Chapter30-2 カナミラ王国(1)
友里恵の一件の翌朝。オレはニナと複数の部下を伴って、王城のフロントガーデンに集まっていた。無論、カナミラ王国へ出発するためである。
【位相連結】で移動するにもかかわらず、わざわざ王城に集まったのは、面子の問題だった。国を通した依頼ゆえに、形式的でも関わっておく必要があったんだ。
そして、それを最大限表すように、この場にはウィームレイも顔を出していた。
聖王自ら見送りに来るなど、破格の待遇と言えよう。オレたちと懇意であることを周囲に示す、そんな意図があるのは明らかだ。事実なので、何ら問題はないけども。
他には、聖王を護衛するための近衛騎士団が十名、宮廷魔法師団が五名、外務大臣のグロドロ伯爵がそろっていた。
近衛の中にはダンとミリアもいた。
こういった場に招集されるとはね。結構期待されているらしい。学生時代まで、カロンの指導を受けていただけはある。
「ゼクスさま。、最終確認が終了しました。騎士十名、メイド四名、研究員三名、他三名、準備万端です。いつでも出発できます」
幼馴染みの優秀さに感心していると、今回同行する部下のまとめ役――テリアが声を掛けてきた。
まとう締まった雰囲気に違わず、彼女は生真面目で実直な性格である。それはマイペースな同僚のガルナやマロンの手綱を握っていることからも明らかだ。
テリアがいるなら、部下たちに関しては何も心配はいらないだろう。
もちろん、部下たちは全員、信頼できる者たちだ。いっそう安心できる、という意味合いである。
ただ、今回の旅に関しては、一つの憂慮があった。
「ご苦労。それにしても、本当に良かったのか?」
テリアを労いながらも、そんな質問を投じるオレ。
対する彼女は、珍しく苦笑の交じった表情を浮かべた。
「何度も申し上げておりますが、問題ございません。確かに、近々結婚式を予定しておりますが、今回の仕事を終えた後にも十分に猶予はある上、彼の了承も受けております」
そう。テリアは結婚式を控えた身だった。上司のオレは、少し前に報告を受けていたのである。
本当は、大事な時期に国外の仕事なんて回すつもりはなかったんだ。フォラナーダ――というかオレは、クリーンな職場環境を目指しているからね。
ところが、タイミングが悪く他に手隙の適任がおらず、テリアを任命する結果となってしまった。
無理くりスケジュールを調整すれば何とかなったかもしれないけど、
「それに、私たち夫婦はゼクスさまに忠誠を誓っております。あなたさまのお役に立てるのなら、単身、竜の巣へも飛び込みましょう。ゆえに、この程度は一切問題ございません」
このように本人が了承しているため、無理に別へ振るわけにもいかなかった。その方が二人の忠義を裏切ってしまう。
考えないようにしていたが、部下の中でオレへ一番重い感情を抱いているのは、テリアとその恋人だよなぁ。マロンとは別方向で覚悟が決まっている。
経緯からして、仕方ないのかもしれないけどさ。王都のスラムで死にかけていた二人を拾い上げ、学園で優秀な成績を修められるまで育てたわけだし。
まぁ、良い。
端から、テリアが翻意するとは考えていない。今のは、ただの最終確認だ。
テキパキと仕事をこなし、予定よりも早く帰還する。それが、テリアへの最大の労いになるはず。
オレは彼女が向けてくる真っすぐな視線を受け止め、首を縦に振った。
「無粋な問いかけだったな。その忠誠に感謝しよう」
「もったいないお言葉でございます」
「あとは、約束の時間まで待機だ。各自休憩を取って構わない」
下がるようにジェスチャーで伝えると、彼女は楚々と部下たちの下へ戻っていった。
「頑固なところが、テリアの唯一の欠点」
彼女を見送ったオレに、今度はニナが声を掛けてくる。
彼女の結婚については、フォラナーダの大部分で共有されている。もちろん、当人たちの許可を得た上で。
だからニナも、テリアの頑なさはしっかり理解しているようだった。
オレは苦笑を漏らす。
「逆に、長所とも評価できるけどね。主張が揺らがないから信用できるし、仕事を任せやすい」
一つの融通が少しずつ歯車を狂わせ、全体の計画を台無しにしてしまうことがある。『臨機応変に対応する』とは、口にする以上に大変なんだ。
その点、テリアは心配がいらない。契約通りに物事を進めてくれるので、成果の誤差が少なかった。上司として、とても頼もしい人材である。
「それに、まったく融通が利かないわけじゃない」
「確かに、彼女と険悪なヒトは見たことがないかも」
「ヒトとの付き合い方が上手いんだよ」
ここを押し通すとこじれる。そういった一線の見極めが、テリアはとても達者だった。
オレと出会った時にはその片鱗が窺えていたから、おそらく、スラム生活の中で身につけた技術なんだろう。
すると、ニナはポンと両手を合わせた。
「そういえば、テリアはガルナやマロンの親友だった」
「それ、本人たちの前で言うなよ?」
彼女の失礼なセリフに、オレは乾いた笑みを溢した。
言わんとしていることは分かるんだけどね。
ガルナもマロンも人当たり自体は良いので、普通の友人くらいには余裕でなれる。
だが、如何せんマイペースすぎた。親友と評されるほど仲を深めるのは、なかなか難しい。
「『メイド三人衆』は、生まれるべくして生まれた」
「まぁ、たとえ同期じゃなかったとしても、あの三人は仲良くなってたかもなぁ」
まったく異なる性格なのに、あそこまで仲良くなったんだ。機会さえあれば、同じ形に収まったに違いない。
そんな風に、オレたちがメイド三人衆についての話を盛り上がっていると、
「ゼクス、そろそろ時間らしい。準備は万端かい?」
先程までグロドロ伯爵と話し合っていたウィームレイが声を掛けてきた。
それに対して、オレは外向きの顔で応じる。
「はい、いつでも出られます」
「大丈夫です」
ニナも同意の言葉を紡いだ。
部下たちもこちらの様子は窺っていたようで、すでに全員が直立姿勢で待機していた。
オレとニナの返答を認めたウィームレイは、鷹揚に頷く。
「それは良かった。長々しい挨拶は、ゼクスたちも好まないだろう。手短に済ませる。心配は無用かもしれないが、用心して臨んでくれ。健闘を祈っているよ」
「ありがとうございます、陛下」
「ありがとうございます」
ウィームレイの激励を受け、オレたちは頭を下げる。
それから、オレはカナミラ王国へ繋がる【位相連結】を開いた。
「では、行って参ります」
短く挨拶し、オレを先頭に【位相連結】を潜る。
はたして、突如として現れたアメーバとは何なのか。その正体を明らかにするのが楽し――ん?
次回の投稿は2月18日12:00頃の予定です。




