Chapter30-3 過多(2)
「――ッ!? 戦闘態勢を整えろッ。目標、坑道入口!」
オレの命令を聞き、ニナや部下たちが一斉に坑道の入口に向かって武器を構える。
一方の騎士団は待機命令で気が抜けていたのか、少しもたついていた。かろうじて、騎士団長が戦闘態勢に移行できたくらいである。
直後。直径三十センチメートルほどの土球が、坑道入口から飛来した。総数五十を超える弾幕である。
「ぐあっ」
「ぎゃっ」
「あが」
「がへっ」
その不意打ちによって、カナミラ騎士四名が後方へと吹き飛んだ。
他の攻撃はあらぬ方向へ飛んでいくか、オレたちフォラナーダがしっかり防御する。
「すごい威力」
十発ほどを斬ったニナが、感慨深そうに溢す。
いや、彼女だけではない。今の攻撃を盾で防いだ他の面々も、一様に眉をひそめていた。よく見れば、彼らの足下に押し出されたような跡が残っている。
フォラナーダでも、防ぐのに苦労する弾幕攻撃か。三倍程度とはいえ、これでもオレの【魔纏】で強化しておいたんだけどね。
強化がなかったら、吹き飛ばされた四人は確実に即死していただろう。念のために発動しておいて良かった。
それにしても、厄介だ。
今の攻撃を仕掛けたのが、例のアメーバ型魔獣である可能性は非常に高い。
だが、事前情報に、そういった攻撃方法は記載されていなかった。爪や牙、体液による近接系物理攻撃が主だと聞いていたんだ。
順当に考えるなら、『カナミラ騎士団には出すまでもなかった』という説。可能性は低いが、別個体なんて仮説もある。
最悪なのは――この短期間で習得した場合。
「ニナ」
「了解」
短い呼びかけに、彼女は二つ返事で応じてくれる。こちらが何を指示したいか、理解してくれたようだった。さすがだ。
オレとニナは素早く全員の前へ出る。二人で他の全員を守れるような配置に立つ。
次の瞬間、再び土球の弾幕が発射された。数は先程よりも増え、三桁はありそうだった。ほぼ壁と表現しても過言ではない。
魔眼で弾幕の右半分を捕捉。【位相隠し】から取り出した二振りの長剣で斬り伏せた。
何故、【銃撃】などの魔法を使用しなかったのかといえば、土球には鉱山内同様、大量の魔力と生命力が込められていたためだ。
生半可な魔法で迎撃した場合、生命力に弾かれる危険があったので、確実性の高い物理攻撃を選んだのである。
「これは確かに固い」
刃を振り切ったオレは、眉根を寄せて呟く。
まるで、地面に向かって剣を振るったみたいだった。固いというよりは重い。
二つの力を内包すると、ここまで硬度が増すのか。新発見である。
ただ、自分が試そうとは思えない。
チラリと、地面に落ちた土球の残骸を見やる。
一度目では確認する余裕がなかったそれは、塵と化していた。風にさらわれるほど細かく砕け散っていた。
オレの迎撃のせいではないと思う。おそらく、無理に魔力と生命力を込めた結果、土球の寿命を使い切ったんだろう。
土球のような使い捨てでない限り、使いようのない技術だった。使い捨てのモノへ利用するにしても、魔力をたくさん込めるか、数を増やした方が高効率である。
要するに、使い勝手が悪い。少なくとも、オレにとっては。
今回の敵――推定アメーバにとっては、この攻撃こそ効率が良いのかもしれないな。となると、アメーバ型の理由も……。
様々な考察を脳内に巡らせている間も、次々と土球の弾幕は放たれていた。
しかし、一片たりとも後ろへは通さない。そのすべてをオレとニナが斬り捨てた。
八度ほど連続で攻撃が続いたかと思ったら、ピタリと止んだ。
痛いくらいの静寂が場を支配すること約三十秒。再び事態は動き出す。
ドシンドシンという重低音を鳴らして、坑道の入口から何かが姿を現した。
はたして敵は、例のアメーバ型魔獣に間違いなかった。
全長は三メートルほど。頭部は黒い体毛に覆われたモグラで、爪は鋭くなっているものの、手足もモグラの形状。
