山にしろ」


「お気持ち、お察しいたします」


 政治に関わりたくないと公言していたカナミラ王にとって、現状が歓迎できないのは間違いない。上手く対処して後世に名が残ろうと、彼はまったく嬉しくないんだから。


 ただ、よくある話ではある。求めると遠ざかり、求めないと近づいてくる、というのは。


 結局、欲しいものは力で勝ち取るしかない。確かな社会が築かれているものの、この世界の根底は弱肉強食だ。


 しばらく頭痛を堪えるように額を抑えていたカナミラ王だったが、ふと、顔を上げる。


「つまり、お前はこう言いたいわけだ。『オレたちは内政干渉をする。断れば戦争だ』と」


「そこまで極端なことは申しませんよ」


「だが、近いことはするつもりだろ?」


「……否定はしません」


 察してはいたが、カナミラ王は頭が悪いわけではない。むしろ、思考の回転は早い方だろう。鉱山の情報だけで、オレたちがどう動く予定なのか推測し切った。


 カナミラ王国を放置するのはあり得ない。


 この国が今のままであれば、近いうちに必ず戦争を起こす。そして、その火種は大陸全体へと広がるだろう。発掘されるのは、伝説と謳われる希少金属の数々だからね。


 しかも、オレでさえ知識にない鉱物もそこに加わる。プライドの高い伝統派が、調子に乗って覇を唱えるのは想像に難くない。


 野心溢れる他の国々も、血眼になってそれらを求めるのは道理だった。


 血みどろの未来を回避するには、国内で一致団結するしかない。一丸となって、立ちはだかる障害を壊していくしかない。現体制では、まず不可能な未来である。


 ゆえに、カナミラ王国の改革は、鉱山の異常の原因調査と同等に大事だった。


 理想は、『最初は小出しにして国力を高め、十分育った段階で大々的に輸出』だな。場合によっては数世代に渡って行う気長な作戦だが、大戦争が始まるよりはマシだと思う。


 まぁ、自分の利益のみを求める連中には、受け入れられない選択肢だろうけども。


 もしくは、先程のカナミラ王の発言通り、戦争を仕掛けて聖王国が征服してしまうか。


 手っ取り早い解決策ではあるけど、実のところ、あまり優先したくない案だった。


 何故なら、人手が足りないから。


 現在の聖王国は築島(つきしま)という飛び地を手に入れただけではなく、帝国や森国(しんこく)の監視監督も行っている。とうてい、手が回らない。


 無論、カナミラ王国に一任できる人材が皆無なら、オレたちが手綱を握るしかないけど、そういうわけでもないし。


 カナミラ王は黒い瞳を鋭く細め、言葉を発する。


「カナミラ王国がチンタラ地盤を固めている間に、聖王国は築島(つきしま)で発掘した希少金属を売りさばくんだろ? 結局は、自分たちの利益のためだ」


「こちらに利があるのは否定しませんが、言うほど我らが有利というわけではないですよ」


「そっちが販路を先に築くんだ。どこが有利ではない?」


「私が忠言するのも一因となるでしょうが、聖王国は、掘り起こした金属を他国へは売らないでしょう。国内需要に応えるに留め、残りは貯蔵する方針を取ると思います」


「何故だ?」


「他国に武器を渡さないため。そして、研究を行うため。その希少性ゆえに調査が進んでいなかった金属を、徹底して調べられる絶好の機会です。他国への輸出は、ある程度の研究を終えた後になるでしょう」


「……対抗策を立てた後なら、他国へ流れても脅威にならない、か。一からの調査だから、相応の時間を要すると」


「仰る通りです」


 それでも、聖王国の方が輸出へ動き出すのは、カナミラ王国よりもだいぶ早いだろう。こちらには優秀な人材がそろっているからね。


 だが、その辺りはあまり問題にならないと思う。


 何せ、抱える鉱山の数が違いすぎる。聖王国は築島(つきしま)の一つに比べ、カナミラ王国は八つ。カナミラ王国にとって、この差は大きな武器になる。


「なるほどな……」


 腕を組み、熟慮を始めるカナミラ王。


 それを、オレは静かに見守った。


 十中八九、カナミラ王はオレの提案を断らない。今の説明の影響もあるが、最大の理由は別。


 国内に蔓延る不和を、オレたちがほぼ無償で解決すると提案しているためだ。


 これほどこじれた(・・・・)派閥争いを、内輪の力のみで解消するのは相応の労力が掛かる。


 今代では無理。下手をしたら、解決前に国が傾いてしまうかもしれない。


 そんな結末を迎えるくらいなら、内政干渉を許しても良いと判断するはずだ。とんでもない天秤だが、目の前の男はそう考える。


 オレの予想は正しかった。


「分かった。フォラナーダ侯爵、お前の提案に乗ろう。その方が、将来的に俺さまが楽をできる」


 実に“らしい”理由で、彼は承諾した。


 オレは僅かに笑みを溢し、礼を告げる。


「ありがとうございます」


「礼は不要だ。我が国の不祥事だからな。それで、どう攻略するつもりだ? まさか、ノープランではあるまい?」


「もちろんです。まず味方に付けるべきは――」


 それから、オレたちは今後の計画を語り合った。


 内情をよく知るカナミラ王の助言ももらえたので、おおむね問題ないと信じたい。








「というわけで、今回の中核はあなたとなります、バルヴァロ公爵」


 カナミラ王との会談を終えたオレは、今度はバルヴァロ公爵の下へ訪れていた。


 そう。今回の改革で中心人物となるのはバルヴァロ公爵だった。


 人選の理由は言をまたないだろう。国内で一番冷静かつ国益を優先できるのは彼だからだ。きっと、派閥の枠にとらわれない判断を下してくれる。


 歳の若さはネックだが、それを踏まえても彼以上の人物はいない。


「……待ってください。何が『というわけで』なのでしょう?」


 一通りの説明をしたはずなんだが、彼は理解が追いついていないらしい。額にこぶしを当て、うーんと唸りを上げている。


 彼の理解度は今後に関わるので、改めて、順を追って説明する。


「まず、カナミラ王国が危うい状況なのは、理解しましたか?」


「え、ええ。希少金属が採れる鉱山の情報は、間違いなく戦端となります。現状の三大国であれば静観してくださるでしょうが、他は違う。知れば、必ず奪い取ろうと攻めてくる。数多の犠牲を出す価値が、それにはある」


