Chapter30-2 カナミラ王国(5)
昨日、コミックガルドおよびガルドプラスにて、コミカライズの最新話が更新されました。
ぜひぜひご覧ください!
オレたちの部屋に呼び出されたリンデは、ガチガチに固まっていた。
無理もない。先刻の説教を考慮すれば、これから罰が下されるのは、火を見るよりも明らかなんだから。
とはいえ、開幕から罰を与えるわけではない。まずは事情聴取だ。その上で罰の加減を決める。
リンデが話しやすくなるよう、オレは努めて柔らかい口調で尋ねた。
「おおよその予想はできてるけど、一応訊こう。どうして、あんな暴挙に出たんだ?」
「どこから話したらいいやら……」
「分かりやすさは重視しなくていいよ。まぁ、時系列通りに話してくれると助かるかな」
「分かった……りました」
めったに公の場に出てこないリンデは、敬語を使うのが少々苦手だった。若干、歯切れが悪い。
「無理に敬語で話す必要はないよ」
事情聴取という目的を考えるなら、聞き取りやすさを重視すべきだろう。だから、普段の口調で話すことを許可した。
この場にはオレ、ニナ、テリアしかいないのも大きい。
「分かった。ありがとう」
彼女にとって、ありがたい申し出だった模様。大きく安堵の息を吐く。
それから、リンデは再び口を動かした。
「ゼクスは知ってると思うけど、ここ最近のあたいは忙しかったんだ」
「そうだな。新年度を控えたこの時期は、魔道具の発注が増えるし」
新入生や新社会が、新居用の電化製品を買うのと同じだ。
リンデの扱うブランドは高く、個人ゆえに注文もそれなりに絞っている。だが、それでも、この時期は需要が上回っていた。
「だから、今朝起きるまで知らなかったんだよ。ゼクスたちがカナミラ王国へ行くってことを。カナミラと言えば鍛冶だろ? 聖王国には現物がほとんど流れてこないから、ぜひとも見てみたいと思って――」
「全速力で【位相連結】に駆け込んだ、と?」
「ごめんなさい」
オレとニナの半眼を受け、リンデはペコリと頭を下げた。途中までセリフに込められていた熱も、あっという間に霧散する。
結局、予想通りの動機だった。プロの鍛冶師たるリンデが、鍛冶に重きを置いているカナミラ王国に興味を持つのは当然と言えよう。
ただ、
「【念話】で伝えなかったか?」
予想できていたことなので、忙しいことを考慮した上で、しっかり情報共有はしておいたはずだ。当時、『忙しすぎて、それどころじゃない』という返事ももらっている。
オレの指摘に、リンデはそっと視線を逸らした。それから、気まずげに溢す。
「……忙しすぎて、ちゃんと聞いてなかった」
「やっぱり、リンデが悪い」
「ぐぅ」
間髪を容れず放たれたニナのツッコミ。
リンデは反論ができなかったみたいで、唸り声のみを上げた。
一方のオレは、眉間を摘まんで解した後、ゆっくりと首を横に振った。
「いや、伝え方を横着したオレにも責任がある。すまない、リンデ。対面で話すべきだった」
彼女の鍛冶への熱量は知っていたんだ。この程度の暴挙は予想してしかるべきだったと思う。多忙のせいで、他者の話に耳を傾ける余裕がなかったことも同様。
便利な魔法があるとつい……っって、言いわけにすぎないな。反省しよう。
「と言っても、最終手段に『【位相連結】へ駆け込む』を選んだのはいただけないけどね。魔電は渡してるんだ、後から連絡するなりすれば良かったんじゃないか?」
「うぅ、仰る通り。反省してるよ」
消沈した様子で、リンデは頭を下げる。
説教はこれくらいで良いかな。最初から反省はしていたし、これ以上の追い打ちは無駄にしかならないだろう。
そうなると、残るは罰をどうするか、だ。
「半年の減俸が妥当なところかねぇ」
とっさに思いついた案を、ポツリと口に出す。
危険行為だったし、外交における暴挙という点は重い。
しかし、被害は皆無だった。あっても、聖王国側を多少混乱させた程度。オレの伝達方法が悪かったという、情状酌量の余地もある。