一方、その他の部位は、オレンジ色の光を湛えたアメーバだった。グニョグニョと波打ち、ポタポタとその液体を溢している。話に聞いていた通りの、不気味な姿だった。
中身はもっと酷い。魔眼で確認した限り、内側はすべてアメーバ。モグラ要素は一切残っていない。
また、鉱山内と同じく、膨大な魔力と生命力が満ちていた。アメーバ部分がポタポタとこぼれるのは、器に収まり切らなかったエネルギーっぽい。
「寄生?」
「たぶんね」
短く尋ねてきたニナに、オレは首肯する。
十中八九、アメーバ型の生物がモグラ型の魔獣に寄生した結果、このような姿に変貌を遂げたんだ。
膨大な生命力の根源はアメーバで、魔力を持つ魔獣と合わさったせいで内部崩壊を起こしているんだと推察できる。
アメーバの正体とか、どこからやって来たのかとか。たくさんの疑問が浮かぶけど、ひとまず置いておく。目の前の敵を倒さなくては、呑気に考察もできない。
――【コンプレッスキューブ】。
先制で、敵を圧縮する無属性を放ってみるが、
「やっぱダメか」
耐え切られてしまった。魔法に込められた魔力よりも、アメーバが保有する生命力の方が多いためだろう。
「シッ!」
続いてニナが斬りかかったけど、こちらも効果が薄かった。負わせた傷が瞬く間に治ってしまう。
想定していたよりも面倒だな。ただの道士の抱える生命力程度なら、力押しで叩き潰せるんだけども。
さて、どうしたものか。
倒すこと自体は可能だ。この魔獣は面倒なだけで、オレの敵たり得ない。その評価はニナ視点でも当てはまる。
ただ、あまり時間を掛けてはいられない。部下たちはともかく、カナミラ騎士団が気掛かりだった。
今は最初の不意打ちによって混乱しているが、そのうち態勢を整える。そして、リベンジしようと突撃を仕掛けるだろう。
オレたちにとっては脅威でなくても、彼らにとっては違う。騎士団では、このアメーバは倒せない。絶対に。
『命の保障はしない』と条件付けしたが、いたずらに命を散らしてほしいわけではない。早期決着が望ましかった。
ならば、色魔法で消してしまおう。
「【万物を塗り潰――」
「待って」
そう考えて詠唱を始めるオレだったが、そこにニナが待ったを掛けた。
彼女はアメーバを見つめたまま宣言する。
「これはアタシの仕事。アタシがやる」
「分かった。任せるよ」
確かに、これは元々ニナに依頼されたものだ。彼女でも倒せるのに、オレが決着を付けるのはお門違いだろう。
頷き、一歩下がるオレ。
それを認めたニナは、剣を頭上へと掲げ、
「星閃断斬」
――真っすぐ振り下ろした。
次の瞬間、流れ星の如く数多の斬撃が、アメーバへと降り注いだ。一撃ごとに敵は両断され、瞬く間に細切れになっていく。
内包するエネルギーから察するに、アメーバ自体も相当硬かったはずだが、そんなものを感じさせない切れ味だった。
目測四桁を越える斬撃が降りしきった後には、巨大な穴が開くのみ。何も残されていなかった。ニナの技がすべてを刻み、消し飛ばしたんだ。
斬撃の奏でる轟音が止み、シンと静まり返る。
カナミラ騎士団は当然のこと、部下たちもニナの技に驚いているようだった。
然もありなん。今までのニナは、あまり範囲技を使ってこなかったからね。
かくいうオレも、今回の技は初見だった。
おそらく、置く斬撃と過去斬りの応用――因果切断を込めた斬撃を、敵の頭上に遠隔操作で置き、解放したんだと思う。
原理は分かるが、再現方法はまったく分からんな。
「新技か?」
「カロンの色魔法を参考にした」
「嗚呼、【天輪流雨】ね」
「そう。頑張った」
オレの問いに答えるニナは、彼女にしては珍しく自慢げだった。技の完成に苦労したのかもしれない。
とりあえず、オレは彼女の頭を撫でることで、その苦労を讃えるのだった。
次回の投稿は3月14日12:00頃の予定です。