 バルヴァロ公爵の抱く深刻さは、カナミラ王以上だった。鍛冶師の資格を有しているためか、ミスリル等の価値をより実感しているんだろう。


 彼はいっそう眉をひそめる。


「国内はもっとマズイですね。希少金属が山ほど手に入ると分かったら、有頂天になる。これがあれば自分たちは負けないと、過剰な自信を抱いてしまう。最悪なのは、その調子に乗る陣営が伝統派や鍛冶師であることでしょう。特に後者は、この国の中心といっても良い」


 伝統派の暴走は予想していたが、なるほど。言われてみれば、今回の一件でもっとも盛り上がるのは鍛冶業界だな。


 鍛冶は、カナミラ王国の屋台骨となっている産業である。そして、国内一の信頼を勝ち得ている職業だ。


 そんな彼らが『強い武器を作った』と豪語したら、もう止まらないだろう。否定意見を口にできるわけがない。そこに騎士団擁する伝統派が加わったら余計に。


「鍛冶師が暴走すれば、次は商人たちが暴走します。希少金属による武器で荒稼ぎし、その余波で物価が急上昇。通貨膨張(インフレ)が起こり、民たちの生活にも多大な影響が及ぶ。おそらく、政治批判が多くなるのも時間の問題でしょうね」


 話しているうちに考えがまとまってきたのか、バルヴァロ公爵の語りは理路整然としていた。


 何より、内容が具体的なのが良い。カナミラ王は抽象的な予想だったけど、彼は違う。内政の細部を知っているがゆえに、何がどうなるかを正確に把握していた。


 こうでなくては。政治的に優秀な目を、耳を、思考を持っているからこそ、改革の中心人物に選んだんだ。


「政治批判を逸らす一番効率的な方法は、外敵を作ること」


「はい。伝統派のプライドを満たすため、という理由もあるでしょうが、ガス抜きのために戦争を起こすと思います」


「カナミラが現状のままなら、ですけどね」


「……ようやく理解が及びました」


 得心の表情を浮かべたバルヴァロ公爵は、すぐに口元を片手で覆った。今後について、思案を巡らせているのだと思う。


 ただ、その仕草は十秒と経たずに解かれた。


「騎士団の抑えは、フォラナーダ侯爵が騎士団長を下したことで完了しているので、それ以降ですね。まずは信頼できる鍛冶師と商人を確保し、国力増加に努めるのが最善。伝統派に関しては、中核を殺害……はやりすぎとして、弱みを握るのが現実的でしょうか」


 つらつらと語られる内容は、オレの立てた改革計画とほぼ同じだった。


 十秒程度でそこまで理解が及ぶとは、本当に優秀な人物である。公爵家当主でなければ、フォラナーダに勧誘しているところだ。


「おおむね、合っています」


(くだん)の鉱山の管理は、どうお考えで? 不法侵入者の排除は当然ですが、現状を維持するなら逸魔(いつま)も定期的に出現するのでは?」


逸魔(いつま)の発生原因をまだ解明していないので断言はできませんが、出現を止められないようなら、結界を張って流出を阻止し、定期的に駆除する形となるでしょう」


「なるほど。フォラナーダ……いえ、聖王国と契約を結ぶのですね」


「理解が早くて助かります」


「対価は?」


「詳細は追って決めたいですが、将来的に輸出する際、他国よりも優先していただければ幸いですね」


 戦争を未然に防ぐことも十分に利益だが、それだけでタダ働きするほど、オレも安くはない。


 国内にも鉱山はあるが、それだけで国内需要を満たせるわけがない。これは、それを補填するための交渉だった。


 バルヴァロ公爵は、再び口元を片手で覆う。


「先行投資、というわけですか」


「失礼な言い回しで申しわけないですが、そちらの国力では、現物支払いは難しいでしょう?」


「事実ですからお気になさらず。こちらにとっては嬉しいですから、その方向で調整しましょう」


 逡巡は一瞬で終わった。ほとんど二つ返事で頷くバルヴァロ公爵。


 他に選択肢がないというのもあるが、投資額はそれほど大きくならないと、彼は予想したんだろう。


 何せ、あちらは徐々に国力を蓄えていくんだ。いずれ自力で鉱山の管理が行えるようになる。この契約は永久ではない。


 きちんと投資分のリターンが得られるなら、それで構わなかった。


 今回の第一目標は大戦争――世界大戦の回避だからね。利益に関してはオマケである。これが『世界征服』とかを掲げる覇者なら、利も追及するんだろうけどさ。


 その後も、オレたちは計画について話を進めた。


 といっても、事前にカナミラ王と話し合いを済ませてあったので、細かい部分を調整した程度だが。


「では、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 最後にオレたちは握手を交わし、少々の間を置いて動き出す。


 希少金属の情報が外部に漏れた後では遅い。ここからは時間勝負だった。

 

次回の投稿は4月1日12:00頃の予定です。

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