謹慎などの罰も考えたが、それはフォラナーダの損失が大きい。得策ではないだろう。
ゆえに、減俸に留めるのが妥当だと判断した。
「いいんじゃない?」
チラリとニナへ視線を向けると、彼女は頷いてくれた。
あまり政治に関わらないが、ニナは割と貴族としてのバランス感覚に優れている。彼女の同意も得られたのなら、これで良いはずだ。
「リンデへ、本件の罰を下す。今月から六ヶ月間、二割の減俸処分とする。いいな?」
「……え、うん。分かった」
「不満か?」
曖昧な反応を示すリンデに、オレは問いかける。
すると、彼女はブンブンと勢い良く首を横に振った。
「そんなことない! むしろ、逆だよ。軽すぎるんじゃって思ったんだ。しばらく鍛冶をやらせてもらえないとか、今すぐ帰れとか言われるとばかり……」
「そんな罰を与えてたら、フォラナーダが損するだけじゃないか。せっかく来たんだ。カナミラの技術を吸収し、フォラナーダに貢献してくれ」
「ありがとう。必ず、成果を上げてみせるよ!」
高い鍛冶の技量があってこその沙汰だと理解した模様。リンデは気合に満ちた返事をした。
これで、リンデに関しては一件落着だ。
鍛冶場の見学等は、あとでカナミラ王国側と交渉しよう。今回の滞在によって、さらなる成長を遂げることを期待したい。
それはそれとして、リンデの仕事量については要調整だな。彼女の腕に甘えすぎていた。
○●○●○●○●
リンデへの説教から数時間後。オレとニナは、カナミラ王国が開く昼食会に参加した。大きなテーブルを囲うように、十名弱の男女が座っている。
彼らが、カナミラ王国の重鎮らしい。その中には、先刻会談したカナミラ王やバルヴァロ公爵もいる。
国を支える重鎮にしては数が少ないと思うかもしれないが、ここは都市国家。これくらいの人数でも問題ないんだ。
むしろ、多すぎると余計な問題が起こる。ポスト争いの激化とかね。
重鎮たちの抱く感情の大半が敵意だ。そのことから、半分以上が伝統派だという事前情報の正しさが証明される。
特に、騎士団長と思しき男は苛烈だった。ものすごく鋭い視線を、こちらに向けてきている。腹芸が下手くそらしい。
貴族がそれで良いのか、と思いもするが、彼にはその技術を磨く機会なかったんだろう。
騎士かつ最大派閥に所属するゆえに、敵対者と言葉で交渉する機会が極端に少なかったんだと予想できた。
この分だと、ニナの懸念は当たりそうだな。あの騎士団長、『気に入らなければ殴れば良い』なんて考えを持ってそうだもの。
とはいえ、目に見えた地雷を、自ら踏みに行く趣味はない。あちらが突っかかって来るまでは放置で良い。
オレは内心を笑顔の裏にそっとしまい込み、カナミラの重鎮たちと挨拶を交わす。そして、軽い世間話とともに食事を開始した。
提供された料理は、お世辞にも美味しいものとは言えない。というか、ほとんどが聖王国でもよく見かける品だった。
おそらく、この国では、あまり料理関係が発展していないんだろう。農業に向かない土地柄を考えると当たり前の話だが。
ゆえに、料理人の腕も高くないんだと察しがついた。
あとは、紅茶の選択にも影響した水質も一因か。肉料理が多い上、すべて香辛料過多の印象を受ける。
感覚が人間よりも鋭い獣人には、つらいラインナップだな。現に、ニナは箸が進んでいない。
一方、重鎮たちとの会話は、思っていたよりも和やかだった。
伝統派が、笑顔で世間話に参加すること自体は想定内だ。それくらいは、貴族として当然のスキルである。
ただ、それを踏まえても平和すぎた。まだ本題に入っていないことを加味しても、だ。嵐の前の静けさとしか思えない。
オレの予想は正しかった。
「そろそろ、依頼について話し合いましょうか」
進行役の宰相がそう切り出した途端、彼を含む伝統派たちの感情が揺らいだ。何か企んでいる者特有の、喜悦だった。
次回の投稿は3月2日12:00頃の予定です。




