Chapter30-3 過多(6)
ニナの発見が早かったお陰で、ノリーン王女たちが到着する前に、坑道の入口で待ち構えることができた。
一分と置かず、件の二人が現れる。どちらも戦争へ向かうような装いだ。状況的に、坑道へ突入するつもりだったんだろう。
オレたちの姿を目の当たりにした二人は、そろって眉をひそめる。
「どういうこと? 侯爵は騎士団長と模擬戦してるって聞いたのに」
「俺に聞かれても知りませんよ……」
そして、コソコソとそんな会話を交わしていた。
本人たちは声を潜めているつもりなんだろうけど、【身体強化】済みのオレたちには丸聞こえである。
十中八九、騎士団のメンバーに、ノリーン王女の息の掛かった者がいたんだろう。そいつが彼女に情報を与えていたわけだ。
内通者の処罰はバルヴァロ公爵に丸投げするとして、今は目の前の二人に集中しよう。
「ノリーン殿。このような場所に何用ですか? 今回の異常は、あなた方の手に負えるものではありませんよ」
オレがそう問いかけると、ノリーン王女はその山鳩色の瞳を鋭くする。
「そんなもの、やってみないと分からないわ!」
「分かり切ってます。歴戦の兵たる騎士団でさえ、手も足も出なかったんです。若輩の出る幕はありません」
「あたしたちは、ただの若輩じゃない。周りから才気を認められているのよ。若いからこそ可能なこともあるはずよ。それに、年齢でいったら、フォラナーダ侯爵も大差ないじゃない」
ビシリと人差し指を差してくるノリーン王女。お付きの騎士も、同意するように頷いていた。
オレは、あちらにバレないよう静かに溜息を吐く。
若さゆえの過ちなんて言葉はあるけど、彼女たちはかなり過剰だと思う。
元々、カナミラ騎士団だって弱くはないんだ。フォラナーダと比べたら何段も落ちるだけで、長年この国を守ってきたのは事実。実力の水準はそれなりに高い。
ノリーン王女たちは、それをビギナーズラックで覆せると本気で信じている。真正の阿呆と言えよう。
二人に才覚があるのは本当なんだろうが……周りが褒めそやしすぎた結果だな。自尊心が膨れ上がりすぎている。たぶん、騎士団以上に。
「若輩の意味合いが違います。私が言いたいのは年齢ではなく経験の差。場数をほとんど踏んでいないノリーン殿やそちらの騎士では、鉱山内では生き残れません」
「経験は、これから坑道で積めば良いわ。才あるあたしたちなら、短期間で習熟できる」
「多少の修羅場ならそれもアリでしょうが、今回は積む前に死にます」
「そんなの、やってみなくちゃ――」
「――分かり切ってる。さっきから、ゼクスが何度も言ってる。しつこい」
なおも反論を続けるノリーン王女を遮り、ニナが声を上げた。
食い下がり続ける向こうの態度に、痺れを切らしたようだ。彼女の眉根には僅かにシワが寄っていた。
憧れのヒトの言葉には、しっかり耳を傾けるらしい。ノリーン王女は口を挟んだニナへ視線を向け、「ニナ殿……」と絶句気味に呟いた。
そんな彼女の反応を無視して、ニナは淡々と続ける。
「動機はアレだけど、騎士団は逃げる程度の実力はあると理解した上で挑んでる。最低限の力量は見抜けてる。でも、あなたたちはそれ以下。敵の実力を知ろうともせず、『自分たちは天才だから』なんて曖昧な根拠で突撃してる。自殺したいなら余所を当たって。迷惑」
鬱憤が溜まっていたんだろう。彼女には珍しく口数が多かった。
無理もないか。この国に来てから、味方側からの妨害ばかりだった。そこに加えてのお守りである。怒るなという方が難しい。
オレ? オレは『どうでもいい』で受け流しているから。最終的に利が得られるなら、内輪揉めしていようと関係ない。そのせいでこの国が滅びても、何の痛痒も覚えないと思う。
閑話休題。
「迷、惑」
「ノリーンさまッ!?」
ニナのセリフがよほどショックだった模様。ノリーン王女は足下をふらつかせた。
お付きの騎士がとっさに支えたので倒れなかったものの、顔が相当青い。しばらくは、まともに動けないと察しがついた。
