Chapter30-2 カナミラ王国(4)
カナミラ王と会談を終えたオレたちは、客室に案内された。
オレとニナは夫婦のため、同室にしてくれたらしい。それなりに大きめの部屋が宛がわれた。
他のメンバーも案内済みとのこと。隣接する使用人部屋にテリアを筆頭としたメイド四人が、右隣の客室にリンデと研究員三人が控えている。
残る騎士十人は、城内にはいない。正確には同敷地内にはいるんだが、別の建物――騎士寮と呼ばれる騎士専用の駐屯施設で待機していた。
騎士団を無条件で王城へ招き入れるなんて、よほどの緊急事態でもない限りやらないからね。
まぁ、騎士十人よりもオレやニナ、テリアの方が強いわけだが、気にしても仕方ない。こういうのは慣習なんだ。
言及しなかった他三名も城内にいる。ただ、部屋を宛がわれているわけではなく――
「潜伏中の三名から中間報告が上がりましたので、お伝え申し上げます。城内の派閥は大きく分けて三つ存在し――」
テリアが報告している通り、カナミラ王城内に潜伏していた。要するに、その三人は諜報員なのである。不足している情報を補うために、念を入れて投入したんだ。
とはいえ、これは突貫工事。あくまでも補助の側面が強かった。
その補助が結構大事なんだけどさ。
現に、今回の報告によって、カナミラ王の言っていた派閥争いについて裏が取れた。先程の情報に関しては、彼は嘘を吐いていなかったらしい。
「――報告は以上となります。アメーバ型魔獣に関連する情報につきましては、鋭意収集です。申しわけございませんが、もうしばらくお待ちいただければと」
「構わない。この短期間で派閥関連の情報を集められただけ上出来だ」
「ありがとうございます。そのお言葉を聞けば、任務中の三名も喜ぶでしょう」
そう言って一礼したテリアは、一歩下がって直立不動となる。前述したように、これで報告は終わりなんだろう。
「ゼクスさま、ニナさま、お茶の準備が整いました」
すると、間髪を容れず、テリアとは別のメイドがティーワゴンを押して現れた。
おそらく、タイミングを逆算して用意していたんだろう。素晴らしい手際だった。
「アールグレイか」
柑橘系の香りを感じ取り、そう溢す。
それを聞いたメイドが、テリアとともに配膳しながら滔々と答えた。
「この国の水質を考慮すると、香りが強めのフレーバーティーが最善と判断しました」
「水質……ここは硬水が主なのか?」
「それもありますが、雑味が強い性質のようで、あまり茶葉の香りや渋みが引き立たないのです」
「なるほどな」
カナミラ王国側に配慮して言葉をにごしているが、つまり、水の質が悪いということだ。周りを鉱山に囲まれているせいか、浄水施設の精度が低いのかは分からないが。
オレは僅かに思案を巡らせ、テリアに告げた。
「一応、全員に生水は飲まないよう注意しておけ」
「承知いたしました」
そこまで不用心な部下はいないと思うが、念のためだ。
聖王国はよほどの田舎でない限りインフラが整っているので、水に関しては、割と海外旅行初心者の日本人みたいなミスを犯す者もいるんだ。
紅茶を飲んで人心地ついた後、オレたちは会話を再開する。
まず口を開いたのはニナだった。
「この国は、思った以上にプライドが高い」
テリアの報告に対する感想だろう。
彼女の言うように、この国の貴族や騎士たちは、想定よりも気位が高かった。カナミラ王に聞いた以上である。
カナミラ王国の大きな派閥は三つ、伝統派と革新派と中立派だ。
このうち中立派にカナミラ王、革新派にバルヴァロ公爵が所属しているんだが、一番大きいのは伝統派なんだよね。しかも、その最大派閥こそが、フォラナーダの助力に否定的だった。