同じ感想を抱いたんだろう騎士が、ニナを鋭く睨みつける。
「いくら『竜滅騎士』といえど、王女殿下相手に言いすぎでは?」
「そこで躊躇した結果がこの愚行」
「これでノリーンさまが伏せれば、国際問題に――」
「なるの?」
「ッ」
キョトンと首を傾げるニナに対し、騎士は悔しげに唇を噛む。
ならないだろうなぁ。あの王が、子どもに関心を向けているとは思えない。何せ、四十人以上も子どもがいるらしいからね、彼。
政治的に重要なのも、第一王子や第二王子だ。第三王女のために、大国へケンカを売るとは思えなかった。
そも、問題の発端は、あちら側が作ったものだし。
「ゼクス」
「いいよ」
これ以上言葉は続かないと判断したニナが、オレに向かって声を掛けてくる。
その内容に予想がついたオレは、二つ返事で了承した。
すると、ニナは笑みを浮かべて、カチンと鯉口を切る。
「とりあえず無力化」
彼女が淡々と告げた次の瞬間。ノリーン王女と騎士の装備すべてが、バラバラに地面へと落下した。コタルディ――鎧下を残したのは、せめてもの慈悲かな。
「なっ」
「これに反応できないようじゃ、逸魔にも瞬殺される。行くだけ無駄」
絶句する騎士を、ニナは容赦なく追撃した。剣ではなく言葉で。
今しがたの居合は、逸魔の弾幕攻撃程度まで速度を落としていた。彼女の言うように、これに反応できないなら、無駄死にするだけである。
完全に硬直する二人。もはや、反抗の意思は持っていないと考えて良いだろう。
「というわけで、お帰りいだたこう。保護者には後で抗議するので、そのつもりで」
「ッ!? 子ども扱い――」
何やら反論しようと口を開いた騎士だったけど、最後まで耳に届くことはない。その前に、オレが【位相連結】の向こう側へ放り込んだためだ。
あの状況でまだ心が折れていないとは、ある意味で感心してしまうよ。
一段落してホッと息を吐いたところ、ニナが苦々しく言う。
「この国のヒト、好き勝手動きすぎ」
「それだけ平和だったってことさ」
少なくとも、都市国家群の中では、頭一つ抜いて強かったのは間違いない。
ゆえに、害意に晒された経験に乏しく、今回のような事態においても、内輪揉めが停まらないんだ。
平和という意味では聖王国も類似しているけど、国としての歴史も規模も違う。
「ただ、ノリーン殿に関しては、ニナが来た影響が大きそうだ」
ニナのファンは、過激派が多いからねぇ。今回の行動も、彼女に認めてもらいたい一心だったんだと思う。
ニナはオレの意見を否定せず、深々と溜息を吐いた。彼女の内心は推して知るべし。
「一晩休憩するつもりだったけど、このまま鉱山の調査に向かおうか。時間を置くと、余計な茶々が入る気がしてきた」
「賛成。さっさと終わらせたい」
オレの提案に、即座に応じるニナ。やはり、この状況はストレスなんだろう。
敵の対策については問題ない。探知術や【位相連結】の使用は未だ難しいが、討伐だけなら複数の方法を立案してある。それはニナも同様。
となると、今晩中に坑道内の敵を一掃し、明日、ゆっくり調査を進めるのが最善かな。
「決まりだ。どうせなら、どっちが多く倒すか勝負しないか?」
オレがニナへ笑いかけると、彼女も不敵な笑みを浮かべた。
「受けて立つ。勝者は、敗者への命令権一つ」
「それ、意味ある?」
ニナたちのお願いなら、たいていは受け入れるんだけど。
首を傾げるオレに、彼女はチッチッチッと人差し指を振った。
「『権利を懸けた』というシチュエーションが大事」
嗚呼、なるほど。また、何かの本の影響を受けたんだな。
得心したオレは「いいだろう」と頷く。
そして、
「よーい」
「どん!」
合図とともに坑道へと駆け出した。
オレたちが討伐を競い合った結果、鉱山内にいた逸魔三百八十六体は、一晩のうちに全滅した。
勝者は、もちろんオレである。
ハンデつきとはいえ、まだまだ負けられないね。
次回の投稿は3月26日12:00頃の予定です。