何故、否定的なのかというと、伝統派はその名の通り、伝統を重んじる派閥だからだ。
古き良きカナミラ王国――“質の良い武器を持った質の良い騎士団で戦う”という形に固執しており、今回の一件も騎士団の手で片づけたいのである。
伝統を大切にするあまり、もっと大切なものを失うというのは、よくある話だ。
今まで行ってきたことを崩すのは、多くのヒトにとって精神的なハードルが高いんだよ。積み重ねが大きいほど、ね。
無論、効率を重視しすぎるのも良くないことは分かっているが、今回は効率を求めるべきだろう。何せ、国の一大事なんだ。天秤にかけるまでもない。
では何故、伝統派はそれらを天秤にかけてしまっているのか。
ひとえに無能だから、とは評価できなかった。
というのも、件の騎士団の立場が、今は非常に不安定なんだ。約二年前に戦で敗北を喫したせいで、以前よりも威光が落ちているんだとか。
伝統派にとって、それは看過できない事態だった。自分たちの重んじるモノが瓦解しかねないんだから。
ゆえに、少しでも巻き返そうと躍起になっているわけだ。何度も返り討ちに遭っているにもかかわらず、自分たちだけで事を収めようと必死になっているんだ。
間の二年で、挽回の機会――戦争などが起これば違ったのかもしれない。従来の都市国家群なら、早々にチャンスは訪れていただろう。
だが、そうはならなかった。常立国の大躍進によって周辺各国のバランスが崩壊した上、そこに聖王国が飛び地を設けた。
どの国も戦争どころではなく、様子見するしかなくなったんだ。
カナミラ王国にとって、間が悪かったとしか言いようがない。そのせいで、国の危機なのに派閥争いが激化する、という本末転倒が発生しまったのである。
まぁ、本当に優秀なら政争なんて繰り広げないわけで……。中途半端に能力とプライドが高いから、こんな状況に陥っているんだけどさ。
「カナミラ王の“静観”って選択はどうかと思ったけど、実際のところは“動けない”が正しいんだろうな」
「たぶん。中立派が動けば、どっちかの派閥が暴走する」
今回の問題は、何も伝統派だけではない。革命派の方も、何を仕出かすか分からない怖さがあるんだ。伝統に縛られないゆえに、奇想天外な手段に講じる懸念があった。
今は、バルヴァロ公爵が懸命に押さえ込んでいるみたいだけど、それもいつまで持つことやら。
「そう考えると、ニナの投入は妙案だな。革命派の不満を緩和しつつ、伝統派の注目をニナに逸らせる」
少なくとも、両派閥の衝突を先延ばしにできるだろう。
オレの意見を聞いて、ニナは僅かに眉根を寄せた。
「いい迷惑」
「それはそう。絶対、昼食会で伝統派とか騎士たちが絡んでくるぞ」
「決闘とか吹っかけられそう」
「あー……」
かなり確率は高そうだった。
こちらは『魔王殺し』と『竜滅剣士』。普通なら敵う相手ではないと判断するものだけど、カナミラ王国の騎士は無駄にプライドが高いみたいだし。
「準備しておいた方がいいな」
「貧乏くじ」
「そう言うなって。その分、フォラナーダの利は得てるんだ」
アメーバ型の魔獣の調査結果はもちろん、この国が採掘する鉱物や鍛冶師たちの技量は、面倒ごとを被ってでも得る価値がある。
オレのセリフを受け、ニナは肩を竦めた。
「分かってる、ちょっとした冗談。ゼクスと二人で旅行できるのは楽しいし」
「それは旦那冥利に尽きるね。落ち着いたら、一緒に観光しよう」
「うん、約束」
「約束だ」
オレたちは指切りし、笑顔を交わす。
その後、少しの間だけ雑談し、話題が途切れたタイミングで、オレはテリアに申しつけた。
「リンデを呼んでもらえるか?」
そろそろ事情聴取をしないとね。
次回の投稿は2月27日12:00頃の予定です。




